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――アリウス自治区・バシリカ
ローランと別れた後、走り抜けて来た道を戻ったミサキとヒヨリは、無事に先生達と合流し迂回する必要がある事を伝えた。多数のアニマルチームと共に現れた鮫と骸骨を相手にしていること、迂回路を探さないと時間切れになる恐れがあることを伝え、遠回りではあるものの――
――日の出を迎える前に、バシリカへと辿り着いた
「……なるほど。家畜とはいえ、成功症例に変わりはないということですか」
アリウス自治区の最奥。現存するゲマトリアのメンバーですら知りえない祭儀場。旧市街を走り抜け、バシリカへと辿り着いた4人は――
――あまりの惨状に、言葉を失った
「ですが、少々遅かったですね。儀式の準備は終わりを迎え、私はあの方と再会するのです!」
祭儀場に突き刺された12本の十字架。磔にされた秤アツコの面影が残る11人の赤子。中央にある巨大な十字架を讃えるかのように配置された赤子の泣き声が……祭儀場へと響き渡った。
――投薬や改造、特異点の影響を一切受けていない無垢な赤子
磔にされ、茨の槍で胸を貫かれた赤子の群れが血を流し、滴る血が十字架を赤く染める。
「……あはははははは! これで私は、崇高へと至れる! あぁ……あぁっ! カルメン! 貴方と再び相見えるとは、どれほど幸福なことでしょう! ……色彩すらも凌駕する力がっ……私の手に! 私の……私達だけの楽園を――!」
儀式の中心、巨大な十字架に磔にされた秤アツコは気を失っているのか、ピクリとも反応を示さず……ただただ泣き叫ぶ赤子に包まれた祭儀場で、血を流していた。
「姫――ッ!」
「姫ちゃん……!」
「なんでっ……まだ、日の出までは時間が……」
"……"
「時間? ……ふふっ……あはははははは! そんな約束も、ありましたね! まぁ、家畜との約束を守るつもりなどありませんが」
滴り落ちた血液が、祭儀場に刻まれた紋様を赤く染める。解釈の応用、太古の教義――平行世界での経験故か、ある特定の儀式によって崇高なる光へと……カルメンと再会出来る――と、
――そうなるようにと解釈を歪め、認知を上書きした
「遂に……遂に捉えたわ、カルメン」
「……まさか、最初に私を観測するのが……貴女だとは思わなかったよ」
――ベアトリーチェ先生
「あぁっ……この為に、私がどれだけの時間を捧げてきたか! ただもう一度、貴女に会うために……貴女の望む病の無い世界を実現する為に、私は――」
「擬似的とはいえ、必要なプロセスを全て無視して私を観測したのは凄いと思うよ。うん、正直、私でもこんな方法は思いつかなかったかな」
「あぁっ……あぁ、カルメン……」
「――だけど」
「……?」
「このやり方は間違いだったね、ベアトリーチェ先生。この世界の主の反感を買ってしまった貴女では、私の理想を体現するのは……ちょっと、難しいかな」
「……なんですって?」
ステンドグラスから差す光へ向けて、祈るように叫ぶベアトリーチェ。血液で描かれた紋様が、差し込む光を反射し、スポットライトのようにベアトリーチェを照らし出す。
狂気的で官能的で神秘的なその光景を前に、アリウススクワッドの3人は言葉を失っていた。
――最も、その光景を前に言葉を失ったのは、アリウススクワッドの3人だけであり……
"……そんなことの為に、私の生徒を利用していたのか"
……大人である先生は例外だった。
「――ほら、救世主がお怒りだよ?」
「…………。……今、そんなことと言いましたか? ……どうやら、あなた程度の存在では、私の崇高な意思を理解できないのですね」
振り返り、先生を睨み付けるベアトリーチェ。自身の悲願を妨げる障害を……敬愛するカルメンから直々に、否定された原因である先生へと殺意を向ける。
怒りの感情がベアトリーチェを支配し、樹木のような怪物へと姿を変異させていく。
先程まで保っていた人の姿は見る影もなく……、肥大する身体、根のように大地へと張り巡らされる両脚、枝木のように別れた両腕。
ベアトリーチェという存在そのものがねじれた怪物。儀式を用いてカルメンと接触し、その結果として開放された本質的な姿。
"……ベアトリーチェ。……私欲のために生徒を利用したお前を、私は絶対許さない"
「許さない……? ……神秘も持ち得ず、戦う術もないあなたに何ができるというのです?」
