黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~覚悟~ 手の届かない者

 

ローランの体感で数時間。現実においては数分だろうか。

 

武器を捨て、その場に跪き、頭を押さえながら虚空へと話しかけるローラン。プルートの目論見通り、このまま行けばローランはねじれる……筈だった。

 

 

 

「おかしい……。……なぜ、ねじれない」

 

「キャハハッ! 何か手順でも間違えたんかえ!?」

 

「そんな筈は。……条件は全て正しい筈。…………いや、違う。……これは、まさか……」

 

「ハハッ! お前さんが動揺するとはねぇ!」

 

「…………既に、殻が存在しない? ……っ……そういう……こと、ですか……」

 

 

 

 

――最初から、ねじれていたのか! ローラン!

 

 

 

 

姿が変わることなく、意識だけが元に戻る。覚醒すると同時に手袋から蒼白の書を取り出し、ページを2枚破りとる。

 

光り輝くページはローランを包み込み、その姿を変質させた。

 

 

 

 

 

 

――多重同化――

 

――霜の欠片(雪の女王) + 4本目のマッチの火(燃え尽きた少女)――

 

 

 

 

 

 

「……いいや。……カルメンも言っていたが、ねじれた訳じゃない」

 

 

 

右手に燃え盛るマッチ棒を握り、左手で氷の大剣を構える。性質の異なる2対の幻想体。その力を最大限かつ、同時に引き出したローランは、視線を先生へと向けたが……

 

 

 

 

 

――視線の先に先生の姿は無かった

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、ローラン。先生ならゲヘナの風紀委員長が回収したのでご安心下さい」

 

 

 

背後から放たれた純白の極光

 

常識外の熱量を持った光線が周囲にいたユスティナ聖徒会を焼き払い、ネズミチームを消し飛ばす。

 

都市に居た頃、何度かその極光を目にしていたローランは、咄嗟に躱したプルートとグレタを見逃さず、マッチ棒を振り抜き猛火を放った。

 

 

 

「遅くなり申し訳ありません」

 

「……いや、助かったよ。白の便利屋」

 

 

 

遺跡の遺物から極光を放ち、周囲一帯へ白い霧を散布する。触れた者の精神を蝕み狂気を招く白き霧が戦場を支配し、付近に居る者たちを狂わせる。

 

 

 

「白の便利屋……。貴方がローランの味方をするとは」

 

「キャハハッ! 自分から料理されに来るなんてね!」

 

 

 

遺物を振り回し、グレタと打ち合う白の便利屋。彼女の援護のおかげでプルートとの一騎打ちへと持ち込めたローランは、両手に構えたそれぞれのE.G.Oを振りかざし、プルートへと斬りかかる。

 

氷の大剣を振り下ろし、燃え盛るマッチ棒を振り抜き、着実にプルートを追い詰めていく。

 

身を焦がす灼熱と、体を凍てつかせる氷結。

 

対極にある二つの属性を交互に使い分け、休む間も与えず襲い掛かる。白の便利屋が放った白い霧を利用したローランは、周囲の空気を冷やしたのち、マッチの火によって瞬時に蒸発させ、

 

 

 

 

――光の屈折によって自身の姿を搔き消す

 

 

 

 

「蜃気楼……。……これは少々、想定外ですね」

 

 

 

手袋の力によって周囲の音を極限にまで薄め、蜃気楼によって姿を隠し、周囲に残ったネズミとユスティナ聖徒会を1匹残らず殲滅する。

 

 

 

――薔薇は咲き誇り、雪の宮殿は崩れた

 

 

 

詠唱

 

幻想体のE.G.Oが持つ本来の力、特異能力を用いるための一節。発言が鍵となり、封じ込められた本質の一端を顕現させる。

 

 

 

――そこに眠っている彼女を、覚えている者は誰もいなかった

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「代理人……」

 

 

 

極光と猛火

 

薙ぎ払われたユスティナ聖徒会。たった一人で聖徒会を抑え込み、最適な対処法を取り続けていたAチームの隊長。そんな彼女のもとに駆け寄る生徒が……、

 

 

 

「……! 隊長! ご無事ですか!?」

 

「副隊長……なんで、ここに……、持ち場を離れるのは……」

 

「サクラコ様からの指示です。シスターフッド各員、地下管理室のE.G.Oの使用を許可するとのことです」

 

「E.G.O…………。――はっ」

 

「隊長……?」

 

「――それを待っていた! 急ぐっすよ、副隊長! 代理人とシロさんが抑えてくれている間に、準備を済ませるっす!」

 

「……えぇ、急ぎましょう。……代理人! すぐに戻りますので、この場をお願いします!」

 

 

 

月光刀を納刀し、全速力でこの場を去っていく二人。

 

第2幻想体管理室。シスターフッドが管理する、L社の後継施設内に保管された、幻想体達のE.G.O。シスターフッドの長であるサクラコの許可がなければ使うことが許されない兵装。

 

普段のトリニティの夜であれば過剰戦力と言っても過言ではない決戦兵器。

 

殺しても湧き続けるユスティナ聖徒会やネズミを相手にするには、確かにE.G.Oでもなければ話にならないだろう。

 

 

 

 

 

 

「……さて、あの子達が戻ってくるまで耐えられればいいのですが」

 

「殺し尽くせば時間が作れるとはいえ、数分おきに復活されるとキリがないな」

 

「ただでさえ残響楽団の相手で手一杯だというのに、翼まで絡んでいるとは……」

 

 

 

飛んでくる魔法を相殺し、襲い掛かるユスティナ聖徒会のE.G.Oを焼き払い、ネズミを凍らせる。背中合わせになりながら、周囲の敵を殲滅していくローランと白の便利屋。

 

 

 

