黒い沈黙の行先   作:シロネム

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評価、感想ありがとうございます!


今回は話の都合上、いつもの倍ぐらいの長さになってしまいました。

会話文多めですが、お楽しみいただければ幸いです。




~独白~ 白洲アズサ

 

――午前4時40分

 

 

 

トリニティの夜を終えたローランとハナコは、一度先生の部屋に集まり、あの場所で見たものについて話し合っていた。

 

 

 

「……と言う訳でして」

 

"……そっか。そんな事があったんだ……"

 

「はい。代理人のおかげで無事に逃げられましたが……」

 

「少しでも遅れていたら、碌な目に合わなかっただろうな。……にしても、予想通りというか」

 

"本当に翼が関わってたなんて……"

 

「また面倒なことになりそうだな」

 

「……」

 

"……"

 

 

 

トリニティ自治区郊外にある廃墟。

 

あの場所で見た、アズサとアリウス生徒の会合。

 

 

 

「聞いた限りですと、明日の試験日に何かしら動きがあるみたいですが……」

 

 

 

交わされた約束。

 

明日の午前に実行されるという計画。

 

 

……

 

 

「アズサのとは別件になるが、明日お前たちが受ける試験についても、色々と問題があってだな……」

 

"問題……?"

 

「あぁ。アズサを追跡する前に、サクラコから聞いたんだが……」

 

 

 

(コンッコンッコンッ)

 

 

 

部屋に響くノック音。トリニティの夜が終わり、日も明け始めた頃に鳴ったノック音に、3人は驚いていた。

 

 

 

"どうぞー"

 

「こ、こんばんは、先生。ま、まだ起きて……」

 

「あら、ヒフミちゃんでしたか」

 

「まだ起きてたのか?」

 

「は、ハナコちゃん!? それに代理人も……」

 

 

 

「み、みんな何してるの……?」

 

 

 

「コハルちゃん!?」

 

「お前ら……。明日に備えてしっかり休んで欲しいんだが」

 

"おはよう、コハルちゃん"

 

「そ、それはこっちのセリフよ! なんでみんな起きてるの!? それに、私はちゃんと寝てたわよ!」

 

「あうぅ……。も、もしかして起こしちゃいましたか……?」

 

 

……

 

 

"……ちょうど良い機会じゃないかな、代理人"

 

「……。……はぁ。……まぁ、確かにな」

 

"本当は試験前に混乱しちゃうようなことを、伝えたくはないんだけど……"

 

「そうも言ってられないよな……。……あー、実はだな……」

 

 

 

 

 

 

「私についての話……だろう……?」

 

 

 

 

 

 

その言葉が聞こえると同時に、扉を開けて中に入ってきたアズサ。神妙な面持ちで部屋に立ち入った彼女に対し、

 

 

 

――ローランはデュランダルを取り出し即座に構えた。

 

 

 

「……動くなよ、アズサ」

 

「アズサちゃん! ……って、だ、代理人?」

 

「ちょっと、何やってるのよ!?」

 

「アズサ。……変な気は起こすなよ。……翼と関係がある以上、一歩でも動いたら殺す」

 

"待って、代理人! まずは話を聞いてから……"

 

「悪いが、そうも言ってられない。……ただでさえハナコが殺されかけたんだ。……両手足を潰して尋問してないだけ、マシだと思ってくれ」

 

「こ、殺されかけた……?」

 

「……う、嘘ですよね、アズサちゃん」

 

「…………私を追跡していたのは、ハナコだけだと思っていたが、代理人もいたのか」

 

「アズサちゃん……」

 

「……代理人。……いや、みんなに聞いて欲しい話がある。……私を殺すなら、話を聞いた後にして貰えないだろうか……」

 

「こ、殺すだなんて……」

 

「だ、代理人……」

 

 

……

 

 

「……翼について、知ってることを洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

「……分かった」

 

 

 

自身の愛銃を地面に置き、デュランダルの切先を向けられたまま、アズサは補習授業部の全員へと語りだすのであった。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

――白洲アズサ

 

 

彼女が隠していた事象。ティーパーティーの桐藤ナギサが必死になって探していた……

 

 

 

「トリニティの裏切り者は、私だ」

 

 

 

自身が元々、アリウス分校と呼ばれる出身であること。書類上の身分を偽り、トリニティに潜入していること。

 

 

 

そして……

 

 

 

「私は、アリウスとしての任務を受けて、今はこうしてこの学園に潜入している」

 

 

 

――ティーパーティーの桐藤ナギサ。……彼女のヘイローを破壊すること。

 

