清澄高校男子麻雀部   作:首吊男

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麻雀下手くそですがご了承ください。


第1話

「ロン」

 

 ガラっと、声を出した青年が自牌を晒す。

 

{一二三七}(ドラ){八九①②③北} {横213} {北}(ロン)

 

「チャンタサンショクドラ一、5800な」

「ぬあー!!マジかよ!!」

 

 対面に座る、ガタイのいいスポーツ刈りをした、いかにも元気そうな男子が嘆く。今しがた、彼に振り込んでしまったからだ。

 

「ふっふっふ。もう降参してもいいのだぞ?てかしろ。んで、早くパン買ってこい。売り切れるかも知れないし、食べる時間が無くなったら困る」

「…まだだぜぇ~。今日こそは俺じゃなく、お前に買ってこさせる!」

 

 サッカー部所属で、根っからの負けず嫌いである新堂雅人はリベンジに燃える。

 どうやら彼らはお昼の飯を賭けて勝負をしているようだ。

 

「ん~、もしこのまま逆転できて桐生が買いに行くとなっても、多分、いや絶対に時間は無くなるね。役満直撃できたらその限りでも無いけど…」

「できるわけね~笑笑」

 

 同じ卓――と言っても、教室の机を二つ合わせただけだが――を囲む残りの二人が間髪入れずに言葉を挟む。

 一人は標準的な男子と言えばよかろうか。名前は大柴寮。背はだいたい170程度。太っても痩せてもいない。特徴を上げるとすれば少し流し目なところぐらいか。

 もう一人、ケラケラと笑っているこちらは土門海斗、他の三人に比べるとかなり整った顔立ちだ。背もやや高めで、周りの女子からもチラチラと見られている。

 

「まぁそうだな。うん、シバがもし満貫以上を俺に直撃できたら、一年間有無を言わず昼飯をおごってやる」

「な、何!言ったな!前言撤回は無しだからな!」

「いいの桐生?」

「ああ。はっきり言ってシバ如きに俺が振り込むとかありえない。マジありえない」

「二回言った。しかも、マジを付けるとかぷぷ。リュウちゃん男~。んじゃオレっちも付き合うぜ~」

「さっきから言いたい放題だな!」

 

 雅人が叫んで突っ込む。それが普段の光景なのか、他の生徒はクスクスと笑う。何人かは椅子を持ってきて観戦したりもしている。結構女子の数も多い。最近では麻雀は一般的に知能ゲームとして認知されるようになり、年々麻雀人口の割合も急増している。テレビでもよく放送されるようにもなった。

 ジャラジャラと牌を混ぜる。最近は自動卓が主流になってきたが、一般の教室にそれがある訳もないので全て手動だ。

 

「んじゃ始めるでー」

 

 海斗が山が出来上がったのを見届けて、再開を軽い口調で宣言した。

 

 

 

 

「んー…麻雀じゃないか。こないなとこでやってるとはの。どれ、少し見学していこーか。上手かったら部にでも勧誘すれば、ここんとこマンネリ化しとった部活も面白くなるかも知れんしのう」

 

 (打っているのは全員男か、まぁ練習相手にするなら性別など関係ないけー。京太郎もいるし、部のバランスも良くなるかも知れんの)

 

 扉に程近くいた女子グループに見ていいか尋ねる。仲があるわけでもないが顔は互いに知っている。あちらもまこが麻雀部であることを知っているため心良く返事をしてくれた。

 

 卓を見渡すとまだ二巡目。この局は始まったばかり。

 親は寮。順は寮→桐生→海斗→雅人。

 

「ふふふふふ…桐生。お前はこれから一年間後悔することになるぜ」

 

 桐生に向かい、雅人がニヤリと笑いかけてくる。余程いい手が入ったのだろうか。

 

(ふむここから見えるのは背の高い男子と、今しがた対面の相手に睨まれた男子か。背の高い方は早いうちにかなりいい手が揃っておる)

 

{二二二②②②④⑥234西白}

 

(この手なら三暗刻と三色を狙いつつ、鳴いてもタンヤオ、トイトイ。ドラが{1}なのが残念ではあるが、それでも高目を目指せば満貫は確実。裏ドラが乗れば倍満まで行きそうな手じゃ)