「優先するのは残響楽団だ。今ここで殺しきる」

 

「……そうしたいところですが、些か妨害が多いですね」

 

 

 

100を超えるだろうか? 数えるのも嫌になるほどのユスティナ聖徒会にヘイローを持たないネズミチーム。周囲を見渡す限りではアリウススクワッドの姿は見当たらないが……、

 

戦は数とは良く言ったものだろう。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

――大聖堂地下

 

 

元L社支部、現幻想体第2管理室。連邦生徒会長が自身の特異点と引き換えに買い取ったL社支部本部。現在でも幻想体を管理しており、抽出したエネルギーをエリュシオンの財源として扱っている。

 

無論、その過程で抽出したE.G.Oも管理されており、エリュシオンの許可が下りた時のみ使用を許可されていた。

 

 

 

「各員の準備は?」

 

「既に済み、持ち場へと向かっております。後は隊長、あなただけです」

 

「なるほど。んじゃ、私たちもすぐに準備するっすかね」

 

 

 

L社から引き継いだ管理マニュアルをもとに、幻想体の危険度を基準にクラス分けを行い、シスターフッドのメンバーそれぞれの総合能力から管理する幻想体を割り当てる。

 

クラスが上がることに危険度も上がり、治ることのない傷や重度の精神疾患を負うこともあるが、その分生成できるエネルギーは低クラスよりも多く、

 

 

 

――抽出できるE.G.Oもまた、強力なものとなっていた

 

 

 

「待ってください。どこに行くつもりですか、隊長」

 

「何処って、E.G.Oを取りに行くだけっすよ?」

 

「……道を忘れたのですか? そちらはクラス5の管理室ですよ」

 

「――勿論、分かってる」

 

 

 

そう言いつつ、クラス5の……第2幻想体管理室において、最高クラスの危険度を持つE.G.Oの保管所へと足を進める隊長。

 

 

 

「……隊長! 規則をお忘れですか? クラス4以上のE.G.Oの使用には、エリュシオンの許可が必要だと……」

 

「まぁ、普段であればそうだろうな」

 

「普段であればって……」

 

「今回は緊急事態なんだ。私の独断で、使うE.G.Oを選ばせてもらう」

 

「それは……」

 

「それに、副隊長。何か勘違いしてるみたいっすけど」

 

 

 

――私が使うのは、クラス1のE.G.Oっすよ

 

 

 

「……はい? クラス1のE.G.O……」

 

「そうっすよ。……まぁ、正確には幻想体っすけど。クラス5の保管所に置かれているだけで、私が使うつもりなのはクラス1っす」

 

 

 

通常、幻想体はL社が残したマニュアルを元にクラス分けが行われ、抽出されたE.G.Oもクラスごとに保管される。……だけど、一部の幻想体……一部のE.G.Oに関しては、エリュシオンの指示の元最適なクラスへと再配置される。

 

使用者に負荷を与えたり、特定の条件を満たした場合使用者を死亡させたりと、被害に対して責任を負うことが不可能な代物は、その頻度と条件の緩さを基準に既存クラスから数段階上のクラスへと割り振られ保管されることとなっており、

 

 

 

……もしも、隊長の言っていることが本当だとしたら、

 

 

 

「クラス5保管室にある、クラス1の幻想体……?」

 

「……」

 

「――ッ! 待ってください隊長! あなたが使おうとしてるE.G.Oはまさか……」

 

「……副隊長」

 

「ダメです! 絶対に……っ! マニュアルを読んでない訳じゃないですよね!? あんなのものを使っては……」

 

「勿論、読んでるっすよ」

 

 

 

一向に足を止める気配のない隊長に痺れを切らしたのか、慌てて腕を掴む副隊長だったが……

 

 

 

「隊長、あなた…………震えて……っ」

 

「……ははっ、武者震いっすよ」

 

「……そんなわけ、ないじゃないですか。分かってるんですよね!? あの幻想体を使った人がどうなるのか! エンサイクロペディアにも……」

 

「――分かってるっすよ、副隊長」

 

「でしたら、どうして…………」

 

「現状を打開できるのは、あの幻想体だけなんすよ。圧倒的な威力と手数を用意でき、無数に湧くユスティナ聖徒会を殺しつくせる幻想体は」

 

 

 

――黄昏だけなんすよ

 

 

 

「過去の遺恨はここで消し去るっす。私たちシスターフッドが受け継いでしまった呪いは……先代の過ちは」

 

 

 

私が今日、終わらせる

 

 

 

「副隊長……」

 

「いや、です……」

 

「最後に、頼みたいことがあるんだ」

 

「聞きたくないです……。最後なんて、言わないでください……」

 

「……」

 

「あんなものを使わなくても、現状を打開できるかもしれないじゃないですか。代理人やシャーレの先生だって居ることですし……」

 

「……先生は、撃たれたっす」

 

「……は、い?」

 

「私と代理人の目の前で、敵に撃ち抜かれたっす。……私たちだけじゃ、先生を守り切れなかったんすよ」

 

「隊長……」

 

「だから私は――この戦いを終わらせる」

 

「……」

 

「副隊長……私からの、最後の頼みっす」

 

 

 

――シスターフッドAチームの隊長を、継いで欲しい

 

 

 

「私は多分、あいつらに声をかける時間もないだろうから」

 

「たい…ちょう……っ」

 

「――じゃあな、副隊長。引継ぎ資料は私の机の中にあるから……」

 

 

 

――Aチームのことは、任せたっす

 

 

 

掴まれた腕を振り払い、クラス5の保管室へと全速力で走りだす。次期隊長になるよう頼まれ、その場に残された副隊長は、

 

 

 

 

 

 

――彼女(隊長)の後を、追うことが出来なかった

 

 

 

 

 

 

 





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