黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~証明~ スワンプマンの思考実験

 

戦場に降り注ぐ大雨。硝煙の薫りに混ざる雨臭さが、彼女たちを包み込む。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「アズサ……」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

巡航ミサイルの爆撃によって、陥没した地面。幸い、火の手こそ大雨によって消化されたものの、付けられた傷跡が戦争の過酷さを物語っていた。

 

 

 

「よくも、よくも姫を……! 絶対に許さない……!」

 

「……私は、サオリを止めて見せる。……刺し違えてでも」

 

「お前にそんなことができるか!! 私たちが味わってきた怒りに、憎しみに、恨みに! 耐えられるとでも思うのか!!」

 

 

……

 

 

「……耐えて見せる。……サオリに言われて思い出したよ」

 

「何……?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

――孵化場で得た殺意を

 

 

 

 

 

 

「洗練させた狂気を。――生き残る。ただそれだけを考え、殺し、喰らい、血肉にしてきた狂気を思い出した」

 

「……」

 

「感情も、友達も、思い出も…………私には必要ない。――私は、ただ目の前の敵を殺すだけの機械だ」

 

 

 

 

(ダダダダダダダダダッ)

 

(ダダダダダダダダダッ)

 

 

 

 

銃弾の雨が合図となり、互いに獲物を標的へと向ける。放たれた銃弾を持ち前の身体能力で躱すサオリに対しアズサは、

 

 

 

「無駄」

 

「――ッ!」

 

 

 

(ダダダダダダダダダッ)

 

 

 

致命傷になり得る銃弾のみを撃ち落とし、その他傷となり得る銃弾は一切躱さず、サオリへと距離を詰める。

 

 

 

右肩、左腰、左腕。

 

 

 

ヘイローによる防御すらも捨て、自身の持ち得る神秘を全て銃弾へと込め、撃ち放つ。ヘイローの加護が無い以上、貫かれた肉体からは大量の血を流すことになるものの、

 

 

 

――その代償に見合うだけのアドバンテージを、この一瞬で入手していた。

 

 

 

 

 

「――ガッ、くそっ……」

 

 

「殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す」

 

 

 

(ダダダダダダダダダッ)

 

 

 

当然、サオリも自身の肉体へと神秘を流していたことだろう。

 

だがそれは、己の肉体を代償に捧げ、攻撃にのみ神秘を割り振ったアズサの銃弾を防ぎきれる程のモノではなく、撃ち込まれた銃弾によって大小多数の傷を付けられることとなった。

 

 

 

「リーダー、下がって!」

 

「――!?」

 

「……ミサキ」

 

「早く!」

 

 

 

銃弾に晒され、傷だけが増えていくサオリを見ていたミサキは、アズサとサオリの間に割り込むように入り込み、両手に構えた自動拳銃をアズサへと放つ。

 

普段使うことのないサブアームということもあってか、大したダメージにはなりえないものの、

 

 

 

 

――サオリが注射器を投与するだけの時間を稼ぐには、十分と言えるだろう

 

 

 

 

 

 

「――ッ、再生アンプル……」

 

 

 

 

 

 

「……助かった、ミサキ」

 

「……リーダー、油断したでしょ。忘れたの? 1番早く孵化を終わらせたのが誰か」

 

「……」

 

「悔しいけど、個としての生存能力はアイツの方が上だよ。……まぁ、だからと言って私達より強いって訳じゃないけど。……それじゃあ、さっさと終わらせようか」

 

「……そうだな。――今度こそ終わりだ、アズサ」

 

 

サブアームである二丁拳銃を構えたミサキに、アサルトライフルを構えたサオリ。

 

 

そして、

 

 

 

「お、お待たせしましたぁ……」

 

「(スッ……)」

 

 

 

大型の狙撃銃を構え、銃剣を振り回すヒヨリとアサルトライフルを構えるアツコ。

 

 

 

「……アリウス、スクワッド……総員」

 

 

 

――戦闘開始

 

 

 

★★★★★

 

 

 

――灰になる君の元へ、共に向かおう

 

 

 

