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神秘を持つ生徒は、自身を害する特異点に対して抵抗を持つ。
これは1部の人間しか知らない事実。そも、害のある特異点を相手にした事がある生徒の方が珍しいだろう。
素質、相性、神秘の総量――
個人差はあるが、神秘を持つ生徒は特異点への特攻を持つ。……今重要なのは、この個人差の部分だ。
アリウススクワッドを例としよう。彼女達はR社の持つ特異点に対して完全に抗うことは出来なかったものの、他のアリウス生徒と比べて特異点への耐性が高く、その結果もあってか自我が崩壊していない個体を生み出すことに成功した。
もう1つ例として、小鳥遊ホシノと銀鏡イオリを挙げよう。銀鏡イオリに関しては二重解釈の影響も考えられるため、一概に神秘の恩恵とは言い難いが――
――小鳥遊ホシノは違う
E.G.Oを発現する程の精神力に加え、黒服が目をつける程の神秘を持つ彼女は、T社に攻め入った際、特異点の影響を受けず、影響を受けている相手に対しても、まるで受けていないかのように相手取っていた。
この例では神秘の総量が多いから対抗出来たと思われるかもしれないが、それだけが理由だと言い切れるものではなく、特異点への耐性は何かしらの要因による個人差と考えるのが良いだろう。
……その上で、1人。今この場にいる生徒の中で唯一、彼女だけがT社の特異点の影響を受けずにいた。
いや、正確に言うのであれば受けてはいるのだろう。……だが、他の生徒よりも影響が少ない事はすぐに分かった。
"……確かに、何も代償が無いのはおかしいとは思ったよ"
「先生……」
"……でも、今確認する術がない以上、申し訳ないけれど後回しにさせてもらう"
「……」
"もしもトキちゃんの言ってる事が本当だとして、この拳銃を使う事で苦しむ生徒が居るのなら……後で当事者に謝罪するよ。…………だけど"
――それはそれで、これはこれだから
"確認しようの無い事に悩むだけ時間の無駄。生徒が1人殺されそうになっているのに、足踏みしている余裕は無いの!"
「……それが貴女の考えですか」
"……うん。……先生失格かもしれないけど、手の届く範囲にいる生徒を救えなかったら、もっと遠くにいる生徒なんて絶対救えないからね"
「……良い……考えだと思います。大人らしい……先生らしい答えだと思います」
"……ありがとう"
「……ですが、ここから先へは行かせません。リオ様の考えだけが正しいとは言い切りませんが……少なくとも、後の事を考えず、リオ様の意思を踏みにじろうとしている貴方達には――」
――絶対、負けません
「何度でも、幾度でも……私が勝てるまで……納得するまで立ちはだかりましょう」
"トキちゃん……"
「――戦闘を再開。先生、貴女が時間を巻き戻すよりも早く、決着を――」
「……させないっ!」
(ドンッ)
鳴り響く爆発音。先生とトキのやり取りに耳を傾けていた一同の横を、1発の榴弾が……有り得ない速度で通り過ぎていく。咄嗟に回避しようとアビ・エシュフを動かしたトキだったが、倍の速さで動く彼女の移動先を潰すかのように、放たれた榴弾が爆発した。
「へ……? ゆ、ユズ?」
「あ、当たった……?」
