黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~激闘~ アリウス分校・アライグマチーム

 

(……ここからは、賭けだな)

 

 

補習授業部から距離を取り過ぎず、50匹を一斉に倒す。

 

 

 

(それをするのに最適なのは……)

 

 

 

「……借りるぞ、ビナー」

 

 

 

破り取られたページが光り輝き、ローランの姿を包み込む。

 

 

 

「へぇ……、それが代理人の力なんだ」

 

 

 

背中に黒い翼を生やし、全身を血塗れの包帯で包み込んだ姿。

 

黄金色の瞳が無数についた、見るものによっては恐怖で動けなくなりそうなほど、不気味な翼。

 

 

 

「"大きな目は光を閉ざした"」

 

「……? なに……を……」

 

 

 

瞬間

 

ローランの背中から生えた黒い翼についた瞳が、ネズミチームとミカを凝視した……かのように思われた。

 

 

 

その瞳はまるで、自分以外に視線を向けることを嫌うかのように……。

 

 

 

「"誰よりも愛するこの場所を守るため"」

 

「……ッ! これ以上喋らせないで!」

 

 

 

(ダダダダダダッ)(ダダダダダダッ)(ダダダダダダッ)

 

 

 

ローランへと放たれる無数の銃弾。

 

攻撃対象が自分へと向いたことを直感したローランは、背中に生えた翼で飛翔し、体育館内を自由自在に飛び回る。

 

先ほどアズサが行った、疑似的な動きとは異なる、正真正銘の3次元軌道。

 

銃弾を躱し、時には翼で弾き飛ばし……

 

 

 

――詠唱を終えた

 

 

 

「"永遠に閉じることのない瞳が、黒い森の平和を守るだろう"」

 

 

 

翼についた黄金色の瞳が、体育館全体を見渡し、平和な森を荒らす侵入者へと、光を放った。

 

 

 

 

 

 

――黄昏(終末鳥)――

 

 

 

 

 

 

侵入者を逃すことなく追尾する、光の玉。一発一発が致命傷になりえる光弾が、

 

 

 

――計102発

 

 

 

「綺麗……」

 

「これが、代理人の力……?」

 

「……」

 

「……やっぱり、反則じゃないですか」

 

"E.G.Oの力……。……私にも、この力があれば……"

 

 

 

ネズミチームの身体を引き千切り、押しつぶし、貫通する。ぐちゃぐちゃになった肉片と、血液の雨が降り注ぐ中、

 

 

 

――たった一人だけ、無事な者がいた

 

 

 

「痛いなぁ~。……弾くのだって簡単じゃないんだよ?」

 

 

 

飛んできた光弾を殴り飛ばし、叩き潰した少女。

 

降り注ぐ血の雨の中、笑顔を向ける彼女に、誰も……何も言えなかった。

 

 

 

「……っ、耐えられたか」

 

 

 

E.G.Oを解除し、地面へと降り立ったローランは、即座に2丁拳銃を取り出し構えた。

 

 

 

「惜しかったね、代理人」

 

「……」

 

「……でも、残念。時間切れかな☆」

 

「……?」

 

 

 

アライグマ(Raccoon)チーム、現着。これより、戦闘行動へと移行する」

 

 

 

先ほどのネズミチームとは異なり、杖のようなものを携えたアライグマチーム。

 

 

 

――総数、50匹

 

 

 

「あはっ☆ 代理人の力が凄いのは分かったけど、その力だって無尽蔵って訳じゃないでしょ?」

 

「……」

 

「ミカさん、一つ聞かせてください!」

 

「……?」

 

「ハナコ……」

 

「セイアちゃんを襲撃したのも、あなたの指示だったんですか!?」

 

「……あはっ☆ 浦和ハナコもそんな目をするんだね」

 

「……」

 

「うん、私の指示だよ? セイアちゃんってば、いつも変なことばっかり言ってるんだもん」

 

「……だから、殺したと?」

 

「私は別に、ヘイローを破壊しろとは言ってないよ。私は人殺しじゃない」

 

「……」

 

「ただ卒業するまで、檻の中に閉じ込めておいた方が良いなって思っただけ。でも、自然とああなっちゃったの」

 

