その日、妖精國経済大臣たる望月は狂を発していた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛財政がァァァ!!!!!!!」
理由はごくごく単純である。人が足りないのだ。何より、金がまだ足りない。否、金はあるにはある。しかしそれは国が持つ最低限の貯蓄に至るか至らぬかといった具合で、到底これを元手に何かをするというのは出来ない。
と、いう所でまず望月は初めに福祉政策を作るつもりだった。だが、健康保険など作ったところで加入する妖精はたかが知れている。所詮妖精にとって人間の文化は模倣するものに過ぎないのだ。そも、彼らに病気というものはないに等しいので、作ったところで、彼らから一方的に富を吸い上げる制度になる。ではどうするのか。
人間の兵士を使った一定期間の身辺警護であった。妖精國ではたびたび、と言うほどで無くとも、厄災を始めとした脅威が存在し、その一つにモースがある。
生きる目的を失くした妖精が行き着く最後の姿。魔物と言っても遜色ないそれは、妖精にとって毒であり、それ故に人間の兵士で立ち向かっているというのが現状であった。特に、妖精は自らモースに立ち向かうことができない―――或いはしない以上、常日頃から危険に身をさらされている。
「で、あれば。で、あるならば。人間の兵士の警護をつけてやればいい。グレードを分けることで差別化し、待遇を変える。いい待遇にしてほしければそれだけ高い金を払えばいい。そこまでは良い―――」
だが、問題は次の段階に存在した。結論から言うならば、この国民警護保険(仮称)は繫盛した。だが、繫盛しすぎた。金の次は派遣する人手が足りていないのだ。一時的対応として、各氏族から騎士を借りてはいるが、長く借りれば借りる程、氏族の長に借りを作ることになる。それは頂けない。
つまり、可及的速やかに人材を調達する必要があった。
その人材は
ふと、そんな考えが頭をよぎる。同時に、それはダメだと。人として、命を弄ぶような行動をしてはいけない、するべきではないと、心のどこかで反響する。
心を捨てろ。命を弄ぼうが、社会という集団を維持し発展させる最短の道を行け。ここはもうお前が居た世界じゃない。あちらの常識をこちらに持ち込むな。
「ホムンクルス、か」
望月は魔術師ではない。だが、知識としてモルガンから―――あの女王陛下から聞いてはいる。ならば、如何様にでも方法を造れるはずである。
――ここで一度、女王様のお力を借りるとしよう。
「ふむ……ホムンクルス自体は作れる。だが、モースに対応するとなるとコストと時間がかかる。今からやっても一年はかかる」
「ダメですか……」
時間がかかりすぎるのはよくない。それだけ妖精を待たせることにもなるし、何より氏族の長どもに更に大きな借りを作ることになる。特に、オーロラとかいう奴とスプリガン。あいつらは特に警戒するべきだと、心の何処かが警告を発している。
それはさておき、こうなると八方塞がりだった。モースに対抗できるほどの筋力や知能を身に着けたホムンクルスに時間をかけるのでは、意味がない。どうするべきか、そう考えて、ふと、あるところに目が行き、それに気づいた。
「女王陛下」
「何だ?」
「ちとお耳を拝借」
「………まぁ、用意はできるが。ホムンクルスに関してはそれで構わんのか?」
「ええ、最低限稼働時間さえ長く設定で来たならば、一先ずは」
「ふん、良いだろう」
「感謝いたします」
そういって一礼し、玉座から離れてゆく。これで人材不足は解決する。そして、これからの交渉によっては、兵器の質も上がるかもしれない。それに改良を加えたならば、まぁ、それなりの時間は特に変革を入れなくてもいいくらいにはなる。
「さて、妖精騎士かどなたかに馬車をお借りしないとな」
ウッドワスに政は分からぬ。ただ己の信じる女王の為にその剣を振るい、ただ女王の為に生きる。それだけをウッドワスは信じてきた。彼のそれはもはや崇拝の域に達しており、しかし宗教など知らぬ妖精と同じように、彼は女王へ向けるその感情を崇拝と呼ぶことを知らない。だから、あの日腕を縛られ、女王の前に跪いて、それでいてあの場でだれよりも女王と対等に会話した眼前の男が許せぬ。
「いい街ですね」
「私が女王よりお預かりした街だ。私にはその街をより良く発展させる義務がある」
「それは何よりです」
この男だ! この男が他ならぬ女王陛下にあのような不敬な態度をとり、あまつさえ女王陛下の政を愚策と評した! 貴様に何が分かる、外側から流れてきた異世界の住人である貴様に!
