インフィニット・カウンターズ   作:夢現図書館

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 現実の前に妄想は無意味。



グラウンド・ワン

 

 

 

 

 

「あ……‼︎」

 

「ん?」

 

 校門へ向かう途中、本校舎の廊下にて、正面から新聞部とか言う黛 薫子と偶然にも遭遇した。

 

——あー、確か黛 薫子とか名乗った女だったな。

 

「こ、こんな所で会うなんて奇遇ね……‼︎ この時間帯なら皆、寮棟に居るものなんだけど」

 

「生憎ながら夜行性なモノでね。俺達にとっちゃ、夜が本格的に活動の時間帯なんでな。お前さんは残業か?」

 

「……学生相手に残業って言葉を聞く日が来ようとは思ってもみなかったわね……‼︎ 私は1年1組のクラス代表を決める決闘騒ぎの記事を書いていたのよ‼︎ やっぱり男性操縦者は何かしら渦中に居るからネタに困らないわ‼︎」

 

 高々、個人的な争いを記事にして何が楽しいのやら。外野が騒いでは当人達は鬱陶しいだけだろうに。

 

「そう言う、貴方はこんな所で何をしているのよ? そもそも其方は寮棟の方角じゃなくて校門の方よ?」

 

「ああ、『グラウンド・ワン』に買い出しって奴だ。弾薬とか必要なモノを買い足しておかないとな。必要な時に無かったら目も当てられん」

 

「今から⁉︎」

 

 夕方を過ぎて夜の時間帯になって今から外出すると言う昼夜が逆転している人間。初対面でもそうだったが、薫子にとって全く知らない人種を相手に驚く事ばかりだった。

 

「そう言う訳だ。じゃあな」

 

「あ、待って‼︎」

 

「ん? 何だ?」

 

「私も一緒に行くわ‼︎ IS学園で初めて知り合ったカウンター‼︎ ううん、私達にとってカウンターは殆ど縁が無いのよ‼︎ だから、一時的にでも良いから密着させてちょうだい‼︎」

 

「……其処まで面白い事は無いと思うが」

 

 薫子にとって男性操縦者の片割れ。それに加えて『管理局』側の住人でカウンターな上に自分が今まで見て来た人間とは全く異なる世界の人間。しかもアウトロー気味も相俟って織斑 一夏とは全く別の意味で人気が出そうだと睨んでいる。

 正に彼の存在其の物が自分の中では未知の領域。故に記者として知りたいと言う欲求が強いのだろう。

 

「貴方にとってそうかも知れないけど、私にとっては涎垂モノの記事ネタよ‼︎ こんな格好のネタが目の前にあるのに門限なんて気にしていられないわ‼︎」

 

 1人で勝手に興奮している薫子を前にリッカは半目でその様子を眺めていた。此処までオーバーな感情を表に出す人間もまた珍しいと言う面持ちだ。

 

「ま、好きにしろ。後でどうなっても知らんからな」

 

 余計な事に首を突っ込んで破滅する輩は何人も居る。引き金も軽ければ命なんぞ紙束より軽い業界だからだ。

 

「大丈夫‼︎ ヤバい内容だったら自粛するから‼︎」

 

 本当かねぇと言う若干の疑いの目線を向けるも取り敢えず伝聞よりも直に見た方が納得しやすいだろう。そんな訳で薫子が同行し、校門を抜けた。

 

 

「さて、早速やって見るかね」

 

 リッカの目の前で量子が収束され一台のバイクが眼前に顕現した。大型の部類でもう1人、後ろに乗せるには充分なスペースがある。その様子を見て薫子は普通に驚いた表情を見せる。

 

「え?え? 量子展開⁉︎」

 

「何驚いてんだよ? ISの技術の量子展開ってのは基本中の基本じゃねぇのかよ?」

 