「……」

 

「それ以上は、当事者に聞いたほうが早いんじゃないかな? ……ねぇ、白洲アズサ。何だか一部誤解があるみたいだし、私の代わりに説明してくれない?」

 

"代理人……。やっぱりミカちゃんも……"

 

「……あぁ。この間のやり取りでも思っていたが……聖園、誤解しているのはお前の方だ」

 

「私……? 私が、一体何を誤解してるって?」

 

「……いいか、よく聞け。百合園セイアは……」

 

 

 

「……! ……報告。トリニティの生徒が、こちらへと向かってきていますが、どうされますか?」

 

 

 

「……? ……なんで? ティーパーティーの戒厳令に背くような人たちは、もう……」

 

「……いますよ。ティーパーティーにも命令できない、独立的な集団が」

 

「……確かに、お前の言う通り時間切れだな」

 

「……? 何を言ってるの?」

 

 

 

 

 

ティーパーティーの命令によって、動くことの出来ない正義実現委員会。

 

殺しても殺しても変わることのない、51対6という、圧倒的な人数差

 

 

 

今ある手札では、覆すことの出来ない戦況

 

 

 

「対象を確認。大聖堂からの進攻です」

 

 

 

 

――しかしそんな状況も、長くは続かなかった

 

 

 

 

「シスターマリー、4本目のマッチの火に点火を」

 

「は、はい! み、皆さん、下がってください!」

 

 

 

(ドカアアァァァン!!)

 

 

 

突如として爆破された体育館の壁。

 

爆風によって抉じ開けられた壁の向こう側には、幻想体のE.G.Oで武装した複数の少女たちが立っていた。

 

 

 

「…………シスターフッド?」

 

「……」

 

「……っ、浦和ハナコ……!」

 

「……まぁ、ちょっとした約束をしましたので。……それに、私だけのお願いじゃありませんよ?」

 

「約束? それに、私だけってどういう……」

 

 

 

「うわぁ、また派手にやりましたね代理人!」

 

 

 

「……そう言う事だ」

 

「代理人……っ!」

 

 

 

「けほっ、今日も平和と安寧が、みなさんと共にありますように……けほっ」

 

「す、すみません、お邪魔します」

 

「シスターフッド、これまでの慣習に反することではありますが……。今回はエリュシオンとして、武力介入させていただきます」

 

「……エリュシオン?」

 

「お前は知らなくていいことだ。聖園」

 

「ティーパーティーの聖園ミカさん。。他のティーパーティーメンバーへの傷害教唆及び傷害未遂、そして……」

 

 

 

――翼の力を私的利用した罪で、あなたを断罪します

 

 

 

「シスターフッド、歌住サクラコ……」

 

「……」

 

「あはっ☆ 流石にシスターフッドと戦うのは初めてだなー。なるほどね、これが切り札ってこと?」

 

「……ようやく顔色が変わりましたね、ミカさん」

 

「……そうかな? むしろ、邪魔者をまとめて掃除できる良いチャンスだよ☆」

 

「まだやるつもりか? お前なら、勝算ぐらい分かりそうなものだが」

 

「……うん、そうだね。……でもさ、ここまで来ておとなしく降参しますってわけにはいかないでしょ?」

 

「それもそうだな」

 

「……もう私は、行くとこまで行くしかないの」

 

 

 

「シスターヒナタ、視線の起動を」

 

「うぅ……、い、痛いかもしれませんが、我慢してください!」

 

 

 

(キュイィィィィンン!!)

 

 

 

「総員、戦闘準備!」

 

 

 

サクラコの掛け声と共に、シスターフッド全員がそれぞれのE.G.Oを構えた。

 

 

 

「アライグマチーム。これより、戦闘行動を開始する」

 

 

 

★★★★★

 

 

 

斬撃音に射撃音。

 

爆風と血の香りが漂い、肉を千切る音が鳴り響く地獄。

 

 

降り注ぐ血液を気にも留めず、ただ目の前の敵を殲滅する。

 

シスターフッド全員が互いに援護しあい、人的被害を出すことなく、着実にアライグマチームの数を減らしていく。

 

