黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~煉獄~ アリウスの子供達

 

 

アリウススクワッドと共にアリウス自治区へと進入した先生。行く手を阻むアリウス生徒を倒し、暴走してしまったミカを後回しにし……追っ手を振り切った彼女たちは辺りを見渡して、地面へと腰を下ろした。

 

 

 

"……ごめん、ミカちゃん"

 

「……っ」

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「リーダー……体温が……」

 

"……一旦休もうか。私も今のうちに、代理人に連絡を取っておくから"

 

「代理人……」

 

「先生。あの大人は……いや、なんでもない」

 

「お、襲われないといいのですが……」

 

 

 

アビドスを訪れて以来、常に持ち歩くようになった携帯食料と水を取りだした先生は、先程から動きが鈍く、明らかに万全の体調では無いサオリを休ませていた。

 

 

 

"大丈夫! みんなは敵じゃないって伝えるから"

 

「そう……か……」

 

「……リーダー?」

 

「……」

 

「ね、寝ちゃいましたね」

 

「リーダー、相当無理してたんだと思う」

 

 

……

 

 

「と、とりあえず、私達も休憩しますか?」

 

"そうだね。2人もここまで頑張って来たんだし、少し休もうか"

 

「……先生。……折角だから気になってた事について、暇潰しも兼ねて話してあげる」

 

 

 

――私達の……地獄のような毎日を

 

 

 

"……"

 

 

 

ミサキの口から語られた、アリウスでの日常。

 

まだ幼い頃、トリニティから追放された私達アリウスは、長い間戦の絶えない生活を送らされていたんだ。他者から奪い、傷つけ……今日を生き残る為に食糧を奪い合う。

 

そんな生活の中で、チームを組み、飢え死にしないよう効率的に動く団体があったんだ。

 

 

 

「――それが今の私たち。……サオリ姉さんについていった幸運児」

 

 

 

廃墟の1つを拠点とし、リーダーの指示の元、食糧や雨風を凌ぐ為の素材を集める。……そんな日々を繰り返してたある日、

 

 

 

「今の生徒会長……マダムと翼がやって来た」

 

 

 

暴力と恐怖による支配。反抗するものは翼の職員に殺され、従順なものは翼の被検体として拉致され、非合法な実験をさせられる。

 

私たち以外には、大人に反抗し最後まで戦った子や、この地獄から逃げ出さそうとアリウス自治区からの逃走を計った子もいた。……結局、1人残らず翼に殺されたけど。

 

そんな状況の中で、リーダーが私たちに告げたのは後者だった。

 

 

 

「……生き残る為に翼の奴隷になる」

 

 

 

それが最前の方法で、これ以上にない生存戦略だった。実験と言っても、殺されることはないだろう。例え悪い大人だとしても、従っていれば死ぬことは無いだろうと……。

 

 

 

「そう思っていたんだ。……最初の1週間目までは」

 

 

 

翼の管理する施設に連れて行かれた私達が受けたのは、遺伝情報及び基礎構造の採取だった。

 

特別な薬を飲まされて、涙液や唾液、血液や膣液……採取出来る体液全てを搾られて――

 

 

 

「――左半身を奪われた」

 

 

 

眼球をくり抜かれ、腕を千切られ、血の1滴から骨の1本、内蔵の一つ一つまで……最低限の生存に必要なモノ以外の全てを奪われた。

 

 

 

"……ぁ……ぉぇっ"

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

「……吐いていいよ、先生。……むしろ、それが正常な反応だよ」

 

"……っ、大丈夫。……ごめんね、先生……なのに"

 

「き、気にしないでください。先生が私達のことを思ってくれてるのは、分かりましたから……」

 

"……続きを聞かせて。君たちに、何があったのか知りたいの。……いや、知らなきゃいけないの"

 

「……分かった」

 

 

 

……次に目を覚ましたのは、孵化場の中だった。自分と同じ顔、同じ姿の人が何千人もいる牢獄の中で殺し合いをさせられた。

 

一種の生存競争って言えばいいのかな。水も食糧もない牢獄の中で、無数に居る自分のクローン。……目の前の自分自身を殺し、身体を捕食し血を啜って……

 

 

 

「そうして生き残った最後の一体。最強のクローンが、私達」

 

 

 

――アリウススクワッドだよ

 

 

 

神秘の複製

 

当時の私たちはよく分からなかったけど、私達が持つヘイロー、引いては神秘と言うモノがとても貴重で珍しかったみたい。私達が孵化を終えて、アリウス自治区に戻った時……

 

 

 

「人として生き残った子供は、一人もいなかったよ」

 

 

 

実験に成功したのは私達だけみたいで、他の子供達は全員ヘイローを失っていた。銃弾を受ければ傷が付き、当たり所が悪ければ死に至る。……子供達は当然、そんな事に気づいていないから、今まで通り奪い合いを続けて……

 

 

 

「アリウス自治区は血の海に染まったんだ」

 

 

 

死ぬ度に生み出されるクローン。……まともな孵化実験を受けられず、ヘイローも失ってるせいで銃弾に対する耐性もない。ただそれでも……数だけは用意出来たんだ。

 

私達みたいな孵化をする必要が無いから……

 

 

 

「そうして生まれたのが、翼専属の……R社の雑兵」

 

 

 

――アニマルチーム

 

 

 

「人としての尊厳を奪われた畜生。アリウス自治区に居た子供達の成れの果て」

 

 

 

それでもまだ、私たちは幸せだった。

 

 

 

――姫が受けた恥辱と陵辱に比べれば、断然マシだったんだ

 

 

 

 

 

 

"姫……?"

