黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~始動~ エデン条約調印式

 

月日は流れ、エデン条約調印式当日。

 

 

「今この動画をご覧の皆さん、こんにちは! クロノススクール報道部のアイドルレポーター、川流シノンです! 本日はついに締結される、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園のエデン条約の調印式。その現場に来ております!」

 

 

 

古聖堂前に参列する、ゲヘナとトリニティの生徒たち。各生徒達が各々の学園の校章が刻まれた旗を掲げ、自分達の権威を示す。犬猿の仲と言われ、互いに一触即発の空気が流れる古聖堂前は、良くも悪くもお互いに牽制し合うお陰で、戦闘に発展することだけはなかった。

 

 

 

――古聖堂・ホール

 

 

外の状況とは打って変わって、物静かな内部。

 

 

 

"暇だなぁ……"

 

「このまま暇が続けば良いんだけどな」

 

"だね。……でも、そう上手くいかないよね"

 

「……まぁな。だからこその保険だ」

 

 

 

正義実現委員会、風紀委員会、シスターフッド

 

三つの組織が護衛として古聖堂内部に配置され、各員それぞれが睨みを利かせながら巡回を行っていた。

 

 

 

(ガチャッ)

 

 

 

そんな中、外を巡回していた正義実現委員会の隙を付き、古聖堂内部に侵入する者が……

 

 

 

「すみません、業者の方ですか? 現在こちらは立ち入り禁止ですのでご遠慮を」

 

「ぎょ、業者? いえ、違うのだけれど……」

 

「そこ、こっちは関係者専用……って、お前は! 指名手配中の!」

 

"あ、アルちゃんだ。久しぶりだね~"

 

「……時間通りだな。悪いが通してくれ、シャーレとして俺たちが雇ったんだ」

 

 

 

先日の襲撃でエデン条約の障害となり得る存在について、ある程度目度がついていたローランは、「全くの無関係ではなく、翼に対しても対等以上に渡り合える者」という条件で、先生の護衛及び会場の警護をとある生徒に依頼していたのだ。

 

 

 

「や、雇った!? 指名手配犯を……ですか?」

 

「あぁ。イオリの許可も降りてるから、心配なら確認してみてくれ」

 

"代理人が呼んでたのって、アルちゃんだったんだ"

 

「今回のエデン条約に関係ないとは言えないからな。それに、翼とある程度やり合える奴なんて、そう居ないだろ? ……というか、先生の方はどうだったんだ?」

 

"私の方はダメそうかなぁ。立場上参加はできないって断られちゃった"

 

「……そうか」

 

「ま、待たせたわね。代理人」

 

「良く来てくれたな、陸八魔。早速で悪いんだが、いつでも動けるように準備してくれ。……この前話した通りなら、この調印式は翼によって襲撃される可能性が高い」

 

 

 

数日前、便利屋68の事務所まで赴いたローランは、エデン条約調印式にてR社から襲撃される可能性があることを告げ、シャーレとして正式に便利屋68へと救援依頼を出していたのだ。

 

 

 

「や、雇われた以上護衛は努めるけれど……、……また翼なの!? この間、T社に喧嘩売ってきたばかりなのだけれど!?」

 

「……いや、気持ちは分かるが……、……俺に言われてもな」

 

"あはは……、頼りにしてるよ、アルちゃん"

 

 

 

ローランから事前に事情を伺っていた先生。

 

都市で活動していた記憶を持ち、当時の能力を最大限生かせること、特色フィクサーとして活動していたことなど、にわかには信じがたい事を聞かされ最初は混乱していたものの、

 

二重人格やE.G.O、特異点などを散々見せられた結果、"そういうのもあるんだなぁ~"……程度に納得するのであった。

 

 

 

(バチッ)

 

 

 

「……っ」

 

 

 

水色の指輪を起動し、体内に電気を流す。血液のように体内を巡る微弱な電流に意識を集中し、電力を一定に保つ。

 

 

 

「それがW社の指輪の力か。……武装に帯電させる力があるんだったか?」

 

「……そうね。W社で扱われる装備には、装着者の電気信号を媒体として、充電する機能が備え付けられていたわ」

 

"だ、大丈夫? アルちゃん?"

 

「……大丈夫よ」

 

 

 

電流が体内を循環したことを感じたアルは、自身の持つ神秘を同じように循環させ、

 

 

 

――神秘と電気を融合させる

 

 

 

神秘と共鳴することによって、体に流れる微弱な電流は勢いを増し、体内に抑えきれなくなった電気が溢れていく。

 

 

 

(バチッ)

 

 

 

"あ、アルちゃん、目の色が……"

 

「虹彩が水色に変色した……? ……副作用みたいなものか?」

 

「え、そうなの? 目の色が変わるなんて全然知らないんだけど!?」

 

「……いや、把握してないのか?」

 

「じ、自分じゃ確認出来ないんだから仕方ないじゃない! ……と、取り合えず準備完了よ。いつでも動けるわ」

 

 

 

体外に溢れ出る電流を最小限に抑え、体内を高速で循環させる。W社の社員が武装に充電するように、陸八魔アルは自身の肉体に充電する。

 

帯電状態と言った方が良いだろうか? 陸八魔アルが生まれ持つ神秘と混ざり合うことによって、

 

 

 

――電流は朱色へと変色していた

 

 

 

"おー、カッコいいね!"

