黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~指令~ ヤン・ヴィスモク

 

 

 

僕は都市によって生かされてきた。

恵まれた訳では無いが、それでも確かに幸せな日々を送っていた。

 

 

――あの指令が来るまでは

 

 

最初の指令で僕は両親を殺した。そうしなければ人差し指の庇護下に居られないから……殺した。

 

それからだった、僕の人生が都市によって……指令によって支配されたのは。

 

 

――指令を達成しなければ人差し指の庇護を得られず、代行者に処刑される

 

 

これは人差し指における絶対のルールであり、一見すると訳の分からない指令もあるが……結果としてその全てが人差し指の利益となるのだ。

 

 

 

「モノローグに耽ってるところ悪いんだけど、この場所もそろそろ閉館だよ?」

 

 

 

あの日、あの場所で、人差し指が持つ特異点と指令の正体を知った僕は――

 

 

 

「あれ? 聞こえてないのかな?」

 

 

 

 

 

 

――うるさい

 

 

 

 

 

 

「なんだ聞こえてるじゃん。もう残ってるのは君ぐらいだよ?」

 

 

 

コイツと出会った。

 

招待状を受け取り図書館へと向かった僕は、彼らに殺され本に変えられた。元々不思議な場所ではあったが、殺した相手を本に変える技術は初めて見たし……まさか僕自身が本に変えられるとは思ってもいなかった。

 

本の世界は想像よりも快適だ。自由に動けないことを除けば、本の外……図書館で起きる出来事を観測できた為、飽きることもなかった。

 

唯一不満をあげるとすれば、僕を怪物へと変貌させた女が視界にいることだろうか?

 

 

 

「いやいや、私は何もしてないよ。怪物になったのは君が都市の現状に耐えられなかったからであって、それを私のせいにされてもな~」

 

 

 

……コイツの言う通り、僕は指令の真実に耐えられなかった。あんな残酷な指令の正体が、都市の人々の願いだとは思わなかった。それじゃあまるで……

 

 

 

……まるで、僕の両親の死が望まれていたみたいじゃないか

 

 

 

「ねぇ~、君もあの都市へと帰る事になるんだけどさ、君はまた人差し指の傘下に収まるの?」

 

 

 

――僕はもう二度と、人差し指には関わらない

 

 

 

「じゃあどうするの? 君がこのまま都市に帰ったら、人差し指に連れ戻されると思うけど」

 

 

 

怪物になったからこそ、分かった事がある。……指令は、確かに都市の全てを知っていた。指令は都市に住む全ての人の生活によって作られている。

 

……管理されない自由を求め、行動し、残酷な運命を回避しようと努力したが……結局、その全てが無駄であったと思い知らされた。

 

 

 

――それならば、

 

 

 

「僕は都市には帰らない。全ての行動を都市の指令に管理されると言うのなら、いっそ外郭に……」

 

「おっけー! まぁ、何となく君ならそう言うと思ったよ」

 

「……」

 

「それじゃあ、もっと良い場所に送ってあげる。……ちょうど向こうの私から招待状も届いていたしね

 

「もっと良い場所……?」

 

「都市どころかこの世界とは全く異なる、別の世界……」

 

 

 

――有り得たかもしれない未来の世界にね

 

 

 

「未来の、世界?」

 

「そう。子供が統治する子供の子供による子供達の為の楽園。全ての子供が可能性と言う殻を持ち、それぞれが大人になる為の生活を送る世界」

 

 

……

 

 

「……っは、はは。……そんな世界があるなら、行ってみたいですね。誰にも管理されず、自分の意思で生きていける世界……」

 

「まぁただ、その世界に行くには自身の殻を破る必要があるんだけど――」

 

 

 

――今の君には関係ない話だったかな

 

 

 

「……E.G.Oですか」

 

「話が早くて助かるよ。……そう、E.G.O。君も図書館の様子を見ていたなら、それがどういうものかは知っているよね?」

 

「……お前に唆され、怪物へとねじれた僕に、今更何を――」

 

「――君、E.G.Oを発現しているよね?」

 

「……」

 

「隠さなくていいよ。というか、私に隠せると思ってるの? 私とこうやって会話出来てる時点でおかしいと思わなかった?」

 

「……」

 

「どうやっても、君の根底には指令があるんだね。まぁ、君のE.G.Oに関しては指令と言うより戒めに近いのかもしれないけど」

 

 

 

本にされ、図書館を観測していたある日――気がつけば発現していた。都市を恨み、指令を憎み……そして思い至ったのだ。

 

 

 

――都市の人々が僕を縛るなら、僕も都市の人々を縛り付けてやろう

 

 

 

都市が出す指令よりも先に、僕が指令を出してやる。行く先々で人々に送り付けられる指令を片っ端から否定する。指令が未来を予測して内容を書くなら、その予測した未来よりも先に未来を観測して、真逆の指令で都市の意思をねじ伏せる。

 

 

 

 

 

 

――これは僕に向けた、僕だけの指令だ

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「……サッちゃん、気を付けて。あの大人……多分E.G.Oを発現してる」

 

「……やはりか。何となくだが、私や姫に似たようなものを感じていたが……」

 

 

"E.G.Oを発現してるだって!?"

