思春期の青少年ほど扱いの難しい爆弾は無い。
あ? お前の場合だと? 貴様の場合は不発弾だ、マヌケ‼︎
「それに……今からじゃあ、ちと厳しいってのが本音だな」
『リッカさんの場合だと……』
「モネカ。人のプライベートに首を突っ込むのは止めておいた方が良い……」
これ以上は言わせないと言う事で釘を刺しておく。どうせバレているのだが、わざわざ口に出されるのも癪だ。
『はぁい』
——やれやれ。さて、次の的を。
「其処の貴方。そんな所で何をしていますの⁉︎」
その時、後方から声が聞こえて来る。気の強そうな娘の声だ。語気の強さからして『委員会』側で蔓延っている女尊男卑の風潮を持つと予想される。
「射撃場に居るのだから、銃を撃ちに来たに決まってんだろう?」
リッカは振り向く事なくその声に応える。此処で振り向くのも癪な気がしたからだ。
「其処は今から私が使いますの‼︎ さっさとお退きになってくださいまし‼︎」
後方からややヒステリ気味な声が飛んで来る中、拳銃に持ち替えて弾を装填する。やはり個人的にはオートよりもリボルバーの方が安定する。
「別に射撃場はお前専用と言う訳では無かろう? 横に幾らでも空いているだろ。それでもと言うのであれば……退かしてみろよ?」
軽く挑発。女尊男卑は自尊心が強い傾向がある。ましてや男に煽られて黙っていられる程、辛抱強いか或いは笑い捨てるかでその人間の大凡の行動が読める。
「なんっッ⁉︎」
ヒステリ娘が吼える最中、リッカは即座に振り向き銃口を向け、即座に銃声が鳴った。
「……?」
銃声が鳴った。にも関わらず、何も起こらない事に疑問符を浮かべる。確実に撃たれたと脳では理解したのだが、何処にも血痕や怪我を負った自覚が無い。
「こっちにゃ弾ァ、入れてねぇよ」
沈黙する娘を尻目にリッカは右手に持っている拳銃の弾倉を開けて中身を見せる。空洞であり弾は入っていない。
ならば、先程の銃声は何処から?と、視線を動かすと左手に持った拳銃の銃口は彼の背後へと向けており、尚且つ遠方に見える的に的確に命中していた。
「ビビり過ぎだろ。学園内で死傷者出しちまうとアカデミーから退学通告喰らうっつーの。そしたら、姉弟子に殺されらぁて」
リッカはそう笑い捨て再び背後を向けて次は狙撃銃を手に取る。
「…………貴方、何なんですの……?」
——へぇ、立ち直りは早いみたいだ。ツー事は唯の娘さんじゃ無いな。
「散々、報道してくれやがった通りだよ。
イングランド代表候補生セシリア・オルコット」
「な、何故……⁉︎」
「知らぬ方が可笑しかろう。そうだな、追加で告げるならオルコット財閥の跡取り娘でオルコット夫妻は鉄道事故で他界、その後は死物狂いで『力』を求めて代表候補生の地位を自力で獲得した。
その過程において外部から資産を奪おうとする輩から家を守る為に他人に頼らない在り方に行き着いたって所だろう。女尊男卑の思想に同意した事に関しても、親父さんが下手であった事と重なって見えたからじゃねぇの?」
「……。……ッ‼︎ ど、どうして貴方が其処まで知っているんですの⁉︎」
「さぁな? 傭兵と言う職業柄、情報ってのは先に掴まないとやってられないんでね?」
自分の過去を暴かれ動揺を隠せないセシリアに対してリッカはさも何でもない様な態度で受け流す。
「先に言っとくが、別にアンタの家の資産とかは興味無ぇよ。つーか、それ以前にイングランド政府から入国拒否されちまってな。手に入れても使いようが無いんだよ」
「それはそれで貴方は一体何をやらかしたんですの⁉︎」
「ソレを知ったとて、意味無いだろうよ。俺もイングランドに行く気はさらさら無いしな」
話を切り上げて狙撃銃を構えて的を射抜く。見事にヘッドショットとなる場所に命中した。
「貴方……‼︎ いい加減に人の顔を見て話せませんの⁉︎ 普通に失礼ですわよ⁉︎」
隣の射撃席の防弾ガラス越しに喚いて来るセシリア。ちゃっかり、狙撃銃を引っ提げて来ている事からちゃんと訓練するつもりのようである。
「……悪い悪い。言葉よりも先に銃弾や暴力が先なモンでな。別にお互い話をする理由は無いだろ? 話題がある訳でもあるまいし、変に探す必要は無い」
「…………」
その後、お互い言葉は交わす事は無く射撃場には複数回の銃声が響き渡った。
昼休みを挟み午後の授業も何時も通りに爆睡して過ごした後の放課後。昨日は買い出しを済ませた為、後は如何するのか思案しながら大食堂へと向けて歩いていた。
——……今日くらいは仕事を回して来るだろうな。まぁ、影の殿堂だのディメンションだのに行って来いと言われても今更な気がするが。と、ん?
