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――トリニティ大聖堂
アリウス自治区で発生した事件から数日後、シスターフッドが主な活動拠点としているこの場所で、とある儀式が行われていた。
「遺体が無いため、形だけとはなりますが……これより、告別式を執り行います」
今回の事件で生まれた悲劇。たった一人の戦死者。自信を犠牲に幻想体を使い、最後まで戦い抜いた勇気ある仲間。
一色アマノの葬儀が、大聖堂で行われていた
「いやまぁ、私は生きてるっすけどね」
「目の前で肉体を砂にした奴が言っても、説得力がないけどな」
「うん? ……私って、砂になったんすか?」
"……そう言えば、黄昏の金槌? を持った所までしか覚えてないんだっけ"
「そうっすね。その後はこの前話した通り、夢の中で連邦生徒会長とお話ししてきたっす」
「それ、本当に夢なのか?」
「た、多分? ……私にもよく分かんないんですよね」
"……みんなには謝ったの?"
「い、いやぁ……ははは。い、今更謝りにくいといいますか……ここまで大事になるとは思わなかったといいますか」
「むぅ……。良い機会ですから、アマノちゃんはみんなに謝ってくるべきです!」
「ちょっ、アロナ先輩!?」
(ピピッ)
大聖堂の端。儀式の邪魔にならない場所にいた先生とローランだったが……シッテムの箱から追い出されたのか、二人の間にもう一人の少女が現れた。
「いや……え? こ、この状態で謝りに行くんすか……?」
"……お葬式、始まっちゃったね"
「……こっちの世界ではこんな形で死者を弔うんだな」
"その言い方だと、都市では違うやり方だったみたいだけど?"
「いや……そもそも、都市では悲しむことはあっても儀式として弔うことはなかったからな。……というか、死人が多すぎてこんな大規模な儀式をやってたらキリがない」
"……そっか"
「いやぁ、私も告別式に参加するのは初めてっすけどね。それも自分の葬式とか、想像もしてなかったっす」
「生きてる……って言って良いのかは分からんが、確かにおかしな話だな」
"み、見方によっては生前葬に見えなくも……ない……かな?"
「生前葬?」
"あ、えっとね。生前葬って言うのは――"
三人が話している中、告別式は順調に進んでいった。シスターフッドの全メンバーが集まり、演奏者がオルガンを奏で、黙祷を捧げる。……遺体が無いとはいえ、棺も用意された立派な葬式は、滞りなく進んでいた。
――シスターサクラコが、静かな会場で話し合う先生たちに視線を向けるまでは
「……あの、先生。式の最中はどうかお静か……に……」
いくら端に居るとはいえ、静かな会場……それも大聖堂のような密室では、話し声も気に障るだろう。内容までは聞き取れなかったが、儀式の妨げになると思ったサクラコが先生へと視線を向けると……そこには存在しないはずの生徒が居り、何やら楽しそうに話をしていたのだ。
「……え? せ、先生……? そちらの方は……」
理解不能な現象を前に言葉を失う。普段のサクラコからは考えられないような態度に、参列していたシスターフッドの生徒たちは、一斉に先生の居る方へと視線を向け――
――皆、言葉を失った
"……あ。……お葬式を中断しちゃってごめんね、サクラコちゃん"
「え……いえ、あの……そうではなくて……」
「……アマノ。良い機会だから謝ってこい」
「りょ、了解っす。……あー、えっと……すね。無事に帰ってきたといいますか……い、今まで黙ってて申し訳ないっす!!」
「「「「「……アマノさん(隊長)!?」」」」」
"……私達は先に帰ろうか"
「だな。気が済めばアマノも帰ってくるだろ」
「と言いますか、今のアマノちゃんがシッテムの箱の外に居られる時間は、長くても24時間程度ですので」
「それは、あれか? 時間が過ぎたら勝手に戻ってくるのか?」
「そうですね! アマノちゃんのデータはシッテムの箱の内部に保管されていますので……制限付きの復元である以上、時間が過ぎればどれだけ離れていても強制的にシッテムの箱へと戻されます!」
"そっか。……やっぱり、完全に生き返らせてあげることは出来ないんだね"
「元々死んだと思ってたんだ。時間制限があるとは言え、こうして一緒に居られるだけマシなんじゃないか?」
"それはそうだけど……"
「それに、アイツはそれだけの覚悟で幻想体を使ったんだろ?」
"……そう、だね。…………よし! 帰ろうか!"