 

 寮がツモる。それをそのままツモ切り。場に出したのは{南}。

 次に桐生がツモる。

 

「シバ。悪いけど、今度もお前の負けだな」

 

 まこはそういう桐生の手牌を見る。

 

{一四赤⑤134569北北白中} {一}

 

 ツモした{一}は有効牌でドラ。

 

({赤⑤}があるし、ドラ3。じゃが、筒子がそれだけじゃから使いにくい。普通に行けば、自風の{北}を鳴くかツモるかで速攻あたりが妥当かの。まぁまずは様子見でええじゃろ)

 

 桐生はツモった{一}を加えて{四}を場に置く。無難な選択だ。

 

 

そのまま誰も鳴くことはなく向かえた7順目。

 

海斗手牌

 

{二二二七八②②②⑥⑦234}

 

 海斗が一向聴まで進む。

 

(う~ん。リュウちゃんの捨て牌を見ると、索子が一個も出ていないのが気になるな。寮は着々と手を進めているだろうから、一番面倒なのは打ち筋が全く分からないシバか。{七 八 九}が続けて手牌から出ているのとか本当に意味が分からないし。・・・ま、でもその前にオレっちがアガりそうだけどね~)

 

 

 そう思考しながら山から牌を取ると、来たのは自風牌でもない{西}。

 

(いらないのが来たか~。まぁそういうこともあるある)

 

 タンと場に出すと

 

「ポン」

 

 雅人が自風である{西}を鳴いた。

 これで雅人は一幡できたことになる。代わりに出したのは{⑧}。

 続く寮は、ツモした牌をそのままツモ切りした。出たのは{2}。

 

「チー」

 

 今度は桐生が鳴く。

 

(ん?今のは鳴くとこか?)

 

 後ろから見ていたまこが今の鳴きを疑問に思う。

 

桐生手牌

 

{一一赤⑤256789北北中} {横213}

 

({2}を持っているのにもかかわらず、わざわざチーをして手を下げる意味はあったかの?)

 

 チーをして牌が14になってしまったので、手牌から一つ取り出して捨てる。捨てた牌は{赤⑤}。

 

(そこでドラを捨てるか?一通狙いだとしても{中}を捨てれば良くないか?)

 

「チー」

 

 海斗が鳴いて二連チャンでチー。海斗はまだ場に出ていない{八}を残して聴牌。手は安くなったが、まずはあがることを目指す。

 

 10巡目

 

寮手牌

 

{三四五六六③④⑥⑥⑦⑧⑧北} {⑦}

 

 これで寮も聴牌。親なのでここは臆せず攻める。

 

「リーチ」

 

 {北}を横向きに出して百点棒を投げる。{②}-{⑤}の両面待ち。一発か裏が乗れば跳満。倍満までありえる。

 

「ポン」

 

 桐生が鳴いて一発は無くなった。

 

(喰いずらされたか…)

 

 桐生が捨てたのはドラの{一}。当たり牌ではないので通る。

 

(またドラを捨ておった。混一色なら鳴いてるから一幡下がっとる、ドラを残して置いた方が得点は高いんじゃがの)

 

 最初に賭けをした二人を差し終えて、残りの二人が聴牌。

 だが、次に海斗がツモした牌は{2}。

 

(ありゃ~。これはどうしようか?三色が行けそうになっちまった。リュウちゃんがしたチーで一個出てるけど、他には一つも出てないから可能性はあるなぁ。いっちょ狙ってみっか)

 

 手を崩して{4}を出す。

 

「ポンだ!」

 

 雅人が待ってましたとばかりに声を出す。

 

「あと少しだぜぇ。…勝つのは俺だ…!」

 

 ぜーぜーと息を荒げて雅人が意気込むが、どう見ても犯罪者の顔だ。海斗をキラキラと見つめている女子の眼差しが、雅人の方へ移ると、一気に瞳のハイライトが消え失せた。

 

「はいはい。早く牌だせよ」

 

 そんな雅人を桐生は軽くあしらう。出された牌は{一}。桐生と同じだ。

 