「……うん。その……い、言いづらいんだけど……私にはトキさんが速く動いているように見えなくて……いつも通り撃てば当たるかなぁって……」
「いやいやいや! 私からしたら、ユズも有り得ない速さで動いてるんだけど!?」
「これはもしや……遅くされる能力には個人差があるのでは?」
「可能性はあるね」
「十中八九、その通りだろうね。現状では、彼女だけがこの能力に耐性を得ているみたいだ」
"……代理人が言ってた特異点への耐性って、これの事だったんだ"
――ヘイローが切り札になる
ホシノちゃんの協力のおかげでT社を折れたって言ってたけど……ホシノちゃんだけが特別だった訳じゃなくて、ヘイローのある生徒なら個人差はあるけれど、ある程度特異点への耐性を持っているって事なのかな。
……だとしたら、トキちゃんに勝てるかもしれない
"みんな! ユズちゃんの援護を――"
(ピピッ)
シッテムの箱から鳴り響く通知音。黄金銃を構えたまま、シッテムの箱へと視線を移した先生は、そこに表示されている文字に笑みを浮かべた。
「……まさか、特異点に対抗出来る生徒が居るなんて」
飛んでくる銃弾を躱し、攻撃対象をユズに絞り狙いを定める。今この場において、最も警戒するべき相手であるユズを倒しさえすれば、特異点の影響下にある他の生徒達など造作もないと、鷹を括ったトキだったが、
――その慢心は、1発の銃声によって掻き消された
「やれ、ヒヨリ」
「は、はい!」
(パンッ)
意識外からの狙撃。
「なっ――! 一体、何処から……」
「も、目標命中しました」
「行くよ、サッちゃん」
「あぁ……出し惜しみは無しだ」
「私はヒヨリと一緒に援護するから、巻き込まれないでよね」
(ガコンッ)
砂時計が破壊されたことによって、眼前にいる生徒達が特異点の影響を受けなくなった事を確認したサオリは、アツコと共にE.G.Oを発現。
顕現した二振りの蒼い両手鎌を握りしめたまま、アツコが開いた白い棺桶へと飛び込んだ。
「じゃあ、行ってくるね」
サオリの入った棺桶を背負い、身の丈以上の白い十字架を背負ったアツコは、両脚に神秘を込め跳躍――
――眼前にいるトキへと一瞬で近づき、全力で殴り抜いた
「――ッ、貴方達は……」
「サッちゃん! 今!」
「あぁ! 分かってる!」
(ガコン!)
意識外からの強襲に驚きつつも、咄嗟にアビ・エシュフの武装でアツコの十字架を防いだトキだったが、アツコの背中から飛び出したサオリの斬撃までは対処出来ず――
「――取った」
アビ・エシュフの装甲ごと、右腕を斬り飛ばされた。
「な、何!? 新手!?」
「ヒッ……う、腕が……」
「だ、だれ……?」
斬り飛ばした右腕に追撃をかけるよう動いたアツコが、地面に転がる右腕へと十字架を振り下ろし、
――跡形も残らないほどぐちゃぐちゃに磨り潰す
K社の化け物と言う、特異点を利用した前例を目にしていた2人にとって、千切れた右腕が襲ってくるかもしれないという危機感からの追い打ちであったが……傍から見れば狂人の行動でしかない。
斬り飛ばされた右腕をおさえ1歩下がったトキを追撃するかのように、狙撃銃の弾丸が放たれ、クラスター弾が降り注ぐ。痛む身体を無理やり動かし、避けようとしたトキだったが……完全に躱し切る事は出来ず、多数の傷跡が付けられた。
"ちょっ……やりすぎ! 2人ともやり過ぎだから!"