本当は今すぐにでもこの男を八つ裂きにしてしまいたかった。痛めつけてやりたかった。だが、己の信条がそれ許さない。獣の様な本性をただ振りまくだけでは獣でしかない。ちがう、己は女王陛下に忠義を誓った配下なのだ。礼節は、何時いかなる相手にでも保たなければならない。
「お前は……」
「はい?」
「お前は、何故そうまでして女王陛下に忠誠を誓う?」
「さて、私にも分かりません。まぁ、貴方がどことなく私を嫌っていると言うか、宜しくない印象を抱いているのは承知しております。その上で言わせていただくならば、私は
「は───」
「私は、やる事は本気でやり遂げようとする質なのです。そう言う点、私は己の職務に忠誠を誓っているのでしょう」
「………お前は」
その次の言葉をウッドワスは紡ぎ出せなんだ。どう言えば良いのか、分からなかったのだ。何を語れば良いのか、いや、そもそも己がどう感じたのか。それが有耶無耶になるように、分からなくなる。
「おや、もうノリッジのようだ。積もる話もあったのやしれませんが、私はここいらでお暇させていただきます」
「お前は、これから何をする。お前はこの妖精國で、何を成し遂げる?」
「さぁて、この妖精國で何をすると言われると、私は答えを持ち得ませんが───そうですね、これからスプリガン殿の下へ赴くのは、商談ですよ」
ま、狡賢く立ち回るための商談ですがね。望月はそう言い残し、スプリガンの元へと向かった。
「あぁ、貴方が! 噂はかねがね聞いております。さ、お掛けください」
「ええ、失礼致します。早速、本題に入らせていただきたいのですが、宜しいですか?」
「ええ、どうぞ。私としても商談など、中々する機会がありませんのでこう見えて、楽しみにしているのです」
「では───単刀直入に、貴方の率いる土の氏族を何名かいただきたい」
「ほう? それは何か作るのですかな?」
「えぇ、まぁ。なにぶん精巧か否かによって左右されるモノを作らねばなりませんので、人間の技術を他の氏族よりしっかりと見る、土の氏族にお願いしたい」
淡々と商談進めてっけどスムーズすぎて怖いでござる。こいつ、絶対なんか本性隠してる奴だと思うんだが。ニコニコしてて気持ち悪いゾこいつ……。
「えぇ、えぇ! 構いませんとも! しかし、これはあくまでも商談ですから、何かしらお代を頂かねば」
「その点はご安心ください。まぁ、これ位の代金を」
「あぁ、これは有難い。これでしたら、そうですね。十数名ほどそちらに」
「ありがとうございます。では商談は以上という事で」
「ところで───何を作るのですかな?」
途端にスプリガンの眼光が鋭い物になる。やっぱりな! コイツ絶対になんか企んでるぞ! もしもし
「まぁ、ちょっと新しい剣を作ろうかと。上手くいけば良い質の剣ができますよ」
「あぁ、それは楽しみですな───宜しければ、完成の暁には一本ください。美しい物には目が無いのです」
「確かに。完成したら特別美しいのを贈らせていただきますよ」
ま、剣は業務時間外にお遊びで作ってもらうけどね!(ブラック企業)
最後の方、ちょっと適当になったかなぁ?
やっぱり心情描写は難しいよ……
それはそれとして評価ありがとうございます!
拙僧感謝のあまり作品の妄想が止まりませぬ!
おかしい所があったら感想で指摘してね!(治せるとは言っていない)