黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~裏側~ 神名十文字

 

 

"……これで本当に、終わったみたいだね"

 

 

 

ゴルコンダがベアトリーチェを連れ去り、この場にはアリウススクワッドと……11人の赤子の遺体だけが残された。

 

 

 

「……ごめんね。私は、母親として……何もしてあげられなかった」

 

「姫……」

 

「姫ちゃん……」

 

「……」

 

 

 

痛みが走る身体を引き摺り、磔にされた赤子一人一人を丁寧に抱きしめるアツコ。十字架から解放し、地面へと優しく横たわらせたアツコは、目を瞑り祈りをささげる。

 

 

 

"……この子たちは大人として、先生が責任を持って弔うよ"

 

「……うん。……ありがとう、先生」

 

「……先生」

 

"うん……?"

 

「契約に従い、私達の身柄はシャーレに引き渡すよ。代理人の言ってた通り、所有物として……使って」

 

「そ、そうですね。姫ちゃんも助けてくれましたし、殺されちゃうぐらいでしたら……」

 

「……すまない、アツコ。シャーレの協力を得る変わりに、私達の身柄はシャーレの物として扱う契約を――」

 

「大丈夫。……少なくとも、物として扱って貰える分……今までよりもずっといい」

 

"……ベアトリーチェの報復が無いとも限らないし、シャーレには所属して貰うつもりだけど、君たちを物として扱うつもりはないよ"

 

「……先生は、そうかもしれないけど――」

 

"代理人もそんなつもりは無い……と思う。契約の手前そう言ってはいたけど、子供達を物として扱うような人ではないと断言できるよ"

 

「だが……それでは、私たちはどうしたらいい」

 

"サオリちゃん?"

 

「私は、どう責任を取ればいい……。全ての元凶である私が、シャーレの庇護下に入るなど……」

 

"責任は、子供が背負うものじゃないんだよ"

 

「……」

 

"もしも、子供が責任を背負わないといけないような世界なら、それはそんな世界を強いた大人が背負うべきなんだ"

 

「先生……」

 

"……それでも、どうしても何かをしたいと言うなら、罪を清算したいと思うなら"

 

「……」

 

"その時は、シャーレの一員として困っている生徒の力になってあげて"

 

「……」

 

"この世界には、翼のような悪い大人達も大勢いる。みんなのような被害者を一人でも減らせるように、私に力を貸して欲しいかな"

 

 

 

代理人の話では翼は全部で26社あるらしい。流石に都市から全ての翼が来てる訳ではないと思うが、万が一に備え戦える人材は確保しておいた方が良いだろう。

 

 

 

"っと、忘れてた。みんな、代理人の所に行こう。アツコちゃんの傷も、代理人なら治せると思うから"

 

 

 

★★★★★

 

 

 

――同時刻

 

 

残響楽団の首を撥ね飛ばしたローランは、二度と生き返らないよう、二人の死体を手袋へと収納した。――濃厚な血液の香りが支配する戦場。青い残響の遺産を収納したローランは、E.G.Oを解除したコユキへと黄金銃を一発撃ちこんだ。

 

 

 

「……ありがとうな、黒崎。お前の活躍については、俺の方からしっかりと報告しておくよ」

 

「ほんとですか!! 絶対ですからね!!」

 

「はいはい」

 

「にはははは! 今日は気分が良いです!」

 

「この調子で手を貸してくれると助かるんだがな」

 

「勿論、保証人が呼んでくれればいつでも駆け付けますよ! ま、まぁ、絶好調な日だけですけど」

 

 

 

死体を処理したローランは、自身にも黄金銃を撃ち込み……足音のする方へと目を向けた。

 

 

 

"代理人ー! そっちは大丈夫ー?"

 

 

 

響く5つの足音。声のした方へと二人が振り向くと、そこにはアリウススクワッドを連れた先生が立っていた。

 

 

 

「あっ、先生ー!」

 

"あれ、コユキちゃん!? どうしてここに?"

 

「にはははは! ノア先輩からの指示で、保証人の手助けに来たんです!」

 

「実際、黒崎にはかなり助けられたよ」

 

 

 

正直、勝てると思っていなかった。ただでさえ恐ろしい2匹の化け物に、120匹のアニマルチームが相手だったのだ。先生の手前、言葉にはしなかったが、アリウススクワッドの3人は、代理人が鮫と骸骨に殺されていると思っていた。

 

 

 

「その様子だと、そっちも無事に片付いたみたいだな」

 

"まぁね。代理人の本のおかげでなんとか終わったよ"

 

「それなら何よりだ」

 

「それじゃあ、私は帰りますね!」

 

"コユキちゃんもありがとうね"

 

「黒崎。借金の返済とは別に今日の駄賃だ。ミレニアムからここまで来て貰った遠征費とでも思ってくれ」

 

「え、いいんですか!? わーい! ありがとうございます!!」

 

 

 

手袋から数枚の札を取りだしコユキへと手渡すローラン。諸事情により口座を凍結されたコユキにとって、借金の返済以外に使える現金と言うのは、非常に貴重なものであった。

 

 

 

"コユキちゃんなら、1人で帰れるかな"

 