「た、確かにそうだけど……。ISコアの拡張領域ってのは、そのISコアに好みって物があるから、取り込めるモノに違いが出て来るのよ。

 射撃武装しか取り込めなかったり近接武装しか取り込めなかったり個性があるし、また容量にも違いがあるのよ。まさかバイク1台、丸々拡張領域に格納していたなんて」

 

「へー、そりゃ初耳だな。まぁ、俺にとってはどうでも良い内容だな」

 

 本当にどうでも良かった。

 適当に先方に任せたし、要望を言ったとは言え、『此方側』の常識からすれば巫山戯るなと言えるかも知れない。それらも含めてどうでも良かった。

 カウンターなんて大体が巫山戯ているから尚更だ。

 

「バイクの免許を持ってたんだ。意外ね」

 

 男性操縦者の1人がバイクの免許持ち。まぁ、年齢的に……? 持っていても不思議では無いかも知れない。

 

「カウンターだったら、年齢制限やら就職絡みの選考基準とか無くなるからな。カウンターだったら傭兵業界の代表格のタスクフォース以外でも、かなり有利だしな。カウンターなら諸々、パスって内定を取れるくらいだ。

 俺が知っている範囲だと、16歳くらいで1発合格かついきなり警視待遇のエリート入職した警察官が居るしな」

 

 最も、思想が超過激な所為で問題を起こしているのだが、それは知らない方が良いかも知れない。

 

「うわ、良いなぁ。就職にメチャクチャ有利じゃない。IS業界だと競争率とか凄く激しいのに」

 

「其方の都合は知らん。ま、福利厚生最悪なブラック企業を引き当てまくる可能性も無きに有らずだがな」

 

 何せ人件費はガソリン代よりも低く抑えるのが最近のトレンドだと言われている程だ。特にタスクフォースカンパニーは合法、非合法が乱立しておりグレーを通り越してブラックにどっぷり浸っている企業も数多い。正式ライセンスを有する企業でも実態はブラック同然って言うパターンもある。

 

「其処は何処の業界でも変わらないのねぇ……」

 

「……ほら、ヘルメット」

 

「あ、ありがと」

 

 ヘルメットを投げ渡す。カウンターなら事故った時、悪くても擦り傷程度で済むのだが、常人である薫子はそうも行かない。頭皮がズリ剥けて頭蓋骨が露出するかも知れないからだ。

 

「あと、IS学園の制服のままってのもヤバいからな」

 

 そう言い黒いジャケットも投げ渡した、取り敢えず上に羽織っておけば何とかなるだろう。

 

「やっぱり補導されるから?」

 

 夜の時間帯に学生が出歩いているのは大変、よろしくない。

 

「いや、10代でも傭兵の奴なんて幾らでも居るからな。余程、白地な様子じゃ無ければ補導なんかしねーよ。

 IS学園の制服はグラウンド・ワンじゃ赤信号よりも危険なんだよ。ISを神聖視する奴もいりゃあ……憎んでいる奴も当然、存在している。女尊男卑の風潮を逃れてグラウンド・ワンに逃れて来た奴もいるだろうよ」

 

「」

 

「……ビビったんなら引き返す事を勧めるが?」

 

「いえ、行くわ。危険を恐れて引き退るの方が確かに安全だと思うけど……それじゃあ、現実から目を背けているのと一緒よ」

 

 薫子はジャケットを制服の上から羽織り、ヘルメットを被ってバイクの後方に跨った。

 

「そうか。要らぬ世話だったな」

 

 リッカは説得を止めた。自分で選んだ以上は野暮だからだ。本人が納得しているのならばこれ以上は何も言う義理は無い。

 バイクに乗って走り出し、IS学園と本州を繋ぐ大橋の上を走って行く。

 

「黛。舌噛むから、目を瞑って黙っとけよ」

 

「え?」

 

「お客様、お待たせしました‼︎ プラチナエクスプレス、ララ・イェーガー‼︎ 只今定時に到着しました‼︎」

 

