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武器を手放し、怯えたように震えるアリウススクワッド。突発的な反応に驚きを隠せない一同だったが……驚いているのはローランも同じだった。
「……は? ……いや、お前ら何があった?」
反応を見るに、自身が使っているE.G.O……静かなオーケストラの防具に忌避感があるみたいだが……理由が分からない。ローランにとってもこのE.G.Oは、嫌な記憶を思い出すからあまり使いたいものではないのだが……ここまで怯えられる理由が本当に分からない。
「え!? 代理人が理由なんじゃないの!? なんかこの人たち、すっごい怯えてるんだけど!」
「えっと、代理人さんのその服……? が嫌みたいなんですけど……」
「ま、前に使った……とか?」
いまいち要領を得ない反応に、お互い頭を悩ませたが……その悩みは、突如として鳴り響いた電子音と、その直後シッテムの箱から飛び出し……ローランへと斬りかかった存在によって、かき消された。
(ピピッ)
「代理人! それ、静かなオーケストラっすよね!? 流石にそれは反則じゃないっすか!?」
シッテムの箱から飛び出すと同時に、構えた2本の刀をローランへと振るう。咄嗟に人形の斧で迎え撃ったローランは、アマノの口から出た静かなオーケストラという言葉に驚いた。
「知ってるのか? ……ってことは、こっちの世界でもコイツが収容されてるのか」
「その幻想体がアリウス分派に何をしたのか、マジで知らないみたいっすね……。収容は……
……
「……色々と聞きたいことが増えたが……お前が相手なら手加減はしないぞ」
殺さないようにと力を加減していたが、アマノが相手なら話は別だ。物理的に死ぬことがなく、シッテムの箱へ強制的に帰還されるだけの存在なら……容赦はしない。
「"音楽がお前の全てを貫くだろう"」
――詠唱
それによって齎される、E.G.Oの特殊能力。ローランの詠唱を起点に、指揮棒から虹色の五線譜が溢れ出す。
「そ、れはちょっと洒落にならないっすよ!?」
静かなオーケストラ、その特異性について把握しているアマノは、虹色の五線譜を目にして慌てたように攻撃の手を速めた。
"みんな! 今のうちにアリスちゃんを!"
シッテムの箱から飛び出した人間に驚いた一同であったが、ローランと正面から渡り合うことなど出来ないと思っていた彼女たちにとって……この機会は絶好のチャンスだった。
激化する戦闘を横目に、アリスのもとへと駆け寄るゲーム開発部。目の前の光景にトラウマを刺激され、まともに動くことのできないアリウススクワッド。
そして――
――絶好のチャンスが来たと思い、コユキはリオへと襲い掛かった
「にはははは! 借金のせいで私が負った苦痛を、リオ会長にも味わってもらいます! 手足を千切られたときは、ほんっっっっっとうに痛かったんですからね!!」
E.G.Oで生み出したトランプを構え、全力でリオへと投げつけたコユキ。今日の調子が絶好調であると分かっていたコユキにとって、その攻撃は絶対に避けられないものであると確信していたが……
「甘いな」
その考えは、ローランが投げつけた人形の斧によって、トランプごと真っ二つに切り裂かれた。
「えっ……なんでぇええええ! なんで当たるんですか!? 今日の私、絶好調なんですよ!?」
「だから、慢心するなって言ったんだ」
絶対に防げるはずのない攻撃。確率が1%でもあれば、E.G.Oの力でそれを100%に変え、確実に命中させることができる……筈だった。……いや、間違いなく命中率は100%に変わっていただろう。ローランが防ぎさえしなければ、リオがどれだけ避けようとしても確実に、命中していただろう。
「黒崎。悪いがお前のE.G.Oの能力は学習させてもらった」
「はい!?!?」
「お前の攻撃が絶対に当たるというなら、俺の攻撃も絶対に当たる。お前がどんな攻撃でも避けれるというのなら、俺もどんな攻撃でも避けられるだろうな」
「ちょっ、ちょっと待って――」
「絶対に当たる俺の攻撃と、どんな攻撃でも避けられるお前。……二つの確率がぶつかったらどうなるか――」
――試してみるとするか
"……あれって……指揮棒? それにあの、五線譜は……"
「――! みんな! 耳を塞ぐっすよ!!」
アマノを蹴り飛ばし、指揮棒を空いた右手に持ち直したローラン。アマノの警告にみんなが反応するよりも速く、
――演奏を、始めた
壊れたものたちから、世の中で一番美しい演奏が始まる。ローランの振り上げた指揮棒が、水色の輝きを放ち……音楽を響かせた。
――演奏時間、僅か5分
直接心に響くような演奏が始まった瞬間、誰もがローランの指揮棒に目を奪われ……武器を手放し、狂信するかのように呆然と立ち尽くしている。咄嗟に耳を塞いだアマノと、シッテムの箱の防護によって守られている先生、それから……
事前に外部の音を遮断するよう伝えられていたリオとトキだけが、狂気的な惨状を見つめていた。
「痛い痛いイタイ! なん、なんですかこれ!? 頭が……っ、割れそうなんですけど!!」
……訂正しよう。もう一人、E.G.Oの特殊能力自体は相殺されたものの、自身の殻であるE.G.Oを身に纏っていたおかげか、コユキもローランの演奏に耐えていた。
「……耐えたか。……だけど悪いな、演奏はここからが本番――」
(ザンッ!)
