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シッテムの箱にアマノが合流してから数日。
シスターフッドの業務であった幻想体管理作業から解放されたアマノは、アロナの演算処理やシャーレの業務を手伝いつつ、空き時間に趣味であるデッサンへと励んでいた。
「上手いな……」
「はははっ……お世辞でも嬉しいっすよ」
"いやこれ……お世辞ってレベルじゃないと思うんだけど"
1種の芸術と言っても過言ではないだろう。素人目である2人からしても、アマノの描いた絵は美術館で展示されてもおかしくないと思える程、美しく繊細に描かれていた。
「俺も絵に詳しい訳じゃないから言葉にはしにくいが、都市で見た薬指の作品と同じぐらい綺麗だと思うぞ」
"薬指……?"
「あー、ワイルドハントのっすか! いやぁ、そこまで言っていただけるとは……」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、照れるように頬をかくアマノだったが……
「――ちょっと待て。今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが……」
「はい?」
「ワイルドハントが薬指ってのはどういう事だ?」
"……代理人。薬指ってもしかして、前に言ってた5本指の……"
「……あぁ。5本指の1つだ」
「と言っても、元っすけどね。ワイルドハント芸術学院担当からの救援要請で、私たち含め数人のメンバーで強襲したっすから」
一年前に行われた大規模強襲作戦。ワイルドハント自治区担当から告げられた救援要請。
「あの学院に現れた薬指は一人残らず殺したっす。その時の働きもあって、私はAチームのリーダーやってたっすからね」
「……いくら5本指とはいえ、E.G.Oには対応できなかったか」
「そう……っすね? 実際、死傷者は一人も出ませんでしたし、幻想体の相手をするよりは楽でしたね」
"もしかして、E.G.Oって都市でも珍しいの?"
「かなり珍しいぞ。技術としてみるなら、L社の特異点のようなものだからな」
E.G.Oが一般に普及したら、それこそ都市の工房はもれなく廃業に追い込まれるだろうな……。
「っと、そうだ忘れてた」
「どうかしたんすか?」
「あー、いや……先生。数日程出掛けてくるから、暫くはシャーレの仕事を手伝えないと思う」
"あ、うん。何か用事でもあったの?"
「用事というわけではないんだが……残響楽団がいた以上、出来るだけの対策は練っておきたくてな」
"対策?"
「取り合えず、頼れる伝を辿ってみるつもりだ。今ある手札は殆ど知られてるからな」
"……そっか。……代理人も気を付けてね?"
「あぁ。……アマノ。先生に何かあったらすぐに連絡してくれ」
「了解っす! 心配しなくとも、私も全力で守り抜くんで大丈夫っすよ!」
"頼りにしてるよ、アマノちゃん"
「任せてくださいっす!」
「せ、先生ーーー! 私はーーー!?」
"も、もちろんアロナちゃんも頼りにしてるよ"
★★★★★
そうして数日間、シャーレから離れたローラン。彼を見送った2人は、補習授業部に付きっきりだった為に、山のように積み上がった書類の束を見上げ……
"……ごめんね、アマノちゃん"
「大丈夫っす! こう見えて、書類整理は得意ですので」
書類を片付け、モモトークを確認し、クロノスのニュースを見て……
(ピピッ)
"あれ……?"
「先生? 何かありましたか?」
"あ、うん。モモトークにメッセージが来たんだけど……"
差出人不明のアドレスから送られてきた一通のメール。時間と座標のみが記された本文。いたずらか怪しいメールにしか見えないのだが、
"……よし。ちょっと出掛けてくるね"
「はい……? いや、え……?」
"すぐ戻るから!"
「いやいやいや! 私も一緒に行くっすよ!」
先生から告げられた突然の内容に驚いたアマノは、直ぐにシッテムの箱へと帰還し……
「あ、危なっかしいと言うか……代理人も居ないのに……」
「うぅ……アマノちゃん。分かってくれますか……」
「アロナ先輩……今までよく守れましたね」
「先生はもう少しこう、自分の安全に気を配って欲しいです……」
……
「「はぁ……」」
アロナと一緒に溜息をつくのであった。
――寂れた街
廃墟と見間違うほど寂れており、人の気配が全く感じられない街。
景色が変わっていくにつれ、薄々と悪戯な気がしてきた先生だったが、もしも本当に自分が必要だったらと考え指定された座標へと足を進めた。
「……まさか、本当に来るとはな」
"……! 君は、アリウススクワッドの……"
「錠前サオリだ」
……撃たれた腹部が熱い。再生アンプルのおかげで傷は治ったものの、銃弾に込められていた神秘の影響か、想定通りの効果を発揮できず……
――今尚、付けられた傷跡が熱く痛む
実際に痛みが発生している訳では無いが、過去の記憶が痛みを思い出させてくる。
"サオリちゃん……ね"
表に出さない。
痛みを悟らせはしない。
……私だって人間だもの。恨みが全くないと言えば嘘になる。……嘘になるけど、目の前にいる彼女も被害者なんだ。
――悪い大人に利用されただけの、子供なんだ
"……それで? 私をこんな所に呼び出して……どうしたの?"
笑顔を浮かべるんだ。……怖がるな。私にはアロナちゃんが居て、アマノちゃんも居る。2人が守ってくれるんだ。
――だったらせめて、笑顔で迎え入れなければ……先生失格だろう。
「――っ、私は……」
(カチャ)
銃を地面へと置き、跪くサオリ。雨に打たれ濡れた地面がサオリの体温を奪っていく……。
"……"
だと言うのに、彼女は一向に頭を上げようとしない。
「先生……。アツコが……連れて行かれた。他の仲間も翼の襲撃に遭って、散り散りに……生死も不明だ」
"翼……"
「あれから何日も……逃げてきたが……私では彼女を止められなかった。このままでは……アツコは……姫は、死んでしまう」
"……"
「明日の朝……夜明けと共に彼女に殺されてしまう。私の話など、信じられないだろうが……これだけは、真実だ……」
……
"……続けて。どれだけ荒唐無稽な話でも、私は信じるから"
「先生……」
……アツコは、元よりそのように育てられた存在なんだ。幼い頃から血を絶やさぬようにと……将来的に生贄にされる運命にあったのだと……。
「姫の運命を変えたいなら、彼女の命令に従えと……。そうすれば、姫だけでなく……他の仲間も助けてやると」
――彼女は、そう言っていたんだ
エデン条約を強奪し、ユスティナ聖徒会の力をアリウスのものとし……トリニティとゲヘナを手中に収めたら――アツコが生贄にならずに済む、と……。
ヒヨリやミサキが自分を殺すことも、アツコが懐胎させられることもなくなると……。
だが――
「私は失敗した……。アリウススクワッドは……任務を遂行できなかった」
"……"
「エデン条約の強奪に失敗した上、翼の戦力を喪失し、トリニティとゲヘナ自治区の征服も、仲間を助けることも、アツコを守ることさえも――」
――全て……私の力が及ばず、叶わなかった
「今の私は落伍者だ。トリニティにも、ゲヘナにも――翼やアリウスにだって助けを求めることなどできない」
"……"
「だから、頼れるのはもう、先生しか居ないんだ……」
"……"
「頼む……。……私の命を懸けて約束する、どんな指示だろうと従う。ヘイローを破壊する爆弾、これも、預ける。私の命を握ってもらって構わない。私を信用できないと判断したら、それを使ってくれ」
――だから、頼む
「どうか……アツコを……私の仲間たちを、助けてくれ……」
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