燃え盛る赤い炎が支配し、凍てつく冷気が吹雪く戦場。大剣のようなサイズのマッチ棒を振るうローランから放たれた炎の塊が白の便利屋を包み込む。

 

 

消えることのない炎が彼女の周囲を飛び交い、彼女と切り結んだグレタの体を焼いていく。

 

 

 

「便利ですね、これ」

 

「面倒なことをしてくれたねぇ! ローラン!」

 

 

 

遺物で肉切り包丁を弾き、ローランが付与した火種によってグレタを焼き焦がす。遠距離からのレーザーを主武装とする彼女にとって、接近戦の手札が増えるというのは、言葉にはしないものの……その実、かなりのアドバンテージとなっていた。

 

 

 

「これは少々…………ふむ。……ここは一度、撤退させてもらいましょうか」

 

「――逃げられると、思ってるのか?」

 

「えぇ、勿論」

 

 

 

(パチンッ)

 

 

 

――フィンガースナップ

 

 

 

プルートが指を鳴らすしてから数秒。咄嗟に距離を取ったプルートを逃がすまいと動こうとしたローランだったが、

 

 

 

――入れ替わるように空から降ってきた3体の怪物が、それを許さない

 

 

 

「……っ、なんだ……コイツは。何処から降ってきやがった」

 

「ローラン! 一度体勢を整えてください!」

 

 

 

連続して振るわれる両剣を躱し、氷の大剣で弾き、白の便利屋が居る方へと距離を取る。

 

 

 

「グレタ、撤収しますよ」

 

「キャハハハ! そうさね、ここは赤子に任せるとするかえ!」

 

 

 

ヘイローを持つ4本腕の化け物3匹をを壁にし、戦場から撤退していく残響楽団。燃え盛る大地をものともせず踏みしめる怪物。凍てつく氷の結晶を叩き折り、一歩一歩着実に距離を詰める怪物達は、

 

 

 

――まるで何かを……誰かを探しているかのように辺りを切刻む

 

 

 

無差別に、無尽蔵に……二人のことなど視界に入っていないかのように両剣を振るい、建物の残骸や地面を斬り飛ばす。

 

 

 

「敵対……は、してないみたいだな」

 

「そのよう……ですね。……っ」

 

「手酷くやられたな。傷は大丈夫か?」

 

「え、えぇ、大丈夫です。この程度、L社での戦闘に比べたら掠り傷です」

 

「比較対象が悪い気がするが……動けるなら手伝ってもらうぞ」

 

「無論です。こんな化け物を野放しにはしておけませんから」

 

 

 

お互いに武器を構え、目の前に迫る怪物へと攻撃しようと一歩踏み出した瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

――虚空から現れた無数の白い人型が、3匹の怪物を叩き潰した

 

 

 

 

 

 

「あなたは……」

 

「お前は…………隊長か?」

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「……っ」

 

 

 

飛び交う銃弾。降り注ぐ血液。4対1という絶望的な状況に対応するべく、防御へと神秘を回したアズサだったが、

 

 

 

「諦めろ、アズサ」

 

 

 

消耗を避けることはできず、肉体よりも先に、

 

 

 

(カチッ)

 

 

 

――銃弾が切れた

 

 

 

「結局無駄だったな。アズサ」

 

 

 

(ダンッ)

 

 

 

放たれた銃弾がアズサの右腕を貫く。長時間に及ぶ連続戦闘で神秘も枯渇したアズサには銃弾を弾く術がなく……貫かれた衝撃と痛みによって愛銃を取りこぼした。

 

 

 

 

 

 

――かのように、思われた

 

 

 

 

 

 

「――アズサちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

「……」

 

「ヒフ、ミ……?」

 

 

 

取りこぼし掛けた銃を支え、アズサを守るかのように立ちふさがった少女。彼女にとって、初めてできた友人である補習授業部臨時部長、阿慈谷ヒフミが立っていた。

 

 

 

「増員、ですね……数は4、いえ、後ろにそれ以上……」

 

「……どういうこと? ネズミたちとユスティナは?」

 

「(……! ……ススッ)」

 

「……噓でしょ。全員殺されたって……何匹用意したと思ってるの」

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、お前は?」

 

 

 

