アヴァロンルフェ今走ってるんで遅めの速度になるの許して……許して……
「一つ、酷なことを言うよ」
アドニスの目の前の男はそう言って、それでもやっぱり「本当に言うべきなのか」を悩んで、それで結局次の言葉を投げ出した。
「お前さん、もう長くはない」
アドニスはそれを聞いて、やっぱりそうだろう、
「―――死ぬのは怖い、だろう?」
目の前の
「よく、分かったね」
「分かるさ」
望月は目を閉じて、何かを懐かしむように語った。
「俺もそうだ。死ぬのが怖い。俺も
「……望月はさ」
魔術師なの?
その問いに、望月はいくらか困っているようだった。何しろ、アドニスが聞くような魔術師と、望月の内面は全く相反するようなものに見えるからだ。少なくともアドニスから見た彼は、慈愛とまではいかずとも、彼の手から零れぬ限りのギリギリの量の命を救っている善人に見える。己のために何もかもを巻き込み、その全てを己の為に利用する魔術師には見えないのだ。
「いいや? 俺は魔術師じゃあない。ただ、人間かと言われると、ちょっとばかり人間じゃない」
「英雄でもない。ただ、何でも願いを叶えられる人間なだけだ」
それは、つまり。それはつまり、噂に聞く
「あぁ、勘違いはするなよ? 俺は聖杯とは何ら関係がない。肉体だって常人同様壊れる。願いを何だろうと叶えられる点を除けば正真正銘ただの人間さ」
「それを、僕に話した理由は?」
「………お前が死ぬ前に、一つだけ願いを叶えてやろうと思ってな。何一つ報われない人生なんて、見ていて損だろう?」
アドニスは、迷った。己の死を先延ばしにしてくれと頼むのか、それとも―――。
「僕は……」
けれど、アドニスは恥じた。結局最後の最後まで、自身の事を考えてしまう己を。だから、次こそは、と意気込んで、彼に伝えた。
「彼女が……幸せになれるように。彼女を幸せにしてくれ」
望月はその答えに対して驚かず、ふ、と笑うとアドニスに最後の言葉を投げかけた。
「お前ならそう言うと思ったよ」
「風邪を引きますよ」
重い瞼をあげると、そこには見知った女の顔が見えた。金髪で、いざという時には頼りになる、ずいぶん長い間一緒に暮らした女。アドニスの忘れ形見。
「バーゲスト」
「はい?」
「いや―――何でもない。ちょっとばかり、懐かしい夢を見てたもんでな」
「あら、そうですか。それはそうと、しっかりと食事を摂ってくださいね」
これが彼らの日常。望月は彼女を幸せにするという願いを叶え、彼女は悲しみの後でその幸せを享受している。
時は女王暦2017年。望月がこの島へやってきて十年。ブリテンが終わりを告げる年である。