ようこそ、殺し屋最高傑作と呼ばれし少女が潜む教室へ 作:大ダメージ
軽い過去編と導入!本格的な本編開始は次話からです。
光があれば、闇がある。平和な世界の裏には闇の世界が広がっている。
殺し屋━━━━
暴力を法と呼ばれるもので制限する世となった今でも存在する、制限されることのない暴力的手段のうちの一つだ。
許されることなのかといえばそうではない。しかし、それを消し去ることは絶対に出来ない。その理由は主に、とある組織にある。
黒面 通称:BLACK MASK
漆黒のマスクで顔を隠した殺し屋集団だ。
幼い頃より施設で殺しの術を教わった者達。戦災孤児など身寄りのない子供達が拾われ、育てられる。
長年続いてきたその組織は、あらゆる国の政治家やヤクザ、悪の科学者といった者達と裏で繋がっていた。殺しが必要とされる。戦争時は勿論、平和な時でも必要なのだ。
いや、それがあるからこそ平和が保たれているということもあるのだろう。政権衝突、商業争い、戦争。それらが殺し屋の手によって大事となる前に、終結した時もあった。
少し話が逸れたが、つまりは、法に従い動く者達が、その組織には手が出せぬように世界が出来上がってしまっているということだ。
いや、出来上がってしまっていた。と言うべきだろう。
その日、裏世界に住む者であれば、誰もが知っているであろう常識が、一瞬にして崩壊した。
……
「は……?」
日本国のとある闇組織の支部。見ただけで高級品と分かる宝石を大量に身につけた小太りの男が、落ち着かない様子の部下らしき人物から、緊急報告を受けていた。
「も、もう一度申し上げます。黒面のほ、本部が壊滅状態との報告が入っており、また……」報告を続けようとする部下、しかし、大声に遮られる。
「そんなわけないだろうが!」
信じられるはずがなかった。
「で、ですが実際に報告が入っております。その日に本部に居た者達は、殺し屋達も含め、全員死体として発見されました。毒物は検知されず、爆発物の反応もない代わりに……」
「死亡した者達全てに、大きな傷がついていたそうです」
報告していた部下自身も信じられなかった。
おかしい? そんな一言で済ませられるレベルでは無い。殺し屋を上回る数で潰したというのであれば分かる。しかし、そうであれば、本部に近づく前に分かるのだ。報告もそれより前に入る。しかし突然、いきなりこの緊急の報告のみが入った。
神隠し。馬鹿げているが、そうとしか思えないレベルでおかしなことだった。
黒面、BLACK MASKの本部が攻撃された。
この情報は、とてつもない速さで闇の世界へと広がっていった。この事実が裏世界へ耐えた影響は、当然前代未聞のものとなり、黒面は勿論、裏世界全体が大きく変化することの要因となるのだった。
◆
「あ? 最高傑作だ?」
黒面本部のとある部屋、2人の男が壊滅事故の事後処理のため動いていた時だった。一人の男が1枚の紙きれを拾い上げ、小さな声で呟き、固まっていた。
「ん? どうしたよ? そんな紙切れなんかじっと見つめて。重要書類はここには無いはずだぞ。あったら俺らなんかにゃ任せねぇしな。死体処理に情報漏れの確認、資金や資源の確保。やることなんて腐るほどあるんだ。少しでも時間が惜しいって時に止まるんじゃねぇ。ほら、ささっと進め」
突然の事故報告からすぐに派遣されることになったことにイライラしていた男は、少し強めに言葉を発する。
「いや、すまねぇ。だが、これを見てくれよ」
そう言って、見つめていた紙をイライラを隠そうともしない同僚に見せつけてやる。
「これがどうしたってんだ?」
「ここの、紹介文のとこをよく見てくれ!」
「は? 最高傑作?」
それは、この本部へ入る時に人員管理のために記録される、本部へ入った時刻と顔写真と名前、紹介文等のプロフィールが記載されたものだ。
名前の欄には、ナンバー412とだけ書かれている。黒髪赤目。冷酷な印象を与える顔立ちではあるが、ほとんどの人が美しいと答えるであろう少女。容姿は整っているものの、それだけだ。
しかしその紹介文の方へ目を向けると、先の男と同様に固まった。そこには最高傑作とだけ書かれていた。
通常、ここの殺し屋の紹介文には、得意な武器や状況、または経歴なんかを書くものなのだ。施設での教育期間から仕事に移り変わる頃には、教育者達の評価なんかが具体的に記載される。
異質だった。つまりは本部から特別扱いされているということ。基本的に、黒面は表立って1人の人物を特別扱いするなんてことはしないのだ。おかしい。
