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ヤン君のE.G.Oに関してですが、見た目のイメージとしては……ねじれたヤン君の右腕と左腕を、そのまま篭手として装着している姿をご想像下さい。
指令による対象への行動阻害。
ヤンの望むままに、対象へと指令を発行し強制する。……無論、指令に絶対従わなければならないと言う訳では無いが――
「さてと……諦めて引き返しませんか? 今ならまだ、あの人のような大怪我をせずに済みますよ」
指令を達成出来なかった場合、代行者の右腕がヤンの意志とは関係無く、自動的に対象へと狙いを定め――大剣による攻撃が行われる。
大剣を2度素振りし、切っ先を向ける。カチカチッと鳴り続ける時計の音が、静かな戦場に鳴り響いた。
"――っ、……みんな、下がって攻撃を続けて。サオリちゃんとアツコちゃんは――"
「うん。私たちが攻め込めば良いんだよね?」
「さっきの攻防である程度は理解した。……アツコ、仕掛けるぞ」
二振りの大鎌を握りしめ、設置された斬撃の軌跡を意識しながら、ヤンへと襲いかかるサオリ。周囲に設置された斬撃を斬り捨て……その斬撃のあまりの軽さに驚きつつも、ヤンへと距離を詰め――
「――甘いですね」
いつの間に織ったのか、ヤンが左手に握った1枚の布……そこに記された内容を目にして、振り被った大鎌を咄嗟に手放した。
【指令:錠前サオリへ、ヤン・ヴィスモクへの一切の攻撃を禁止する。期限は30秒】
「何故、私の名前を――ッ」
「指令は何でも知っているのですよ」
「……っ」
「ですが、咄嗟に武器を捨てたのは良い判断でしたね」
――斬られる
そう思い身構えたサオリだったが、一向に攻撃する気配のないヤンに不信感を抱きつつも、攻撃を禁じられた自分ではアツコの邪魔になるだけだと悟り、咄嗟に距離を取った。
「……指令に従った相手には攻撃出来ないのか?」
「さぁ、どうでしょう? たまたま貴女を攻撃しなかっただけかも知れませんよ?」
「……? ……攻撃しない事に何の意味が――」
「意味ならありますよ」
(カタカタカタカタカタッ)
左手に握られた杼が空を描き、数秒もしないうちに糸を束ね布へと編み込んでいく。
異様な音を奏でながら高速で紡がれる指令
その余りの速さに反応出来なかった一同は、次は自分が狙われるのでは無いかと警戒し――
――その予想を、ことごとく裏切られた
【指令:ヤン・ヴィスモクへ、銃弾に対する一切の回避を禁止する。期限は1分間】
★★★★★
「アイツ……E.G.Oを発現したのか」
「エゴ?」
「あー、いや……気にしないでくれ」
監視カメラを通して戦闘の様子を伺っていたローランは、人差し指のヤンがねじれではなくE.G.Oを用いている事に疑問を抱いていた。
「……へぇ。随分と便利な武器を作ったものだな。人差し指の指令に加え、あの大剣がアイツのE.G.Oか」
「……さっきから言っているE.G.Oというものが何かは知らないけれど、あの武器に着いている装置は私が渡したものよ」
「……そうなのか?」
「えぇ。アビ・エシュフ製作の過程で余った製品を、少し弄って彼が使い易いように調整したの」
「調整って……マジか」
翼の製品、それも特異点と密に関わるような物に手を加える奴など、余程の自信家ぐらいしか居ないだろう。
――攻撃を行った時間を保存し、その場に残し続ける装置
リオがヤンの為に調整したT社製品による恩恵は、その仕様を知らなければ対処のしようがないものであったが……
「……流石は先生と言ったところかしら。こうも簡単に対応されるとは思わなかったわ」
「……いや、俺でもアレに初見で対応出来るとは思わないから、もっと自信を持って良いと思うぞ」
「……そう」
実際、残る斬撃の対処など、都市の人間……並大抵の羽やフィクサーでは不可能だろう。ましてや指令と組み合わせるともなれば、特色でも対応には手を焼くであろう。
「まぁ、アリウススクワッドまで来るとは思っていなかったが、この様子ならアイツ1人でも問題は――」
――ない
と、そう言い切ろうとしたローランだったが、その言葉はモニターに映し出された1人の生徒の登場によって、覆されるのであった。
★★★★★
"自分の行動に制限を……?"
相手に対し半強制的に行動を指示できるもの。……ヤンの用いるE.G.O、指令とはそう言うものだと認識していた先生にとって、自分自身に指令を出すというヤンの行動は、理解出来なかった。
「よく分かんないけど、銃弾を避けないならチャンスじゃん!」
「……1分間は、攻撃し放題?」
「し、指令? を使うために必要な行動、なのかな……?」
この機会をチャンスと捉えるゲーム開発部。ヤンの指令が言葉通りなら、確かに今は絶好の攻撃タイミングと言っても過言では無いだろう。
「いや、罠でしょ。ヒヨリ、攻撃しないでよ」
「わ、分かってますよ。さ、流石に怪しすぎます」
「……サッちゃん、大丈夫?」
「……あぁ。私は平気だ」
に対して、より一層警戒を強めるアリウススクワッド。普通に考えて、対象を制限する能力を自身に使う理由がない。あるとすれば、相手に指令を使う為には、定期的に自分へと指令を出さないといけないという制限があるか――
――自分に指令を出すことで、何かしらの恩恵を得られるかのどちらかだ
「先生、私たちは彼女の介抱に回ろう」
「あの大人の機械も気になるけど、流石にC&Cをこのままにはしておけないかな」
「えぇ! 彼女たちは我々にお任せください!」
"……うん。それじゃあ、みんなとネルちゃんの様子を見てあげて"
「あぁ、任せたまえ」
「ついでに、リオ会長が送り付けてきた機械も調べよう」
「少々時間は掛かるかもしれませんが、我々エンジニア部にお任せください! C&Cの皆さんが目覚めるまでには、あのアヴァンギャルド君を調べつくすと約束しましょう!」
「――それじゃあ、さっそく向かおうじゃないか」
「「了解!」」
"……き、機械が本当に大好きなんだね。…………さてと"
――1分
あの指令通りなら、あと数十秒は銃弾を避けないということになる。……なるが、果たして本当に攻撃して良いのだろうか?