({4}がポンされるか。これは手前の男子にとっては痛い展開じゃの。これで一通の線が極端に減ってしもうた)

 

 ただひとりリーチをかけた寮に順番が回ってくる。だが当たり牌ではなかったのでそのまま捨てられた。

 その次桐生に{7}が入る。迷いなく、先ほどと同じく{一}を捨てた。

 

そして

 

「しゃあ。カン!」

 

 雅人がツモった{西}をカン。新しいドラは{北}。桐生の自風である。しかも既に三つ揃えている。

 

「臭うな…」

 

 そう桐生が呟いた。まこはスンと辺りを嗅ぐが、変わった臭いはしない。

 

「俺は屁なんてこいてねぇぞ!!」

「知ってるわ。てか、そうやって大声で否定すると逆に怪しいな」

「あれ?何か臭・・・」

「してねぇって言ってんだろ!?」

 

 そんな三人を見て寮は笑う。まこはさっぱり意味がわからなかった。

 

「まぁ、当分はお前がパシリってことだな」

「リュウちゃん気が早い~」

 

 寮は笑いながら牌を引く。確認すると{7}。どうすることもできないので河に置く。

 

「チー」

 

 今の{7}をチーしたことにより今の桐生の手牌は

 

{25677北北北} {横213}{横789}

 

 {2}を捨てて聴牌。

 

「あ、それポン」

 

 これで海斗三色同刻が完成。再び聴牌。後は{八}が来るのを待つだけ。

 

「キタァ~~~!!!」

「「「うるさい」」」

「カン!」

 

 ツモった牌を見て叫んだ雅人を三人が突っ込む。それを気にせず雅人は{⑨}を暗槓。嶺上牌を取る。

 

「また来たぜ!もういっちょカンだ!!」

「ロン」

「ほえ?」

 

 ここまで一瞬で顔が変わるのも珍しい。誰から見ても、筋肉質のゴリラみたいな男の呆けた顔は気持ち悪いようだった。こちらは「おぇ」だ。

 

「だからロンだよ。お前の{4}加カンで、チャンカン。イッツウとホンイツ。それとドラ3で12000」

「なにぃ!!!?俺の三槓子がぁあああ!!!」

「また珍しい役だな」

「面白いだろ?」

「・・・まぁ見てる分には」

「リュウちゃんすげー。に比べて、ぷぷ。あれだけ意気込んでた雅人が逆に振り込んでやんの。しかも跳満。だせーははは」

「ほら、早くパン買いに行けよ負け犬。弱いくせに使えねえとかマジなんなの?」

「一気に俺の扱いがひどくなったな!あ~はいはい俺は負け犬ですよー。どうせ麻雀歴も一番浅い・・・「いけよ」辛辣!!」

 

 項垂れるようにしてトボトボと教室を出ていく雅人。その後ろ姿に向けて、桐生が「走れ」と一言。

 傍からみたら軽くイジメだ。けれど、運動部所属である雅人はこの程度でへこたれるようなやわではない。明日にでもリベンジを持ちかけてくるだろう。

 

「本当・・・いいカモだな」

「リュウちゃん漏れてるよー」

「それじゃいつものように雅人が帰ってくるまで、誰か入って貰おうか」

 

 寮の提案通り、桐生は誰かいい相手がいないか教室内をぐるっと見渡す。

 

「んー・・・そうだな。じゃあ、海斗に任せた」

「えー、悩んどいて結局オレ?だれかーやりたい人いるー?」

 

 海斗の掛け声に女子がピクリと反応するが、殆どルールを知らない人ばっかなので誰も挙がらない。

 いつもなら男子の何人かが回って入るが、今日はどこか遠慮がちだ。

 

「なんか皆ノリ悪いな。代わりに大富豪でもするか?」

「いや、その必要はないらしい。今日は珍しいお客さんだ」

「は?」

 

 寮が桐生の背後を見ながら言うので、くるりと後ろを振り向く。そこには円ぶちメガネの女子生徒が桐生を見下ろしていた。

 

「誰?」

 