 

 

「それが私の任務であり、()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……っ!?」

 

「噓でしょ!? そ、それってつまり……」

 

「……」

 

"ヘイローを破壊……"

 

「……」

 

 

 

「……アリウスはまず、ティーパーティーのメンバーであるミカを騙して、私をこの学園に入れた。……詳細は知らないけれど、きっとトリニティと和解したいとか、そういう嘘をついたんだろう」

 

「なるほど、ミカさんを……確かに彼女は政治には向いてないと言われていましたが……。……おそらくは全てが終わった後、その罪をミカさんに着せる……そういう流れを想定しているのでしょうか」

 

「ま、待って……急に何の話……? いや、嘘だとは思わないけど、別に私たちとは関係がないって言うか、ハナコが殺されそうになった理由とか、全然分かんないんだけど……」

 

「……」

 

「アリウスのことはよく分からないけど、それが補習授業部とどういう関係があるわけ……? アズサは何で急に、そんな話をしてるの……?」

 

「……もしかして、明日実行される計画か?」

 

「……! それは……」

 

「……代理人の予想通りだ」

 

 

 

――明日の朝、アリウス分校の生徒たちがナギサを狙ってトリニティに潜入する

 

 

 

「私は、アリウスからナギサを守りたい。……その為に、力を貸して欲しい」

 

 

……

 

 

「……は?」

 

「……」

 

「あ、明日……!?」

 

「!?」

 

"ナギサちゃんを、守る……?"

 

 

 

「……うん。……私は、それをどうにか阻止しないといけない」

 

「……なるほどな。……確かに、タイミングとしては絶好だな。……サクラコから聞いたが、明日は本館に戒厳令が出されて、正義実現委員会も動けないらしいからな」

 

"……戒厳令?"

 

「あぁ。明日はトリニティに存在するほぼ全ての組織が動けないから、何かあればシスターフッドを頼るよう言われたよ」

 

「ま、待って! ど、どういうこと!? そもそも、アズサはティーパーティーをやっつけに来たんでしょ?なのに守るってどういうこと? 話が合わないじゃん!」

 

「それは……」

 

 

 

「……アズサちゃん自身は、最初からその目的でトリニティに来た。……そういうことですね?」

 

 

 

「……」

 

「最初からナギサさんを守るために、ナギサさんを襲撃する任務に参加した……いわば二重スパイ」

 

 

 

 

 

 

"……! ……代理人、セイアちゃんが言ってた懐柔した襲撃者って言うのは……"

 

「……恐らく、アズサのことだろうけど……。……先生……その名前を出すのはだな……」

 

"……あ。……い、今のなし! みんな忘れて!"

 

 

 

 

 

 

「……」「……」「……」「……」

 

 

 

 

 

 

「……いや、流石に無理があるだろ」

 

"だ、だよね~。……後でセイアちゃんに怒られちゃうかも……"

 

「……い、色々と聞きたいことが増えてしまいましたが……。……アズサちゃん。……どうして、ナギサさんを守ろうとするんですか? それは、誰の命令ですか?」

 

「……。……これは、誰かに命令された訳じゃない。私自身の判断だ。……桐藤ナギサがいなければ、エデン条約は取り消しになってしまう。……あの平和条約が無くなれば」

 

 

 

――この先、キヴォトスは翼に蹂躙されてしまうだろう

 

 

 

「……お前は、翼や都市について何処まで知っている?」

 

 

「翼?」「都市?」

 

 

「……」

 

「……都市、と言うのは分からない。……翼が都市からやって来たと言うことは聞いてるが、どんな場所なのかは知らない。……むしろ、代理人は何で知ってるんだ?」

 

「……俺も都市からキヴォトスに来たからだよ。……無論、翼なんかと同列にされても困るがな」

 

「都市から……。……翼については、知っている。……アリウスは、数年前から翼に支配されているから」

 

「何……?」

 

「正確には、翼と手を組んだアリウスの生徒会長。……彼女と翼によって、アリウスは統治されているんだ」

 

「……何処の翼だ?」

 

「……何処の翼……と言うのは……?」

 

「そのままの意味なんだが……その反応で、翼について何も知らないことが分かったよ」

 

 

 

(キンッ)

 

 

 

アズサの反応を確認したローランはデュランダルを納刀し、手袋へと収納した。

 

 

 

「お前が羽の一部ならこの場で殺していたが……、……聞いた話と反応を見るに、お前も翼の被害者なんだろうな」

 

「……あ、あの、代理人。翼と言うのは一体……」

 