ローランが言葉を言い切るよりも早く、E.G.Oを発現させたサオリが大鎌をローランへと振り下ろす。まともに動けなかったサオリによる攻撃は、ローランの意識外だったということもあってか、
――演奏を中断することに成功した
「はぁっ……ぁ……!」
「……よく動けたな。正直、演奏を止められるとは思っていなかったぞ」
「……アツコを、ミサキを、ヒヨリを……っ、これ以上苦しませるわけには、いかない」
「精神力だけで耐えたのか? ……いや、その傷は……お前、まさか――」
「……その音楽に、私達は散々苦しめられたからな。……対策、したまでだ」
過去、静かなオーケストラの演奏によって正気を失い、子供達同士で殺しあったり、首から上を失くした者達を……嫌という程見させられたサオリは、二度と同じことが起きないようにと、対策を考えていた。正直、こんな所で……ましてや代理人が同じことをしてくるとは思っていなかったから、トラウマを刺激され初動こそ遅れたものの……
――最適解を取ったサオリによって、惨劇は食い止められた
「……鼓膜を破ったのか? お前、俺の声も聞こえていないだろ……」
「……あぁ。聞こえないな。口の形で何を言っているのかは理解できるが、それだけだ。かなり痛いが、あの音楽を聴き続けて、アツコ達が苦しみ続けるよりはマシだ」
耳からの流血が地面を濡らす。攻撃の根源が音だと言うのなら、物理的に音を聞こえなくすればいい。いくら強いE.G.Oだろうと、そもそも聴こえない相手には意味が無いのだ。
鼓膜を破かずとも、距離を取ればしのげたかもしれないが……そんな悠長にしている時間はない。
演奏が途切れ、痛みから開放された一同は、ローランに警戒しつつアリスの元へと向かう。コユキは再びトランプを取りだし、アリウススクワッドは、リーダーであるサオリの惨状に顔を顰めたものの……鼓膜を破いてまで助けてくれたサオリの為にも、トラウマに囚われ続ける訳には行かないと、皆それぞれローランへと武器を構えた。
"サオリちゃん……! 待ってて、すぐに治してあげるから……っ!"
(パンッ)
取り出した黄金銃を構え、サオリへと撃ち込んだ先生。破いた鼓膜が巻き戻り、聴覚が回復する。傷は治ったもののこれでは演奏に対応できない、と思ったサオリだったが……その時はまた鼓膜を破けばいいかと考え、大鎌をローランへと振り下ろした。
★★★★★
「アリス!」
「アリスちゃん!」
「お、起きて……アリスちゃん……!」
様々な機械に繋がれたアリス。彼女の元に駆け寄ったゲーム開発部一同は、意識のない彼女を揺すり起こそうとする。
……しかし、彼女達がアリスに触れた瞬間
「ソレは、あなた方が王女を呼ぶ際の名称でしょうか」
アリスが目を覚ました。
「……起動したわね」
「リオ様、傷の手当は済みました」
「トキ……いつでも動けるように備えて頂戴。今から彼女の時間を止めるわ」
スイッチを握る手に力が篭もる。このボタンを押して、アリスの……AL-1Sの時間を永久に止めれば全てが終わる。普段とは様子が違うアリスに、戸惑っている彼女達には恨まれるかもしれないが――
――これで、キヴォトスは救われる
(カチッ)
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