黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~盟約~ ゲヘナ学園・便利屋68

 

――同時刻・聖堂地下

 

 

 

「……木の人形?」

 

「……無作法だな。私を呼ぶのであれば、芸術への敬意も込めてマエストロと呼んでほしいものだ」

 

「……」

 

「そなたらにはまだ、芸術の何たるかは尚早だろうか……ならば済まないが、そなたらとは愉しい対話は成り立ちそうにない」

 

 

 

大聖堂の地下深く。まるで迷路のような……それでいて1本の道のように開拓されているこの場所に集まる人影。木の人形と呼ばれたマエストロは、無作法な発言を行うネズミを視界から外し、

 

 

 

――目の前の少女へと敬礼をした

 

 

 

「……秤アツコ」

 

 

 

――いや、()()

 

 

 

「キヴォトスの生徒でありながら、無原罪のテクストを手に入れたそなたに最大限の敬意を」

 

「……」

 

「産み落としたモノについては、決して聖人と言える精神性ではないが…………再生による恩恵にて処女懐胎を成しえ、聖人としての神秘を齎し、血筋を絶やすことなく繋げたそなたは尊敬に値する」

 

「……」

 

「ベアトリーチェの計略とは言え、至高の作品と巡り会えた奇跡に感謝を。ロイヤルブラッドの戒命が動作する様まで拝めたのは幸甚であった」

 

「……」

 

「おかげで私の実験は、さらに崇高に……」

 

 

 

――光へと近づくことができるだろう

 

 

 

「……」

 

「ベアトリーチェは気づいていないみたいだが、そなたは既に光を見出しているのであろう?」

 

 

 

 

子を産んだという事実を残しながら、再生により純潔の証も残す。

 

キヴォトス(世界)に結果だけを認識させ、処女懐胎を成しえた聖母というテクストを取得し、血縁者に聖人のテクストを自動的に付与する事で、一般的な赤子以上の神秘を宿す。

 

 

その過程で幼き少女の心が壊れない筈もなく……

 

 

 

「身体の負傷を治せても、心の病までは治療出来ない。――元々あまり好いては居なかったが、純然たる事実を忘れた彼女には失望したよ」

 

「……」

 

「並の子供であれば自我が崩壊しているだろう。……さりとてそなたの精神性は歪む事なく、人の形を保てている。――今一度、そなたに賞賛を」

 

「……」

 

 

 

――Extermination of Geometrical Organ

 

 

 

「……E.G.O(自我の発露)とはよく言ったものだな、アインよ」

 

「……」

 

「そなたが発現したであろう力について興味関心は尽きないが……それに関してはまたの機会にさせて頂こう」

 

「……」

 

「今回はそなたら…………訂正する。そなたを助けよう。元より、そのような約定であった故」

 

「……」

 

「……さて、早速ではあるが、約束通りこの地下にある教義の下まで案内して貰うとしよう。頼めるかな、聖母よ」

 

「……」

 

 

 

★★★★★

 

 

 

――多元同期化(multiverse)

 

 

夢で得た経験を瞬時に反映し、定着させることによって自身の殻を他世界の自分の殻に切り替える下法。

 

 

 

 

 

 

――経験・ハナ協会――

 

――再現・卦脚――

 

 

 

 

 

 

――1幕

 

 

最短距離にいるミョへと接近し、乾の方角(四卦)へと蹴り飛ばす。

 

 

 

――2幕

 

 

同期にズレが無い事を確認し、即座に殻を切り替え、次なるミョへと襲い掛かる。持ち前の速度を持って、ミョが動き出すよりも速く……雷速を持って刺し貫く。 

 

 

 

 

 

 

――経験・楔事務所――

 

――再現・閃光の槍――

 

 

 

 

 

 

(バチバチバチバチバチッ)

 

 

 

四卦の方角による力の増幅を受け止め、雷の形を槍状に変質させミョの胴体に特大の風穴を作り上げる。刺し貫いた勢いのまま地面へと縫い付け、死ぬまで半自動的に電流が流れ続ける磔刑へと処す。

 

 

 

「ババァ! こいつッ、動きが……」

 

「対処を間違えるな、ミョ。散開して距離を取れ。長くは持たない筈だ」

 

「りょーかい!」

 

「それから、兵器の使用を許可する」

 

「……! へぇ、使っちゃうんだ」

 

「どの道、ここで使わなければそれまでだ。作戦に支障は生じるが仕方ない」

 

 

 

瞬時に距離を取り、防御体勢を取る。ニコライの指示を聞いたミョ達は、

 

 

 

――それぞれ武器を捨て、懐から一つの爆弾を取り出した

 

 

 

「どうせ使うなら、最初から使っておけば良かったのに」

 

「まぁいいじゃない。これでお別れなんだから」

 

「あはっ、それもそうね」

 

 

 

