「つまり君は、ゼノン先生と婚約するのが嫌で当て馬が欲しかったんだろ? だから、扱いやすそうな下級貴族の僕を選んだ」
「婚約者じゃないわ、婚約者候補よ」
僕とアレクシアは学園が終わった後、学園の広場のような場所で座っていた。
「どっちでもいいけどさ。悪いけどこれ以上目立ちたくないし、君達の事情に巻き込まれるつもりはないから」
「あら、恋人のクセに薄情ね」
「名ばかりのだろ」
「それはお互い様よね? 罰ゲームで告白してきたシド・カゲノー君?」
「……えっ」
な、なぜ、どうしてバレているんだ? それを知っているのは僕を含めた四人だけ。キラが裏切るとも思えないし、まさかあの二人が? はは、そんなまさか……
「ヒョロ君とジャガ君だったかしら。私が話しかけたら顔を真っ赤にしてペラペラと聞いていないことまで全部喋ってくれたわ。酷いわね、乙女の純情を弄ぶなんて」
次あの二人にあったら何か悪戯をしてやろう。今後の学園生活に影響の出るような重い悪戯を……
「あ、そういえばあなたの兄弟のキラ・カゲノー君からも聞いた話があったわね」
「え?」
「あなたはお金に弱いって」
そう言ってアレクシアは僕の目の前に金銭をばら撒いた。
「へぇ、僕が金でなびく男に見える?」
「見えるわ」
「ふっ、その通りだ」
僕は地べたに這いつくばって金貨を一枚一枚丁寧に拾いながら言った。
だって、仕方ないじゃん。今まで集めてきたお金は全部シャドウガーデンの活動資金にいっちゃったせいで、陰の実力者の方の活動資金は全然足りてないんだよ。
「それで何が望みなの?」
「そうね……とりあえず恋人のふりを続けてもらいましょうか。期限はあの男が諦めるまで。時間さえ稼げれば、あとはこっちでなんとかするわ」
正直、あの男がそう簡単に諦めるとは思えないけど。
もしあの男が、本当に次期ラウンズ第12席であり教団のメンバーだった場合、アレクシアに近づくのも何か計画の内なのかもしれない。
例えば、王族に流れる英雄の血を求めているとか? 王族って言うくらいだから濃度の高い英雄の血が流れてたりするのかな。ま、分かんないけど。今は情報も少なすぎるし、しばらくは様子見かな。
「大丈夫? 頬が盛大に引きつっているけど」
「大丈夫、僕は性根が歪んでいるから口も歪むんだ。君よりはマシだけど……」
「何か言ったかしら?」
「いや、何も」
「ふーん、まあいいわ。それでこの話に乗るの乗らないの?」
「乗らな……ワン!」
断ろうとしたら僕の目の前に金貨を投げてきた。
くっ! 卑怯だぞ! この王女、有無を言わさないつもりだ!
「で、乗るのね?」
僕は……断れなかった。
まぁ、しょうがないよね。ゼノンのことも様子を見ないとって思ってたし、ちょうどよかった。僕は決して、金に釣られて断らなかったわけではない。本当だ。
「やらせていただきます……」
「いい子ね〜。ポチ~」
この際、恋人のふりを続けるのは別にいいんだけど、犬扱いだけはよしてくれないかな? 仮にも恋人になるんだったら彼氏を犬扱いするのは果たしてどうなのだろうか?
