「……じゃあ、先に行って監視カメラを潰してくるから、合図を待っててくれ」
「は、はぁ……」
「ん、気を付けて」
「行ってらっしゃい~☆」
「その仮面カッコいいねぇ~」
「代理人! 人を殺しちゃダメだからね!」
「言われなくても、分かってるよ」
キヴォトスの奴は殺さないさ……。
「……先生の護衛頼んだぞ、アロナ」
「アロナちゃんにお任せください!」
★★★★★
ブラックマーケットにある銀行。諸事情によって、通常の銀行を使用できない者達が利用するこの闇銀行は、その成り立ち故に各学区から注意を向けられていた……。
――そんな闇銀行の待合室に、見知った顔触れが一組……。
「アルちゃ~ん。融資まだぁ~?」
「も、もう少しのはずよムツキ」
「……はぁ。予想以上の報酬が支払われたはずなのに、どうしてこうなるんだか……」
「しょ、しょうがないじゃない! 請求書が溜まってたんだから……」
「……だからって、全額使って払わなくても。……期限が先のモノだってあったのに」
「あ、アル様! わ、私がバイトでもして稼いできましょうか!?」
「だ、大丈夫よハルカ。融資だってもうすぐ……」
「お待たせ致しました、お客様」
「……噂をすればね。…………えぇ、待ったわよ! 本当に待ったわよ!
★★★★★
闇銀行の裏口。主に現金輸送車とのやり取りをする、関係者以外立ち入り禁止のこの場所に忍び込んだローランは、とある部屋を探していた。
「……これだけ大規模な銀行なら、絶対あると思ったよ」
――監視室
扉のプレートにそう記載された部屋を見つけたローランは、手袋から1本の金色の鍵を取り出した。
「……この鍵一つで、裏路地の一角に最高級の家を買えるんだもんな……」
黒い沈黙として活動するよりも前、……ローランがチャールズ事務所に所属していたころ、自身の全財産をつぎ込んで買い取った金色の鍵。
――F社の特異点である、
……残念ながら、J社の特異点*1によって閉じられたモノを、こじ開けることはできないが……、
――それでも、F社から直々に買い取ったこの鍵は、……黒い沈黙の手袋の中で最も価値のあるモノの一つだろう。
(カチャリ)
「……よし。……どうやらこの世界でも、特異点の能力は健在みたいだな」
……黒い沈黙の手袋が持つ、音を消す能力のおかげもあってか、監視室の中にいた警備員がローランに気づくことはなかった。
「……少し寝てろ」
(ドガッ)
不意を突き、警備員の意識を刈り取る。……設置された監視カメラを操作し、警報を無効化しようとしたローランだったが、待合室に見知った顔がいるのを見つけてしまった……。
「……何やってるんだアイツら?」
収音機から聞こえてくる声。……どうやら、融資について便利屋68の銀行員が揉めている様だ。
「まぁいいか……。…………なるほど、地下に巨大な金庫があるみたいだな」
複数ある監視カメラの一つが映した映像。そこには、巨大な金庫に現金をしまう銀行員の姿が映っていた。
「……鍵の確認も出来たし、さっさと回収するか」
監視室の壁に掛けられていた
――銀行員の制服に着替えたローランが、悠々と地下へと足を運んでいると……。
(パッ!)
突然、銀行内の電源が落ちる。騒然とする銀行員に紛れて足を進めると、
(ダダダダダダダダッ! バラララララッ!)
正面玄関の方角から銃声が響いた。
「……あっちも動き出したみたいだな」
★★★★★
「な、何事ですか!? ……停電!?」
「い、いったい誰が!? ぱ、パソコンの電源も落ちてるじゃないか!」
(……銃声!? ななな、何が起きてるのよーー!)
「うわぁぁぁっ!」
「うわっ! ああああっ!」
「なっ、何が起きて……うわぁあ!?」
(パッ!)
