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アリスの暴走から三日。
その間、破壊されたヴェリタスの部室の修理は問題なく進み、セミナー及びC&Cによる情報統制の結果、謎の機械の秘密に関しては完全に秘匿されることとなった。
アリスの暴走は無かったこととして処理され、部室の破壊についてはエンジニア部協力の元、彼女達の実験によるものとして片付けられた。
――死者0名、重傷者1名
ミレニアムが受けた損害に比べれば、この程度の被害で済んで良かったと喜ぶべきだろう。
"……モモイちゃんの容態はどう?"
「何とか一命は取り留めましたが、意識の回復は見られず……」
"……そっか。……忙しい中、無理に呼び出してごめんね。セリナちゃん"
暴走したアリスの攻撃を受け、意識を失ったモモイ。C&Cが到着し、周囲を制圧した後、直ぐにシャーレの医務室へと運び込んだものの、早急に処置を施さなければ手遅れになってしまう程の重体であり……、どうにか出来ないかと考えを巡らせた結果、
――エデン条約の際に打ち込まれたアンプルを思い出した先生は、直ぐに救護騎士団のセリナへと連絡を取ったのだ
「いえ、必要であれば何時でも呼んでください。私達組織は、シャーレの意思を最優先に行動致します」
"……うん。……ありがとう"
「……お礼は言わないで下さい。……先の条約の際に使用したという事もあってか、アンプルの持ち出し許可が降りず……不甲斐ないばかりです。都市の技術の隠匿が重要なのは分かっていますが、必要な時に使えないと言うのは……」
"ううん。……十分過ぎるぐらい助けられたよ。セリナちゃんの処置がなかったら、手遅れになってたと思う"
「先生……」
"……あの場に居た私が守るべきだったんだ。……それなのに、何も出来ず、ただこうして他の生徒に頼ることしか出来ないなんて……"
代理人が居てくれれば、アリスちゃんの暴走を止められたかもしれない。図書館の力があれば……どんな傷でも治すことが出来る銃があれば――
――私に、E.G.Oがあれば……
"…………。……こんな考えが浮かぶ時点で、先生失格だよね"
「……そんな事、言わないで下さい。先生のおかげで、救われた生徒も沢山います。エデン条約の時だって、先生が居たからこそ締結出来たのです。……自信を持って下さい。貴女は――」
――
"……"
「それに……先生にはまだ、やるべきことがある筈ですよ」
"……うん。そう……だね。……ありがとう、セリナちゃん"
「……困った時は何時でも呼んでください。貴女のセリナが、何時でも駆け付けますので」
"あはは……。じゃあ、困った時は頼らせてもらうね"
「はい! ……っと、どうやら他の生徒さんがいらっしゃったみたいですので、私はこの辺りで。またトリニティに遊びに来てくださいね、先生!」
(ヒュン)
病室に響く空間跳躍の音。気配を察知してかセリナが病室を後にした直後、病室の扉が開かれた。
「……先生。お姉ちゃんの様子は……」
「モモイ……」
心配そうに病室へと足を運んだミドリとユズ。緊急治療という名目で、今日まで先生以外の立ち入りを禁止していたということもあってか……今にも泣き出しそうな表情でモモイを見つめる二人。
"大丈夫。傷の手当は済んでるから、後は目を覚ますまで待つだけだって"
「そ、そうですか。……お姉ちゃん」
「よかった……。……あ、あの、先生」
"……ユズちゃん?"