 

 

 

都市でも珍しいとローランは言っていたが、姉御のような例がある以上、E.G.Oを発現した大人が他にも居ることは予想出来た。……できたが、その人物がまさか目の前にいて、ましてや対峙する事になるとは思わなかった。

 

 

 

「エゴ? それって、前に代理人が変形して遊んでた大剣だよね?」

 

「私に似たって……もしかして、あの人も十字架みたいな特別な力を持ってるんですか?」

 

「ヒッ……お、大人、知らない人……」

 

 

……

 

 

「気づかれましたか。……仕方ありません、奥の手は隠しておきたかったのですが――」

 

 

 

(カチリッ)

 

何処からか響く歯車の噛み合う音。目の前に立ちはだかるヤンへと視線を向けていた一同は、鳴り響くの歯車の音……その音源を辿るように視線を移し――

 

 

 

――その視線は、ヤンの左手に握られている杼へと辿り着いた

 

 

 

【紡織者の左腕】

 

 

 

握られた杼から突然、膨大な量の糸が溢れ出し、ヤンの姿を包み込んでいく。数秒後、糸が解かれた先には無数の糸を手繰り寄せ、その糸で編んだであろう布を左手に持つヤンが立っていた。

 

 

 

【代行者の右腕】

 

 

 

都市から持ち込んだ人差し指の大剣に、リオから貰い受けたT社の装置を取り付けた武装。スイッチを押された時計の針が、チクタクと音を鳴らしながら回転し続ける。

 

 

 

 

「――トキさんに習って、僕も初めから全力で相手しましょう。貴女方は、言葉だけでは止まりそうにありませんから」

 

 

 

続いて3回。右手に握りしめた大剣を、威嚇するかのように素振りする。

 

 

 

 

"……っ、みんな気を付けて! あれがE.G.Oだとしたら、どんな攻撃が来るか――"

 

 

 

「しゃらくせぇ! どのみち、チビが殺されるまでの猶予はねぇんだ! ……最速でぶちのめす!」

 

 

 

両手に構えたサブマシンガンを乱射し、高速でヤンへと接近するネル。ヘイローを持たないとは言え、E.G.Oの危険性については代理人のおかげで嫌という程身に染みていたネルは、全力で攻撃を続け――

 

 

 

――違和感に気がついた

 

 

 

(なんだぁ? 銃弾を避けようともしねぇ……いや、それ以前に)

 

 

 

――私の銃弾は、どこに消えやがった?

 

 

 

その違和感に気がついたのは、何もネルだけでは無かった。シッテムの箱を通じて戦況を把握していた先生もまた、ネルの攻撃がヤンに当たる直前で何処かへと消えた事に気がついていた。

 

 

 

"(消えた? ……いや、違う。理由もなく銃弾が消える訳ない。……かといって、銃弾を防ぐような事も――)"

 

 

 

――違う

 

 

 

一つだけ、不思議な行動があった。……その行動自体は特段珍しいものでも無く、誰でも取り得る行動だが――

 

 

 

"ネルちゃん! 1回下がって! 恐らく、さっきの攻撃が残ってる!"

 

 

 

言葉にすると意味の分からない内容であり、この場にいる全員がその意味を理解出来た訳では無い……訳では無いが、同じ違和感を抱いていたネルは、先生の伝えようとしている言葉に意味を読み取っていた。

 

 

 

「――っ! そういうことか!」

 

 

 

――跳躍!

 

伊達にC&Cのリーダーとして戦場に立っていた訳では無い。咄嗟の判断力と記憶力は並大抵のものではなく、彼女は彼女自身が豪語する程――

 

 

 

――接近戦を得意としているのだ

 

 

 

「……っ、この世界の子供特有の身体能力には、驚かされますね。この装置についても一目で看破するとは」

 

 

 

素振りに見せ掛けた攻撃を行い、自分自身を守るようその場に斬撃を配置していたヤン。自身の攻撃をまさか初見で対応されるとは思っていなかったヤンにとって、ネルの判断力と反射能力、先生の洞察力は賞賛に値するものだった。

 

当たる直前で跳躍し、目に見えない筈の斬撃を、あたかも見えているかのように躱すネルに驚きつつも――

 

 

 

「驚きはしましたが、ここまでです。――美甘ネル」

 

「あぁ? てめぇ、なんであたしの名前を――」

 

 

 

ネルが言葉を言い切るよりも早く、左手に握っていた布をネルに突き付けるヤン。……その布には刺繍のような形で文章が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

【指令:美甘ネルへ、一切の移動を禁止する。期限は1分間】

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

突き付けられた布に刻まれた文章を見て、意味が分からないと首を傾げたネルは、目に見えない斬撃を跳躍して躱し――

 

 

 

「指令を無視しましたね?」

 

 

 

目の前へと常識外の速さで移動したヤンによって、付近のビルへと斬り飛ばされた。

 

 

 

"ネルちゃん!!"

 

 

 

その見た目からは想像も出来ない程の、尋常ならざる筋力によって斬り飛ばされたネルは、手加減されたのか真っ二つにこそならなかったものの……叩き付けられたビルが陥没するほどの威力を持った斬撃を喰らい――

 

 

 

 

 

 

――ヘイローが……消えていた

 

 

 

 

 

 

「まずは1人。子供を殺す趣味はありませんが、傷を負う覚悟ぐらいはしておいて下さい」

 

 

 

 

 





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