アビドスでの戦闘を終えた翌日、イオリは風紀委員の面々に呼び出されていた。
――慣れない動きによる筋肉痛と、昨日の戦闘によるダメージが抜けていないのか、……時折苦痛に顔を顰めながら、呼び出された教室へと足を運んでいた。
「……これ、絶対イオリのことだよね」
(まぁ、そうだろうねぇ)
「……どこまで話していいの? 都市の事とか……」
(おや、信じてくれていたのかい?)
「それは、まぁ……。態々噓をつく必要もないだろうし……」
(そうさね……。聞かれたことについては、話して構わないよ。回答に困るようだったら、私が変わろうじゃないか)
「……うん。その時はお願……っ」
(……すまないねぇ、お嬢ちゃん。……ヘイローというものが便利でねぇ。年甲斐もなくはしゃいでしまったよ)
「いや、大丈夫……。……これぐらいの痛み、な、何てことはない……!」
(そうかい……? お嬢ちゃん、無理は良くないとも)
「ほんとに大丈夫だから! ……イオリの方こそ、大丈夫なのか? ……幾ら強くても、痛みは感じるんだよな?」
(……まぁ、この程度は慣れてしまったよ。……筋肉痛と言うのも、何年振りかねぇ)
「……そっか。……ねぇ、イオリ」
(……どうかしたのかい?)
「……私も、……練習すれば……昨日のイオリみたいな動きが……出来るのかな?」
(……お嬢ちゃん。…………可能かどうかで言えば、出来るだろうさね)
「……」
(能力や特異点は兎も角、基本的な身体能力においては、ヘイローの恩恵を受けている君たちの方が……都市の住民よりも数段優れているからねぇ)
「……イオリに言われるまで気にしたこともなかったけど、……ヘイローにそんな力が」
(一定以上の負傷に対する防護、……身体能力、及び治癒力の飛躍的向上。…………都市でこれだけの恩恵を得ようと思ったら、それ相応の代価を支払う必要があるぐらいには……優れているとも)
「……そうなんだ」
(…………お嬢ちゃん。……力にはそれ相応の代償が付き物さね。…………それでも必要というのなら、私はお嬢ちゃんを支持するよ)
「イオリ……」
(……)
「…………それでも、鍛えて欲しい。……私は、これ以上みんなの足を……引っ張る訳にはいかない。……風紀……委員は……、
――ヒナ委員長が居なければ、大した事のない組織だなんて……二度と言わせたくないんだ……!」
(お嬢ちゃん……。…………そこまで言うなら、面倒を見てあげようじゃないか)
「イオリ……。……よろしく頼む!」
(それだけの覚悟があるのなら、……都市でも生きていける程度には、鍛えてあげようとも。…………そうさね、少なくとも1級フィクサーと対峙して生存できる程度には、育てて上げようかねぇ)
「1級フィクサー……。……確か、特色の一つ下だったか?」
(……厳密には色々と違うのだが、……そうさね。……腹黒小僧と対峙しても、生存できるぐらいには鍛えてあげるとも」
「昨日の……。……あぁ。……イオリみたいに動けるように……アレだけの戦闘技術を……私にも教えてくれ」
(心得た。……暫くは楽しくなりそうだねぇ……お嬢ちゃん)
――二人がそのような話をしていると、……いつの間にか目的の教室へと辿り着いていた。
★★★★★
(ガチャッ)
「失礼します……」
イオリが扉を開けて中へ入ると、昨日一緒にアビドスへ赴いた子たちとヒナ委員長が待機していた。…………何故か、一瞬目を逸らされてしまったが。
「……来たわね。……それじゃあ、イオリ。……あなたのことについて聞かせてちょうだい」
「……そうですよ! 何で今まで黙っていたんですか!」
「え、いや……。…………だって言ったら、頭おかしくなったのかって言われると思ったから」
(まぁ、世迷言とは思われていただろうねぇ……)
「そ、そんなことは……」
「ヒナ委員長だって、アコちゃんの頭がおかしくなったのかと思った、……って言ってたし」
「イオリ、それは……」
「委員長!? そんな風に思ってたんですか!?」
「いえ、違うのよアコ……」
「……あの、身体に問題とかはないですか?」
「あ、あぁ……。それは問題ない。……ちょっと目の色が変わったりはしたけど」
「……それ、カラーコンタクトじゃなかったんですね」
「……うん……ごめん」
「いえ、責めているわけでは……」
「……」
「……」
(……ふむ。……お嬢ちゃん、私が変わろうか。経緯の説明も必要だろうしねぇ……)
「ん? ……あぁ、頼んだ。……というか、やっぱり最初からイオリが話した方が、早かったんじゃないか?」
「え?」
「……」
「イオリ……?」
銀鏡イオリの身体が一度震える。顔を上げたイオリは近くの椅子に腰かけ、足を組んだ。
「さて、と……。お嬢ちゃん達、ここからは私が説明しようかねぇ……」
「……」
「……」
「……その姿でお嬢ちゃんって言われると、何かムカつきますね」
(……はぁ!?)
★★★★★
イオリは都市のこと、自分の目的、身体を借りることになった経緯などを説明した。……最初は半信半疑だったものの、こうして目の前で起きてる事象を、……誰一人否定することができなかった。
「とまぁ、こんなところかねぇ……」
「……確かにこれは、何も知らずに聞かされたら、気でも狂ったのか思ってしまいますね」
(……ほら! だから言ったじゃん!)
「……シャーレの代理人とは、一体どういう関係ですか?」
「あぁ、腹黒小僧かい? 彼とは都市の頃からの知り合いさね。……大方、蒼白の司書にこの世界へと送り込まれたのだろうねぇ」
「……」
……それにしても……蒼白の司書は、一体どうやってこの世界を観測したのかねぇ……。……世界軸すら違う場所を観測するのは、簡単に出来る事じゃ無い筈なのだがねぇ。
「……ねぇ、イオリ…………さん」
「私に敬称は必要ないとも。……どうかしたかね、ヒナ委員長」
「……いつまで居るのかわからないけど、……これからよろしく」
「えぇ、よろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
「…………あぁ、よろしく頼むよ、お嬢ちゃんたち。…………それと、こっちのお嬢ちゃんにも良くしてあげてくれたまえ。……彼女は、君たちの事を大変好いているみたいでねぇ」
(ちょっと! 何言ってんのイオリ!)
「あー……」
「それは……」
「まぁ……、……聞こえてましたからねぇ」
「違うから! そう意味じゃないっていうか別に好きじゃないって訳でもなくて、えっとあの……」
(……おや、主導権を握られてしまったねぇ)
ローランと対峙して生存できる程度……
一体どれだけの戦闘技術を身に着けさせられるんでしょうかね……
評価・感想お待ちしております。