「アリスちゃんが……」
"……"
★★★★★
「……意識が入れ替わるのには、何か条件があるのかしら」
「さぁな。俺はてっきり、アリスの意識はもう戻ってこないものと思っていたが」
「あくまでも主人格はアリスという少女のものなのであろう」
病室を離れ、アリスが待つゲーム開発部の部室へと向かった先生。その様子を図書館から観測していた3人は、アリスが元の状態に戻っていることに、疑問を抱いていた。
「……と言うか、貴方はまだ行かないのね」
「こういうのはタイミングが重要なんだよ。立場を利用する以上、情報は多いに越したことは――」
「……ローラン?」
「……前言撤回だ。――この展開は悪くない」
――調月リオ
彼女がゲーム開発部の部室を訪れ、アリスと明確に敵対したこのタイミング。シャーレの代理人としてキヴォトスを守る為という理由を付けながら、アリスの身柄を抑えることができるこの瞬間こそ、ローランが待ち望んでいたものであった。
「当初予想していたアリスの2回目の暴走は起きなかったが、これはこれで都合が良い」
「私たちもそちらに伺う準備をしておこう」
「頼む。……それじゃあ、行ってくるよ」
「えぇ。……行ってらっしゃい、ローラン」
「……あぁ」
★★★★★
「アリス。あなたは勇者ではなく、魔王よ」
ゲーム開発部を訪れたリオによって告げられた対処法。暴走を未然に防ぐ為、二度目の暴走を引き起こさせない為の計画。極めて合理的で、感情を抜きに見ればこれ以上無い程の最善手。
――アリスが暴走する可能性があると言うのなら、誰の手も届かないところで殺せばいい
「ア、アリスは……」
"……やめて、リオちゃん"
「やめる? なにを?」
"もう少し、言い方を考えて欲しいな"
「先生。……貴方がそうやって問題を先延ばしにしたからこそ、今回の悲劇が起きたのではなくて?」
"それは……"
ゲーム開発部がアリスを廃墟から連れ帰らなければ、こんな悲劇は起きなかった。……そう訴えるリオに対し、返す言葉が見つからない。
「爆弾は安全な場所で解除するべき。そうでしょう、先生」
"リオちゃん……! ……それ以上の言葉は、許せないよ"
「……私の言動が不愉快ならば、幾らでも謝罪するわ。その程度のことで脅威を排除できるなら……皆を守れるなら、構わないわ」
"……"
「こ、こんな時、お姉ちゃんなら……」
「そのモモイがアリスの手によって倒されて、妹である貴方は何も思わなかったのかしら?」
「……っ」
「……無駄話はここまでにしましょう。……さぁ、貴方の出番よ」
――美甘ネル
「……」
部室の扉を蹴り開け、両手に携えたサブマシンガンをアリスへと向けるネル。感情を殺し、ただ与えられた任務のためだけに動く、セミナー直属のエージェント。
C&Cの部長として、リオの命令には逆らえない。
「……!」
「ネル……先輩……」
"ネルちゃん……?"
「C&Cのリーダー、ネル相手ではいくら先生でもゲーム開発部だけでは抵抗出来ないでしょう?」
"……"
「それに、不安要素であったシャーレの代理人も居ないみたいだし、素直に諦めた方が効率的ではなくて?」
"……"
「さぁ、仕事の時間よ。ネル、アリスを回収してくれるかしら?」
リオの無機質な視線がネルを貫き、命令を与える。アリスへと構えたサブマシンガンの引き金に指を添え、
「……だぁぁぁぁぁ! くっそ、やってられっかよ!!!」
(ダダダッ!)
咄嗟に銃口をリオへと向け直し、引き金を引く。セミナーの会長であるリオの命令を裏切り、二丁のサブマシンガンからばら撒かれた無数の銃弾がリオの身体を貫く瞬間――
「――事情は全部、観させて貰った」
(キンッ)
部室内に風が吹き荒れる。飛んできた銃弾は風に巻き上げられ……ローランが取り出したデュランダルによって、切り払われた。
「……貴方は――」
「だ、代理人さん……?」
「……!」
"代理人……?"
ばら撒かれた銃弾を全て弾き飛ばし、デュランダルの切っ先をネルへと構えるローラン。
「……この世界に戻って早々、こんな目に会うとはな。……ただいま、先生」
"あ、うん。おかえり……? ……って、そうじゃなくて!"
「事情は大体分かってるよ。……アリスがモモイを撃ったんだろ?」
「あ、アリスは……」
確認の為、アリスへと視線を向けたローラン。自身の銃弾が切り伏せられ、まるでリオを庇うかのように立つローランを見て、即座に立ち位置を認識したネルはサブマシンガンの銃口をローランへと向け――
「――っ、くそっ、あたしの邪魔をするんじゃ――」
「――悪いな、美甘。……暫く寝てろ」
ようとした所で、それよりも速く動き出したローランがゼロ距離まで接近し――動揺するネルの胴体を殴り抜いた。
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