「……ヒフミ。……説明すると長くなるから、また今度な。……カイザーコーポレーションよりも悪い企業だと思っておいてくれ」

 

「な、なるほど……?」

 

 

……

 

 

「……つまり、アズサちゃんは平和の為にアリウスを裏切る、ということですか?」

 

「……」

 

「……とっても甘くて、夢のような話ですね。今回の条約の名前と同じくらい、虚しい響きです」

 

「は、ハナコ。何もそこまで言わなくても……」

 

「アズサちゃんは嘘つきで、裏切り者だった……。……トリニティでも本当の姿を隠し、アリウスでも本音を隠していた。

 

アズサちゃんの周辺には、アズサちゃんに騙された人たちしかいなかった。ずっと周りの全てをだましていた……そういうことで合ってますか?」

 

「ハナコちゃん……」

 

「……いつか言った通りだ。私はみんなのことも、みんなの信頼も……みんなの心も、裏切ってしまうことになる、と」

 

「アズサ、ちゃん……」

 

「だから、彼女が探しているトリニティの裏切り者は私。……私のせいで補習授業部は、こんな危機に陥っている」

 

「……」

 

「本当にごめん。私のことを恨んでほしい。今のこの状況は全て、私がもたらしたことだから……」

 

"……それは違うよ"

 

「……先生?」

 

"元々の原因はきっと、信じられなかったことの方"

 

「……」

 

"ナギサちゃんがもっと、みんなのことを信じていたら。ミカちゃんがもっと、ナギサちゃんのことを信じていたら"

 

「……先生」

 

"もっとお互いがお互いを深く信じられていたら、こんなことにはならなかったと思う"

 

「……深く信じる……か……」

 

「……。……そうですね、そうかもしれません」

 

「ハナコちゃん……」

 

「今のナギサさんのように、誰も信じられなくなってしまった人を変えることは難しいです。誰かを信じるということは、元々難しいですし」

 

「……そうだな。……他人を信じるのが容易じゃないってのは、良く分かるよ」

 

「……そうですね。……ただそれでも、アズサちゃんは私たちにこうして本心を語ってくれました。黙り続けることもできたはずなのに、謝ってくれました」

 

「……」

 

「……ごめんなさい、先ほどのは何と言いますか、どうしても意地悪したくなってしまったんです。アズサちゃんの真っ直ぐな顔を見ていると、何だか心が落ち着かなくなってしまって」

 

「……」

 

「一つ聞かせて貰えますか? アズサちゃんは、どうして補習授業部に居続けたのですか?」

 

「……? それは一体……」

 

「スパイなら、こんな注目される部活に長くいてはいけないはずです。昨夜のように、誰にも気づかれずに消えるタイミングや手段は、幾らでもあったはず」

 

「……」

 

「……しかし、アズサちゃんはそうしませんでした。……その理由は」

 

 

 

――補習授業部での時間があまりにも楽しかったから

 

 

 

「そうではありませんか?」

 

「……!」

 

「みんなで一緒に勉強をしたり、ご飯を食べたり、お洗濯をしたり、お掃除をしたり……何をしても楽しいことばかりだったから。……だから、この楽しい時間を壊したくなかった」

 

「……」

 

「……違いますか、アズサちゃん?」

 

「……。それは……私は……」

 

 

……

 

 

「……いや、うん。……そうかもしれないな。何かを学ぶということ、みんなで何かをするということ……。……その楽しい時間を、私は手放せなかった」

 

「アズサちゃん……」

 

「……まだまだ知りたいことが、たくさんある。海とか遊園地とかお祭りとか……行きたいところも、知りたいこともまだまだ沢山あって……」

 

「アズサ……」

 

「……」

 

「……何だか知ったような口をきいてしまいましたが……分かるんです、その気持ち。何せ……はい。同じように思った人が、いたんです」

 

「……?」

 

「なぜか要領が良くて、何をしても周りからおだてられてしまうようなタイプで……」

 

「……」

 

「その人にとってトリニティ総合学園は、嘘と偽りで飾り立てられた、欺瞞に満ちた空間でした。誰にも本心を話すことができず、誰にも本当の姿を見せることができないまま……」

 

「ハナコちゃん……」

 

「その人にとって、全てのことは無意味で……学校を、辞めようとしていたんです。……何せそのままの生活を続けることは、監獄にいるのと同じでしたから」

 

「……」

 

「……ですが、その人とアズサちゃんは違いました」

 

「……?」

 

「話は一瞬変わりますが……アズサちゃんは実際に今回のことが終わったら、この学園での生活は終わってしまうんですよね?」

 

