黒い沈黙の行先   作:シロネム

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~明滅~ 今の私は、アビドス

各自治区からの防衛報告、並びに虚妄のサンクトゥム攻略の結果を受け、シャーレのオフィスに居た二人は安堵の息をつくのだった。

 

 

 

"無事、終わったみたいだね"

 

「あぁ。特別被害が出たという報告もない。これ以上ない戦果だろうな」

 

 

 

シャーレの奪還に成功しRABBIT小隊と別れた二人は、各自治区から受けた死傷者0という報告に満足し、それぞれが相対した敵の情報を知るため、対処してもらった生徒たちへと連絡しようとし……

 

 

 

「……流石だね、先生」

 

 

 

突如として虚空より現れた一人の生徒に、その手を止めることとなった。

 

 

 

"君は……シロコちゃん、なの?"

 

「下がれ、先生。……何をしに来た。仲良くおしゃべりでもーって顔じゃねぇよな」

 

 

 

咄嗟に取り出したデュランダルを構え、先生を庇うように前へと出たローランは……目の前にいる存在から感じる異常なまでの強さに、警戒心を高めていた。

 

 

 

「……武器をしまって、ローラン先生。別に私は、争いに来たわけじゃない。先生たちが何をしたって、このキヴォトスが終焉を迎えることは決まっている」

 

「……先生? ……俺が?」

 

"し、シロコちゃん……?"

 

「違う」

 

"えっ……"

 

「もうその名前は捨てたの。今の私は、何も守れなかった砂狼シロコじゃない。私は……」

 

 

 

――私が、アビドス

 

 

 

「次から、間違えないで」

 

"……"

 

「……そんなことはどうでもいい。結局、お前は何をしに来たんだ?」

 

「私は定められた運命を変えるために、この世界に来た。シャーレに来たのは、邪魔をしないでという警告と……あの子からの頼まれ事があったから来ただけ」

 

"あの子……?"

 

「そう。……ローラン先生。先生は、青い残響が使っていた武器を持っているよね? あの大鎌を渡して欲しい」

 

「……」

 

 

 

なぜ目の前にいるシロコが、青い残響の武器を求めるのか分からなかったローラン。……一瞬、今回の事件には青い残響も絡んでいるのかと考えたが、もしアイツが絡んでいるのなら、こんな簡単に事が進む訳がないと思い至り、その可能性は捨て去った。

 

 

 

「……まず、俺は先生じゃない。俺はあくまでシャーレの代理人だ。その上で聞かせてもらうが、なんでお前は……いや、お前に頼んだその子とやらは、アイツの武器を欲しがるんだ?」

 

「……私も詳しくは知らないけど、思い入れがあるんだって。それさえ渡してくれたら今は帰るよ、ローランせんせ…………代理人」

 

"シロコちゃん!!"

 

「……なに? アンジェリカ……先生」

 

"私の名前も知って……じゃなくて! シロコちゃんは一体何をするつもりなの! 定められた運命を変えるって何!?"

 

「……」

 

 

 

シロコと呼ばれた存在は、そう呼ばれるのを嫌ったのか、咄嗟に虚空から取り出したショットガンを先生と向け――

 

 

 

「言ったよね? 次は間違えないでって……!」

 

 

 

引き金を引く…………よりも早く、動き出したローランによって、構えたショットガンの銃身は切り飛ばされた。

 

 

 

「……代理人は強いね。まるであの人みたい……」

 

「争いに来た訳じゃないって、さっき言ったよな」

 

「……うん。……ごめん。……でも、私の名前、間違えないで」

 

"……ごめんね"

 

「……。……私がこの世界でやることは一つだけ。全ての元凶、キヴォトスが終焉を迎える原因となった存在――」

 

 

 

――砂狼シロコを殺す

 

 

 

「ただそれだけ。先生たちにとっても、あの存在はいないほうが好都合。アレはいつか、この世界を滅ぼす。だからその前に私が……」

 

"シロコちゃんを、殺す……?"

 

「……そんなこと言われて、はいそうですかって見逃すとでも思ったか?」

 

 

 

シロコ……アビドスの返答を聞き、更に警戒心を高めたローランは、いつでも斬りかかられるように構えなおした。

 

 

 

「聞かれたから答えただけなのに……。……でも、いい。青い残響の武器は残念だけど、ちゃんと持ってはいるみたいだから、あの子自身に頑張ってもらう。……それじゃあ、またね、二人とも」

 

 

 

少し悲しそうな表情を浮かべたアビドスは、自身の背後に虚空を広げ、シャーレから姿を消した。

 

 

 

"待って、アビドスちゃん!"

 

 

 

ほぼ条件反射と言っても過言ではないだろう。アビドスが広げ姿を消した虚空へと、颯爽と身体を動かした先生は、

 

 

 

「……は? おい、待て先生! そっちには……」

 

"ごめん、代理人!"

 

 

 

閉じようと少しずつ幅を狭める虚空へと、身を投げた。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

"なに……これ……"

 

 

 

目の前に広がる暗闇。虚空へと身を投げ出し、奇妙な浮遊感を感じながら落ちていく先生、脳裏をよぎる見覚えのない景色に、ただ呆然とするしかなかった。

 

 

 

爆破されたシャーレ

 

各学園からの緊急要請

 

キヴォトスを闊歩する無数の化け物

 

白い天使、黒い団子、赤い犬、青い狼、黄色い鳥、緑の虫、紫の馬

 

企業連と生徒達の全面戦争

 

 

 

色彩と接触した砂狼シロコ

 

 

 

そのどれも見覚えが無い。……無いはずなのだが、どこかえも言えぬ既視感を感じる。まるで、この後に起こる未来を示唆しているような……

 

 

 

"……っ、……ここは"

 

 

 

無数の景色を超え、目を開いた先生の眼前に広がっていたのは……先ほどシャーレに現れたアビドスと見覚えのない子供、それから――

 

 

 

一人の大人の姿だった

 

 

 

「……えっ。……ついてきちゃったの、アンジェリカ……先生」

 

「……あらら。……やっちゃったね、アビドスちゃん」

 

「……先生ならついてくるかもって、思うべきだった」

 

「しょうがないよ。冷静沈着に見えて、急に突拍子もないことをしだすのがママだから」

 

「……ごめん、()()

 

「いいよ、別に。……でも運が良かった。この場にママが居たら、殺しちゃってたと思うから」

 

「……それもあるけど。……青い残響の武器、貰えなかった」

 

「…………は? え、待って、パパに言っちゃったの!? ウベルト叔父さんの武器が欲しいって」

 

「……青い残響の武器が欲しいって言っただけ。リナのことは言ってない」

 

「……それなら、まぁ」

 

 

 

散々見させられた悲惨な光景に頭痛を覚えた先生は、痛む頭のせいで、近づいてくるアビドスに気づくことができなった。

 

 

 

「……アンジェリカ、先生。ここに来るのはまだ早いよ。……送ってあげるから、無謀なことはしないで」

 

"待っ……て! 君たちは、一体……"

 

「じゃあね、先生」

 

 

 

――アンジェリカには、気を付けて

 

 

 





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