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「1分。……さて、今度は僕の方から動きましょうか」
飛んで来る無数の銃弾を斬り払っていたヤンは、自身に指令を課してから1分が経過したのをきかっかけに……先程まで取っていた防御行動を止め、右手に握った大剣を肩に担いだ。
「チャンス! これでもくらえーーー!」
「倒す……!」
「……どうして、防ごうとしないんだろう」
(ダダダダダダッ)
そんな隙を逃さず、攻撃をし続けるゲーム開発部。指令の恩恵とヤンの言葉に警戒心を高めるアリウススクワッド。
一同が目の前にいるヤンに注目し――
"銃弾が、当たってない……?"
――奇妙な現象を目の当たりにした
「嘘!? な、なんで当たんないの!?」
「絶対当たってる筈なのに……!」
「弾が……逸れてる?」
全く避けようとすらせず、かといって防ごうとする訳でもない。そんな状態だからこそ、チャンスだと思った一同だったが……棒立ちのまま銃弾の雨に晒されているにも関わらず、一切傷を負う気配のないヤンに言葉を失った。
「……回避不能に対する恩恵は、銃弾に対する絶対回避ですか。……予想通りですね」
笑顔を浮かべ一歩ずつ近づいてくるヤン。銃弾が効かないことに気がついたサオリとアツコは、目の前に大人を止められるのは、近接武器を持つ自分達だけだと理解し――
「サッちゃん! 合わせて!」
「心得た!」
全速力でヤンへと接近するアツコ。ヤンの攻撃がアツコに向かないよう、両手に握り締めた大鎌を神秘を込めた全力で投擲。銃弾よりも高速で迫り来るサオリのE.G.O、こんなものを受ければタダでは済まないと思ったヤンは、右手に握りしめた大剣で大鎌を弾き――
「重っ……い!」
――弾き切れなかった
ヤンのE.G.Oである代行者の右腕は、紡織者の左腕が紡いだ指令に背いた者に対して、絶対的な攻撃力を誇るものである。ヤンの指令に逆らった者に対して発揮される攻撃力は、その気になればローランの大剣をも一撃で真っ二つに斬り裂ける程の、絶対的な威力を発揮するが――
だがそれは、あくまで指令に背いた者に対してのみ発揮される。
ただでさえ神秘という、自身の身体能力を向上させる術を持つことに加え、R社の孵化をも終えたアリウススクワッドが相手だ。……更には指令を達成した事による恩恵によって、30秒間並外れた身体能力を発揮するサオリの一撃は――
――今のヤンでは、防ぐだけで手一杯であった
「アツコ!」
「これで――っ!」
サオリが投擲した大鎌を大剣で受け止め、何とか防いだヤンだったが……一息付く間もなくアツコのE.G.Oである十字架が身に迫る。
「っ――良い連携ですが、この程度の攻撃であれば対処は……!」
サオリの大鎌に比べ明らかに攻撃速度の遅い十字架。サオリと違い、R社の孵化を受けていないアツコでは、いくら神秘が込められているとはいえ、元人差し指であるヤンが対応出来ない程のものではなく――
「
「なに――を……っ」
アツコの神秘を吸収し、白く発光した十字架。サオリの大鎌を防ぎ……その勢いのまま、アツコの十字架を左腕に握った杼で弾こうとしたヤンは――
「私のE.G.Oに、触れたね?」
――全身の力が抜けたかのように膝を着き、アツコのE.G.Oによって殴り飛ばされた
「よくやった、アツコ」
「ううん、サッちゃんのおかげ」
「え、えっと、倒せたのでしょうか?」
「……少なくとも、無事では無いと思うけど」
アツコのE.G.Oである白い棺桶は、1度中に入るとアツコの許可なく出られないと言う代物であり、白い十字架は――