シンプルな見た目の爆弾。ダクトテープによって巻き付けられた起爆装置代わりの携帯電話が赤く発光する。キヴォトスでは対して珍しくもない爆弾だったが、

 

 

 

――それゆえに、警戒心を抱けなかった

 

 

 

 

 

「……甘く見られたものね」

 

 

 

(バチバチバチバチバチッ)

 

 

 

――3幕

 

 

刺し貫いた雷の槍を維持したまま、次なるミョを見据えるアル。武器を投げ捨て、チープな爆弾を取り出したミョたちに呆れつつも……手を緩める理由にはなり得ず、全速力で接近し、

 

 

ミョの身体を両断する

 

 

 

――経験・TimeTrack社――

 

――再現・加速切だ――

 

 

 

 

――よりも速く、ミョの持っていた爆弾が起爆した

 

 

 

「あはははははっ! さようなら! リクハチマ!」

 

 

 

 

 

ドカアアァァァン!!

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「アルちゃん――!!!」

 

「アル様――!!!!!」

 

 

 

戦場に向かう二つの影。

 

あの日味わった絶望を……喪失感を二度と味わない為に急ぐハルカとムツキ。普段であればカヨコの冗談だと流すこともできた妄言だが、あの日の悲しみがそれをただの妄言と認めなかった。

 

 

爆炎に包まれた戦場

 

 

全力で戦場へと向かった彼女たちの視界に移ったものは、想定したモノでは無かった。自分たちの記憶を失った社長の姿でもなければ、優雅に戦う姿でも無く……

 

 

 

――両腕が千切れ飛び、ヘイローが砕け散った社長の姿だった

 

 

 

 

 

 

「無事起爆したみたいだな」

 

「もう一人の私は起爆直前に殺されたみたいだけど」

 

「それでもだ。良くやった、ミョ」

 

「あはっ! まさかあの爆弾にここまでの威力があるとはねぇ」

 

ヘイローを破壊する爆弾……か。概念武装というものが、ここまで効果をなすとはな」

 

「終わった終わった! あとはアリウスとかいう奴らに任せて、アイスでも食べに行こうっと」

 

「帰還には同意する。今回の戦闘結果について、上層部に報告を……」

 

 

 

戦場に漂う夥しい程の血の香り。信じたくない光景。血の海に沈む陸八魔アルと、それを見下ろす二人の大人。

 

 

 

――そんな光景を見せられて、落ち着いていられる筈もなく、

 

 

 

「……殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

「……ッ! ――お前らァァァ!」

 

 

 

(ダンッ、ダンッ!)

 

(バララララララララッ)

 

 

 

ばら撒かれる銃弾の雨。散弾銃を構え突貫するハルカと、軽機関銃を構え乱射するムツキ。周囲に与える被害など考えず、ただ目の前の敵を殺すことだけを意識し攻撃し続ける彼女たち。

 

 

 

「急に絡んできて何なのあんた?」

 

「朱色の雷の関係者か……」

 

「よくも、よくもよくもよくもアル様を――ッ!」

 

「知らねぇし、てかアル様って誰?」

 

「恐らく朱色の雷の名前だろう。……知り合いだったんじゃないのか?」

 

「名前なんて知らないわよ。L社に居た頃はリクハチマって呼んでたし」

 

「そうか。……まぁいい。――殺せ、ミョ」

 

「言われなくても!」

 

 

 

(ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!)

 

(ダダダダダダダダダッ)

 

 

 

超近距離で行われる銃撃の応酬。散弾銃の弾丸を斬り払い、弾き、隙だらけの胴体にサブマシンガンをの銃口を押し付け連射する。翼の羽と便利屋68の平社員。

 

どちらに勝算があるかと言われれば、聞かれるまでも無いだろう。

 

 

 

「っあ……、ぐっ……」

 

「……よっわ。あんた本当にリクハチマの関係者なの? それとも、私のこと舐めてるのかしら」

 

 

 

銃弾によって怯んだ隙を突き、散弾銃を構えた右腕を抑え込み、

 

 

――使い物にならないよう、骨を砕き折る

 

 

激痛によって力が緩んだ瞬間を逃さず、全力で胴体を蹴り飛ばし、距離を取ったミョ。

 

 

 

「はぁ~。弱すぎて飽きそうなんだけど。ババァの方は?」

 

「こちらも問題ない。特色の関係者だろうと読んで警戒していたが、所詮はただの子供だったな」

 

「……ごふっ……ぇっ……」

 

 

 

飛んでくる軽機関銃の弾丸を全て躱し、ムツキへと肉薄したニコライ。

 

間合いに踏み込んだ瞬間、全力で刀を振るい軽機関銃を真っ二つにする。武装の破壊を確認することなく、返す刃で胴体を斬り付けたニコライは、あまりの弱さに驚きはしたものの警戒を解くことなく距離を取り、ミョへと視線を向ける。

