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一色アマノからその情報が送られたのは、ローランがミレニアムを訪れている時だった。
戦力の増強。手札の補充。
想定外の事態があれば直ぐに連絡するようにと伝えていたローランは、連絡が来ないことを願っていたが……
「アリウススクワッドと協力して、アリウス自治区に向かっているだと?」
「そうなんすよ! ちょっと私ではどうにも出来ないと言いますか……あまり表に出ない方が良いんですよね?」
「……あぁ。……現状、お前の存在を知っているのは俺たちだけだからな。先生の身の安全の為にも、出来る限り隠匿したい」
「そうっすよね……」
「……悪いな、アマノ。少なくとも、この件が片付くまでは隠させてくれ」
「了解っす! ただ、アロナ先輩でも守りきれなさそうな時は、私も動くっすからね」
「……分かった。俺も用事が片付き次第すぐに向かうから、適宜座標を送ってくれ」
一色アマノはシッテムの箱の中で生きている
現状この情報を知っているのは先生とローランだけであり、それ故に貴重な戦力となるということは容易に予想出来た。
シスターフッドが保管するE.G.Oを抜いたとしても、小鳥遊ホシノと並び立てる程度の戦闘能力を保有する彼女は、非常時の保険としては最高級のものだった。
あの日、シャーレで彼女の存在を認識したローランは、余剰手札である彼女を隠匿するよう3人で話し合い……
――彼女の訃報を、キヴォトスへと流していた
「どうかしたのかい? 代理人」
「……いや、何でもない。それよりも、説明を続けてくれ」
「……? まぁ、君が気にしないと言うなら続けさせてもらうが……」
「説明しましょう! 我々エンジニア部の最高傑作であるこの2種類の勾玉は、装着者の精神汚染耐性を引き上げると共に、電子的汚染、つまりはハッキングに対する自動防衛装置となるのです! 肉体強度を向上させるこちらの勾玉と精神強度を向上させるこちらの勾玉。互いに干渉するという特性を利用し、2つ合わせて装着することで身体及び精神状態の改善を行うと共に能力の上昇を目的とし、カタログスペックでは装着者を基準とした数値の約3倍程まで身体能力を引き上げることが可能です! ヴェリタス監修の元、電子戦においても優位を保てるよう万全の防護が施されたこの2つは、ミレニアムの災厄である白兎を持ってしても解読する事は困難を極めており、C&Cに試用実験を頼んだ所、あのコールサインダブルオーをも唸らせた程の逸品です! つまり、野心作であったレールガンに続く、我々エンジニア部の血と汗と涙の結晶! 集大成と言っても過言では無いこの勾玉は、正式名称こそ議論中ですが性能はお墨付きです。試作段階では装着者への負荷やエネルギー問題がありましたが、改良に改良を重ねることでその問題を克服! Bluetooth機能による遠隔通信機能も搭載されていて、装着者の情報を収集し体温や心拍数のカウントも行えます! エネルギー問題に関しては、装着者の余剰運動エネルギーを対価とすることで擬似的なダイエットグッズとしての役割も果たし、最大で48時間の連続稼働を……」
……
「コトリ、ストップ。多分、そこまでの説明は求めてないと思う」
「おや、そうでしたか!」
「代理人。君達が直面している危機と言うのは、我々の最高傑作であるこの子達……虚ちゃんと実ちゃんを持って行く程の相手なのかい?」
「待って、ウタハ先輩。名称に関してはまだ議論中の筈」
「そうですよ! 私としては陰と陽がいいと思うのですが!」
「私の黒曜と白麗も忘れないで」
「いや、名前なんてなんでもいいんだが……」
……
「なんてことを言うんだい!?」
「なんでも良くない」
「でしたらここは、公平に代理人が決めてください!」
「は? ……俺が決めるのか?」
「はい! 普段であればジャンケンで決まるのですが!」
「そうだね。代理人に決めてもらおうか」
「ふむ、良いだろう。代理人、選んでくれたまえ」
「いや、急に言われてもだな……」
黒い勾玉と白い勾玉
