黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~交差~ 要塞都市の伝令

 

――制約解除

 

 

本来であればアロナ1人が演算処理を行い、アマノは万が一の際の護衛としてシッテムの箱の中に待機すると言う役割分担を行っているが、アマノを護衛ではなく演算処理の追加要員として扱う事で、一時的に6人と言う制約を超えた戦闘指揮を可能とする技術。

 

シッテムの箱の全リソースを演算処理に回すため、アマノの護衛は疎かアロナによる銃弾の無効化をも機能しなくなると言う諸刃の剣。

 

あまりにも危険な為、本来であれば安全が確保された場所で使うべきだが――

 

 

 

「アツコ、先生の身柄を頼む」

 

「うん。先生、この中に入って」

 

 

 

(ガコッ)

 

 

 

アツコが背負っていた白い棺桶を開き、先生に入るよう促す。アツコのE.G.Oである白い棺桶は、中に人が入っても問題ない事は飛び出したサオリのおかげで証明されているが……

 

 

 

"こ、これに入るの……?"

 

 

 

それがE.G.Oであると理解はしていても、進んで棺桶に入りたがる生者は居ないだろう。

 

 

 

「うん。外に居るより、安全だから」

 

"……あ、あんまり気は進まないけど……分かった"

 

 

 

いそいそとアツコの背負う白い棺桶へと入った先生。その様子を確認したアツコは棺桶の蓋を閉め、白い十字架をトキへと構えた。

 

 

 

"……あ、意外と快適…………じゃなくて! み、みんなの指揮は私がするから!"

 

 

 

通信機越しに聞こるそんな声に一瞬気が緩んだ生徒達だったが、すぐに気を引き締め、自身の獲物をトキへと構える。

 

 

 

「……まさか、この人数を指揮出来るというのですか」

 

"普段は6人までが限界だけど……一時的に10人までなら……ね"

 

「……」

 

 

 

10対1

 

 

 

いくらアビ・エシュフが優れたスペックを有していようとも、この人数差では流石に分が悪い。1度受けた攻撃を即座に学習し、2度受けないと言うチートのような性能をしていても……相手が10人となれば手数はほぼ無限と言って差し支えないだろう。

 

 

 

「……この程度、障害にもなりません。私は……私は、リオ様の為に……貴方達をここから先へと進ませる訳にはいかないのです」

 

"トキちゃん……"

 

「アビ・エシュフの全リミッターを解除。戦闘時間300秒を上限とし、全余剰エネルギーを演算処理機能へ。……指定時間までに敵目標の殲滅を実行」

 

 

 

――アビ・エシュフ、戦闘……開始!

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「リミッター解除?」

 

「……アビ・エシュフに搭載された安全機構をパージする事で、演算及び運動機能を飛躍的に向上させるシステムよ」

 

「……それ、大丈夫なのか?」

 

「……」

 

 

 

無論、大丈夫な訳が無い。超がつくほどの功利主義であるリオですら、その機能の搭載を躊躇った程、使用者を傷つけるシステム。

 

 

最大多数の最大幸福を実現する為なら、小を切り捨てる覚悟がある。

 

 

と言うのは……口にするのは簡単だが、生徒が背負うには重すぎる代物だ。

 

 

 

リオとて、今はまだ守られるべき子供なのだから――

 

 

 

「……まぁ、都市の中でも比較的まともな部類のアイツが向かっているんだ。そう悲惨な事にもならないだろ」

 

「そう……だと良いけれど」

 

 

 

ローランとリオが見つめるモニターには、先程から変わらずトキが10人の生徒に一方的に蹂躙される様子が映し出されていた。

 

血を流し、苦痛に顔を歪めるトキの様子をただ見ていることしか出来ないリオは、表情にこそ出さないものの……無意識に握りしめた拳からは、皮膚に突き刺さる爪によって血が滴っていた。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「――っ、私は負けられない。負ける訳には、行かないのです」

 

 

 

銃撃、斬撃、打撃

 

先生の指揮によって、最適な攻撃を繰り出す生徒達。常識外の機動力を持つアビ・エシュフに、初めのうちこそ翻弄されたものの……

 

 

 

(ダダダダダダッ)

 

 

 

"モモイちゃんとミドリちゃんはそのまま射撃を維持! エンジニア部のみんなは散開しつつ囲み込んで! スクワッドのみんなは――"

 

 

 

状況に応じた的確な指示と、2人の優秀なAI達によるアビ・エシュフをも凌駕する演算によって、数秒後の未来を予想。多少の傷は負ったものの、10人を相手に同時に指揮を取ると言う荒業は、トキの想定を大きく上回り――

 

 

 

着実に追い詰めていく

 

 

 

「――っ、損傷重大。エネルギー残り30%。……1度時間を巻き戻して体勢を――」

 

「させると思うのか?」

 

 

 

過去に遡り損傷を巻き戻そうと、懐中時計を取り出したトキだったが……そんな隙をR社の孵化を終えたサオリ達が見逃す訳もなく、

 

 

 

(ザンッ!)