――触れた対象の力を吸収する効果を持っている
"す、凄いね、アツコちゃん"
「つっよ! え、あの大人倒しちゃったじゃん!」
「先生、今のうちに」
「い、急いでアリスちゃんの所に行かないと」
ビルへと殴り飛ばされたヤンを見て、チャンスは今しかないと思った一同は、中央にあるタワーへと走り出した。相当威力があったのか、叩きつけられたビルから一行に出てくる気配がないヤン。……そんな様子を後目に、大急ぎで走り出した一同は――
――向かう先から聞こえる時計の音に、足を止められた
「……今のは、痛かったですね。T社の製品が無ければ、僕は倒されていた事でしょう。お見事です」
傷一つなく、立ち塞がるヤン。傷どころか戦闘によって着いた服の汚れまでも消えているのに気がついた一同は、ヤンが時間を巻き戻したのだと思い至った。
「ちょ、なにそれチートじゃん!! ズルいよ!!」
「ちーと……? ……よく分かりませんが、あなたがたも時間を巻き戻す装置を持っていますよね? それなのに、僕だけズルいと言われても困ります」
「うぐっ……それは、そうだけど! ボスが全回復するのは卑怯でしょ!?」
「……えっと、すみません。ボスというならリオさんの方が相応しいのでは?」
……
絶妙に嚙み合わない会話を繰り広げるモモイとヤン。平然を装ってはいるものの、モモイ達の表情は芳しくない。……だがそれも、仕方のないことだろう。
ゲームで例えるのなら、めちゃくちゃ強力なギミックを何とか乗り越え、やっとの思いで追い詰めたボスが何度でも全回復して立ち向かってくるようなものだ。
モモイがヤンのことをチートと言う気持ちも分かるだろう。
「さてと、これ以上あなた方を野放しにしても碌なことにならないと思うので、この辺りで終幕としましょうか」
ヤンの左腕に握られた杼が高速で動き、指令を紡ぎあげる。咄嗟に銃口をヤンへと向けるが……引き金を引くよりも早く、指令が完成していた。
【指令:ヤン・ヴィスモクへ、一切の移動を禁止する。期限は1分間】
「この指令の意味、皆さんなら分かりますよね? 今なら僕は動けませんから、リオさんの元に行くチャンスですよ」
――これは、罠だ
"みんな騙されないで。今ここであの人を……どうにかあの場所から動かさないと、取り返しのつかないことになる"
サオリが受けた指令……それを達成した時の恩恵は、攻撃力の向上だった。
ヤンが受けた指令……それを達成した時の恩恵は、銃弾に対する絶対回避だった。
"指令を達成した時の恩恵は、指令の内容に比例しているんだと思う。だからもし、一分以内にあの人を動かせなかったら――"
――常識外の速度で、蹂躙される
「……棺桶の中の先生。やはり、貴女が一番の脅威みたいですね。貴女ほどの判断力と指揮能力を持つ人は、都市でも数えられる程度しか居ないと思います」
"……そう"
「はい。……それでは、全力で僕を動かしてみてください。最も、そう簡単にできると思わな――」
(ヒュン)
「――いいえ。貴方を動かすだけでしたら、とても簡単に出来ますよ」
背後から聞こえる、聞き覚えのない声。鳴り響く鐘の音。咄嗟に振り返った一同が目にしたのは……黒いフードに身を包み、
「……え、誰?」
「いや、お姉ちゃん。ノア先輩でしょ」
「ノ、ノア先輩。そ、その姿は……」
驚くのも無理はないだろう。明らかに異質な姿、この世界では滅多に見ることのない近接武器。似たような光景を先ほどから嫌という程目にしている彼女たちは、それがE.G.Oであると理解できた。
"二人とも、来てくれたんだ!"
