黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~転換~ Negotiation

 

魔法陣を潜り抜け、手にしていた携帯電話を手袋へとしまう。

 

 

「代理人……」

 

「……どこから聞いてたの」

 

「と、盗聴されてたのでしょうか……」

 

 

 

先生は大丈夫と言っていたが、一切警戒心を解くつもりのないミサキ。ネズミチームをたった2人でねじ伏せる殲滅力に、K社の赤子を一撃で殺した力。

 

予備のクローンもなく、再生アンプルもない現状で、万が一襲われでもすれば一溜りも無いだろう。

 

 

 

「最初からだな。シッテムの箱を通じて、お前らの過去については聞かせてもらった」

 

"代理人、この子達は……"

 

「分かってる。言いたいことは色々あるが、その様子を見るに敵対してる訳でもないらしいな」

 

"……この子達も、悪い大人に利用されただけの被害者だよ"

 

「……そうみたいだな。羽ならともかく、実験体として翼に利用された奴の末路なら、嫌という程知っている」

 

"じゃあ――"

 

 

 

「――だけど」

 

 

 

代理人もこの子達に協力して……という、先生の言葉は続かなかった。目の前で魔法陣へと飛び込んだローランに驚き、言葉を詰まらせた直後――

 

物凄い勢いで背後から引っ張られた。

 

 

 

"……!?"

 

「それはそれで、これはこれだ。……コイツらがやった事は消えないし、俺がコイツらに協力する理由もない」

 

 

 

(ヒュン)

 

 

 

E.G.Oを解除せず、魔法陣を出現させたローランは、一瞬の内に先生の背後へと移動し、その身柄をアリウススクワッドから遠ざける。

 

 

 

「俺はあくまで先生の護衛と残響楽団を殺しに来ただけだ。お前らの仲間がどうなろうと、知ったことか」

 

"代理人! そんな言い方は……"

 

「同情はしてやる。哀れだとも思ってやる。……だが、そんなのはよくある話だ。自分達だけが不幸だとでも思ってるのか? 生徒が一人死んでるのに? ……俺がコイツらに協力する理由は何一つ無い」

 

"……"

 

 

 

そう……現時点で、ローランがアリウススクワッドに協力する理由は、一つもない。アリウス自治区に居る翼は判明したし、残響楽団の存在も確認出来た。先生の身柄も確保出来た以上、一度シャーレへと転移し、先生の身柄を安全な場所に移す。

 

 

 

――それが、最善の判断だろう

 

 

 

「……理由なら、ある」

 

「ミサキ……?」

 

「ミサキさん……?」

 

 

 

E.G.Oを構えるローランに対し、1歩も引くことなく言い放つミサキ。誰が見ても明らかな実力差があるにも関わらず、怖じけることの無い様子は感嘆に値する。

 

 

 

「理由があるだと?」

 

「……やろうと思えばすぐにでも殺せたのに、私達がまだ生きているって事は――少なくとも、今はまだ殺すつもりはないんでしょ?」

 

「……死にたいのか?」

 

「別に……そう言う訳じゃない。……ねぇ、代理人だっけ?」

 

 

 

――私達と取引しない?

 

 

 

「……取引?」

 

「そう。取引」

 

「自分の立場が分かっていないのか?」

 

「……分かってる」

 

「だったら――」

 

"代理人"

 

「…………はぁ。……言ってみろ。先生の手前、話だけは聞いてやる」

 

 

 

★★★★★

 

 

 

目の前の大人……代理人は恐らく、先生に逆らえない。シャーレという立場の問題かは分からないけど、少なくとも先生の意見が優先されるみたいだ。

 

 

 

金銭――は論外だ。私達に支払えるものなんてない。

 

身体――戦闘要員としての価値は、恐らく無いに等しい。あのE.G.Oという力を幾つも使えるなら、私達なんて必要ない。……純粋な労働力や捌け口としてなら価値があるかもしれないけど……。

 

情報――――仕掛けるなら、これしかない。

 

 

 

「私達から出せるのは、あの2人と翼の情報」

 

 

 

……鮫と骸骨の知り合いって事は、代理人も都市からやって来た人の筈。2人の情報は大した価値にならないかもしれないけど……少なくとも、翼の情報は価値があると思う。

 

 

 

「必要ないな。アズサの反応で分かったが、お前達は翼について俺以上の知識を有していない」

 

「……」

 

 

 

アズサの反応……? アイツから翼の情報を聞いてたとしたら……この情報は使える。

 

 

 

「R社とK社の特異点及び所在地の情報。それから――」

 

 

 

――翼の最終目的について

 

 

 

「……最終目的?」

 

「そう。R社にK社、T社の大人が話し合っていた内容。……都市から来た貴方にとって、無関係とは言い切れない内容だと思うけど――」

 

「ダメだな。情報の真偽が確認出来ない以上、お前の戯言でしかない」

 

「……翼による企業連の設立特異点の独占頭の支配からの脱却

 

「……」

 

「……どう? 私の戯言で片付けられるような内容だと思う?」

 

 

 

……頭って言うのが何かは分からないけど……あの大人達の反応からして無視できる内容じゃ無いはず。

 

 

 

「……」

 

