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「此処は……?」
私は確か…………そうか、ゲマトリアの最奥を……ベアトリーチェに気づかれて……。
……
……ミカには、悪いことをしてしまったな。本当に伝えたかった事も伝えられず、私は…………。
……結果として、ミカを責めることになってしまった。……すまない、ミカ。
……
……それはそうと、ここは何処だ? 夢……の中だとは思うが、このような場所、見た事も見覚えもな――
「おや? お客様かの? こんな処に迷い込むとは、其方もけったいじゃな」
「君は……?」
「ふぅむ……? ねじれたのかと思ったが、微妙に違う……。さては、色彩と遭遇したな……?」
「……色彩?」
「しかし妙じゃの……色彩と遭遇した者が、これ程意識を保てているとは……」
「私は――」
「よいよい。語らずとも分かる故……其方の事を少々覗かせて貰おうぞ」
この内装……目の前の少女の装いから推測するに、ここは百鬼夜行自治区なのだろうか? 私はどうして、百鬼夜行に……。
それに今、ねじれと言っていたな。……その言葉は、都市に関してある程度の情報を持っている者か、エリュシオンに所属している者しか知らない筈……。
この者は一体――
「あい、わかった。其方は色彩と間接的に接触してしまったみたいじゃの」
「……先程から言っている色彩とは一体?」
「キヴォトス外から到来する、曠古の災禍を引き起こす存在じゃ。色彩に触れた者の肉体はねじれ――精神をも蝕まれていく」
「それが色彩……。……貴女はどうして、それを知っている? ねじれ現象についても、一体どこで――」
「――百合園セイア」
「……!?」
「其方について……いや、其方の組織についてもよく知っておるよ。あの超人と妾は旧知の仲故、組織の設立にも関与しておるとも」
「……」
連邦生徒会長の友人……?
……百鬼夜行自治区担当の二人からは、目の前の彼女について何一つ聞いた覚えがない。……覚えは無いが、確かに連邦生徒会長の友人だと言うのであれば、組織やねじれ現象について知っていてもおかしくない。
……話の筋は通る。
現状、真偽の確認を取る方法もない。
「其方も災難じゃったの。予知夢に囚われた挙句、ねじれた失敗作に干渉されるとは。……まぁでも、そんな中でも其方は幸運じゃ。黄昏の大預言者クズノハと相見えた事、この幸運は誇って良いぞ」
むふーっとドヤ顔で私を見つめてくる彼女に、私はどう反応すれば良いのだろうか……。……ねじれた失敗作は、恐らくゲマトリアの事だろう。予知夢の事も知られているとは……。
クズノハ……聞き覚えのない名前だ。
少なくとも、百鬼夜行自治区の担当からは聞いていない。
「それにしても、誠……愚かな事よ。色彩を利用し、身体を変化させようとするとは……。……非常に度しがたい。こうなる事が分かっていたからこそ、外への干渉は最低限に留めるべきと助言したと言うのに……空け者め」
「……」
「……なるほどの。其方は窓を通して色彩を観測したに過ぎず、故に精神に綻びが生じず、ただただ肉体だけが崩壊の一途を辿っているのか」
「……! そんな……私は、今倒れる訳には……。……どうにか、留める方法はないのか……?」
「ある」
「……!」
「先も言うたであろう? 其方は幸運じゃと。このクズノハと見えたこと、誇りに思うと良いのじゃ」
「クズノハ……。私は……貴女を知らない。組織のリストにも名前は無く、百鬼夜行自治区の担当は貴女では無い。……貴女は何者なんだい?」
「……ふむ。妾について知りたければ、後程ニヤにでも尋ねてみると良い。彼女であれば、妾に関する文献の1つや2つぐらい持っているであろう」
「文献……」
「それよりもじゃ。今は其方の身体をどうにかする方が先決、違うかえ?」
「……私は、どうすれば良い」
「何、そう身構えるでない。妾が其方を導いてやろう。しかし、其れには代償が伴う。大いなる力には、それ相応の代償があるのは、世の常じゃろう?」
「代償……?」
「其方を構成する本質……言い換えれば、其方の殻に関する情報を1つ手放さねばならぬ。キヴォトスの認識を歪め、色彩の干渉を無かったことにするには、同一の存在が居てはならぬのだ。……其方とて、現実に戻った瞬間、色彩に接触されたら困るであろう?」
「私の……本質……。……それはつまり、」
――私のE.G.Oを手放せ、ということか?
