黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~恐怖~ 精神病患者

 

 

 

「防衛室長が……」

 

「お前の立場が欲しかったのか何なのか、理由までは分からなかったがな」

 

「……そう、ですか」

 

「……まぁ、そう落ち込むな。何かあれば俺たちが手を貸してやる」

 

「なに、君のまわりには私達組織も居る。代行の立場を失ってしまったのなら、本部で休息でも取ったらどうだい?」

 

「……リン先輩は少し働きすぎです。私みたいに、多少サボっても許されると思いますよ」

 

「翼の対処でしたら、私達シスターフッドで受け持ちますので……ご自愛ください」

 

「皆さん……。……ありがとう、ございます」

 

「……んじゃ、とりあえず先生と合流して、早い所この問題を片付けるとするか。ケイ、アリス。俺からのクエストだ。悪い奴らからシャーレを奪還するぞ」

 

「クエストですか! であるならば、勇者アリスがそのクエストを受注します!」

 

「……代理人。私は事情を把握しているので、クエストと言い換えなくて構いません。私も同行します」

 

 

 

(ビリッ)

 

 

 

手袋から取りだした本のページを破り取るローラン。情報として知ってはいたが、実際に図書館のE.G.Oを使う所を見たことが無かった一同は、ローランの行動に言葉を失っていた。

 

 

 

「借りるぞ、ティファレト」

 

 

 

破り取られたページがローランを包み込み、その姿を変貌させていく。

 

黄金色に輝くマントと篭手を身に着けた姿へと変わったローランは、自身の目の前へと、黄金色に輝く魔法陣を展開するのであった。

 

 

 

「これが、図書館のE.G.O……」

 

「アマノさんから伺ってはいましたが、これは……」

 

「そのE.G.Oは確か、セリナの能力と同じようなものだっただろうか?」

 

「セリナさんと同じ……座標移動でしょうか?」

 

「……情報が筒抜けなのは気になるが……まぁ理解が早くて助かるよ」

 

初めて見るE.G.Oに興味津々の4人を他所に、ローランは展開した魔法陣へと足を進めた。

 

 

 

「行くぞ。先生と合流して、シャーレのオフィスをカイザーから取り返す」

 

 

 

★★★★★

 

 

 

ミヤコの青炎に挟まれた道を進む先生一行。E.G.Oによって生み出された青炎のおかげで、カイザーの機械兵に襲われることなく、シャーレへと足を進める先生たち。

 

 

 

「制圧確認! 只今より、シャーレへと突入します」

 

「私が先行しよう。お前達は先生を守ってやれ」

 

 

 

自身の武器を構え、我先にとシャーレへと突入しようとするシャオ。彼女たちがシャーレへと足を進めようとした瞬間、その道をふさぐかのように黄金色の魔法陣が現れた。

 

 

 

「……! 総員、警戒!」

 

"待って、姉御! 大丈夫、その魔方陣は敵じゃないよ"

 

 

 

見覚えのある魔方陣に気づいた先生は、警戒するシャオたちへと声をかけた。

 

 

 

「……その呼び方はやめろ、先生。……敵ではないんだな?」

 

"うん。この魔方陣は……"

 

 

 

「待たせたな、先生」

 

"代理人! おかえり!"

 

 

 

黄金色の魔法陣から現れたローラン。続くように魔法陣から現れた生徒達は、辺りを見渡し警戒態勢をとった。

 

 

 

"君たちは……"

 

「現在表立って動ける組織のメンバーです。……私の管理不足によって、先生の身を危険にさらしたことを謝罪致します。……申し訳ございません」

 

"リンちゃんのせいじゃないよ。……私がもっと、警戒しておくべきだったね"

 

「なに、代理人のおかげで首謀者も判明したのだ。そう深く捕らえず、まずは目の前の非常事態の解決に尽力するべきだろう」

 

「……そうだな。まずはシャーレの奪還から始めるぞ。アリス、周囲の警戒を。ケイは――」

 

 

 

――近接戦闘用のE.G.Oを装備してくれ

 

 

 

"……ケイ?"

 

「ケイはケイです! アリスが名付けました!」

 

「……そう言う訳で、今後私を呼称する際はケイと呼んでください。……相手が機械なのであれば、これにします」

 

 

 

懐から取り出した真っ黒な装丁の本。L社のロゴが刻まれた本を開き、ページを1枚破り取る。

 

 

 

「旧L社の社章……?」

 

「その本は一体……」

 

"……もしかして、代理人と同じ図書館のE.G.O?"

 

「いえ……これは……」

 

 

 

破り取られたページは光り輝き……ケイの身体を包み込んだ後、その姿を変質させた。白いスーツを身に纏い、可愛らしい顔の描かれた……身の丈以上の大きさのグラインダーを、両手で握りしめた。

 

 

 

 

 

 

―― Grinder Mk4(オールアラウンドヘルパー) ――

 

 

 

 

 

 

「L社で管理していた幻想体のE.G.Oです」

 

 

 

キュイィィィィィィィィン

 

 

 

ケイの構えたグラインダーがものすごい勢いで回転し、ミヤコのE.G.Oによって作られた炎の壁を切り裂いていく。まるで吸引するかのように周囲の炎を切り刻み……グラインダーの周囲へと青い炎を纏わせる。

 

 

 

「図書館での特訓は、無駄ではなかったみたいですね」

 

 

 

3日間休むことなく繰り返した接待によって、幻想体のE.G.Oの力をほぼ最大限まで引き出せるようになったケイは、当時L社で働いていたランクV職員と比較しても遜色ない……いや、人の身以上のスペックを誇る義体と、キヴォトスに居る子供だけが持つ神秘によって、それ以上の能力を持っていると言っても過言ではないだろう。