理解できない。神秘を持ち得ず、肉体を改造した訳でもない。カルメンは先生を警戒していたが、彼女の何処に警戒心を抱いたのか、ベアトリーチェには理解できなかった。
"私に出来なくても、ここにはスクワッドのみんながいる"
「先生……」
"それに……"
「あはははははは! 孵化を終えた程度の家畜で、この私に敵うとでも? …………心底不愉快です」
――故に、慢心したのだ。……その一手が手遅れになるとも知らずに
"戦う術なら、私にもあるよ"
シッテムの箱から取り出された一冊の本。図書館とキヴォトスを繋ぐ扉。
ルールの外側にある反則手。
「…………ッ! ……その本は……まさか……」
"使わせて貰うよ、代理人"
本を開き、ページを4枚破り取る先生。トリニティの夜に代理人とアマノが行っていたE.G.Oの共有化。原理は不明だが、代理人が使っていたE.G.Oの力を生徒にも渡せると確信していた先生は、開いた本から適当なページを破り取り、3人へと手渡す。
訳も分からず破られたページを受け取った3人は、そこに書かれている文字へと目を通し……
――その姿を変質させた
――熊のようなつけ耳を付け、縫い目の破れた身の丈以上の腕を装着したミサキ
「……っ、頭の中に、声が……」
――無数の瞳が付いた服に、同じく無数の赤い瞳が付いた大剣を構えるサオリ
「美しい声……とは、また違う声が聞こえるな」
――緑色の両翼を広げ、イラクサの糸で編まれた服を着こなすヒヨリ
「ひぃ……! な、なんですかぁ、頭の中に、こ、声が……」
――大きな蝶ネクタイを付け、稲刈り用の大鎌を担ぐ先生
"これは…………み、みんな、大丈夫――!?"
頭の中に直接響く声に顔を顰め、頭を押さえる3人。サオリだけは似たような現象に触れていたからか、動揺は見られず、ベアトリーチェへと大剣の切っ先を向けていた。
「やっぱり。アンジェラのE.G.Oは便利だね」
「蒼白の書……! カルメンの力を、こんな……っ、こんな形で引き出すなんて……!」
「え……? んーっと、私の力ではないんだけどなぁ……」
「光も見つけていない家畜の分際で……よくも……!」
「あれ? おーい、ベアトリーチェ先生? ……うーん、聞いてないや」
致命的な勘違い。ベアトリーチェは図書館の力……と言うよりも、蒼白の書によって齎される幻想体のE.G.Oを、カルメンの力と誤解していた。
――使用者の本質を引き出す力
現象だけを見れば、誤解するのも無理はないだろう。ただし、実際は幻想体から抽出したE.G.Oを借りているに過ぎず、故にこそ使用者がカルメンと接触する必要は無いのだ。
「……うん。……もう、大丈夫」
「わ、私も……声はまだ聞こえますけど……」
"代理人は、毎回この声を……聞いていたんだ……"
アビドス砂漠、ミレニアム、トリニティの夜。
キヴォトスで散々使われたこの本の力について、知っているつもりだった。図書館……という場所についてはよく分からないけど、E.G.Oという魔法のような力を齎してくれるモノ……程度に思っていた。
涼しい顔で何度も使用する裏側で、こんな代償を背負っているとは思わなかった……。気を抜けば引っ張られそうな……自分が自分では無くなりそうな声。このE.G.Oから聞こえてくる、物凄い怒りと悲しみの声が、頭を――
「ちょっと、大丈夫?」
「せ、先生……?」
「……一般人の先生には、この声は聞くに堪えないか」
"いや……大丈夫だよ。……アリウススクワッド。目の前の化け物を……ベアトリーチェを倒すのに手を貸して"
「「「了解!」」」
それぞれの獲物を構え、巨大な樹木と化したベアトリーチェへと襲い掛かる。まるで取扱説明書でもあるかのように詳細に、E.G.Oの使い方が頭に浮かんだ3人は、孵化場で得た身体能力を全力で使い、全身に神秘を回し、攻撃を仕掛ける。
普段全く運動をせず、神秘もない先生にとって……武器を持って戦うというのは初めての経験であったが――
――知恵を求める案山子が、最適な使い方を身体に叩き込む
"……これなら、運動音痴の私でも――戦える"
シッテムの箱を取り出し、電池残量を確認した先生は……大鎌を担ぎ、自身が出せる全速力でベアトリーチェへと襲い掛かった。
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