アツコの棺桶から響く先生の声に、一瞬ぎょっとしたものの……無事であると判断し笑顔を浮かべる二人。
「はい! お久しぶりです、先生! ……っと、それではノアさん。後のことは――」
「はい、お任せください。ここまでありがとうございました、セリナさん」
(ヒュン)
特徴的な空間跳躍の音が鳴る。一瞬のうちに姿を消したセリナに驚きつつも、今はそんなことよりも目の前の大人を動かさなければいけないと考え、武器を構えた一同。
「……どなたか存じませんが、僕を動かすのが簡単と言いましたか?」
「はい。とても簡単ですよ、ヤン・ヴィスモクさん」
「……!」
「名前を知られていて驚きましたか? ……そうですね、図書館を観測していたのは貴方だけではないと言えば、伝わりますか?」
「……なるほど。……どうやら、今一番脅威なのは貴女かもしれませんね」
「ふふっ……そうですね。それでは手始めに、貴方を動かしましょうか」
右手に大鎌を構えたノアは、空いた左手を懐に入れ……取り出した
――瞬間
「なっ……」
「これで、貴方は指令を破りましたね」
まるで吸い寄せられるかのように、叩きつけられた収束共鳴器*1へと引き寄せられたヤン。突然の現象に驚きつつも、自身の目の前に迫る大鎌の一撃へと大剣を振り下ろし、その勢いのまま後方へと距離を取った。
「えっ、何今の!? ノア先輩そのアイテム何!?」
「ふふっ、秘密です。……さてさて、指令を生み出せる貴方自身が指令を無視した場合、どのような罰則を受けるのでしょうか」
移動を禁止する恩恵。ネルが同じ指令を受けた時は、指令を無視した結果……ヤンの大剣によって斬り飛ばされた。もしも同じ罰則を受けるのなら、右腕で自分自身を攻撃することになるが――
「――っ、……これは、なるほど。……残念ながら、僕の負けみたいですね」
――行動不能
自主的に動かないのではなく、動こうとしても動けない。ノアが振るった大鎌を防ぐために振り下ろした大剣が最後の行動であり……距離を取ってから指先一つ動かないのだ。
先ほどネルが一撃で倒されたのは、受けた大剣の威力が高かったというのもあるが……行動不能によって碌に受け身を取ることすらできなかったことも、理由の一つだろう。
「……どうやら、指一つ動かせないみたいですね」
「……そうですよ。そのせいで、時間も巻き戻せないですし……どうぞ、先へお進みください」
「やけに素直ですね?」
「まぁ、時間は十分稼がせていただきましたから。僕の役目は十分果たしたでしょう」
「……」
「それに、僕も好きであなた方を攻撃していた訳ではありませんから。……殺すなら、今のうちですよ」
「……私も別に、あなたを殺したい訳ではありませんよ。そもそも――」
――あなたをこの都市に招いたのは私達ですから
「……はい?」
「あなたを含め、図書館の本にされていた方々をこの世界に招いたのは……私たち組織が持つ、特異点の力です」
……
「……アイツの言っていた招待状とは、まさか――」
「……」
「……もしそれが本当ならば、僕はあなた方に感謝したいですね」
「事実ですよ。ローランさんも、私達が誘致した都市の方々のうちの一人です」
「……リオさんはこの事を――」
「知りません。……この事実は、組織に関係のある人間と今この場にいる方々だけの情報ですから」
「……」
「最も、リオ会長はこの会話も聞いていると思いますが……。……リオ会長、それに皆さんも。一応言っておきますが組織について探ろうとはしないでくださいね。――身の安全を保証できませんので」
突然始まった二人の会話に一切ついていけない一同だが、その会話内容があまりにも物騒であり……自分たちが気軽に触れてはいけない内容であることだけは察することが――
「都市とか組織とか、何を言ってるのか全然分かんないんだけど……!」
「「……」」
「アリスを追うチャンスってことだよね! ノア先輩ありがとー!」
全く動こうとしないヤンを目の当たりに、一目散に中央タワーへと走っていくモモイ。
「ちょっとお姉ちゃん!」
「モモイ……」
そんなモモイの様子に呆れつつも、どうしたら良いかとノアと先生に視線を向ける二人。
「……先に行ってください、先生。私はこの方に用がありますので」
"……分かった。……みんな走るよ! ノアちゃん、ありがとうね!"
「了解。私たちも先を急ぐぞ」
「うん。……先生、一旦降ろすね」
「分かった」
「い、急がないとですね」
"守ってくれてありがとう、アツコちゃん"
白い棺桶を降ろし、E.G.Oを解除したアツコ。少しでも体力を温存しておく為か、サオリも同様にE.G.Oを解除し、モモイの後を追いかけるのであった。
「……さて、あなたの指令が解けるまでの間、少しお話しませんか?」
「……いいですよ。……あなただけ残ったということは、他の方々には話せない内容なのですよね?」
「はい。……まどろっこしいお話は苦手ですので、単刀直入に言いますね。……ヤンさん」
――翼に対抗する為……私たち組織に、力を貸してくれませんか?
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