 至極真っ当な疑問を口にした。見覚えのない顔は確かにクラスメートではない・・・と思われる。桐生は人の顔を覚えるのが苦手であり、忘れているだけかもしれないので、「誰?」という質問は安直だったかもしれない。これでクラスメートならきまづい。

 

「おお、わしは染谷まこ。違うクラスじゃが麻雀部での、たまたま外から見えたんで見学させてもらってたんじゃ」

「これはこれはご丁寧に。んじゃどうぞ」

「は?なにがじゃ?」

「なにがってなにが?」

「多分対面に座って麻雀を打とうってことだと思う」

「ああ、そういうことか。そうじゃの、他にやりたそうな人も居らんし、お言葉に甘えさせてもらうかの。丁度見てたらやりたくなってきたとこじゃけぇ」

 

 寮のフォローで桐生の意図が伝わる。

 

「ところであんたら」

 

 席についたまこが不意に言葉を発した。

 

「なんだいまこっち?」

「ううぉう、初対面ですごーフレンドリーじゃの・・・。いや、別に大したことじゃないが、毎日こうやって麻雀しとるのか?」

「う~ん・・・。他にも大富豪やUNOとかやってるねー。まぁその中でも比較的麻雀が多いかな?」

「だったら麻雀部に入る気はないか?」

「あ~確かうちの麻雀部凄い人数少なかったけ。そんなに人手不足?」

「今年は一年が四人入ったけ、そこまで危うくはないんじゃがの。ずっと同じ相手だとどうもやりがいが減ってきてのう」

 

 まこと海斗がそんな会話をする。全員が軽く自己紹介を済ませたぐらいに、全速力で雅人が戻ってきた。

 

「おせえ」

「五分も経ってないんですけど!?」

(ヨーグルトの中身ぐちゃぐちゃ...流石に今言うのは可愛そう)

 

 桐生にいじめられている雅人を見て不満はあるが言葉には出さない。この中で一番空気を読める人間は寮である。 

 

「雅人以外は何もやっていないし、入るのは無理ではない」

「ほうか!」

「そうそう、オレっちらも新しい人とやりたいってのはあるしー」

「安心せい。うちの奴らは結構強い。なんたって去年の全中王者がいるからの」

「マジ?それって凄いじゃん。...んーでも、そこまで言うんなら・・・」

 

 もったいぶるようにニヤリと海斗が笑う。そしてちらりと桐生を見た。

 

「うちの大将を倒せるぐらいじゃないとなー」

 

 もぐもぐとパンを口にする桐生にまこは視線をあわせた。

 

「ほうか、まずは実力を見せろということじゃの?ふふ、これでわしが勝ったら部に入って貰うけ」

「なんか話が段々進んでいくけど、俺は入るなんて一言も言ってないぞ」

「まぁまぁリュウちゃん。たまにはこういうのも面白いでしょ?オレっちは雅人なんかとやるよりよっぽどいいと思うよー」

「・・・それもそうだな」

「オイ!!?」

 

 まだ数分しか一緒にいないが、まこは雅人がどういう立ち位置なのかを悟った。

 

「あと二十分しかないし東風戦で、時間切れか終了時時点で一番点数の多い人の勝利。一発裏ドラあり、赤ドラ4枚、ダブル役満あり、数え役満なし、ダブロンあり、喰いタンあり、ウマはなしで、最初の持ち点は25000ね」

 

 寮がルールを説明する。

 

「変わったルールじゃの。ダブル役満がありなのに数え役満はないのか」

 

 桐生が{東 南 西 北}を裏返して場所決めを行う。

 

「俺は最後でいい」

「じゃあまこっちどうぞー。レディーファースト」

「なら遠慮なく」

 

 まこが選んだのは{南}。続いて寮は{西}。海斗は{北}。必然的に桐生に残ったのは{東}である。

 

「サイコロ降るぞ」

 

 二つのサイコロを同時に投げる。出た目は2と4。足して6を自分から半時計回りで数える。仮親は海斗だ。

 次は仮親の海斗が投げる。1と6の目が出た。

 

「わしが最初の親じゃな」

 

 東風戦なので親は一度きり。まことしては確実にあがってリードを取りたいとこ。

 牌を全て洗牌(牌を裏返してよくかき混ぜること)をして、次に山を積む。

 

順番 まこ→海斗→桐生→寮 ドラ{5}

 

(どれどれ、配牌はと...)