「今日のアイツは絶好調らしいからな。道に迷うこともないだろ」

 

 

 

アリウススクワッドの案内を受け、旧市街を走り抜けてきたローランや先生と違い……スーパーノヴァの砲撃という目印があったとはいえ、コユキはたった一人でアリウス自治区を移動してきたのだ。

 

絶好調の彼女が目的地に辿り着かない……という事はまず無いだろう。

 

 

 

"っと、そうだった。代理人、あの金色の銃でアツコちゃんの時間を戻してあげて"

 

「アツコ……? ……あぁ、そっちの姫って呼ばれてた奴か?」

 

"うん……"

 

「……分かった。身柄を預かる以上、傷の手当ぐらいはしてやる」

 

 

 

(パンッ)

 

 

 

取り出していた黄金銃をアツコへと構え、発砲する。その効能を知っていた4人は特に反応を示さなかったが、突然発砲されたアツコは驚きつつ……自身の傷や痛みが無くなっていく現象に違和感を感じていた。

 

 

 

「この感覚は……時間を、いじったの?」

 

「あぁ。いつその傷を負ったのかは分からなかったから、お前と最後に出会った調印式の日まで時間を巻き戻させてもらった」

 

「……凄いね。……翼じゃないのに、時間をいじれるんだ」

 

「制作したのはミレニアムの生徒だが、この銃にはT社の特異点が使われてるだろうからな」

 

「そう、なんだ」

 

「……そんなことよりもだ。無事に姫の救出は終わったんだ。……取引の内容には従ってもらうぞ」

 

「……分かってる。私達の身柄は、シャーレに預けるよ」

 

「……そういう取引だからな」

 

「し、従います……」

 

「そう言う訳だ……アツコ。お前の身柄も、シャーレで預からせて貰うぞ」

 

「……うん」

 

「よし……。それじゃあ、先生」

 

"うん。一先ず、シスターフッドの子たちと合流しよっか"

 

 

 

その後、シスターフッドのメンバーと合流した先生達は、アリウス自治区について箝口令を引き……組織の管理の元アリウス自治区を厳重警戒地区として認定した。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

 

「連邦捜査部シャーレの先生……。生存する特異点か」

 

「……」

 

「植え付けた種は順調に発芽している。概念の上書き、存在の複製、再定義した神々……計画の完遂に必要なのは――」

 

 

 

キヴォトスの何処か、未知なる領域。前人未踏、生徒達が訪れたことのない辺境。無数の機械に支配された部屋の中には、3人の少女が居た。

 

 

 

 

 

 

「……返して」

 

「オウル……」

 

 

 

 

 

 

「次元を移動する力……低次元から高次元へのアクセスを行い、事象を書き換え、星を跨ぐ力が――」

 

 

 

「アインを返して!!!」

 

 

 

「……オウルもしつこいね。物質化した光である君たちが……非実在者である君たちが、入れ物の中身を気にするなど――烏滸がましいと思わないの?」

 

「貴方が……貴方が勝手にアインを奪ったくせに……」

 

「……ソフもですか。言ったでしょう? これは私の意思ではなく、二重解釈による世界の意思だと。その責任を私に求めること自体、間違っていると理解できないかな」

 

「……っ」

 

「それに、忘れたの? 無名の司祭を退け、デカグラマトン制作に協力したのが誰かを」

 

「それは……感謝してるけど」

 

「それとこれとは、話が違います! アインは……」

 

「君たちの問答に付き合う暇はない。……オウル。雑談に興じる暇があるなら、計画に必要な演算を――」

 

「……解読なら、もう終わっています」

 

「何……? ……パチパチパチ、素晴らしい。反抗的な態度ではありつつ、私の計画に従順とは――」

 

「アインの真似をしないで!!」

 

「……なるほど。この所作はこの身体に由来するものだったのか。口調と記憶……相変わらず、肉体と魂の同期は安定しないみたいだ」

 

「……貴方の計画が完成したら、アインを返してくれるんでしょ」

 

「返すという表現は正しくないが、少なくとも私はキヴォトスを出ていくよ」

 

「……」

 

「登場人物が介入できる事象には限度がある。納得の出来ない物語を改変するには――」

 

 

 

――作者の思考を変えるしかないだろう?

 

 

 

「……」

 

「これはあくまで事前準備だ。登場人物が物語を飛び出し、製作者に物語を改変させるためのね。当然、準備が終わればこの身体は返すよ。……元より、私に少女趣味はないからね」

 

「……」

 

「……幻想体達を連れて行くのも、面白いかもしれないね。……うん。3次元による4次元への抵抗としては、悪くないだろう?」

 

「……私に聞かないで」

 

「会話を楽しむこともできないのかい? 数年間、一緒にやってきた仲だというのに……。……それでは、私は少し席を外すよ。観測者の哀れな魔女に、翼を無駄使いしてくれたお礼をしないといけないからね」

 

「……」

 

「――ソフ。私が戻るまでに、アリウス自治区の根源を書き換えてきなさい」

 

「……っ。……分かった」

 

「よろしい。――君たちの努力次第で、私の月面計画は大いに進行するだろう。……この身体を取り戻したいなら、計画を急ぐことだな」

 

 

 

 







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