「まぁ、書類を偽装して入っていた以上、そうなるだろうな」

 

「……アリウスのことも裏切るのだとしたら、アズサちゃんは帰る場所も戻る場所も無くしてまうということですよね……?」

 

「あっ……」

 

「……」

 

「……それを知っていたはずなのにアズサちゃんは……補習授業部で、いつも一生懸命でした。……どうしてそこまでするのですか? そこに何の意味があるのです?」

 

「……」

 

「アズサちゃんが口癖のように言っていた通り、全ては虚しいもののはずなのに」

 

「それは……」

 

「……ですが、私はアズサちゃんが最後に付け足す言葉が好きです」

 

 

 

――たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない

 

 

 

「そんな事もあって、……ようやく、その人も気づいたんです。……学園生活の、楽しさに」

 

"ハナコちゃん……"

 

「下着姿でプール掃除をしたり、みんなで水着で夜の散歩をしたり、裸で色々なことを打ち明けあったり……自分をさらけ出せる人たちと、そういったよくあることを全力でするということが、こんなにも楽しかったんだと」

 

「いや待て。色々とおかしくないか……?」

 

「うん……いや、裸ではなかったけど……」

 

「さ、散歩も水着ではありませんでしたよ……!?」

 

「え、やっぱりあれ下着だったの!?」

 

"その人も、補習授業部での生活が楽しかったんだね"

 

「ふふっ。……アズサちゃんの言っていた通りです。虚しいことだとしても、最後まで抵抗をやめてはいけませんね」

 

「ハナコ……」

 

「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう? もっと知りたいんでしょう?」

 

「それは……」

 

「みんなで色んなやってみたいって、言ってたじゃないですか。海に遊びに行くとか、ゴールドマグロを見に行くとか。……それを、諦めてしまうんですか?」

 

「……」

 

「……何も諦める必要はありません。……桐藤ナギサさん……彼女をアリウスの襲撃から守りましょう。そうして私たちは、無事に試験を受け、合格するのです」

 

「……」

 

「みんなで90点以上をとって、堂々と合格するんです。それが今の私たちにとって救いとなる、唯一の答えではありませんか?」

 

「……でも、そんなことは物理的に不可能なはず。試験は9時から。アリウスの作戦開始時刻もまた、同じ時間に予定されている」

 

「ほ、他の方たちに助けを求めるとか……?」

 

「それもそうですが……それだけでは足りません。……まずは、」

 

 

 

――私たちの方から動きましょう

 

 

 

「何せ今ここには、正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます」

 

「……?」

 

「へ、偏愛……!?」

 

「……?」

 

「その上、ちょっとしたマスターキーのようなシャーレの先生と、存在自体が反則のような代理人までいるんですよ?」

 

"ま、まぁ……"

 

「反則か……?」

 

「車と同じ速度で走れて、時間を巻き戻せて、瞬間移動が出来る人は反則です」

 

「……」

 

「……ですが、この組み合わせであれば、きっと」

 

 

 

――トリニティくらい、半日で転覆させられますよ

 

 

 

「……はい!?」

 

「えっ、どういうこと!? 何をする気!?」

 

"……まぁ、一夜で翼を落とした代理人がいるなら、出来ちゃうかも……?"

 

「あれは別に、俺だけの力じゃないぞ。……まぁ、転覆させようと思えば幾らでも出来そうだが……」

 

「翼を落とした……?」

 

「何をするも何も、試験を受けて合格するだけです。作戦内容は一旦、私にお任せください。さぁ、今こそ力を合わせる時です。行きましょう!」

 

"えっと……と、とりあえず頑張ろう!"

 

「……」

 

 

 

……翼が相手に居る以上、手数は多い方が良いよな。

 

 

……

 

 

……シスターフッドに連絡しておくか。

 

 

 

 







「時間を巻き戻すってどういうこと? この間もそんな事言ってたけど……」

「私も気になる」

「……そう言えば、お前ら二人には使ったことがなかったな」

「二人にはって、ヒフミとハナコには使ったってこと?」

「……まぁ、成り行きでな。……折角だし、撃っておくか」

「「撃つ?」」



(パンッ)(パンッ)(パンッ)(パンッ)(パンッ)(パンッ)



"……うん。何回撃たれても、この独特な感覚は慣れないね……"

「慣れてもらっても困るが……便利なんだよな」

「び、ビックリした……。ちょっと! いきなり発砲するってどういうことよ!」

「これは、凄いな」

「あ、あはは……」

「やっぱり、代理人は反則ですよね」


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