 

 

 

「私の炎が……」

 

「ここからは私達が受け持ちます。E.G.Oを解除して、休んでいてください」

 

「クエスト開始です! 行きましょう、ケイ!」

 

「はい。前衛は私が務めます」

 

 

 

シャーレの入口へと走り出したアリスとケイ。そんな彼女達の様子を見たローラン達も、彼女達に続くように足を進めるのであった。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

意気揚々と進んでいくアリス達とは裏腹に、シャーレ内部は驚く程静まり返っていた。

 

辺り一面に散らばる機械の残骸

 

よくよく見てみれば、残骸にはカイザーコーポレーションの社章が刻まれており、誰かの手によって破壊されたことが分かるだろう。

 

 

 

「一体誰が……」

 

「経験値泥棒です! 狩場の横取りは許しません!」

 

 

 

そんな惨状に不満を抱いたのか、急ぎ足でオフィスへと向かうアリス。彼女の後を追い、オフィスへ続く扉を開いた先には……

 

 

 

「待っていたぞ……先生」

 

 

 

予想外の人物が立っていた。

 

扉の先に広がるいつもの光景。そこに交わる異物。異形の姿をしたその存在に気がついたアリスは、咄嗟にスーパーノヴァの銃口を向けるが……その引き金は先生によって止められた。

 

 

 

"待って、アリスちゃん。……久しぶりだね、ゴルコンダ"

 

「否。ゴルコンダはもう居ない。私はフランシスだ。デカルコマニーと共に、お前達を見守る者」

 

 

 

フランシス

 

そう名乗る異形は、先生達へと視線を向け……キヴォトスの現状について語り始めた。

 

 

 

「ゲマトリアは解散した。皆それぞれが自身の研究を、力を、成果を用いて叛逆した。……だが一手、届かなかった。狼の神の裏側、反転した生徒と()()()()()()()()()()()()()()()を相手に、打つ手等無かったのだ」

 

"反転した生徒……? ……それって、あの時のミカちゃんと同じ――"

 

「……ねじれた生徒が居るってことか?」

 

「否。反転とねじれは似て非なるものだ。反転はどちらにもなれなかった者の成れ果て。光を否定することも、受け入れることも出来ず……自身の殻に閉じこもり、恐怖というテクストによって神秘を染めてしまった者。我々はその者達をテラーと呼んでいた」

 

 

 

テラー

 

光の種の影響下にあり、神秘を持つものにだけ訪れる現象。重度の喪失感、及び虚無感によって齎される恐怖の感情が、自身の神秘と感応することによって生じる……1()()()()()()()()()()()()

 

ひび割れたヘイローは元には戻らず、1度染まった神秘は恐怖を忘れることが出来ない。

 

 

 

「E.G.Oもねじれも、ある種の精神病と我々は解釈した。故にこそ、個人差があるとは言え、そのどちらも克服可能な代物である。……だが、テラーは違う。あの現象も精神病と捉えることは可能だが、神秘というテクストに直接干渉する性質故か……」

 

 

 

――テラーに染ったものは、二度と元には戻らない

 

 

 

「……時間を戻しても、美園のヘイローが元に戻らなかったのはそういう事か」

 

"……うん。……正直、話の半分も理解出来なかったけど……ゲマトリアはその反転した生徒によって、壊滅させられたってことなんだね"

 

「反転した狼の神も問題ではあるが、真に警戒するべきはもう一人。生徒のテクストを入手した子供の方である」

 

 

……

 

 

"……ねぇ。貴方の言う狼の神って、もしかして……"

 

砂狼シロコだろう? ……私が最後に見た夢の通りなら、反転したのは彼女の筈だ」

 

"セイアちゃん……?"

 

「私が予知夢の力を手放す寸前、最後に見た景色は……見覚えの無い生徒と砂狼シロコの面影が残る生徒、その二人と私達が対峙している光景だった」

 

 

 

と、そう言ったセイアだったが、その顔色は良くなかった。……確かに、最後の予知夢でその光景を目にした。……目にしたが――

 

 

 

(……言える訳が無い。見覚えの無い生徒が代理人と同じ手袋を身に付け、代理人と同じ武器を取り出していたなど……。……あれは見間違いだ。……そうでなければ、私達が対峙する相手の正体は――)

 

 

 

「……フランシス。今の話は本当か?」

 

「然り。アビドスに潜む狼の神は反転した。……故にこそ先生、そして黒い沈黙よ。心して聞くが良い。これからお前達が立ち向かう相手は、理解不能で不条理な世界だ」

 

"……"

 

「脈絡も構成ジャンル全てが無に帰し、青春の物語は幕を下ろした。生徒を率いる先生と言う絶対の権限は、その価値を無くした」

 

"……"

 

「だがそれでも抗うと言うのなら……覚悟しろ。先生、お前はこれまでに無い絶望を受けることになるだろう。そして、その世界の果てで……」

 

 

 

――お前は、黒い沈黙に殺される

 

 

 

"……ぇ?"

 

「……黒い沈黙よ。この先の世界でお前に襲い掛かるモノは、お前が無くした過去だ。有り得た未来、計り知れない絶望、取り零した奇跡。……あの日、あのピアノの前で……世界を相手に復讐を誓った者は――」

 

 

 

――お前だけではない

 

 

 

「は……?」

 

「その事を、努努忘れるな」

 

 

 

そう、フランシスが言い終えた瞬間、初めから何も無かったかのように彼の姿は掻き消えた。あまりの出来事に言葉を無くす一同だったが、ローランと先生だけは……フランシスが最後に残した言葉が、頭から離れなかった。

 

 





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