* * *
こうして、僕とアレクシアの交際関係はしばらく続いた。
最近、キラとは朝の登校の間や夜のゼノンや教団のことに関しての情報共有の時以外、基本的に話せていない。アレクシアとの関係によってあまり暇な時間自体作れていなかったのと、キラはキラで姉さんの対処で忙しいらしい。
ありがとうございます。
そうそう、肝心のゼノンの動向はというと特に普段と変わらず、静観の構えでいた。
「むかつくわねあの男。少し剣が上手いからっていい気になって」
「はいはい」
「あの胡散臭い顔、ポチも見たでしょ?」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はぁ〜い」
そんなゼノンのことが気に食わないアレクシアは流石に人前では猫を被っているが、裏では罵詈雑言の嵐だ。
僕はそんな罵詈雑言を列車の中で永遠に聞かされ続け、アレクシアの話を同意し続ける。反論するだけ無駄。僕は同意するだけのロボットに徹していた。
列車から降りると僕達は王都の街中を歩く。これはアレクシアとの交際関係が始まってからできた日課だった。アレクシア曰く、『私達の交際を世間に広める必要があるのよ』とのこと。
今日も同じように街を歩き、途中で見つけた屋台でコーンが付いているタイプのアイスを買って近くにあったベンチに座る。
「で、結局ゼノン先生の何が嫌なの? 結婚相手としてはかなり優良物件だと思うんだけど」
「全部よ、全部。あいつの存在すべてが嫌なの」
「でもイケメンだし、地位も名誉も金もある。実際女子からの人気も高いし」
「上辺だけはね。そんなのいくらでも取り繕えるわ、私みたいに」
「なるほど、説得力のある言葉だ」
僕は話の間にバニラ味のアイスをコーンまで食べ終える。
「何か言った?」
「むぐっ……いいえ」
バニラ味のアイスが口の中から消えると同時にアレクシアから食べかけのアイスを口元に押し付けられた。イチゴ味だった。
僕はアレクシアの方を向く。アレクシアは照れた表情なんて微塵もしておらず、圧しか感じられなかった。
間接キスは気にしないんだ。それとも気づいてないだけ? まぁ、僕のことをポチって言うぐらいだし気にしないんだろう。
「とにかく、私は上辺だけでは判断しないわ」
「ならどこで判断するの?」
「欠点よ」
アレクシアはドヤ顔で言った。
ふむ、なかなかネガティブな判断だ。アレクシアらしいね。
「だから、欠点ばかりでろくに美点のないあなたのことは嫌いじゃないわ」
「ありがとう。僕には褒め言葉だ」
普段からモブらしいことができているということの証明になるからね。
「ちなみに、ゼノン先生の欠点は?」
「ないわ」
「やっぱり優良物件じゃん」
僕は押し付けられたイチゴ味のアイスをアレクシアに返す。アレクシアは先程と変わらない表情で受け取ったアイスを少しずつ口の中に運びながら、僕の言葉に対して否定の言葉を返した。
「いいえ、欠点のない人間なんていないわ。もしいたとすればそれは大嘘つきか頭がおかしいかのどちらかね」
「なるほど、独断と偏見に満ちた回答をありがとう」
「どういたしまして、欠点まみれのポチ。今日の報酬よ。ほーら取ってこーい」
そうしてアレクシアは一枚の金貨を放り投げた。
「はっ!? ワン!!!」
このやりとりをしすぎていつの間にか体が勝手に反応するようになってしまった。キラにデルタみたいだなって言われた時は本当にショックだった。
* * *
辺りが暗くなり始めた頃、僕達は各々の寮に帰るためにまた列車に乗っていた。周りには誰も人が乗っていなく、僕とアレクシアのみの空間になっていた。
列車に乗ってからしばらくはお互い黙って列車の揺れに身を任せるだけだったが、降りる駅が近くなるとふとアレクシアが話し始めた。
「不思議ね、あなたの剣」
僕は話し始めたアレクシアの方に目線だけを向ける。
「基礎はできているのにただそれだけ、それ以外は何もないのに。なぜか目を奪われる」
キラは真の実力こそは隠しているものの、クレアよりは強い程度の実力を出している。それに比べて僕は力も、早さも、魔力も、技量も、全てを抑えて剣を振っているので後に残るのは基礎のみ。