 

 

「……何これ、洒落にならないなぁ」

 

 

 

傷を負う度にローランが時間を巻き戻し、E.G.Oの力を最大限発揮する。

 

 

 

「いやぁ、いつもの作業に比べたら軽いっすね!」

 

「鎮圧……抑制……鎮圧……抑制……」

 

「クラスは1~2と言った所でしょうか?」

 

「代理人との訓練の方が何倍もキツかった……」

 

「これが翼……? この程度で……?」

 

 

 

「いや、R社のクローンにしては弱すぎる。……恐らく、孵化を終える前の個体で量を補ったんだろう」

 

 

 

図書館で戦ったR社第4郡と比べ、あまりにも差がありすぎることに警戒を隠し切れないローラン。

 

 

 

「斥候……いや、俺たちの戦闘力を計りにでも来たのか……」

 

 

 

――数十分後

 

 

 

先程までの人数差は見る影もなく、50匹も居たアライグマチームは、……一匹残らず息絶えていた。

 

 

 

「……どうして?」

 

「……」

 

「セイアちゃんが襲撃された時だって、動かなかったのに……今このタイミングでシスターフッドが介入するなんて、冗談にも程があるよ……」

 

「……」

 

「……何を見誤ったのかな」

 

「……」

 

「……そっか。……シャーレの二人がいる時点で、私の負けだったんだ。……勝てるわけないじゃん、こんなの……」

 

"ミカちゃん……、もうやめよう?"

 

「ごめんね、先生。私はもう、止まれないの。私が止まったら、セイアちゃんの犠牲が……」

 

「聖園。……勘違いしてるみたいだから一応言っておくが、……セイアは生きているぞ」

 

 

……

 

 

「…………えっ?」

 

"代理人。言っちゃって良かったの……?

 

「……こうなった以上、教えるしかないだろ。……良いよな、サクラコ」

 

「……私は何も聞いていません。そして、これから起こることについても知りえません。……帰りますよ、皆さん」

 

「さ、サクラコ様?」

 

「帰っちゃうんですか……?」

 

「さぁさぁ、帰るっすよ二人とも! 代理人、今日は楽しかったすよー!」

 

 

 

一礼し、体育館を後にするサクラコ。

 

その行動に疑問を隠し切れないシスターフッドのメンバーたちだったが、

 

彼女に続くように、E.G.Oを振り回しながら、元気よく挨拶をして体育館を去っていくAチームの隊長を見て、全員大聖堂へと帰還するのであった。

 

 

 

「……相変わらず元気な奴だな」

 

「……どういうこと? セイアちゃんが生きてるって……。……だって、セイアちゃんは……」

 

 

 

ティーパーティーですら知りえない、隠匿され続けた事実。

 

人知れず救出されていた存在。

 

 

救出……というより、傷一つ負うことなく、襲撃者を懐柔した百合園セイア。

 

 

 

「……ちょっと待ってろ」

 

 

 

(TELLLL……TELLLL……)

 

 

 

武器を手袋に収納し、代わりに携帯電話を取り出したローランは、スピーカーを起動し、何処かへと電話を掛けた。

 

 

 

「……もしもし?」

 

「……やはり君は、このタイミングで私に電話を掛けてくるんだね。……聞こえているだろう? ミカ」

 

「せ、セイアちゃん……」

 

「セイアちゃん……」

 

「ハナコ……。……そう言えば、君にも偽装していたね。……私は無事だとも。……訳あって今どこにいるのかは話せないが、傷一つ負っていない健康体だよ」

 

「……なるほど。……襲撃者を守るためですか」

 

「……君は本当に理解が早いね。翼という名前が出た時点で、私は彼女を処分させまいと動いていたのだよ」

 

「その事なんだが、セイア。……アリウスに干渉しているのはR社だ」

 

「R社……。……なるほど、だからあれだけの人数を……」

 

「……その反応を見るに、特異点については把握していそうだな」

 

「……図書館を見ていたから……と言えば、君なら理解できるだろう?」

 

「……そう言えば、そうだったな」

 

 

 

★★★★★

 

 

 