 

「これは確かに、朱色の雷って名付けられるだけあるな」

 

 

 

動くたびに静電気のように発生する朱色の電気。発生した電気は、陸八魔アルの腰に備え付けられた特注のバッテリーへと充電されていく。

 

工房によって作製された特殊な形状をした小型のバッテリー装置には出力用のポートが存在せず、一見するとただ充電する為だけの装置のようにも見えることだろう。

 

 

 

"アルちゃんも特色のフィクサーなんだっけ?"

 

「えぇ、そうね。夢の中の私はそう呼ばれていたわ」

 

"……アルちゃんと代理人って、どっちが強いの?」

 

「「……」」

 

 

……

 

 

「……お前とは戦いたくないな」

 

「それは私のセリフなのだけれど!? というか、戦わないわよ!」

 

 

 

片や複数の工房武器を自在に操り、図書館に幽閉されている幻想体の力をも操る黒い沈黙。

 

片や神秘という特異能力を持ち、遺跡の遺物や電流を自在に操る朱色の雷。

 

 

 

キヴォトスにおいて、この二人と真正面から渡り合える者も、そう多くないだろう。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

滞りなく進行していくエデン条約調印式。ゲヘナとトリニティの代表である生徒会長たちも続々と古聖堂前へと集まり、両陣営もお互いに睨みを利かせあい、会場の雰囲気はますますヒートアップしていくのであった。

 

 

 

「準備は?」

 

「……問題なし。再生アンプルも、一人三本まで使用許可が降りてる。……保険もあるしね」

 

「は、はい! 終わりました、チェックもできてますし、色々と確認も……」

 

「あの人形との接触の方は?」

 

「(スッ、スッ……)」

 

「……よし。……全て整ったな。……もう一度確認するが、あの大人の相手はお前たちに任せていいのか?」

 

 

 

トリニティ郊外にある廃墟。その場所に集まる4人の少女と二人の大人達。黒いスーツに青い紋様の刻まれた、独特な衣装を身に着けた怪物。

 

 

 

「えぇ、構いませんよ。彼女ともそういう契約ですから」

 

「カッカッカッ!! ローランの相手なら、私たちに任せな!」

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

黒い契約書にミートハンマー。

 

到底武器とは思えないモノを手に持ち、廃墟を後にする二人の大人達。見た目もさることながら、異質な雰囲気を放つ二人は、受け取ったK社の再生アンプルをポケットに仕舞い込み、笑顔を浮かべながら去って行くのであった。

 

 

 

「……巡航ミサイルは?」

 

「既に発射済み。これから5分後に着弾する」

 

――カラス(Raven)チーム、アライグマ( Raccoon)チームは?」

 

アライグマ( Raccoon)チームは、つ、通路の前で待機中ですが……、()()()の方は連絡が……」

 

「……カラスか。……まぁいい。ミサキはネズミと共にトリニティを、ヒヨリはアライグマと共にゲヘナの方を頼む」

 

「了解」

 

「今回はR社の援軍も参戦するらしい。……分かっていると思うが、見つけたらすぐに距離をとるように」

 

「……アイツ等に敵も味方もないもんね」

 

「こ、これから辛いことになっていくんですね、みんな苦しむんですね……ですが、仕方ありません」

 

「……そう、それがこの世界の真実」

 

「ミサキ、正義実現委員会のツルギに警戒しろ。ヒヨリは風紀委員会のヒナに気を付けて動け」

 

「は、はい! 分かりました! ひ、ヒナさんですね……!」

 

「あと、シスターフッドにも気を付けないと。……あの指揮者を継承してるかもしれないから」

 

「……あぁ。任務の遂行が最優先だが、もしもマネキンが現れたらすぐに撤退する」

 

「……えっ!? い、良いんでしょうか?」

 

「……リーダー?」

 

「……大丈夫だ。マネキンの脅威度はマダムも把握している」

 

「……分かった」

 

「よし……。姫はネズミの予備と共に地下へ向かってくれ。必要に応じて使い捨ててくれて構わない」

 

「(スッ、スッ……)」

 

 

……

 

 

「……姫、気分は悪いだろうけど我慢してほしい。私たちには次が無いんだ」

 

「(コクリ……)」

 

「えっと、リーダーは……」

 

「私は他に用事がある。終わり次第、戦場に向かう予定だ」

 

「……気を付けてね、リーダー」

 

「……あぁ。全員、忘れるな。今の私たちに次の肉体は無い。死んだら終わりだと思って動け」

 

 

 

――総員、戦闘準備

 

 

 






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