 

 

 

自身のE.G.Oである蒼い大鎌。その刃渡りを瞬間的に延長させる事で、重さに翻弄されること無く、最大の威力を持って放つことの出来る斬撃。

 

当然、武器のリーチが変化するなど想像も出来なかったトキにとって、その一撃は想定外のものであり……咄嗟に反応する事出来ず、手に持っていた懐中時計を真っ二つに切断されるのであった。

 

 

 

「しまっ――」

 

"――今だよ! ネルちゃん"

 

 

 

11人目の生徒。先程までアビ・エシュフとの戦闘によって負傷し、倒れて居たフリをしたネルが咄嗟に跳ね起き、トキへと急接近。

 

両手に構えたサブマシンガンをゼロ距離で撃ち放った。

 

 

 

「オラオラオラァ! どうした! この程度かァ!?」

 

「……!? あれだけの負傷を負って、まだ動けるのですか……!」

 

「ハッ、十分休ませてもらったからな! これだけ休めれば、あの拳銃がなくたって自力で動けるんだよ!!」

 

 

 

(ダダダダダダッ)

 

 

 

「くっ――アビ・エシュフの行動パターンを……」

 

「遅せぇ!! アタシを相手に呑気に演算出来ると思ったのか!?」

 

 

 

(ダダダダダダッ)

 

 

 

「――っぁ、ぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

(バンッ!)(バンッ!)

 

 

 

起死回生の一手。両手に構えていたアビ・エシュフの武装をパージし、軽量化した機体で即座に距離を取るトキ。後数秒判断が遅れていたら、銃弾の雨に負け気を失っていた事だろう。

 

 

 

「はぁっ……はぁ……ぁ」

 

「チッ、マジかよ。自分ごと武器を爆破させてまで距離を取るか普通?」

 

「……」

 

 

 

両腕、損傷。必要量以上のエネルギーを武装に流し込む事で、余剰エネルギーが溢れ暴発。パージとは言ったものの、その実態はただの自爆に他ならない為、それ相応のダメージを受けたものの――

 

 

 

――距離というアドバンテージを得ることに成功したのだ

 

 

 

「まぁ、お前のその気合と根性は認めてやる。自爆なんてのは並大抵の精神力じゃ出来ねぇよ」

 

「……っ」

 

「だけど、ここまでだ。悪いが、あのチビは返してもらうぞ」

 

 

 

身体中の至る所に傷を造り、アビ・エシュフによる人体の負荷を無視した行動によって与えられたフィードバックをもろに受け、息も絶え絶えな様子のトキ。

 

……に対して、同じく負傷を負ったままでありつつも、ある程度の休息によって息を整えることに成功したネルが、トドメを刺さんと両手のサブマシンガンをトキに突きつけ、引き金を――

 

 

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 

 

 

 

 

――引き金を、引くことは出来なかった

 

 

 

予期せぬ方角から飛来し、地面へと突き刺さった大剣。銃火器を主に取り扱うキヴォトスにおいて、あまり見ることの無い近接武器。その異端さと、自分達の視覚外から飛来した一撃に、アリウススクワッドの面々は警戒心を高めた。

 

 

 

「うひゃぁ!? な、なに!?」

 

「大剣……?」

 

"近接武器……って事は――っ皆んな! 注意して!"

 

 

 

近接武器。キヴォトスにおいてそんなものを振り回すのは、趣味にしている生徒か――

 

 

 

――都市からやってきた大人しか居ない

 

 

 

「大丈夫ですか? トキさん」

 

「なぜ、貴方が……リオ様の警護は……」

 

「それなら黒い沈黙が…………シャーレの代理人が務めてますよ」

 

「……そう、ですか」

 

「はい。……そして、トキさん。あなたもリオさんの警護に向かってください」

 

「いえ、私は……!」

 

「その体では、満足に戦えないでしょう? ――ここから先は、僕が引き継ぎます」

 

 

 

地面に突き刺さった身の丈以上の大剣を引き抜き――

 

 

 

――柄に付けられた時計のスイッチを押す

 

 

 

そのまま2()()()()()()()、大剣を構えた。

 

 

 

「で、ですが――」

 

「トキさん」

 

「……」

 

「これは、リオさんからの指令です。――後は僕に任せてください」

 

「……承知しました。……ヤンさん、この場をお願いします」

 

「はい、任されました」

 

 

 

スイッチを押された時計の針が回転する。止まることなく、常に一定の速度で動き続ける時計の針。戦う為の武器である大剣にそんな装飾を施す理由は分からないが――

 

 

 

――時間に関するものに苦しめられた彼女達が警戒するには、十分な理由であった

 

 

 

「また時計か。それに……ヘイローが無い」

 

「……都市の大人かな」

 

 

 

「……さて! 自己紹介がまだでしたね。僕の事はヤンとお呼びください」

 

"ヤン……さん"

 

「呼び捨てで構いません。……棺桶の中にいる方。貴女が彼女達を率いる先生ですか」

 

 

 

アツコの背負う棺桶から、顔だけを出した先生は、目の前に立つ大人へと視線を向ける。

 

 

 

"……そうだよ。……そういう貴方は、私達の敵でいいのかな?"

 

「えぇ、その認識であっていますよ。あなた方はリオさんの計画を阻止したく、僕はリオさんに拾って頂いた恩を返す為に、あなた方と戦わなければなりません」

 

"……"

 

「先程の戦闘を見させて頂きましたが、貴女は優れた指揮能力をお持ちのようですね。……でしたら」

 

 

 

――僕と彼女達の戦力差も、分かっているのでは?

 

 

 

"……"

 

「僕が言うのも何ですが、勝ちの目の薄い戦闘は、控える事を推奨しますよ」

 

 

 

これは自惚れではなく、警告である。人数差だけを見れば、11対1という構図ではあるものの――

 

 

 

 

 

 

――ヤンの奇襲に誰一人反応出来なかった時点で、力量差は明らかだった

 

 

 

 

 





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