「……予想はしていたが、やはり発現しておったか」
「……」
「何、そこまでは要求しないとも。此の場合、其方の未来視を手放して貰えれば十分じゃ」
「未来視を……」
「さぁ、如何する? ――トリニティの預言者よ」
……そんなもの、答えは決まっている。
「他に選択肢はないのだろう?」
私はこの力に依存していた。未来を視て、悲観し、抗うために対抗策を練り……諦めた。……目的と手段が入れ替わっていた。
未来視は確かに便利だ。便利だが――
――結果が変わらない未来に、価値なんてない
「ふむ、迷いなく断じるとは……友のためかのう……? ――お見事」
「……そんな崇高なものではないよ。これは私の……私が前に進む為でもあるんだ」
★★★★★
(ピーーッ、ピーーッ)
「……戻って、来られたのか」
ここは……救護騎士団の病室……か。……身体は……問題ないな。精神に異常も見当たらない……。……自我の認識もある。
私は、私が百合園セイアであることを認識できている。……これなら、E.G.Oも問題なく扱えそうだ。
「――! おはようございます、セイアさん」
「セリナ……? ……そうか、君が回収してくれたのか。……面倒をかけたな」
「いえ、気になさらないでください! 事態を纏めるには、これが最適でしたので」
――ありがたい。そして、丁度良かった。私の肉体の面倒を見てくれたのが、ミネ団長ではなくセリナで本当に良かった。
「早速で悪いが、話したい事と頼みたい事がある。大至急、二人を此処に連れてきてくれ」
「お二人をですか? ……という事は、表舞台にあがるのですね」
「最後まで傍観してるつもりだったが、予定が変わってしまってね。――取り返しがつかなくなる前に、動きたいんだ」
「……分かりました。シスターフッドの実働班については――」
「彼女たちも可能なら動かしたいと、サクラコに伝えてくれたまえ。E.G.Oに関してはクラス4までの使用を、百合園セイアが承認する。古書の使用にも制限を付けないと、彼女に伝えてくれ」
「――! ……承知しました。それでは、伝えてきますね!」
(ヒュンッ)
「……これでいい。最後に視た予知も気にはなるが……それは全てが終わった後で考えよう」
私が犯した罪は、私が清算する。……早まってくれるなよ、ミカ。私はまだ、君に……。
★★★★★
「お前は……」
"セ、セイアちゃん?"
「……待たせてすまなかったね、先生。よくここまで持ち堪えてくれたものだ」
"セイアちゃん……ごめん。私のせいで、ミカちゃんが……"
「先生のせいでは無いとも。それを言うなら、ミカを拒絶してしまった私のせいであり……」
――その清算は、私が行わなければならない
「……セイア……ちゃん……? な、なんで……生きて……」
「私が生きていたらダメなのかい? ミカ」
「……ち……違っ…………わ、私は…… 」
「聞いてくれ、ミカ。…………すまなかった」
「……セ、セイア…… ちゃん……?」
「言い訳に聞こえるかもしれないが……君を責めるつもりは無かった。……ただ私は君に、先生の救援に向かうよう頼みたかったんだ」
「……えっ……?」
「夢に囚われ、言葉すら上手く紡げず……君を誤解させてしまった。私は…………そうだな。……私は君を、嫌ってなどいないよ。恨むつもりも、責めるつもりもない。……ただ、怖かったんだ」
「……」
「確定している未来が、訪れる終焉が…………変化が怖かったんだ。君がアリウスと和解し、トリニティに変化が訪れるのが……」
――ただただ、怖かったんだ
「その結果がこれだ。……観測した未来よりも最悪な結末。……こんな姿にしてしまってすまない。ミカ」
「……ち、違う! ……これは、私のせいで……私が……バカだったから……」
「――だからこそ、ミカを蝕む色彩は……」
――私が引き受ける
「私が君を、救い出そう」
(モフッ)
「……まさか、お前も――」
"えっ……ええっ? セイアちゃん……尻尾が――"
(モフッ)
サオリと先生が驚いたのも無理は無い。視線を後方に向けてみると、そこには……4本の尻尾を生やし、見慣れない白い杖を構えた百合園セイアが立っていたのだから。
「……に、似合わないだろう? あまり見つめてくれるな、先生……。……わ、私にも恥じらいの感情ぐらいはあるのだよ」
"そ、そう? 私は可愛いと思うけど……"
トリニティの制服とは異なる、白いクロークのような衣装を見に纏い、白い百合の花の装飾が付けられ片手杖を構えたセイアは……恥ずかしそうにそう呟いた。
年齢相応とは言えない子供服のような装いは、彼女の殻が形になったものだ。……ものなのだが、本人にとってはあまり好ましくない衣装らしい。
「……私の元まで来たまえ、ミカ。……まぁ、断っても君は私の元に来てしまうのだがね」
(キンッ)
"……それって、フウカちゃんが持っていた音叉?"