ネルちゃんとサオリちゃんの例を考えると、指令に従う限りは攻撃されず、指令に逆らうと驚異的な力で攻撃される筈。この場合は、指令の対象は目の前のヤンという事になり、もしも指令に逆らうようなことがあれば……
"あーーーー!!"
「「「「「「「!?」」」」」」」
"考えてても仕方ない! みんな、あの人を攻撃して!"
ええぃ、やってみなければ分からないんだ! それならみんなに攻撃して貰った方がいいでしょ! ……多分!
「ほ、本当にいいのか? 罠の可能性も――」
"大丈夫! そもそも、情報が無さすぎてろくな対抗策も思い浮かばないし……"
「だが――」
"それに! ……私たちには、時間が無いの。お願い、サオリちゃん"
「――承知した。ヒヨリ、撃て」
「わ、分かりました」
(ダンッ!)
戦場に響く1発の銃声。その音を皮切りに、生徒達は一斉にヤンへと攻撃を仕掛けた。多数の銃弾が飛び交う中、自身に対し指令を使ったヤンは……
「確かに回避はしませんが、防がないとは一言も言ってませんよ」
飛んでくる銃弾を全て、斬り払った。
「えっ……」
それは誰の声だっただろうか。荒れ狂う銃弾の嵐、その尽くを斬り飛ばし、事前に設置していた斬撃で防でいくヤン。T社の製品やE.G.Oの力があるとはいえ、その常人離れした戦闘センスに一同は目を奪われた。
「30秒。これで私も攻撃に――ッ」
指令が指定したヤンへの攻撃不能時間、その30秒が経過し……新しく鎌を作り出したサオリは、ヤンへと攻撃を加えようとして――
――身体の違和感に気がついた
「……? いつもより軽い。いや、それどころかさっきまでの疲労感が――」
「サッちゃん? 大丈夫?」
「……対象の行動を制限する指令。違反者に対する驚異的な攻撃。……だとすれば、指令に従ったものには――」
「リ、リーダー……?」
「……そういう事か。……先生、気がついた事がある」
"気がついた事?"
「あぁ。これはあくまで私の推測だが……あの大人が使うE.G.O、それに記された時間、指令の内容に従えば何かしらの恩恵がある」
「……どういう事? リーダー」
「私の場合、さっきまでの疲労感が無くなっている。……いや、それどころかいつもより身体が軽いぐらいだ」
「えっと……つまり、あの指令? に従えば良いことがあるってことでしょうか?」
「恐らく。……ただ、もしこの推測が正しいのなら――」
――1分
ゲーム開発部及び、アリウススクワッドが攻撃を続けたが……指令に指定された1分という時間が経過するまでの間、ヤンに対して回避行動をとらせることは出来なかった。
"……相手にも、良いことが起きるって事だよね"
「その通りです。……まさか僕の武器だけに留まらず、E.G.Oの能力まで完璧に推測されるとは、恐れ入りました」
"そう言うってことは……"
「ご想像通り、指令に従ったものには恩恵があります。それは勿論――」
――僕自身も、例外ではありません
★★★★★
――トリニティ総合学園・正門前
「お待ちしておりました、ノアさん」
「お出迎えありがとうございます。早速で申し訳ないのですが……」
「存じております。それでは、クラス4管理室までご案内しますので手を離さないでくださいね」
「分かりました。……直接翼と関連する事ではないのに、お力をお借りし申し訳ありません」
「いえいえ、気にしないで下さい! 生徒の命に関わることであれば、都市に関係なくとも協力し合う。――その為の組織ですから」
「……そう、でしたね。ありがとうございます、セリナさん」
「はい! ……それで、えっと、一応確認なのですが――」
――今回使用されるのは、沈黙の対価でお間違いないでしょうか?
「はい。お伝えした通り、沈黙の対価を持ち出させて頂きます」
「分かりました。……その、完全記憶能力を持つノアさんに言う事でもないとは思いますが――」
「使用前にエンサイクロペディアの閲覧、ですよね」
「すみません……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。そう言う規則ですので。管理用タブレットをお貸しいただけますか?」
「はい。それでは準備が整い次第クラス4管理室へと跳ばせていただきます。その後は――」
「その後は、私の指定する座標に跳ばしてください。セリナさんの能力に関するお礼は、解決後必ず支払わせて頂きますので」
「かしこまりました。それでは、お気を付けて」
トリニティの正門前にて、話し込んでいたノアとセリナ。滅多に訪れることのないミレニアムの生徒ということもあってか、周囲の視線を集めていた二人は……
(ヒュン)
トリニティの生徒たちが瞬きをする間に、その場から姿を消していた。
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