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「来たわ! ビナーよ!」
「確認しました! 皆さん、作戦通り配置についてください! アルさんは、目標を砂漠横断鉄道へと誘導してください!」
「くふふ、アルちゃん頑張ってね」
「おじさん達の方まで連れてきて~」
「任せなさい!」
自信満々に囮役を買って出たアルだったが……ビナーとの相性はそれ程良いものではなかった。自身の神秘を用いて発電し帯電、貯めた電気を一気に放出することで、規格外の戦闘能力を発揮する彼女は……長期戦に向いていないのだ。
予備バッテリーで充電したとしても……全力で戦えるのは数分程度――
「出来れば短期決戦が良かったけれど……アレを相手に無茶はできないわね」
いくら特色と言えど、一人でできることには限りがある。ましてや色彩などという、正体不明な力を手に入れた未知が相手なのだ。警戒するに越したことはないだろう。……使えるものは何でも使う。それこそが、都市を生き抜いてきた彼女の生存戦略。
「――っ、こっちを向きなさい!」
末梢神経に莫大な量の神秘と電気を流し、爆発的な行動速度でもって砂漠から現れたビナーヘと突貫。光よりも速く駆け抜けるその姿は、人の形をした雷と形容するのが正しいだろう。
逆手に構えた赤の便利屋の短剣に電気を流し、ビナーの全身を切り付ける。一度、二度、三度……まるで嵐が過ぎ去ったかのような……暴力の渦。ビナーの持つ装甲もあってか、一撃で付けられる傷はたかが知れているが……その攻撃回数が100や200ともなれば、無視する訳にもいかないだろう。
自身の周囲を走り回る羽虫のような存在を排除するべく、ビナーは彼女を追いかける。……それが、彼女達の策とも知らずに――
「釣れたわ! 今からそっちに向かうから、準備して頂戴!」
「了解しました!」
ビナーとつかず離れずの距離を保ちながら、砂漠横断鉄道へと向かうアル。背後から飛んでくるレーザーやミサイルの雨を交わしながら、砂漠地帯を駆け抜ける。
(充電は問題なさそうね。思っていたよりも抑えられているわ。……順調過ぎて怖いぐらいよ)
数分……数十分程走り続け、指定地点へと到着したアルは、自身の愛銃である狙撃銃を空へと構え発砲。放たれた銃弾は朱色に輝き、込められた神秘を放ちながら爆発した。
一見すると何の意味もない行動。……だが、意味の分からない行動こそ無意識に警戒してしまうものである。アルを追いかけていたビナーは、空に放たれた銃弾へと意識を向け……
「懐ががら空きだよ」
視覚外から自身の真下へと潜り込んだホシノによって、銃弾の雨へと晒された。
「皆さん! 作戦開始です! ユメさんとホシノ先輩がビナーの注意を引いているうちに攻撃を!」
「「「「了解!」」」」
「責任重大だね、ホシノちゃん」
「ですね。……来ますよ、ユメ先輩!」
盾を構えビナーの攻撃を誘導するユメ。ホシノのE.G.Oである彼女が攻撃を防ぎ、2丁の散弾銃を構えたホシノが最前線で攻撃する。普段の盾を用いた戦闘とは異なり、自身のE.G.Oを最大限活かした戦術は、彼女
常識外の相手には、常識外の力を持って対処する。
色彩と言う特殊な力を身につけたビナーだったが、アルによって付けられた無数の傷跡が機能障害を起こしているのか……本来のポテンシャルを発揮できず、徐々に装甲が剥がれ落ちていく。
「……ビナーより高エネルギー反応! レーザーに警戒を!」
瞬く閃光と共に放たれた圧倒的熱量を誇るレーザー。いくら神秘に守られているとはいえ、これ程のエネルギーを身に受ければひとたまりもない。
「ユメ先輩!!」
「おっけ~! 前は私に任せて!」
だが、E.G.Oで生み出された存在であるユメが受け止める分には、何一つ問題なかった。いくら圧倒的熱量を誇っていようが、そもそも痛みを感じない以上、大した脅威にはならない。万が一ユメが殺された場合、E.G.Oの主であるホシノの心が壊れる可能性はあるが……