 

 

 

「私は……普通の、トリニティの生徒です」

 

「ヒフミ、ダメだ……どうしてこんなところに……。ここはヒフミみたいな、普通の人が来るべきところじゃ……」

 

「……」

 

「……」

 

「……はい、確かに私は普通で平凡です。今のその姿が……沢山の装備を身に着けた姿が、本当のアズサちゃんなのだと。……そのことも理解しました」

 

 

 

――本来であれば交わすはずのなかった光と闇。だがもしも、その光の一部に闇が紛れていたとしたら……。

 

 

 

「そんなアズサちゃんは本当なら、私なんかには手の届かない世界に生きてるのだと……そう言いたいのも分かりました」

 

 

 

――人には当然裏表がある。例えそれが平凡で普通な一般人だとしても……。

 

 

 

「ヒフミ……?」

 

「でも!!」

 

「……!」

 

「アズサちゃんは一つ、大きな間違いをしています!!!」

 

「ま、間違い……?」

 

「今ここで、私の本当の姿をお見せします!!! 私の正体、それは……!」

 

 

 

一時期、トリニティでもニュースになった大事件。ブラックマーケットの巨大銀行が強盗に襲撃されたと。金庫を空にされ、倒産を余儀なくされたと。

 

 

 

――そんな悪行を成した強盗団の名前は、確か……

 

 

 

「覆面水着団のリーダー、ファウストです!!」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

純然と輝く紙袋。ここまで戦場を駆け抜けてきたというのに、傷一つ付いておらず……それどころか強者の風格すら感じられそうな紙袋。

 

 

 

「見てください、この恐ろしさ! アズサちゃんと並んだって、全然見劣りしないほど不気味でしょう! こっちの方が恐ろしくて怖いと言う人だっているはずです!」

 

「ひ、ヒフミ……?」

 

 

 

「……」

 

「……覆面水着団?」

 

「……!?」

 

「(スッ……)」

 

 

 

「ヒフミ、いったい何を――」

 

「だからっ!!」

 

「……」

 

「だから私たちは、違う世界にいるなんてことはありません!」

 

「……」

 

「同じです! 隣にだっていられます!」

 

「でも、私は……人間じゃ――」

 

「人間じゃないからなんですか!」

 

「……!」

 

「私が、一緒に思い出を作ったのは」

 

 

 

――ここに居る、アズサちゃんじゃないですか!!

 

 

 

「それは……」

 

 

「クローンだから? 人間じゃないから? そんなの! 私には関係ありません!! アズサちゃんは、アズサちゃんです! 私の大好きな友達の、白州アズサちゃんはあなたです!!」

 

 

 

スワンプマンの思考実験

 

オリジナルの記憶を持ち、経験を積んだクローンは、果たしてオリジナルより劣っていると言えるだろうか? どちらが本当のオリジナルと言えるだろうか?

 

 

オリジナルの存在証明

 

 

そんなものは、誰にも出来る筈が無い。結局の所、白洲アズサが白洲アズサであることを証明するのは、他者からの認識に他ならないのだから。

 

 

 

――数式が崩れることは、決してない

 

 

 

「だから世界が違うだなんて、一緒にいられないだなんて……お別れだなんて言わないでください! 拒絶されても、すぐ近くに行って見せます! 私は……!」

 

「……」

 

「私は、アズサちゃんのそばにいます! こうやって、すぐ触れられるところに……!」

 

「ヒフミ……。…………もう、いいんだ。私のために、そんな噓を言ってくれたところで……」

 

 

 

 

 

「誰が嘘だって!?」

 

 

 

 

 

 

この場所に来るまで、数え切れないほどの障害があったことだろう。無限に湧き続けるユスティナ聖徒会。増やされ続けたネズミチーム。

 

その全てを殺すことなんて、果たして補習授業部だけで出来ただろうか?

