黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~決着~ ねじれたベアトリーチェ

 

ベアトリーチェとの決着は、ほんの数分で片付いてた……片付いてしまった。

 

カルメンとの複数回に渡る接触の結果、ねじれたベアトリーチェ。こことは違うキヴォトス……平行世界のキヴォトスで先生だった記憶など、今のベアトリーチェには無く、ただ純粋に自身の願望の為に変質した存在。

 

その力は絶大で、孵化を終えたアリウススクワッドでさえ、手も足も出なかった事だろう。

 

 

 

――E.G.Oという、常識外の産物が無ければの話だが……

 

 

 

幻想体のE.G.Oに身を包み、驚異的な戦闘力を手にした4人にとって、ねじれたベアトリーチェの相手など造作も無かった。

 

 

 

"――っ、アロナちゃん!"

 

 

 

繰り出される攻撃の数々を、先生が最前線にあがり……シッテムの箱による電磁防壁(アロナバリア)にて防ぐ。

 

攻撃と攻撃の合間、次の攻撃に繋げる為のモーション……その隙を見逃すような者は居らず、3人が各々のE.G.Oの力を発揮し、ベアトリーチェへと攻撃を仕掛けた。

 

 

 

赤い目玉の付いた大剣を振り下ろし、巨大なぬいぐるみ製の熊の手で引っ掻き、持ち手に鳥の脚が付けられた傘で切裂く。

 

 

 

「ありえない……! この、私が……っ、こんな家畜に……!」

 

"ベアトリーチェ"

 

「シャーレの先生……お前――ッ、お前さえ居なければ……!」

 

"……生徒を侮辱し、子供達の人生を奪い続けてきた報いを――受けなさい"

 

 

 

ベアトリーチェの最後の一撃。――全身のエネルギーを一点に収束させ、極光として解き放つ。深紅色の光線が先生へと放たれる瞬間、

 

 

 

"……さようなら。ベアトリーチェ"

 

 

 

 

 

 

――取り出したシッテムの箱を、エネルギーの収束地点へと投げつけた

 

 

 

 

 

 

「…………え? ちょ、ちょっと、先生!?」

 

「うわぁ……先生も良い戦法を考えるっすね。……ほら、アロナ先輩。ちゃんと守らないと、シッテムの箱が壊れるっすよ?」

 

「あ、アマノちゃんも手伝ってくださいよーー!」

 

 

 

高出力のエネルギー、その斜線上に投げられたシッテムの箱が、危険を察知し防壁(アロナバリア)を展開。放たれた光線を全て防ぎきる。

 

防壁と接触した事による閃光が視界を埋め尽くす中、潜り抜ける様に光線の下方を疾走した先生は、

 

 

 

 

 

 

――大鎌を振るい、ベアトリーチェの両腕を斬り落とした

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「やったのか……?」

 

 

 

サオリの呟きを合図に、ベアトリーチェの身体が崩壊を始める。自身のエネルギーを全て使い果たし、致命傷とも言えるダメージを受けたベアトリーチェは、化け物のような悲鳴をあげながら元の姿へと戻っていった。

 

 

 

「……終わったみたい」

 

「……あっ! り、リーダー! 姫ちゃんを――」

 

「――! 姫――ッ!」

 

 

 

祭儀場に設置された十字架を切り飛ばし、落ちてくるアツコを抱き締める。

 

 

 

「姫……! 頼む、起きてくれ……! お願いだ……アツコ、目を開けてくれっ!」

 

 

 

力強く、それでいて壊れないように優しく抱き締める。体温はある、心臓の音も……聞こえる。肉体的な問題は、突き刺されていた茨の槍による出血ぐらいだが……

 

 

 

――心が壊れた可能性は否めない

 

 

 

訳も分からず孕まされ、自身がお腹を痛めて産まされた赤子を生贄として磔にされ――泣き叫ぶ我が子の悲鳴を聴き続けて……精神が壊れない者など居るだろうか?

 

 

 

「……外傷が酷い。それに、精神的にも……」

 

「姫ちゃん……」

 

 

 

常人であれば壊れていただろう。廃人にさえなりえただろう。……だが、

 

 

 

「サ……オリ……ちゃん……?」

 

 

 

同じように苦しむ仲間たちを心配し、自身の感情を殺し……光を払いのけた彼女の精神力は、並大抵のものではなかった。

 

 

 

「アツコ……!!」

 

「姫……」

 

「ひ、姫ちゃん!! 気が付きましたか!?」

 

"……おはよう。アツコちゃん"

 

 

……

 

 

「……シャーレの、先生? それに、みんなも……。……うん。みんな……おはよう」

 

「アツコ……!!」

 

「あ、サオリ……?」

 

「良かった……本当に、よかった……」

 

「う、うん……?」

 

「アツコ……生きていてくれて、ありがとう……。本当に、ありがとう……」

 

「……うん」

 

「くっ……うぅ……」

 

「……そっか。……全部、終わったんだね」

 

 

 

抱きしめられたまま辺りを見渡し、倒れ伏した傷だらけのベアトリーチェの姿を見て、何かを察したかのように先生へと視線を向ける。

 

 

 

「先生が、手伝ってくれたんだね……?」

 

"……アツコちゃんは、大丈夫?"