「ホシノちゃん! あとちょっとだけ頑張って~!」
「いえ……この程度であれば、何時間でも耐えられますよ」
ビナーのレーザーなど、図書館で受けさせられた
「うっそ、あれ耐えちゃうんだぁ」
「……社長が警戒してた意味が分かった」
「あ、アル様だってあれぐらい耐えられます!」
「は、ハルカ? 別に競ってないのよ??」
ホシノとユメがビナーのレーザーを防ぐ傍ら、充電の切れたアルは体勢を切り替え、彼女達の様子を見守っていた。E.G.Oの強さは夢の中で体験したL社と図書館の記憶で、嫌という程思い知らされていたが……これ程強力なE.G.Oを発現させた生徒が居るとは思っていなかった。
生徒の中では間違いなくキヴォトス最強
あの二人を相手にするとなれば、記憶を幾つ失うことになるのやら……。
「!? ビナー、高速で撤退していきます!」
レーザーを放ち終えたビナーは、明らかに自身の力量を超えた相手に警戒したのか、砂漠へと潜りこみ虚妄のサンクトゥムへと移動していく。
「ちょっと! 何処に行くつもりよ!」
「ん、逃がさない」
「逃げちゃダメですよ~?」
「うへ~ちょっと休憩~」
「あれはちょっと、追いつけないかなぁ~」
咄嗟に追いかけようと走り出すアビドス一行だが、ビナーはどんどんと遠ざかっていく。全速力で追うものの、一向にビナーへと追いつかない。
「アル様……」
「ありゃりゃ……アルちゃん、あれ追えそう?」
「社長、行ける?」
「え!? ちょ、ちょっと待ちなさい! もう充電切れよ!?」
朱色の雷であれば、ビナーに追いつく事など造作も無かったが……充電が切れ、記憶を切り替えた今のアルがビナーに追いつける訳もなく……
「このっ……止まりなさい!」
狙撃銃にありったけの神秘を込め撃ち放つも、逃げていくビナーを止めることは出来なかった。
「――逃げられると、そう思ったのか?」
ビナーの頭上、虚空より降り注ぐ無数の柱がその身体を貫き……砂漠へと縫い付ける。続くように何処からともなく現れた鎖が、その身体を絡め取り雁字搦めに結びつく。無数の妖精がビナーの身体を食い千切り――
――彼方より現れた錠前が、ビナーの動きを完全に封じ込めた
「都市が辿るであろう未来。子供達へと手向けられた試練にしては、些か役不足ではないだろうか」
妖精に食い千切られ、身体全体が機能不全を起こし始めたビナーは悲鳴の様な声を上げるものの……
「結構。そも、同じ名を冠するものとして、あまり不甲斐ない姿を見せないでくれたまえ。私の目的は、お前では無い」
その声が最後まで響くことはなく、ビナーの手によって放たれた衝撃波が、砂の大地ごとビナーを消し飛ばしたのであった。
「は? え、何が起きたの? ていうか、誰!?」
「あの人は一体……。先程まで、皆さん以外の反応は無かったはずです」
「ん……あの人、大人だよね」
「もしかして、代理人と同じ……」
「嘘……この世界に、目は無い筈なのに……」
「ユメ先輩……?」
「――ホシノちゃん、あの人とだけは敵対しないで」
「は、はい? 一体何を……」
「あれは……あの人だけは、相手にしちゃダメ。頭の……調律者に観測されるなんて……すぐに、組織のみんなに知らせないと――」
何処からともなく現れ、ビナーを一人で倒しきった大人に言葉を失うアビドス一行。彼女達と同じく、その光景を見ていた便利屋68のメンバー達も言葉を失っていたが……
「うっそ、ビナーを倒しちゃったよ」
「す、すごい、ですね」
そんな事より――
「…………」
「……社長? 一体どうし――」
「あ、アルちゃん? すっごい青ざめてるけど大丈夫~?」
「アル様?」
「なっ――」
――なんでビナーがキヴォトスに居るのよ!?!?!?