 

 

 

――否、それを成すにはそれ相応の戦力が必要だ

 

 

 

 

 

 

「いや~、なんだか大事なところみたいだね?」

 

 

 

 

 

 

「あの覆面、まさか……!?」

 

「……!?」

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……」

 

「ん、それが私たちのモットー」

 

 

 

覆面を被った5人の生徒と――1人の幽霊

 

 

 

「えぇ!? そんなモットーあったなら教えてよ~」

 

「うへ~、ごめんね~ユメ先輩」

 

「普段はアイドルとして活動してますが、夜になると悪人を倒す副業をしてるグループなんです」

 

「別にそれ私たちのモットーじゃないから!? ……ていうか、ホシノ先輩のそれって喋れたの!?」

 

「あれ? 知らなかったんですか?」

 

「あれ~、ホシノちゃん、言ってなかったの?」

 

「そういえば、ノノミちゃんにしか言ってなかったね~。ずっと一緒にいたら、夢の中でアイツと会うことになってね。それから少しだけだけど話せるようになったんだ~」

 

「アイツ……って、誰? 夢の中で話したってどういうこと?」

 

「ど、どういう原理で話しているのでしょうか……? ……って、そうじゃなくてですね!」

 

 

 

 

 

 

――覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

「え、えっ!?」

 

「じ、実在したんですね……?」

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらは……」

 

「……分からない。詳細なデータは無し」

 

「ふ、覆面水着団……噂に過ぎないと思ってましたが、本当にいたんですねぇ……」

 

「(ススッ……)」

 

「……リーダー。姫から忠告。あの真ん中にいる小さいの、姫と同じだって」

 

「何……?」

 

「ひ、姫ちゃんとですか? ということは、あの人も不思議な力を……」

 

「ユスティナが全滅したことも考えると、かなり危険かも。舐めてかかれる相手じゃない」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「なーにうちのリーダーを泣かせようとしてるのかな~? ねぇ、そこの君たち?」

 

「……ホシノちゃん。あのガスマスクの子、E.G.Oを発現してるかも」

 

「え……? ホントですか、ユメ先輩」

 

「……た、多分! おそらく、きっと!」

 

「……うへ~、だとしたら、あの子には注意しとかないとね」

 

「E.G.O? それって、ユメ先輩と同じってこと?」

 

「大丈夫です! 何せ私たちにはファウストちゃんがいますから!」

 

「ん、問題ない」

 

「そ、そんなに期待されても困るのですが……! ……と言いますか、E.G.Oってもしかして代理人の……」

 

「ファウストちゃんは強いんですからね~?」

 

「ん、ブラックマーケットの銀行だって襲える。朝飯前みたいに」

 

「そ、そうよ! ブラックマーケットを支配するボスみたいなものなんだから!」

 

「え? あ、あの、皆さん……?」

 

 

 

「ファウスト!!」「ファウスト!!」「ファウスト!!」

 

 

 

★★★★★

 

 

 

辺りに散らばる肉片。身の丈以上の巨大な金槌で怪物を叩き潰した白い人型は、倒れ伏した怪物が挽肉になるまで何度も何度も何度も叩き付け、確実に息の根を止める。

 

目標が息絶えたのを確認すると、次の獲物を見つけたと言わんばかりに周囲へと襲い掛かり、ユスティナ聖徒会やネズミチームを叩き潰していく。

 

 

 

「シスターフッドのE.G.Oか? ……何にせよ、助かったよ」

 

「そう、ですね。ありがとうございます、隊長さ――」

 

 

 

話しかけた二人の目の前で、砂となって掻き消える白い人型。間違いなくAチームの隊長の姿であった白い人型は、周囲の敵が死んだのを確認した直後、砂へと変わり霧散する。

 

 

 

「相当強力なE.G.Oみたいだな」

 

「自己分身に近接戦闘能力の向上、それにあの巨大な金槌……。あんな切札を隠し持っていたんですね」

 

「……移動するぞ。ここは隊長に任せて、俺たちは他の奴らを殺しに行く」

 

「残響楽団は良いのですか?」

 

「いや、良くはないが……気配も完全に消された以上追いようがないからな。……取り合えず、今はこの状況の打開が最優先だ」

 

「……本当に、変わりましたね……ローラン」

 

「……行くぞ」

 

 

 

無数の白い人型が殲滅する戦場を走り抜け、ローランと白の便利屋は聞き馴染みのある声がする方へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 







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