――収束共鳴器
発せられる振動に、最初に触れた対象を共鳴器の元へ収束させる、エリュシオンの発明品。戦闘能力に優れない者たちの切札であるこの音叉は、給食部のフウカは勿論の事、身体能力の劣るセイアもまた、購入していたのだ。
「……なっ ……なにこれ……? 身体が……引っ張られて……っ」
「――捕まえた」
収束共鳴器の元に引き寄せられたミカ*テラーの身体を4尾の尻尾で抑え込み、身動き出来ない様に抱き締める。
「……セッ……セイアちゃん!? ……な、何やってるの…………!?」
「――聖園ミカ。君が持つその力…………私が戴く――!」
(ザシュッ)
右手に握りしめていた杖を逆手に構えなおし、杖の先端……白百合の花の装飾をミカ*テラーの背中へと突き刺す。
奥へ奥へ……捻じ込む様に……力の根源へと突き刺していく。
以前使用した時は、対象の神秘を奪い取り、自身の神秘へと変換するものであったが……反転し、神秘の認識が恐怖へと書き換えられているミカ*テラーを相手に、同じ力を行使すれば――
「……ぐっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!?」
「――予想は、していたが……っ、神秘の量が多すぎる……!」
ミカ*テラーの恐怖を奪い取り、自身の神秘へと即座に変換し力を蓄えていくセイア。ただでさえ恐怖から神秘への変換という初めての行動だというのに、元々の神秘の内包量が多いミカが相手となれば――
――当然、それ相応の負荷が襲い掛かる
「ミカ……! もう少しだ……あと少しの辛抱だから、耐えてくれたまえ……!」
「……セ……イア…ちゃ……………………」
5尾、6尾、7尾
力を奪い取る度に、百合園セイアの尻尾の数が増えていく。E.G.Oの発現によって、急激に上昇した神秘を貯蓄する為に増えた尻尾だったが、ミカ*テラーから奪い取り続けている恐怖から変換された神秘が、彼女の身体を巡り……余剰分の神秘を蓄える為に尻尾の数がどんどん増えていく。
8尾
増えた尻尾は神秘によって重さを増し、耐えきれなくなったセイアはミカ*テラーへと伸し掛かり、地面へと押し倒し――
――恐怖が完全に無くなるまで、ミカ*テラーの力を奪い続けた
「はぁ……っ…ぁ……はぁ……これで…おわ……った」
"セイアちゃん! 大丈夫!?"
「……わ、たしは……大丈夫だ……。……後は…っ……この神秘を……ミカに返せば……!」
黒く染まった杖をミカの背中から抜き取り、握りしめ、ミカの胸へと突き刺す。黒百合となった杖を媒介とし、恐怖から神秘へと変換した力をミカへと流し込む。
途端、罅割れたヘイローは元の形へと戻ってゆき、それに伴ってか増えていた尻尾もまた、数を減らしていく。黒く染まったヘイローは、元の美しい色へと戻り……服装や翼もまた、黒から白へと反転する。
――目的は、達成した
「先生……。今頃、セリナが座標を伝えているはず……だ。……組織の三人に、私の仕事は終わったと、伝えておくれ」
"……分かった。……あとは先生に任せて、セイアちゃん。……よく、頑張ったね"
「あぁ……先生も、気を付けたまえ」
"うん。セイアちゃんの目が覚めるまでに、終わらせるからね"
「それは、頼もしいな……。……セリナ……サクラコ……ウイ。……あとの事は、任せる。三人共どうか……どうか上手く、やってくれたまえ……」
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