"代理人……。私からもお願い"

 

「先生……?」

 

"この子達は、大人に利用されただけの被害者なんだ。世の中全ての大人が悪い存在だって……そう思われるのは、私は嫌だなぁ"

 

「……」

 

 

 

……やっぱり。

 

戦闘能力だけ見たら、明らかに代理人に分があるというのに……立場だけを見ると先生の方が上に見える。付き従う理由までは分からないけど、これなら……

 

 

 

「それから……私達の身柄もつける」

 

「ミサキ……」

 

「えっ……え!?」

 

 

 

――先生を相手に、同情を誘える

 

 

 

「どういう意味だ」

 

「文字通りの意味だよ。……形式的な奴隷契約。ここでシャーレの協力を得られなければ、私達は殺されるだけだから。――それだったら、あなた達に賭けたい」

 

「……仲間は助けてやるから、今すぐ死ねと言ったら死ぬのか?」

 

"代理人、それは――!"

 

「……それが望みなら、いいよ。……ただし、それを言うなら姫のことは絶対助けてよね」

 

 

 

ここが転換期だ。代理人の善性は分からないけど、間違いなく善に近い先生に従う以上、ここまで言えば……

 

 

 

「…………はぁ。取引でも何でもない、相手に依存した一方的な主張だな」

 

「……」

 

「まともな交渉になるとは思っていなかったけど……先生に感謝するんだな」

 

"代理人、それじゃあ――"

 

「俺も協力してやる。ただし、先に翼に関する情報を寄越せ。身柄については全てが終わった後、姫とやらも含めてシャーレの物として所有させてもらう」

 

 

……

 

 

「……分かった。……二人とも、勝手に決めてごめん」

 

「……いや……別にかまなわい。……むしろ良くやってくれた、ミサキ」

 

「ど、どうせ殺されちゃうぐらいでしたら……うぅ……私も従いますぅ……」

 

 

 

「……そう言う訳だから……先に情報を渡すよ。取引成立ってことでいいかな」

 

「……あぁ。……まぁ、行動を共にする以上……これぐらいはしてやる」

 

「――っ、何を……」

 

 

 

(パンッ)(パンッ)(パンッ)

 

 

 

E.G.Oを解除し、手袋から黄金色の拳銃を取り出したローランは、ミサキが反応するよりも早く、アリウススクワッドの3人を撃ち抜いた。

 

 

 

「傷口が、塞がって……」

 

「ぅぇ……わ、私の怪我も治りました……?」

 

 

 

「一先ず、お前らの傷と病気は治してやった。……取引を続けるぞ」

 

「T社の……拳銃。……時間を、巻き戻したの?」

 

「……少なくとも、アズサよりは情報を持っているみたいだな。これに関しては、使われている特異点はそうだが、作ったのはミレニアムの生徒だ。……それに、

 

 

 

――T社の奴らは、一人残らず殺したよ

 

 

 

「……嘘……でしょ……」

 

"……えっと、本当……かな。証拠の映像もあるけど……見る?"

 

 

 

以前ミレニアムのエンジニア部にも見せた、ローランがT社の社章が付いたビルを真っ二つにする映像。人間業とは思えないほどの、圧倒的な暴力。大きさの変わる身の丈以上の赤い大剣が齎した破壊の証拠は、映像を見た3人の脳裏に深く刻まれた。

 

 

 

「こんな、力が……」

 

「び、ビルを斬っちゃいましたぁ……!?」

 

 

……

 

 

「そういうことだったんだ……」

 

"うん……?"

 

「ある時期からTT2プロトコル……時間を加速させる機能が使えなくなったって、大人達が話してたけど……代理人のおかげだったんだ」

 

「……予想はしていたが、T社も絡んでいたんだな」

 

「まぁ、ね。……こんなの、全面的に協力するしかないじゃん

 

「それはどういう――」

 

"ミサキちゃん……?"

 

 

 

代理人と向き合って居たミサキは突如、代理人へと頭を下げた。

 

 

 

「……代理人」

 

 

 

 

 

 

――ありがとう

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「貴方がT社を殺してくれたおかげで……私達の孵化作業も終わって、姫が孕まされることもなくなった」

 

「……エネルギー不足か?」

 

「……さすが、詳しいね。……大人達はT社からの時間供給がなくなったから、実験が出来なくなったって言ってたよ」

 

「……だろうな。人員がいない以上、これ以上追加で時間を奪うことはできないだろうし……L社が折れている以上、特異点を回すためのエネルギーにも限度がある。……それに、アイツ等が回収した時間は、今はイオリが好き勝手使ってるみたいだからな」

 

"イオリちゃんが……?"

 

「あぁ。この拳銃を除き、()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、時間の総量で見たら微々たるものだそうだ」

 

"……それって、まだT社の人たちが何処かに居るってこと?"

 

「……さぁな。時間収集機を持ってるだけの別人かもしれないし、断言はできない。まぁ、警戒するに越したことはないだろうな」

 

 

 

旧L社が幻想体を管理し、今もエネルギーを作り続けている理由も気になるし……もしかしたら、俺たちが警戒するべきは翼だけじゃないのかもしれないな。

 

 

 

 





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