「はぁ、おかしくない?」
「おかしいだろ」
「おかしいな」
「絶対におかしいですね」
翌日の昼、僕達は食堂で昼飯を食べながら昨日の告白について話していた。
「正直言ってお前にアレクシア王女と付き合えるだけのスペックはない。俺ですら怪しいレベルだぜ?」
「シド君が付き合えたんなら自分もいけたかもしれませんね。あー、自分が告白すればよかったなぁ」
いや、君達も言うほどスペック高くないでしょ。
「でも、おかしいよな? あんな生粋のモブみたいな告白でOKもらえてるのは不自然だよな。なんか、裏がありそう」
「だよね。そもそも住む世界が違うわけだし」
あの王女には裏がある。それが昨日の夜にキラと一緒に考えた最終的な結論だった。
「いいじゃん、付き合えば。あわよくばいい思いできるかもしれないぜ」
ニヤつきながらヒョロが言う。
「ですね。なんなら自分が変わってあげても……えっ!?」
「え? えっ!?」
話している途中でジャガとヒョロが驚いたように横を見る。僕とキラもそちらの方に顔を向けるとそこには……
「ご一緒してもいいかしら?」
アレクシア王女の姿があった。
アレクシアの登場と同時にキラは食堂で頼んだ日替わり定食980ゼニー貧乏貴族コースを完食し、席を立つ。そして彼女にこう言い放つ。
「あ、どうぞ。俺はもう食べ終わったんで、この席でよければ」
「そう、ありがとう」
そう言ってアレクシアは先程までキラが座っていた席に着いた。
えっ、断ってくれるんじゃないの? 僕のことを見捨てるわけ? そりゃないよぉ。
僕の気持ちとは裏腹にアレクシアに席を譲り、食器を配膳板に乗っけて運ぶキラ。キラは僕達が座っていた席から少し離れた場所で大きな声を出してこう言った。
「今から姉さんの相手してくるかぁ」
僕がアレクシアと交際することになったのを、既にいろいろな意味を含んだ噂として拡散されていた。先程も『ほら、あれが……』とか、『嘘ー! なんか普通……』とか、『何かの間違いじゃ……』とか、『まじ殺す! てか誰っ!?』と言っている声が聞こえていた。そのため、この学園に僕とアレクシアの交際を知らない人はほとんどいないのだ。
はぁ、僕の平凡なモブ生活から遠く離れていく。
まぁ、言いたいのはこのことを姉さんも知っているはずということ。朝はなんとか見つからずに済んだけど、あの鬼がつくレベルのブラコンがそんなことを知ってしまえば何をされるのか分かったもんじゃない。
キラはそんな姉さんのことを自分自身を犠牲に止めてやると言うのだ。
疑って悪かったよ。やっぱり持つべきは相棒ってね。
「それにしても、超金持ち貴族コースってやたら量多いよね」
僕が考え事をしてる最中に、アレクシアの目の前にはたくさんの高そうな料理がずらーと並んでいた。
「ええ、いつも食べきれないの。本当はもう少し下のコースでもいいのだけれど」
僕はチャンスだと直感的に判断した。僕がアレクシアと付き合ってしまったことは変えられない事実だから、そこはもう気にしていない。僕が今やるべきことはアレクシアと別れることなのだが、告白した翌日に振るのは流石に目立ってしまう。だが、相手から振る分には問題ない。僕は今から全力で嫌われにいくことに決めた。
「なら、貰っていい?」
僕はアレクシアの目の前に並んだ高そうな料理を承諾を得る前に奪って食べてみせた。名付けて、さっさと振れやおらぁ!作戦。これをされたらどんな寛容な心の持ち主でも不快感ぐらいは覚えるだろう。
というか、この料理美味いな。流石、超金持ち貴族コースって言うだけはあるね。
「じゃあ、そっちも」
どんどん料理を奪ってみせると、目の前に座っていたヒョロとジャガがこいつまじかっていう顔をしていた。
僕だって望んでこんなことしてるわけじゃないんだよ。料理は美味しくいただいてるけど……まぁ、これで幻滅したでしょ。
「ご馳走様、じゃあまたね」
「ちょっと待ちなさいっ!」
食べるだけ食べて流れるように立ち去るプランは失敗、僕は呼び止められてしまった。
「あなたって午後からの実技科目は王都ブシン流だったわね」
「そうだねー」
この学園は午前の基礎科目と午後の実技科目に分かれる。
基礎科目はクラスごと、実技科目は選択式でクラスも学年もごちゃ混ぜ。数多の武器流派から自分に合った授業を選ぶわけだ。
「私も王都ブシン流だから一緒に受けようと思って」
「いや無理でしょ。僕は一番下の九部だし」
ブシン流はかなり人気の授業で、一部50人でなんと九部まである。一部から九部は実力ごとに分けられて、僕は入学して間もないこともあってまだ九部だ。最終的には五部あたりに落ち着こうかなーと思っている。