 

{七八九九①①③⑨348北発} {南}

 

(あまりいいとは言い難い。さてどうするかの?)

 

 とりあえずそのまま{南}を切る。

 

「ポン」

 

 いきなり寮が鳴く。

 

(オタ風をしょっぱなからポン?)

 

 意図は分からないが、寮が鳴いたおかげで海斗と桐生は飛ばされる。

 

「ポン」

 

 まこが出した牌をまたしても寮が鳴く。今度は{北}。寮の自風だ。

 鳴いて速攻で上がる気なのだろうか?だがどちらも字牌、字一色や四喜和の線もありえる。{発}は切りずらい。

 

(これでどうじゃ・・・?)

 

 切り捨てたのは{⑨}

 

「ポン」

「なっ・・・!?」

 

 三連続。しかもまだまこ以外は誰もツモってすらいない。

 

(これで三副露・・・。それも一巡目で連続とかキツすぎじゃろ。じゃが、わしだけツモれる分手は進む。・・・・・・ほら来おった)

 

{七八九九九①①③3489発} {発}

 

(これはチャンタが濃厚かの。と、なると・・・。いらんのは{③、3、4}じゃが、③は混一色の可能性を考えると切り難い。{3-4}は面子。...逆に{九}が暗刻で鳴かれる心配がないこちらにするか・・・?)

 

 迷った末{4}を切る。

 

「ロン」

「んなアホな!?」

 

{35東東} {4} {⑨⑨横⑨}{南南横南}{北北横北}

 

「3900です」

「でた、寮の超速攻ー」

 

 親番を一巡もしないうちに終了。ダブリー一発は見たことあるが、鳴きだけであがるのは長いこと麻雀をやってるまこでさえ体感したことのない出来事だった。

 ありえない。そう思わずにはいられない。

 

「積み込みかッ・・・!?」

「いやいや違うよー。オレっちらも寮のこれは結構困ってんだよねー」

「おい、...座ってただけじゃねーか」

「いたァ!んで俺殴るの!?寮殴れよ!」

 

 綺麗に揃えられた山を崩し混ぜる。まこは三人の手元に集中するが、特に変わったところは見られない。スムーズに17×2列の牌山を完成させる。

 

「普段自動卓ばっか使ってるけぇ、いちいち一局ごとに積まんとあかんのはめんどいの」

「男の麻雀は手積みだ」

「まこさんは女子だけど」

 

東二局0本場 親 海斗 ドラ {発}

 

3順目

 

「リーチ」

「カン」

 

 海斗が横向きに出した{②}に寮からカンが入る。

 新ドラは{六}。しかも寮は他に{南}をポン。{四、赤五、六}でチーをしている。

 

そして2巡。

 

「ツモ」

 

{1白白白} {横四赤五六②横②②②南南横南}{1}(ツモ)

 

「白ドラ赤1。1600・3200」

 

 またしても寮の速上がり。

 

「速い・・・わしがなんもできとらん・・・」

「今のうちに稼いでおかないと、後が大変だから」

「ん?」

「いずれ分かるよ」

 

東三局 0本場 親 桐生 ドラ{6}

 

14順目

 

「...ツモ」

 

 パタンと牌を倒したのはまこだった

 

{2347777866西西西}{9}(ツモ)

 

「リーチ西混一色ドラドラ。3000・6000じゃ!」

「うわーお跳満」

 

(思ったよりすんなり上がれたの。逆に不気味なくらい・・・。いや、今回は配牌が良かったというのもある。油断は禁物じゃ)

 

 

まこ   31500

海斗   17800

桐生   17400

寮    33300

 

オーラス 親 寮  ドラ{四}

 

(う~ん。オレっちが勝つには最低でも跳ツモか倍直をまこっちか寮から和了らないと無理かァ。ぶっちゃけると負けても別にいいんだけどねぇ~)

 

 対するまこは勝利が目前に迫り、部員ゲットの期待が膨らんでいた。

 

(どんな手でもツモればトップじゃ。ここは攻める!)