オレンジ色の箒の様なものが付いた黒い勾玉と、ほのかに青い光を放ち、よく見ると魚のヒレの様なものが付いた白い勾玉。
「……まぁ、豊見の言ってた陰と陽で良いんじゃないか?」
「おぉ! いいセンスですね代理人!」
「負けた……」
「……ふむ。私の名前が使われないのは残念だが……あらためて、この勾玉はそれぞれ、陰 陽 と名付けようじゃないか」
★★★★★
先日のゲーム開発部との戦闘で聞いた、治癒能力が向上する腕輪を借りに来たローランは、エンジニア部が作りあげた他の作品達についても借りられないかと、話を持ちかけていた。
……持ちかけたのだが、その結果として完成したばかりの作品の命名をさせられることになったのだった。
「――エデン条約。お前らもクロノスのニュースぐらいは見てるだろ?」
「……もちろん、見ていたとも。先生が鬼籍に入りかけたと言うのは本当かい?」
「……今は何とか無事だけどな。今回の相手は些か相性が悪いと言うか……手の内を全部知られてる相手なんだ」
「なるほど。それで我々エンジニア部の力を借りたいと?」
「あぁ。お前らの作品、その性能に関してはゲーム開発部を襲撃した時に思い知らされたからな」
「フフッ……私たちのキュートちゃんはカワイイだろう?」
「いや、あの犬を借りるつもりは無いが……そのキュートちゃん? を回復させた腕輪には興味がある。
――あの時、少なくとも数日は動けない程叩き潰した筈だったんだがな」
「腕輪……エメラルドちゃんか。……悪いが、アレは渡せない。と言うより、あの腕輪は今我々の手元にないんだ」
「手元にない?」
「うん。特異現象捜査部に買い取られちゃったんだよね」
「あの腕輪はヒマリさんにお買い上げ頂きました!」
「私たちの作品は一般向けに販売しているからね。依頼主から代金と引き換えに作成することもあるけど」
「基本的には完成した作品の動作確認後、買購入希望者に販売してるの」
「私はてっきり、C&Cが買っていくと思ったのですが!」
エンジニア部の活動には大きく分けて2つの方法がある。
1つは、依頼主から報酬金を対価に作品作ること。
「君に止められたT社からの依頼が、正しくこの形だね」
決められた納期で、求められた仕様通りに制作する。材料費と作業費を計算し、利益に関して3人で話し合い問題が無ければ引き受ける。
これに対して2つ目は、依頼に関係なくオリジナルの作品をつくること。そして、完成した作品を試運転し、特に問題がなければエンジニア部のオンラインショップで販売する。
「見て。……これが私たちのショップ」
「……色々と売ってるみたいだな」
「販売サイトの使用料で、ヴェリタスに売上の3%を持っていかれるけどね」
「へぇ……。結構人気なのか?」
「勿論。それこそ、リオ会長やチーちゃん……この間はセミナーの二人が買ってくれたかな」
「……ここまで言えば、何が言いたいのか分かるよね?」
「期待してますよ! 代理人!」
勾玉を両手に持ち、ローランへと詰め寄る3人。
作品を自慢げに見せるウタハ。
電卓を構えるヒビキ。
目を輝かせながらローランを見つめるコトリ。
……
「おい、まさか……」
嫌な予感がしたローランは1歩下がるが、当然逃げ場など無く……
「「「シャーレは、この勾玉を幾らで買い取ってくれるかな?」」」
大人しく財布を取り出すのであった。
「ちなみに、貸与は行ってないよ」
「もしも作品に問題があれば、買ってから1ヶ月以内なら無料で修理するけどね」
「販売してから問題が起きた事なんて1度もありませんとも!」
「試運転の段階でボツになったのは幾らかあるけどね」
「仕方ないさ、開発に犠牲は付き物だとも」
「……はぁ。……まぁ、性能に嘘はないだろうし、大事に使わせてもらうよ」
「「「お買い上げありがとうございます!」」」
その後、幾つかの作品を購入したローランは、手袋から取り出し本のページを1枚破り取り……
――アマノから送られてきた座標へと、転移した。
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