ちなみにキラも九部だ。実力を隠さないって言ってたのに一番下からのスタートだったこともあり、姉さんが一度講義しに来ていたが『姉さんには特別だよ』って言われてデレていた。
あれは女たらしの才能があるよ。
「私の推薦で一部に席を空けてもらったから大丈夫よ」
鋭い目つきで僕の方に視線を向けてくる。
僕には分かる。これは何かを企んでいる顔だ。だけど、今の僕はあくまでモブ。アレクシア王女の誘いを断るなんて選択肢は最初からないに等しかった。
「くっ……はい。」
こうして僕の昼食とさっさと振れやおらぁ!作戦は終わった。ヒョロとジャガは最後まで置物だった。
* * *
「広いなぁ」
王都ブシン流一部の教室は大きい体育館のような作りになっていて、それに加えて更衣室、風呂、軽食場他色々完備しているという超待遇であった。
ずるくない? 九部は雨の日でも風の日でも屋外だよ? せめて教室がある部にまで昇格するのも考えた方がいいかな。
僕は絡まれないように素早く着替えてから、隅っこで軽いストレッチを行なっていた。
「何よそれ? 面白いやり方ね」
黒色のチャイナドレスのようなブシン流の道着に着替えたアレクシアがこんな隅っこに寄ってきた。
ブシン流には色ごとに強さを分けていて、黒が一番上、白が一番下だ。
当然、僕は白だ。そのため、黒い道着だらけのこの教室では目立ちまくる。
「これは僕なりのストレッチだよ。一緒にやる?」
「ええ、ご一緒させてもらうわ」
アレクシアが乗ってくるとは思わなかった。勘違いしてただけで根は真面目な子なのだろうか。
この世界でも運動前に体をほぐすといいことは広く知られているが、ほぐし方はまだ確立されておらず皆独自のやり方でほぐしているため、ストレッチを舐めてる奴も少なくない。そんな奴に限って怪我をするのだ。その辺、アレクシアは意識高くてとてもいいと思う。
そうこうしているうちに授業が始まった。
「今日から新しい仲間が入った」
「シド・カゲノーです。よろしくお願いします」
僕が自己紹介を終えると、金髪のイケメンの顧問の先生が王都ブシン流の説明や自分の経歴だったりを細かく説明してくれた。その中の話に一つだけ僕の興味をそそらせる情報があった。
それは、この先生がこの国の剣術指南役のゼノン・グリフィだということ。ゼノン・グリフィは僕とキラが以前調べた物をしていた際に見つけた情報の中に入っていた。
この人は教団の次期ラウンズ第12席とかいう地位を持っている教団のメンバーのはずだよね。まさかだとは思うけど、学園にも何人か教団のメンバーがいたりするのかな?
「じゃあ今日は二人一組でマスをしてもらいます」
てなわけで稽古が始まった。
今すぐゼノンを切り捨てること自体は可能だ。だが、情報が本当とも限らないため、慎重に動くことにした。
ちなみにマスというのはお互い攻撃は相手に当てずに、技や返し流れの確認をする軽い実戦形式の稽古だ。
「一緒に組みましょう」
「いいよ」
僕としてもこの一部に一緒に組むような知り合いはいないため、アレクシアの誘いを快く承諾した。
僕達は木剣を構え、打ち合い始めた。お互い交互に剣を振り、それを捌く。攻撃は当てないし、動きも遅く、魔力もあまり使わない。
最初は僕に合わせてくれてるのかと思ったが、違った。
この稽古の目的、技や返しの確認を実直にこなしているのだ。アレクシアはこの稽古目的をよく見据えていた。
アレクシアの剣は天才、鬼才、今や王国最強とまで言われているアイリス王女の剣と違って評判が良くない。
だが、そんなアレクシアの剣は僕好みのいい剣だった。基本に忠実、基礎をしっかり、ただし地味。
うん、地味だ。でもその地味さは努力の結晶なのだ。無駄が排除され、研ぎ澄まされたその様は、一歩一歩基礎を積み上げてきた証拠なのだ。
授業が終わり、鐘の音が聞こえる。
「いい剣ね」
アレクシアが言った。
「どうも」
「でも、嫌いな剣。まるで、自分を見ているようだわ」
上げて落とすスタイルか、悪くない。
アレクシアはゼノン・グリフィの元へ歩き出して何か話し始める。盗み聞きしてるだけでもいくつか分かったことがあった。
まず一つにゼノンはアレクシアの婚約者候補だということ。そこから分かることがもう一つ、僕はそれの当て馬にされたということだ。
ほーら、やっぱり裏があった。
前回の話で王都編に入ってからのクレアは明確な登場こそはないものの、ブラコンレベルが上がっていってるのが分かるのがお気に入りの部分です!
てことで、今回は教団次期ラウンズ第12席ゼノン・グリフィを見つけたお話でした。
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