★★★★★
――連邦捜査部シャーレ
アマノの葬儀から帰還したローランと先生は、エデン条約や翼についての情報をまとめ、トリニティにいる間に対応できなかった仕事を終わらせていく。
「……先生」
"うん?"
「こっちの仕事は一通り片付いたから確認を頼む」
"オッケー"
「それから……暫く席を外させてもらう」
"何処かに行く予定でも出来たの?"
「あー、いや……一度図書館に戻るつもりなんだ。翼や残響楽団……この世界での経験を報告しようと思ってな」
"……そう言えば、館長に言われてこの世界に来たんだっけ?"
「まぁ、そうだな。都市の苦痛を取り除く方法についてはまだ見つけられていないが、近況報告もかねて戻るつもりだ」
"そっか。……うん、行ってらっしゃい"
「アロナとアマノが居るから大丈夫だとは思うが、あまり無茶な事はするなよ?」
"だ、大丈夫だよ! ……多分"
「はぁ……。……まぁ、そう言う訳だから、あとの仕事は頼む」
"了解。それじゃあ、またね"
「――あぁ、またな」
挨拶を済ませたローランは、この世界に来る際に渡された招待状を開封し――
――現れた扉を潜り抜けた
★★★★★
「っと、無事についたみたいだな」
扉を潜り抜け、図書館へと辿り着いたローランを迎え入れるかのように、
(パチンッ!)
フィンガースナップの音が鳴り響く。聞き慣れた音に懐かしさを感じつつ、視線を上げたローランだったが……出迎えたのはローランが予想もしていない人物だった
「お帰りなさい、ローラン」
「随分と遅い帰還だな」
「アンジェラに……ホクマー? ……お前が出迎えてくれるなんて珍しいな」
「……ローラン。お前には、話しておかなければならない事がある」
「話しておかなければならないこと?」
「そうだ」
「その内容について、私以上に詳しいのがホクマーだからここに呼んだのよ」
「アンジェラ以上に詳しいだと? ……一体何について話すつもりだ?」
「……」
「……取り合えず、場所を変えるわよ」
(パチンッ!)
再度鳴り響くフィンガースナップの音。場所を変えると言ったアンジェラが転移した先は、ホクマーが指定司書を務める宗教の階であった。
「……これから話すのは、私が信じる者についての話だ」
「お前が信じる者……?」
「前に話しただろう。他の皆とは異なり、私だけが追随したロボトミーの設立者……アンジェラの生みの親である」
「――アイン」
「……! ……カルメンの名前は憶えていたが、アインの名前はすっかり忘れてたよ」
「それについては確認済みだ。あの宗教施設で修道女から聞いた名前に、お前は反応を示さなかったからな」
「……もしかして、シスターフッドのサクラコのことか? ……というか、やっぱり覗いてたわけね」
「向こうの世界の情報については、本を通じて全員で視ていたわ。……色々と言いたいことだらけだったけど」
「……まぁ、あの世界には翼や幻想体も居るみたいだしな」
「他の翼については然したる問題ではない」
「……問題なのは、アインが本の中の世界でL社を設立していたことよ」
「そんなに問題なのか?」
「……」
「そうね………何を企んでるのか分からないけれど、酒の肴に世界を観測していたネツァクが素面に戻るほどの衝撃といえば……それがどれだけの問題か伝わるかしら」
「……大問題じゃねぇか」
ネツァクが素面に戻るほどの問題と言われれば、否が応でもそれが一大事であると理解できるだろう。自分がキヴォトスで代理人をしている間に、そんな面白い光景になっているとは思いもしなかったローランだが――
――目の前にいる二人の表情を見れば、それがどれだけ深刻な問題なのかは直ぐに分かった
「これから貴方には、アインがどういう人物なのかを話すわ。……それを踏まえたうえで、もう一度あの世界に行って貰うのだけれど」
「まぁ、あの世界に行くのは構わないが――」
「ローラン。お前には一冊の本を回収してもらう」
……
「……聞き間違いか? ……本を回収するだと?」
「いいえ、聞き間違いではないわ」
「……また誰かを殺すのか?」
「この場合、その言葉は適切ではないな。……これから本にする相手は、」
――お前が子供達と共に廃墟から連れ帰った機械だ
「…………は?」
「……ローラン。貴方はもう一度あの世界に赴き――」
――天童アリスという本を回収するのよ
~vol.3 T区 エデン条約編 完~
今話をもちまして、エデン条約編は完結となります!
次回からの本編は、時計じかけの花のパヴァーヌ編2章へと移行いたします!
引き続きお楽しみ頂ければ幸いです!
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