 

「あ、アツコちゃんのことです。えへへ……お姫様みたいに綺麗ですよね」

 

「見た目もそうだけど……アツコが姫と呼ばれる理由はそれだけじゃない」

 

 

 

アツコは、ロイヤルブラッド……つまりは、特別な血族らしい。特殊な生まれのアツコは、幼い頃から丁重に扱われて居たんだ。私達と一緒に行動してた時は、そんな事なかったけど……

 

 

 

――マダムがやって来てから、姫の地獄は始まったんだ。

 

 

 

翼ではなくマダムの元に連れて行かれたアツコは、その特別な血を絶やさない為に……子供を身篭らされた。大人達に犯され、特殊な技術で時間を加速させられて……アツコの意志とは関係なく産まされる。

 

産まれ落ちた子供がまともな生活を送れるわけもなく、時間を加速させられ……生贄になり得る年齢まで強制的に成長させられる。

 

そんな地獄のような生活を続けさせられて……

 

 

 

「アツコはもう……百や二百じゃ収まらないほど孕まされてるんだ」

 

 

 

私達はその光景を見させられた。……見ていることしか、出来なかったんだ。孵化作業中にその光景を見させられて……心が弱く動揺した自分から殺される。

 

……だから、今ここに居る私たちは……姫の惨状に見て見ぬふりをした薄情者なんだ。

 

 

 

「そうするしか無かった。そうしなければ……少しでも隙を見せたら、他の自分に殺されてた。……なんて、そんな言い訳で無視したんだ」

 

"……"

 

 

 

……問題なく産まれた子は生贄にされ、神秘や肉体に問題のある子は翼の被検体に提供される。……時には目の前で料理に変えられ、無理やり食べさせられたりもしたみたい。

 

そんな事をさせ続けられたせいで……

 

 

 

――姫の心は、壊れたんだ

 

 

 

 

 

 

「先生はさ、心が壊れた人がどうなるか……知ってる?」

 

"……もしかして、あの時のサオリちゃんみたいに――"

 

「そう。あの時のリーダーみたいに、心が完全に壊された人は……」

 

 

 

化物になるんだ。

 

 

 

"……そういえば、代理人が言ってた……声に導かれるとねじれになるって、もしかして……"

 

「……あの大人の方が詳しいみたいだね」

 

 

 

私も姫から聞いた話だから詳しくは知らないけど……、心が壊れて世界に絶望した人には、この世のものとは思えない美しい声が聞こえるらしいんだ。

 

 

 

「身も心も委ねたくなるような、魅惑的な声」

 

 

 

姫はその声が信じられなくて……そもそも、そんな声に従った所でこの地獄から抜け出せるとは思えなくて、美しい声を否定したんだって。

 

否定して……地獄を受け入れて……いつか救われる日が来ると自分自身を騙して、それだけが真実だと信じ込ませた結果……

 

 

 

「気がついたら、特別な力を手に入れてたって言ってた」

 

"E.G.O……"

 

「エゴ……?」

 

「……あの力に名前があるんだ。……そういえば、覆面水着団? の小さいのが、姫と同じ力に目覚めてるって言ってたっけ」

 

"そう……だね。ホシノちゃんもE.G.Oを発現してるよ"

 

「……ってことは、あの小さいのも心が壊れかけたんだ」

 

"……"

 

 

 

「……随分と、懐かしい話をしているな」

 

 

 

「! ……起きたの、リーダー」

 

「……あぁ。時間を取らせて悪かっ……た」

 

「――っ、……無理しないでよリーダー。震えてるじゃん」

 

「この程度……っ、問題ない。それよりも、姫を助けに行かないと……!」

 

「リーダー……そんな身体じゃ……再生アンプルももうないのに……」

 

 

 

震える身体を無理やり動かし、立ち上がるサオリ。気を抜けば倒れてしまいそうな……風が吹けば吹き飛ばされてしまいそうな程、余裕のないサオリだったが、それでも――

 

 

 

「時間が無いんだ……っ! すぐにでも姫を――」

 

 

 

助けに行かないと! ……そう言いかけたサオリだったが、目の前に突如として現れた黄金色の魔法陣が、彼女の行く手を遮った。

 

 

 

「――下がって、リーダー!」

 

「て、敵ですか!? いっ、一体どこから――」

 

「この模様は、あの時の……」

 

"――大丈夫だよ、みんな"

 

 

 

魔法陣が一際輝いた瞬間、黄金色の篭手を装着した大人が目の前に降り立った。

 

 

 

 

 

 

「話は聞かせてもらった。……遅くなって悪かったな、先生」

 

 

 

 





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