 

刀に付いた血を払い、

 

 

 

――視線を向け……言葉を失った

 

 

 

 

 

「……? …………!? ミョ! ()()()()()()()()()()()()()

 

「……は? そこに転がっ……て……」

 

 

 

 

 

(バチバチバチバチバチッ)

 

 

確かに死んだと思った。……思い込んでいた。

 

ヘイローが砕ければ死ぬという事実は、孵化場での実験で嫌という程理解していたし、そうじゃなくても両腕を失い、出血多量で死亡したと判断していた。

 

 

 

――だが……朱色の雷は動いている

 

 

 

砕け散った筈のヘイローは元に戻っており、千切れ飛んだ両腕すらも、まるでそんな事はなかったかのように生えている。

 

……いや、飛び散った鮮血と血の香りが残っている以上、間違いなく爆弾は起爆したのだ。起爆し、致命傷を負わせた。

 

だと言うのに、気が付けば死体が動いており、ミョの首から上を消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

――経験・チャールズ事務所――

 

――再現・一点突破――

 

 

 

 

 

雷で形成した双頭槍を構え、注意が逸れたミョの顔面を貫き飛ばす。

 

強制的に行われた殻の排出と神秘の使い過ぎによって息も絶え絶えだったアルだが、顔面を貫くと同時に掠め取った黄緑色の注射器をポケットへと仕舞い込み、呼吸を整える。

 

 

 

「ア…ル、様……」

 

「アル、ちゃん……」

 

 

 

「……よくも、よくも二人に手を出したわねッ!」

 

「……何故だ。お前は確かに死んだはず……」

 

「……えぇ、死んだわよ」

 

 

 

――あなたのせいで、可能性の私が一人死んだわ

 

 

 

「可能性……?」

 

 

 

 

 

――消失・Time Track社――

 

 

 

 

 

 

 

 

――殻の死亡

 

――軌跡の消失

 

 

本来歩むはずであった、歩んだであろう可能性を失った陸八魔アル。一度失ったものは元には戻らず、その道を辿る事は二度と無い。

 

死の直前に宿していたTime Track社の殻を失った陸八魔アルは、T社で働いて得た経験と知識、思い出の全てを失い、確かに死亡した。

 

 

 

――記憶の喪失

 

 

 

金輪際、T社で得た経験を再現することも、殻を付け替えることもできないが――

 

 

 

 

――裏を返せばそれは、辿ってきた殻の数だけで命があるということだ

 

 

 

 

「後は、あなただけよ……」

 

「……なるほどな。確かに、要注意リストに入るだけのことはある」

 

「……」

 

「――だが、そんな満身創痍の状態で、私に勝てると思うな!」

 

 

 

 

 

(バチバチバチバチバチッ)

 

 

刀に充電していた電力を流し、帯電させる。相手が朱色の雷である以上、電気を用いた攻撃は相手に充電させてしまう恐れがあるものの、

 

 

 

――そんな問題は、一撃で殺せば関係ない

 

 

 

「――終わりだ! 朱色の雷ッ!」

 

 

 

左手下段に刀を構え、右手に起爆装置を構えたニコライ。右手に構えられたのが先程使われた爆弾ではなく、その爆弾の起爆装置だけであることに気づいたアルは、

 

急いで辺りを見渡し、目を見開いた

 

 

 

「動けば即座に起爆するぞ、朱色の雷!」

 

「――ッ!」

 

 

 

斬り掛かってくるニコライの後方。

 

先程攻撃され、斬り伏せられていたムツキの身体に仕掛けられたヘイローを破壊する爆弾

 

 

動かなければまた殺され、動けばムツキが爆破される。

 

 

 

――最悪の戦況

 

 

 

 

 

 

……だが、その戦況は1発の銃弾によって引っ繰り返ることとなった。

 

 

 

(ダンッ)

 

 

 

 

――戦場から2km離れた地点。

誰にも気づかれることなくその場に残った、最後の便利屋68のメンバー。

 

戦場の惨劇に動揺することなく、ただ一発の弾丸を撃ち込む瞬間だけを待望し、神秘を弾丸に流し込み続けた彼女。

 

 

 

 

――鬼方カヨコによって撃ち込まれた狙撃銃の弾丸が、起爆装置を握りこんだニコライの右腕を撃ち飛ばす

 

 

 

 

「馬鹿な、一体誰が……ッ」

 

「――ッ! これでッ! 終わりよ!」

 

 

 

右腕が無くなった瞬間を見逃さず、

 

即座に預かっていた拳銃(デモンズロア)にありったけの神秘を流し込み、ニコライの脳天へと銃口を突きつけ、

 

 

 

 

――引き金を引いた

 

 

 

 

(バンッ)

 

 

 

 

 

 

 





チャールズ事務所の経験に関しましては、あくまで自己解釈になることをご了承くださいませ。





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