大食堂へと差し掛かった所、先客が居たようだ。女子生徒では無く男子だ。黒髪で悩みが無さそうな爽やかそうな笑顔が似合う青少年。その男子生徒は此方を見るなり、花開く様な笑みを浮かべながら此方に接近して来る。
自分以外で男子となれば1人しか居ない。
「あー、やっと見つけた‼︎ 昨日探しても全然、見つからなかったんだぜ?」
——何つーか、兄弟子の声とソックリだな、コイツ。なんかその内、世界の敵になってそう。
「俺は織斑 一夏‼︎ よろしくな‼︎」
目の前の青少年は爽やかな笑みを浮かべながらそう自己紹介した。今時、こんな人間は早々お目にはかかれないだろう。
「んまぁ、そうだな」
「テンション低くないか……?」
「ま、コレが平常運転なモノでな。他意は無い。で、何の用だ? 織斑 一夏」
「一夏で良いって。確か、リッカって言うんだよな? 俺にISの事を教えてくれよ‼︎ 頼れる奴が他に居なくてさ‼︎」
「はぁ?」
——爽やか系バカなのか? コイツは。
何をどう間違えればそんな結論に辿り着くのか理解出来なかった。何処にIS業界をまるで知らないカウンターに教えを乞う馬鹿が居るのだろうか、いや、目の前に居たわ。
他にも1組のクラス代表を決める過程でイングランド代表候補生のセシリアと模擬戦をする事になっており、その辺の知識もままならないと言う状況との事。
「だから頼むよ‼︎ 女子ばっかの学園で折角の男同士、仲良くやって行こうぜ‼︎」
——すまん。ウチの職場も何故か女子率が高いんだわ……しかも、何かと問題だらけの。
「頼む相手間違えているだろ、お前……。そもそも俺は授業は全部、寝ているからな。教えろとか言われても教えられるモンは何も無い」
「嘘だろ……⁉︎」
絶望した様な顔になっているが、知った事では無い。そもそも根本的に間違えているのが問題だ。
「じゃあ、何の為にIS学園に居るんだよ⁉︎」
「仕事だ。管理局からの命令だから来ている。通って普通に過ごせば後は好きにしろって話だからな」
「そんな良い加減な……」
普通ならば一夏の零した言葉通りだろう。しかしながらリッカの身分上、そうなってしまっているのが実情だ。
「そう言う訳だから、他を当りなよ。それこそ、教師に聞くのが1番早いだろう」
取り敢えずそう言い残して食堂を後にした。歩いて5分程、仕事の通信が来た。
グラウンド・ワンで何時もの浄化作戦が開始されるとの事。
迎えを寄越すから参加しろとのお達しだった。
『使い道』の試運転としては丁度良い、結果次第では運用も視野に入れても良いかも知れない。
「寄越すなら、さっさと寄越してくれ。ああ、飛び降りるから其の儘、上空に行ってくれて結構だ。災厄は空からって、いえ、何でもありません」