 その声は唐突に隣から聞こえて来た。

 横を見れば時速60kmで走るバイクに完璧に並走する形で自分の足で走っている橙色の髪の女性の姿が映った。

 

「え゛ッ⁉︎」

 

「時間通りで助かる。と言う訳で『グラウンド・ワン』まで頼む(・・)

 

「畏まりました‼︎ では、行きますよ‼︎」

 

 その刹那、薫子は口や文字では描写し難い状況を感覚で感じ取った。

 時間にして1秒、いやそれ未満か。気が付けば、ほんの先程まで海原の上を行く橋の上を走っていたのだが、喧騒が支配する夜の大都市。

 

 管理局直轄都市である『グラウンド・ワン』の高速道路の上を走っていたのだ。

 

「え、えぇぇぇぇえ‼︎⁉︎」

 

「五月蝿い、黙れ。俺の耳迷惑だ」

 

「驚きもするわよ⁉︎ 何⁉︎ 何⁉︎ 何が起こったって言うの⁉︎ ついさっきまで本州とIS学園を繋ぐ橋の上を走っていたのに、一瞬で大都市の高速道路の上を走っているのよ⁉︎ ワープ⁉︎ ワープしたの⁉︎ いや、本当に何が起こったのか分からなかったんだけど⁉︎ さっきの橙色の髪の人は誰⁉︎ 何でバイクに平然と並走して走れるの⁉︎」

 

 捲し立てるかのように矢継ぎ早と言葉が飛び出す薫子。あーもう、五月蝿いなとリッカは背後から飛んでくる言葉の羅列に呆れる。

 

「別に気にする必要無ぇだろ。ISだとてマッハ4とか出せるんだろ?」

 

「それとコレとは話が別よ⁉︎ いや、本当に何が起きたって言うのよ⁉︎ ワープしたとしか思えないんだけど⁉︎」

 

「もうそれで良いだろ。面倒臭い」

 

「こんなの記事にしたって、誰も信じないわ……」

 

 薫子が目の前で体験した事実を前に落胆する形で漸く大人しくなった。騒いだり叫んだり、忙しくて面白い女である。

 

「……それで、此処は何処なの?」

 

 ヘルメット越しで周囲を見渡す。高速道路の上であり走行する車両の中、防風壁の向こう側に高層ビルが立ち並んでいるのが見える。

 

「『グラウンド・ワン』内にある高速道路だ。街中の大通りや交差点に出ちまうと信号待ちの車とかに激突(クラッシュ)しかねないからな」

 

「此処が……あの、夜だと言うのにかなり明るいわね。それとあの大きな光の柱は何?」

 

 視界の隅に収めているが高層ビルよりも巨大な光の柱が見えた。その所為で夜だと言うのに明るい。

 

「……大規模な侵食現象、管理失敗の末に発生したと言う『大亀裂』って奴だ。それ故に此処に多数のタスクフォースカンパニーが犇き合っている。これ以上は俺は知らんな」

 

「…………」

 

 暫し無言の中、高速道路を走った後、出口にて街中へと降りて行った。

 

 

 

 

 






 『ララ・イェーガー』

 コスト4のタワー。
 規定の場所を往復するパトロール型のタワーユニット。
 最初から完全回避状態で範囲内を行ったり来たりし、範囲内の敵を攻撃する。
 方向転換する時、攻撃力と究極スキルのダメージを増加させ、特殊スキル使用後はダメージ減衰のバフを得る。
 究極スキルはどう見てもライダーキック。発動から地面に着地するまでダメージ免疫(無敵)であり、使用後は移動速度が上昇する。

 プラチナエクスプレスのプラチナランク配達員。まんまウーバーイーツみたいな格好をしている。
 空間跳躍系統のカウンター能力者で彼女の移動に巻き込まれると別次元へ吹っ飛ばされる事がある(トラック転移ならぬ配達員転移)。
 非常にそそっかしい性格で立ち止まっている時が少ない模様。
 その気になれば天気すらも配達してこれる。

 
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