「「「???」」」
持っていた狙撃銃を投げ捨て、自身に残された僅かな神秘を無理やり雷へと変質させ……全速力で砂漠から逃げ出すアル。今にも意識を失いそうになりながらも、持ち得る限りの神秘を雷に変え駆け抜ける。……そんな彼女の様子に空いた口が塞がらない一同だったが――
「久方ぶりの再会だと言うのに、どうして、素直に喜べないんだ?」
虚空より現れた鎖がアルの身体を縛り上げ、ビナーの元へと引き寄せる。
「ひぃっ………な、なんでこの世界に居るのよ!?」
「その言葉、あの時のお前に返そうではないか。お前は何故、都市にいた? どうやって図書館に来た? よもや次元を渡れるのがお前だけだと、そう認識していたのか?」
「……っ」
「なかなか顔を見せないから、私から会いに来ただけのこと。さぁ、あの時のように、共に紅茶を嗜もうではないか、リクハチマ」
そう言いながら、笑顔でじっと見つめてくるビナーに対し……アルはただ、ただただ震えることしか出来なかった。
★★★★★
突如として始まった茶会。ビナーが何処からともなく取り出した1冊の本。そのページの中からどうやってか取り出されたテーブルとティーポット。
「実体を持つ現象に過ぎない。図書館の物は、全て本の中に収められている。これらはアンジェラが発現したE.G.Oである」
「……」
「おや? 脅威を排除した立役者を、労ってくれないのか?」
「……あぁもう! 分かったわよ!」
震える手でティーポットを持ち上げ、紅茶を注ぐアル。哲学の会の夢にいた頃、嫌という程教え込まれた紅茶の淹れ方を持って、ビナーへと振る舞うのであった。
「どうやら、私の教えは覚えているみたいだ。感心、感心」
……
「いや、いやいやいや! 誰かツッコミなさいよ! 何!? 私がおかしいの!?」
「お、落ち着いてください、セリカちゃん」
「わぁ、良い香りですね~」
「ん、あなたは誰?」
「……」
「アルちゃんの知り合い~?」
「……にしては社長、怯えすぎじゃない?」
「あ、アル様の淹れた紅茶……」
突然現れた挙句、砂漠のど真ん中でお茶会を始めたビナーとアルの様子を前にして、流石に無視する訳にもいかず……
「私は、ビナーと言う。ローラン……お前達の言う代理人が呼んだ協力者、と思いたまえ。そこのリクハチマとは、長く短い付き合いとなる」
「……私が見た夢の中で知り合ってしまった人よ。……厳密には人ですらないけれど」
「邪険にする必要はあるのかい?」
「うるさいわね! いいから紅茶飲んで帰りなさいよ!! みんな、ビナーにだけは絶対に手を出さないで! その気になったらキヴォトス事消されるわよ!?」
「はい!?」
「そのようなつもりは毛頭ない。今の私は調律者ではなく唯の人間だった者、ビナーとして、都市が辿るであろう未来を、見ているのだから」
「……」
「キヴォトス事消せるということ自体は……否定しないんですね」
「いや、そんな事できる訳――」
「是非を問うのであれば、可能だろうな」
「「「……」」」
「だがしかし、安心したまえ。先程も述べたように、今の私にそのつもりはない。このように興味深い世界を終わらせるには、些か惜しくある」
「……」
「故に、そこの。小娘のE.G.Oと成り果てた存在よ。そう警戒することは無い。お前達組織の事など、頭は気にも止めていない。そも、頭が都市の辿る未来を、形として観測していたのなら、このような世界は存在すら許されないだろう」
少なくともこの二つの規則を堂々と破り続ける未来の都市を、頭が放っておく訳がない。時系列は違えど都市に変わりはなく……今現在、キヴォトスという都市が存在しているということはつまり――
――この都市に、頭は存在しない
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