 

海斗手牌

 

{一④④⑤⑥⑨東西白白発発中}

 

 自分の手牌を確認した海斗は、逆転を狙えそうでひとまず安堵。

 

「うわっ、桐生お前負けんじゃね」

「黙ってろカス」

「はは、仲がいいんじゃの...」

 

 配牌がわるいのか、後ろで見ている雅人が心配そうに漏らす。

 いつもなら話に乗っかって笑いを取る海斗だが、この時は横目で見るだけで何も言わなかった。

 

(違うんだよ雅人。たとえ配牌が悪くても、九種九牌でも関係なくあがってくるのがリュウちゃんなんだよ。高校からの付き合いのお前じゃ分からないと思うけどな)

 

 一番点が低い桐生だが、それは運がなかったからという理由ではない。桐生という男は第一に面白さを求める男だった。この展開も織り込み済みなのだろう。

 

「見てろ筋肉ダルマ。俺の華麗な逆転劇を見せてやる」

 

 淡々という桐生から目に見えない気迫のようなものを感じた。それに気づいているのは海斗だけ。他からは意気込んでいるようにしか見えない。

 

「いいねリュウちゃん。久しぶりに俺も勝ちたくなってきた」

「下位二人がなに言ってんだよ。なぁ寮?」

「染谷さん気をつけて」

「あれ?無視?」

 

 まこはそんな彼らを見ながら苦笑する。そんなまこの手はこの形。

 

{六八⑥⑦⑧136889南南}

 

 自風の{南}が対子。鳴いて役牌だけのロンあがりとなると、寮をねらわないと行けないのでせめて三色も欲しいところだ。

 ここで一番警戒しないといけないのは寮の速攻。一局目のようなスピードで来られると勝つのは難しい。そして、未だ実力がはっきりとしていない二人。

 

 寮の一打目は{9}

 

寮手牌

 

{三四四五六①③4555東南}

 

 オーラスでトップの寮からすれば中々の好配牌。だがそんな手牌を見て寮は頭を悩ませた。

 ちらりと次にツモるまこを見る。自分とまこの差は1800。親番である寮にとってこれはきつい。自分以外にツモられれば余裕で覆る範囲。約15000点ある二人との差も逆転は十分可能。

 まこは手牌から{1}を切り、海斗が{一}を桐生は{北}を切る。

 そのあと6巡目まで手が進まなかったが、7巡目で一向聴。

 

6巡目

 

{三三四四五①③45558東}{④}(ツモ) {東}(切り)

7巡目

{三三四四五①③④45558}{6}(ツモ} {①}(切り) 

 

 {五}をツモれば一盃口ドラも二つ。安くてもタンピンはいけそうだ。鳴いてタンヤオだけのはや上がりもいい。

 それから三巡目まこの出した{北}に対し桐生から鳴きが入る。

 

「ポン」

 

(動き出しよったか)

 

桐生手牌

 

{一七七七赤⑤⑦22277} {北横北北} {一}(切り)

 

(最初の配牌からは良くなってきたか。対子一個もなかったのに、よくここまで重なったな。けどこっから逆転なんて到底無理だろ)

 

 このまま鳴いて対々をつけても役牌バックと赤どらをあわせて満貫。とにかく和了れればいいまこと寮がいるこの状況ではあまりにも不利だ。

 そんなことを気にも止めていないのか桐生の顔に焦りはない。他人の捨て牌や山を見渡している。

 

「ポン」

 

 今度は寮が捨てた{白}を海斗が鳴いた。すぐさま回ってきた桐生のツモ牌は{中}。当然不要牌なので捨てると思いきや、{赤⑤}を捨てる。

 

「チー」

 

 すかさず寮が鳴いて聴牌を取る。状況はますます不利になった。

 そこから四巡後、

 

「カン」

 

 海斗による{発}の暗槓。新ドラは{七}

 

(大三元狙いか・・・。とりあえず{中}は来ても捨てずに持っとくかの。まだ聴牌すらできておらんし、役満に振り込んでしもうたら一発でトビじゃ)

 

海斗手牌

 

{④④⑤⑥⑨中中} {赤5} {白横白白裏発発裏}

 