 

「うん、私は……平気。……もう二度と、幸福なんて訪れないと……地獄は永遠に続くと思っていたけど……」

 

「アツコ……! ……もう、終わったんだ。先生が、全部……終わらせてくれたんだ」

 

「そっか……。……そんな奇跡が……っ……起こる、んだね……」

 

「あぁ……っ! 先生が、奇跡を起こしてくれたんだ……!」

 

「姫……!」

 

「姫ちゃん!!」

 

 

 

涙を流し、抱きしめ合う4人を見届けた先生は、

 

 

 

――E.G.Oを構えたまま、ベアトリーチェへと近づいた

 

 

 

「く、ぐぅっ……」

 

"……少しは、生徒の気持ちが分かった? ……アリウス自治区の子供たちは、今の貴女よりも……苦しんでたんだよ"

 

「よくも……わ、私はまだ……まだ!」

 

"もう終わりだよ、ベアトリーチェ"

 

「まだ終わっていない! たかだか儀式を妨害したい程度で図に乗らないでください! カルメンはまだそこに、まだ、私を見捨ててなど――!」

 

"……"

 

「まだ私にはバルバラも、アリウスの動物達だって残っている……!」

 

"……残念だけど。ユスティナ聖徒会も、アリウス自治区の子供達も――"

 

 

 

――既に、シスターフッドが対応してるよ

 

 

 

「……は?」

 

"シスターフッドの……組織のみんなが、相手を引き受けてくれたんだ。……みんなのおかげで、私たちはバシリカに辿り着けた。みんなが時間を稼いでくれたからこそ、私たちは間に合ったんだ……!"

 

 

 

ミカ*テラーを制圧したセイア。彼女の要請のおかげか、旧市街へと駆け付けたエリュシオンとシスターフッドの面々は、先生たちがバシリカへたどり着くために護衛として……露払いとして、聖女バルバラやアンブロジウスの相手を買って出たのだ。

 

 

 

「……っ、だとしても! 私にはまだ、複製能力(ミメシス)がある!! たかが一度の勝利ごときで、終わりになど――!」

 

 

 

 

 

 

「いいえ、このお話はこれで終わりです」

 

 

 

 

 

 

バシリカの入り口から響く足音。この場に居る全員の注目を集めた存在は、ベアトリーチェの目前へと足を進めた。

 

 

 

「ゴルコンダ……!!」

 

「哀れですね、マダム。そして……お久しぶりです、先生。黒服が応募したゲーム大会以来ですね」

 

"……貴方も、戦うつもり?"

 

「いえ、私にそのつもりはありません。そもそも、先生と敵対する気がありませんから」

 

"……じゃあ、どうしてここに?"

 

「私は戦いに来たのではなく、ただ……そこにいるマダムを連れ戻しに来たのです」

 

 

 

その言葉に、ミサキとヒヨリがE.G.Oを構える。一度も会ったことはないが、ゴルコンダの発言からベアトリーチェの仲間であることが分かったのだろう。

 

 

 

「私を……!?」

 

「……そんなに武器を向けないでください。私は戦闘が苦手なのです。ゲマトリアが皆マダムのように怪物に変われるわけではないですから」

 

"……代理人から、ゲマトリアは全員ねじれているって聞いたけど"

 

「その表現は正しいようで正しくないですね。ですが……光と接触したのは事実です」

 

"……"

 

「……さて、マダム。これで明らかになりました。――先生はあなたの敵対者ではありません。そもそも、これはあなたの物語ではないのです」

 

「……!!」

 

「あなたが起こした事件、葛藤、過程の数々……それらは知らずとも良いものに格下げされました」

 

"知らずとも、良いもの……?"

 

「あなたの計画は潰れ、翼は手を切りました。戦力の大多数を失ったR社は――」

 

 

 

――今頃、預言者の王(アイン)に滅ぼされているでしょう

 

 

 

「あの人は手が早いです。自身の目的、研究対象……特に、特異点の回収においては私たちですら敵いませんから」

 

「アイン――!」

 

「……マダム。……あなたは主人公どころか……先生の敵対者でもなく、ただの舞台装置だったのです」

 

「……く……ぐぅっ……!!」

 

「……先生。あの日、ゲーム大会の会場でもお伝えしましたが……あなたが介入してしまうと、全ての概念が書き変わってしまいます。私が勝利するはずのゲームが敗北に変わったように、元々この物語の結末はこうではなかったのです」

 

"物語の、結末……?"

 

「友情で苦難を乗り越え、努力で打ち勝つ物語……? 私が望んでいたテクストはもっと文学的なものだったはずなのですが……」

 

"……"

 

「……さてと、帰りますよマダム。早く、起きてください」

 

「ゲホッ……お前は……」

 

"待って……!"

 

「……先生。どうか私の邪魔だけはなさらないでください。先程、私は戦闘が苦手とお伝えしましたが、物作りは得意なのです」

 

"……"

 

「ヘイローを破壊する爆弾、ヘイローを破壊する銃弾」

 

"――!"

 

「そのどちらも、私の作品です。無論、ヘイローを持たない存在には効果を発揮しませんが」

 

"……"

 

 

 

構えていたE.G.Oを下ろし、ミサキとヒヨリへと目配せをする。今の自分たちならゴルコンダを倒せるかもしれないが……彼の言葉が本当なら、少なくない犠牲を払うことになるだろう。

 

 

 

「……賢明な判断です。……それでは先生、またいつか、どこかでお会いしましょう」

 

 

 

そう言うとゴルコンダは、瀕死なベアトリーチェを担ぎ、バシリカの道を堂々と歩いて立ち去った。

 

 

 

 

 






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