先生の言葉を聞いたサオリは、ハンドサインで攻撃を中止するよう2人に伝え、右腕をぐちゃぐちゃに潰していたアツコは、首を傾げながら振り返り、返り血を拭いながら笑顔で先生の側へと駆け寄った。
「アリウススクワッド各員、救援要請に応じて現着。これより、先生の指揮下に入る」
「久しぶり、先生」
"いや……うん。救援を要請したのは私だけど…………やり過ぎ"
正直、ドン引きである。
百歩譲って……いや、一億歩ぐらい譲って右腕を斬り飛ばした事までは理解出来る。攻撃手段を奪うのは、戦闘の定石だろうから。……だとしても、斬り飛ばす必要があったのかは分からないが……。
だけど、千切れた右腕をぐちゃぐちゃに磨り潰すのは理解出来ない。潰す度に辺りに血が飛び散り、鉄臭さが広がるからやめてもらいたい。
「……っ、巻き戻しを――」
撃ち抜かれた砂時計は利用できないが、T社の製品はアビ・エシュフだけでは無い。残った左腕を使い、懐から取り出した懐中時計を握りしめる。
――途端、斬り飛ばされた右腕が、まるでそんな事実は無かったかのようにアビ・エシュフの装甲事……
「……K社の再生か?」
「違う。……あれは多分、時間を巻き戻してる」
「……T社の連中か」
「たぶんね」
"り、理解が早くて助かるけど……"
「あれはもしや、代理人の言っていた……」
「固有武器……」
「E.G.Oというものだろうか! ……君たち! ぜひその武器を隅々まで私に見せてくれないだろうか!」
……
「……? 別に、構わないが……」
「? 見せてもいいけど、先にあっちをどうにかしないと」
アツコが構えた十字架の先、時間を巻き戻し無傷の状態に戻ったトキは、すぐさま砂時計を反転させ周囲の時間を遅らせた。
「……時間が、経ちすぎましたね。現状、過去に戻ったとしても先生が到着したという結果よりも前には戻れないでしょう。……やられましたね、これは」
"トキちゃん……"
「……ですが、まだです。アビ・エシュフによる時間遡行は使えませんが、それ以外なら問題なく使えます。……見たことのない装備に対応が遅れましたが、アビ・エシュフが学習した今、同じ攻撃が二度通じるとは思わないことです」
アビ・エシュフの武装を両手に持ち、目の前に現れたサオリ達へと構える。アビ・エシュフの強みは何もT社の特異点だけではない。驚異的な演算能力と身体能力の補助が主な機能であり、T社の特異点はあくまでおまけに過ぎない。
一度受けた攻撃を即座に学習し、二度受けることはない。
本来であれば一撃目で破壊される可能性がある為、そこまで万能な能力ではなかったものの……巻き戻しによって負傷を治せる現状では、最強の力と言っても過言ではないだろう。
"もう、やめようよ。これ以上戦っても――"
「もう勝ったつもりですか?」
"違うよ。……時間の巻き戻しは、痛みも取り除いてくれるのかもしれないけど――"
――記憶は残り続けるんだよね?
「……」
"痛かったっていう感覚は残ってるんでしょ……?"
「……それが、なんだと言うんですか。……その程度の事で私が諦めるとでも思ったのですか?」
"そうじゃな――"
「それに」
"……"
「現状不利なのは、先生方の方だと思いますよ」
"何を……"
「先生。私のアビ・エシュフの演算結果は、私の勝利を示しています。……貴女の指揮を受けた生徒では、私には勝てません」
"そんなことは……"
「6人」
"え……?"
「先生が指揮できる生徒は、最大6人まで。それ以上の生徒を指揮しようとすると、100%の力を発揮できない。……違いますか?」
"……"
シッテムの箱を用いた戦闘指揮。先生にのみ許された戦術。アロナの高速演算によるバックアップによって、先生の指揮を受けた生徒は100%の力を発揮できる。……だがそれは、6人までだ。それ以上の生徒を同時に指揮しようとすれば、アロナの処理が追い付かず、100%の力を発揮できなくなってしまう。……いや、それどころか先生の指揮が生徒の足を引っ張ることになるだろう。
「私を相手に10人の生徒を同時に指揮することは不可能。……それは先生が一番分かっているのでは?」
"……そうだね。トキちゃんの言う通り、私が同時に指揮できるのは6人が限界だよ"
……確かに、アロナの演算能力を頼りにした戦闘指揮は6人が限界だ。
「分かっているのであれば――」
"……だけど"
「……?」
"今の私には、頼りになる高性能なAIが二人いるんだよね"
(ピピッ)
「つまり、アロナ先輩の演算処理を私が請け負えばいいって話っすよね!」
「私とアマノちゃん。二人分の演算処理能力があれば……そうですね!」
――
才羽モモイ
才羽ミドリ
花岡ユズ
白石ウタハ
豊見コトリ
猫塚ヒビキ
錠前サオリ
秤アツコ
戒野ミサキ
槌永ヒヨリ
アマノとアロナによる並行演算。アロナ1人で行っていた高速演算を、アマノと共に行うことで対応可能人数を増やし、通常では出来ない高度な戦闘演算を行う。アマノがAIとなり、シッテムの箱に常駐することになったからこそ可能な――
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