 嶺上牌はドラである{赤5}だが今来ても使いようが無いし、海斗が狙うは役満。ドラは対して意味はない。そそくさとツモ切りした方がいいだろう。

 

「ポン」

 

寮手牌

 

{三三四四五3456} {横⑤③④5横赤55}

 

 {6}を切って{二}―{五}の両面待ち。{五}は一枚場に出ているが支障はない。早い段階で聴牌できているのは大きい。

 

まこ手牌

 

{赤五六七八⑥⑦⑧6788南南}

 

 三色が揃ってはいるが、{赤五}は寮の当たり牌。もし{8}が来れば落ちる可能性は大いにある。

 まこが引いたのは残念ながら{⑨}。ツモ切りだ。

 

(さーて、こっからが勝負だね)

 

 

 役満一向牌である海斗。四人の中で一番に警戒しなければならないのは、まさしく海斗だろう。ロンでもツモでも役満を和了がれば余裕のトップだ。

 

(こい!!!)

 

 {中}

 

(張った!!!!)

 

 {⑨}を切って聴牌。待ちは{④}と{⑦}。{④}は寮のチーで一つ見えている。{⑦}はまだ一つも出ていない。誰かが握っている可能性もあるが、海斗が和了がるのは時間の問題だろう。

 

「・・・」

 

 桐生は牌をツモったまま暫く手を止めた。

 

{七七七⑦22277中}{7}ツモ  {北横北北}

 

 桐生はこのツモで聴牌。だが、あまりにもタイミングが悪い。あからさまに大三元狙いの海斗がいる状況で、{中}を待ちにしても出る確率は極端に低く、突っ張ったとして、それで和了されたら一発で終わりだ。

 

(流石の桐生も悩んでるか。俺だったら早々に降りるかなぁ。手も逆転出来るだけのものでもないし、単騎じゃあ・・・)

 

 が、桐生は悩んでいた時間に反比例して、躊躇いなく{中}を切った。

 

「んなっ!?」

 

 驚きの声を上げたのはまこだ。だが驚いているのはまこだけじゃない。寮も雅人も仰天している。

 

「どうする?」

 

 桐生の問いかけ。誰に対してのものかは明白。

 

「いや~まさか、こんなにひょいって出されたら反応に困っちゃうよ~。・・・カン!」

 

(((カン・・・!!?)))

 

「嶺上牌は~・・・」 

 

✖ ✖ ✖

 

 

「ひうっ!?」

「どうしたんですか宮永さん?」

「えっ!?あ、ううん。何でもない・・・」

 

(なんだろう・・・。今すごく嫌な感じがした・・・)

 

 

✖ ✖ ✖

 

 

「ありゃりゃ、ハズレだ」

 

 そう言って{北}を切る。新ドラは{1}。

まこは唖然とした。あの状況で{中}を切るとは、自分の手しか見えていない素人なのだろうかと思う。

 

(いや、ここじゃ一番強いと言ってたんじゃけぇ、多分考えがあるんじゃろうが・・・)

 

 だが、まこから見た桐生は、本当に考えているのか分からない表情をしている。無表情なその顔は何も考えてなさそうにも感じ取れた。

 桐生が牌を取る。瞬間無表情だった顔がニヤリと笑った。

 タンと打ち出されたのは{2}。

  

「はぁ!?お前!?」

 

 桐生の後ろに居る雅人は思わず声をあげる。雅人の叫びの理由を一同は分からず、桐生は不敵な笑みを作る。

 そして数分後その意味を理解することになる。

 寮とまこは安牌を切り、海斗はツモ切り。

 

「悪いな海斗。今日のところは俺の勝ちだ」

 

 山に手を伸ばしながら桐生が宣言した。

 

「カン」

 

 そして

 

「ツモ」

 

{七七七⑦⑦22} {北横北北}{裏77裏} {⑦}ツモ

 

「嶺上開花、三色同刻、北、トイトイ、三暗刻、ドラ3。12000―6000」

 

嶺上開花(リンシャンカイホー)じゃと?!!いや、それより!直前に捨てた牌。フリテン!?)

 

「どうだ?面白いだろ?」 

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