少しの間その男は固まったままだったが、それを見せてきた仕事仲間に肩を叩かれ、現実へ戻される。
「こんな女のガキが特別扱いされるのかよ」
「ははっ、ほんと、なんの冗談だか」
確かに迫力はあるような気もしてきたが、まだ教育が終わってすぐの、経験もまともに積んでいないであろうガキだ。それに本部に居たという履歴がこうして残っている以上、つまりはそういうことだ。長い時間雑談してる暇は無いので、くだらないと2人で笑って、それでその話は終わりだ。不要なそれを捨て、作業を再開する。
ただの整理作業のために緊急で呼び出されただけのこの男達が知らないのも無理はないことだろう。しかしその日、その場に居たことを示すそれを、別の人物が見ていれば対応も捜索も、そして、これからの未来も変わっていたのかもしれない。
その少女の死体は見つかっていない
◆◇◆◇◆
あの夢を見た。あの赤い夜。怒りのままに、同業者を、親代わりのやつらを、何もかも。周りにあるものを壊して、壊して、壊して━━空が、地面が、赤く染っていく記憶。
そして、あの人のことも。
「これから貴女の名前は
あの人はよく、私の知らない世界を話して聞かせてくれた。その度に私は憧れた。
あの真っ白な訓練室の外の世界。日本という国で出会った、黄金に輝く髪を持つ、お嬢様。
最初はただの調査対象の男の娘でしかなかった。
だけど、少しずつ、少しずつ、私はそのお嬢様に惹かれていったのだ。表裏のない性格で、正直に気持ちをぶつけてくれる。だけどそれが心地よくて、あの笑顔を見ると心が落ち着いた。
今まで何とも思っていなかったあの場所が、初めて地獄のように思えたのはお嬢様と出会って数日経った頃だったと思う。
お嬢様と過ごした日々は、敵を、対象を、ただただ壊す以外に何も持たなかった私に、初めて感情というものを教えてくれた。
話を聞かせてもらう時は楽しかった。笑顔を見るだけで嬉しくなった。用事があって、しばらくの間会えないと聞いた時は、悲しかった。でも、帰ってきた時にはその何倍も嬉しかった。楽しい楽しい日々だった。だけど……
そんな時間は、唐突に終わりを告げた。
◆
久しぶりに昔の夢を見た。
「私、緊張してるのかな?」
普通のよくあるアパートの一室のベットの上にいた少女は、先程見た昔の夢、突然見た夢の理由を、そう結論づけた。
綺麗なロングの黒髪に、真っ赤な目。人当たりのよさそうな印象を与えるその少女は、それはもう、とてつもない美少女だった。かわいい、美しい、イケメンを全て足して割らない。老若男女、誰にでも通用するであろう美貌。神に愛されていると言っても過言ではないほどのものだ。
そんな美少女、夜咲瑠火は、今日から始まるいつもとは違ったことに、意識を向けているようだった。
今日から私は学校に通う。中学は、テストだけは受けていたものの、ほとんど登校していなかった。不登校というやつだ。色々理由はあったものの、少しだけ後悔している。
「だからこそ! 次は、友達100人作って、充実した学校生活を送るぞ──!!」
気合いを入れる。勉強はそれなりに頑張ってきたから大丈夫だとは思う。だけど、やっぱり初めては緊張するものなのだ。
ふんす! と効果音が聞こえてくるような、腕をぐっとした気合いの入れ方をするるかだったが、すぐに少し焦ったように口を開いた。
「やばい、そろそろ行かないと! 初日から遅刻なんて恥ずかしいことにならないようにしないと」
急いで準備を始める。
◆
「よし、と。じゃあ、行ってきます!」
…………
「って、違う違う。この家にはしばらく戻ってこないんだった」
学校が全寮制であることを思い出し、行ってきますの挨拶をした写真立てを、急いで大事そうにバッグへと仕舞った。
「東京都高度育成高等学校かぁ。いきなり初めての学校が全寮制って、大丈夫かなぁ、私」
るかは、全寮制の学校であることにまた心配し始めるが、ちんたらしている時間は無いため、今度こそ家を出た。ものの、今度はスマホの時間を確認して、驚く。
「やばい歩いてたらバスの時間に遅れちゃう!」
ギュン
遅刻してしまうという最悪の状況を思い浮かべた少女は足に軽く力を入れる。すると、なにやら音が鳴ったかと思えば、るかはその場から一瞬にして消えた。100mはあるであろう曲がり角までへの道路上にも、既に彼女は居ない。
(軽く走れば大丈夫。間に合う。)
壊すことしか知らなかった闇の世界の住人、最高傑作と、特別扱いなど許されない環境で、特別扱いされた異質な子供は、感情というものを覚え、成長していった。
少女は何を学び、何を成すのだろうか。実力で全てが決まる、実力至上主義の教室で。