翼やエリュシオンに関する詳細は明かせないものの、百合園セイアが無事であることを伝えることに成功したローラン。

 

 

 

「……降参。私の負けだよ」

 

"ミカちゃん……"

 

「……ねぇ、アズサちゃん。自分が何をしてるのか、その結果この先どうなるのか。それは分かってるんだよね?」

 

「もちろん」

 

「……トリニティが、あなたのことを守ってくれると思う?」

 

「……」

 

「これからずっと追われ続けるよ。ずっと、どこに行っても。……サオリ達から逃げ切れると思うの?」

 

「……」

 

「アズサちゃんなら知ってるよね。et omnia vanitas……」

 

「うん、分かってる。……それでも、私は最後まで足搔いて見せる。……最後の、その時まで」

 

「……そっか」

 

 

 

その後、身柄を正義実現委員会へと引き渡し、血塗れで使うことのできなくなった体育館は、清掃及び死体の証拠隠滅がされるまで立ち入り禁止となった。

 

 

 

「あ、あうぅ……もう色々あり過ぎて、疲労困憊です……」

 

「ようやく落ち着きましたね……」

 

「うん……、……っ……ぁ」

 

「コハルちゃん!?」

 

「ご、ごめん、何だか力が抜けちゃって……あ、ありがと」

 

「……取り合えず、全員巻き戻しておくか」

 

 

 

(パンッ)(パンッ)(パンッ)(パンッ)(パンッ)(パンッ)

 

 

 

黄金銃を取り出し、一同を撃ち抜くローラン。

 

先の戦闘で溜まった疲労や消費した銃弾を巻き戻す。

 

 

 

「……そう言えば、今何時だ?」

 

"今? 今は……"

 

「午前7時50分。ちなみに、ここから試験会場までは1時間かかる」

 

「……」「……」「……」

 

「走ろう、みんな!」

 

 

 

我先にと走り出し、試験会場へと急ぐアズサ。

 

 

 

「えぇっ!? 走るんですか!? 待ってくださいアズサちゃん! ……って早っ! ここから走って着く距離ですか!?」

 

「いや、お前ら……。場所も分かったことだし、無駄に体力を使わなくても……」

 

「うーん、全力で走ればギリギリでしょうか? さぁ、ヒフミちゃん、コハルちゃん! ファイトです!」

 

 

 

続けて走り出すハナコ。

 

……試験会場まで1時間という焦りが彼女の思考力を鈍らせたのか、……何も考えずに走り出してしまった。

 

 

 

「うぅ……ま、待ちなさいよぉ……!」

 

「ど、どうして最後の最後までこんなことに……!」

 

 

残った二人も走り出し、試験会場までのマラソンが始まるのであった。

 

 

 

"元気だね、みんな"

 

「……そうだな」

 

"ありがとうね、代理人。代理人のおかげで、みんな無事に試験を受けられそうだよ"

 

「おう……。……試験前に体力を使うのもどうかと思うんだけどな」

 

"それは、仕方ないんじゃない? ほら、私たちも走らな……"

 

「何言ってるんだ?」

 

 

 

手袋から本を取り出し、ページを一枚破り取るローラン。

 

 

 

「昨日はハナコを助けるのに使ったが、今日はまだコイツを使ってないからな。……借りるぞ、ティファレト」

 

 

破り取られたページはローランを包み込み、もはや見慣れてしまった姿へと変質させていく。

 

 

 

"あー! 狡いなぁ~。みんなに教えてあげれば良かったのに"

 

「いや、俺はちゃんと言おうとしたぞ? ハナコに至っては見たばかりなんだから、少し考えれば分かりそうなものなんだが……」

 

 

 

……黄金色に輝くマントと篭手を身に着けた姿。

 

アビドス砂漠や合宿所で見た、特徴的な衣装。

 

 

 

 

――黄金狂(ゴールドラッシュ)――

 

 

 

 

「ほら行くぞ、先生」

 

"な、なんか釈然としないけど……ごめんね、みんな。先生、運動が苦手だから……"

 

 

 

篭手をつけていない手で先生を抱き上げ、魔方陣を描き、

 

 

 

――二人はその中へと飛び込んだ。

 

 

 






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