銀行内の悲鳴が鳴りやんでから数秒後、停電が復旧したのか銀行内の電源が一斉に入った。
「全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
「あ、あはは……。み、みなさん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね……」
「ぎ、銀行強盗!?」
「うわぁ、本当にやる人いるんだ~」
「……社長、大丈夫?」
「ご無事ですかアル様あぁぁぁ」
「非常事態発生! 非常事態発生!」
「うへぇ~無駄無駄。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからね~」
「ひ、ひぃっ!」
「ほら、そこ! 伏せてってば! 下手に動くとあの世行きだよ!?」
「み、みなさん、お願いだからジッとしててください……あうぅ……」
「うへぇ~、ここまでは計画通りだね~。リーダーのファウストさん! 次の指示を願う!」
「えっ……えっ!? ファウストって、わ、私ですか? リーダですか? 私が!?!?」
「リーダーです☆ ボスです☆ ちなみに私は……、……覆面水着団のクリスティーナだお☆」
「うわ、何それ! いつから覆面水着団なんて名前になったの!? それにダサすぎだし!」
「……☆」
「うへぇ、ファウストさんは怒ると怖いんだよ~? 言うこと聞かないと怒られるぞ~?」
「あぅ……りーだーになっちゃいました……。……これじゃあ、ティーパーティーの名に泥を塗る羽目に……」
「あれ……あいつら……」
「あ……アビドス……?」
「だよね。……あの制服、アビドスの子たちじゃん。なんか知らない顔もいるけど……。……ここで何やってるんだろ? それも覆面なんかしちゃって」
「ねっ、狙いは私たちでしょうかっ!? それなら返り討ちにしちゃいましょうか!?」
「いや、ターゲットは私たちじゃないみたい……。……あの子たち、どういうつもり? ……まさかここを……?」
「……あれ? ……アルちゃん~?」
「警備員の動線、銀行内の構造、すべて頭に入っている。……無駄な抵抗はしないこと」
「ひ、ひぃ……」
「そこのあなた、このバッグに入れて。……少し前に到着した、現金輸送車の……」
「わ、わかりました! 何でも差し上げます! 現金でも、債券でも、金塊でも、いくらでも持ってってください!」
「そ、そうじゃなくて……集金記録を……」
「どっ、どうぞ! これでもかと詰めました! どうか命だけは!!」
「あ……う、うーん……」
「……」
(や、ヤバーイ!! この人たち何なの!? ブラックマーケットの銀行を襲うなんて!)
「おーい、アルちゃん~?」
(どう逃げるつもりかしら? いや、それ以前に、こんな大胆な計画を立てちゃうアウトローが、未だに存在するなんて!!)
「……聞こえてないみたいだね~」
「……何だろう、デジャブが……」
「あ、アル様?」
(めちゃくちゃ手際いいし、超プロフェッショナル! まるでこの為だけに生まれてきたみたい。ものの5分でやってのけたわ!)
「……あちゃ~。アルちゃん、あのお兄さんを見た時と同じ表情してるよ~」
「……社長、アレがアビドスってことに全然気づいてないみたいだけど……」
「わ、私たちはここで待機でしょうか?」
(か、カッコいい……! 続けざまに真のアウトローと遭遇できるなんて! ……うわぁ、涙出そう)
「……あの子たちを手助けする理由も、銀行に助太刀する理由もないしね」
「とりあえず、アルちゃんが正気に戻るまで、どこかに隠れてよっか」
「は、はい……」
「あの、シロ……い、いや、ブルー先輩! ブツは手に入った?」
「あ、う、うん。確保した」
「それじゃあ逃げるよ~。……って、そういえば代理人は~?」
「ん、後で合流するって」
「そっか。それじゃあ、逃げるよ~! 全員撤収!」
「アディオ~ス☆」
「け、ケガ人はいないようですし……すみませんでした、さようならっ!!」
――覆面水着団はそう言うと、正面玄関から駆け出して行った。
ローラン君の持ち物に、F社の道具を追加しました。
理由としましては、準備前の図書館に侵入した方法として、紫の涙だけでは納得ができなかったのと……、
……無理矢理こじ開ける手段を持っていても、おかしくないかなぁ~と思ったからですね。
なお、金色の鍵はあくまでF社の特異点の劣化移植版です。F社が本来持っている特異点の能力なら、J社が閉めたモノでも開けられるんじゃないですかね。
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