「どうも」
「でも、やっぱり嫌いな剣」
そう言うアレクシアに僕はつい聞きたくなってしまった。
心なしかアレクシアは僕の剣だけでなく彼女自身の剣のことも嫌いと、そう言ってるように感じたからだ。
「ねぇ、聞いてもいい?」
「何よ?」
「あれって本気でやってるの?」
「……どういう意味よ」
アレクシアは横にいる僕の方を向き、僕を見据えた。
「ゼノン先生は確かにアレクシアより上手だけど、僕にはそう一方的にやられるほど差があるようには見えない」
アレクシアの剣が僕は好きだ。一歩一歩、日々歩みを重ねて積み上げてきた剣で、僕と同じ剣。だけど、いざ本気の戦いになるとアレクシアの剣には余計なものが混じる。僕は僕が認めた剣に、そんな見苦しいものが混じるのが嫌だった。
「簡単に言うわね、白服のくせに」
「白服の戯言だよ。そんな顔をする必要はない」
アレクシアはきっと怒っているのだろう。
僕も余計なことを聞いたとは思っている。だが、これに関してはどうしてもはっきりさせたい。
アレクシアは少しの間黙り込み、やがて彼女は話し始めた。
「私はずっとアイリスお姉様に追いつきたいと思っていた。でも、最初から何もかも持っているものが違った。だから私なりに考えて強くなろうとした。その結果、私の剣がなんて呼ばれてるか知ってるでしょう?」
「凡人の剣」
「そうよ。でも、あなたも私と同じ凡人の剣、残念だったわね」
「残念だとは思わないよ。僕は君の剣が好きだし」
長い間、列車内は静寂に包まれた。
「……同じことを前に言われたことがあるわ。武神祭の試合で私が無様に負けた時、姉様が言っていた言葉よ。あの人に私の気持ちなんて分からないでしょうね。どれだけ惨めだったか。あの日からずっと、自分の剣が嫌いよ」
アレクシアは笑った。それがなんの笑みなのかは分からないが、少なくとも楽しそうには見えなかった。
僕にも言わなければならない言葉がある。それを言わなければ、僕は僕自身を否定することになってしまうはずだから。
「僕は適当な人間でね。世界の裏側で不幸な事件が起きて100万人死んでも割とどうでもいいし、アレクシアが乱心して無差別通り魔殺人犯になっても割とどうでもいい」
「最低の屑ね。乱心したら真っ先にあなたを斬ることにするわ」
「けど、どうでもよくないこともある。それは他の人にとってはくだらないものかもしれないけれど、僕の人生においてなによりも大切なものなんだ。僕は僕にとって大切なものを守りながら生きている。だから、今から僕が言う言葉に嘘はないよ」
今まで、アレクシアは自身の剣を卑下し続けてきたのだろう。だから僕はそんなアレクシアの剣を褒め殺すことにした。
少しでも自信がつくようにと、アレクシアの剣に混じる見苦しく余計なものを取り除けたらいいと思ったのだ。
「僕はアレクシアの剣が好きだよ。僕と一緒の、君の剣が好きだよ。人は自分が好きなものを他人に否定されたり、無碍な扱いにされるのはとても腹が立つし、嫌な気持ちになる。だからアレクシアが自分の剣を否定するのはやめてほしいとも思う。この言葉に意味はないのかもしれないけど、そんな気持ちで僕は君にこの言葉を伝え続けるつもりだよ」
最後に一言。
「もう一度言うよ、僕はアレクシアの剣が好きだよ」
僕はアレクシアの方を見ずにただそう伝えた。
「そ、そう。今日はここまででいいわ。さようなら」
アレクシアは列車を降り、寮に帰宅した……と思っていた。
翌日の朝、僕はアレクシア誘拐事件の容疑者として、ゼノン・グリフィ含む騎士団の連中に連行されてしまった。
明日からは毎日投稿できるのか怪しくなってきました。というのも、まだこの先のお話が書けていないからです。
まあ、元々1週間に二話とかだったのを毎日投稿していたのでだいぶ進んでたんですけどね……
てことで、今回は凡人の剣がコンプレックスのアレクシアを褒めまくろうというギャルゲーみたいなお話でした。
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