シドがゼノン率いる騎士団に連行されてから早5日が経った。その間にいろんなことがあった。
「弟を、シドを助けにいくのよ! 邪魔しないで!」
「待てって、姉さん。落ち着けって!」
シドが留置所で拷問されていると聞いて、姉さんが騎士団トップのであるアイリス王女の元へ殴り込みに行こうとしてたのを必死こいて食い止めたり、
「シャドウ様に無礼を働くなんて許せません! 離して、離してください! ステラ様! 私はあのシャドウ様に無礼を働く者達に死の制裁を与えなければいけないんです!!」
「お前も少しは落ち着けって!」
現在、僕達の当番を担当しているベータがシドの拘置されている留置所にカチコミしようとしていたのをどうにか落ち着かせたりしていた。
あいつ、少しは自分が愛されているということを自覚した方がいい。
そんなこんなあって、今日はついにシドが釈放される日となった。姉さんは寮の自室にて謹慎中だ。
俺は留置所の前の門で腕を組みシドを待っていた。すると、門の方から誰かが投げ飛ばされる。
「おら、さっさと行け」
それはシドだった。シドはパンツだけを身に付け、着替えと剣と一生に放り投げられる。爪はすべて剥がされ、顔には殴られ続けたような痣があり、太ももの辺りには針を刺したような痕が複数箇所あった。
俺は無言でシドの着替えを待ち、列車に乗る。話したいことは山ほどあったが、それでも俺達は列車の中で無言を貫いた。
それはなぜかというと、先程から俺達のことを尾行してきている奴らがいたからだ。おそらく騎士団の中に潜む教団の連中だろう。
俺達は寮の近くの駅で降りる。駅を降りてからすぐ俺達の横から聞き覚えのある声が通り過ぎた。
「あとで……」
その声の後、先程まで俺達のことを尾行していたであろう男二人組の気配が突然途絶えた。
「アルファか」
「アルファだね」
「どうする? 話したいことは山ほどあるんだが」
「とりあえず一回帰ろうよ。この怪我もさっさと治したいしね」
俺達はそのまま特に積もった話もせず、各々の自室に帰った。
* * *
僕は5日間も留守にしていた寮の自室のドアを開けた。
部屋の中は窓から差し込む夕焼け色の明かりで照らされており、部屋の机の上にミドガル魔剣士学園の女性用制服を着ている金髪エルフの美少女が腰を乗っけていた。
「久しぶり、アルファ」
僕は挨拶をして部屋の明かりをつける。
アルファは机から降りて僕に王都の有名店まぐろなるどの肉厚マグロの入ったサンドを渡してきた。
これ美味しくて好きなんだよね。毎回、僕かキラのどちらかが買ってきて、夜に食べながら情報共有とかしてるぐらいだし。
「食べるでしょ?」
「ありがとう。そういえば、最近の僕達の当番を担当してるのはベータだったよね? なんでアルファが?」
「私は連絡があって戻ってきたのよ。ベータは今頃、キラの元で報告してると思うわ」
そうか、ベータはキラの方に行ってたのか。
僕はサンドを全て胃の中に放り込み、魔力で怪我の治療をして、靴だけ脱いでベットに横たわる。
「はぁ〜疲れた」
「もう、服ぐらい着替えなさいよ」
「む〜り〜」
「あなたねぇ、自分の立場分かってる? このままじゃあなたが犯人よ」
「だね」
教団側は貧乏男爵家のぱっとしない学生ならちょうどいいとか思ってるんだろうね。
アルファは僕の目の前にまで顔を近づける。キスしようと思ったら簡単にできる距離だ。
「騎士団は信用できないわ」
「教団が入り込んでる?」
「ええ、間違いなく。王女誘拐の犯人は教団の者よ。目的は濃度の高い英雄の血ね」
「てことは、彼女はまだ生きてるわけね」
教団側としてはできる限り英雄の血を取り続けたいだろうし、アレクシアのことをすぐ殺害するなんてことは起きないだろう。
というか、僕達が予想してたことは合ってたのね。
「あなたがなぜ王女様とロマンスを繰り広げていたかは知らないけれど」
アルファが半眼で僕を睨みながらも僕の服を上から脱がしていく。
「別にロマンスは繰り広げていないかな」
「何か理由があるのよね。私達に言えないような何かが……」
僕の瞳を覗き込むアルファから逃げるように顔を逸らす。
どうしよう!? そんな大層な理由はないなんて言えるわけない!
「わかっているわ。あなたが何か大きなものを抱えているってことぐらい」
そんな大きいものなんて君達ぐらいだよ。気づいた頃にはシャドウガーデンの規模もデカくなりすぎてたし。
「でも、もう少し私達を信頼して。今回だってそうよ。どれだけ心配したと思ってるの?」
「アルファ……」
少し涙目になっていたアルファは僕の上に跨ぎ、シャツの襟を持って僕のことを引き寄せた。
「ん………」
「んっ!?……」
今、僕はアルファにキスをされたのだ。
「……ぷはっ!? ア、アルファ!?」
「なに?」
「どうして……」
「あなたがいつまでも分かってくれないからでしょ? 私達はあなたのことが好きだし、愛してもいるの。それなのに自分のことを傷つけてばかりで、見てる側の気持ちを考えたことあるの? とても辛いの……」
そう……だったんだ………
「あなたのことを大事に思ってる人はあなたが思ってるよりたくさんいるの。私だってそう。あなたが傷ついてる姿なんてできるなら見たくないわ」
アルファは涙を隠そうともせず、僕に訴えるかのように言い放つ。
僕は前世の時から生半可な友情や愛情、そんなもの不必要だって見て見ぬふりをしてきた。キラにも色々言われてたけど、次第に呆れたのか言われることはなくなっていた。でもそのおかげか、僕は他人の目なんて気にすることなく、陰の実力者になりたいという夢のために突っ走ってこれた。
だからこそだと思う。キラは例外として、友情や愛情なんてものをろくに触れず、ただ夢のためだけに生きてきた僕だから、自分がそんなに人に愛されていたなんて気づかなかった。
「アルファ、ごめん」
僕は僕の大切だと思ったものを守るためにディアボロス教団と戦うことを決意した。なのにもかかわらず僕は、僕自身で彼女達を傷つけていたんだ。なんて最低な奴なんだろう。
「謝らないで、私は謝罪の言葉が欲しいわけじゃないの。ねぇシド、お願いがあるの。今は私のことだけを見て?」
「いいよ」
僕は傷つけてしまった分のお返しというのはなんか違う気がするけど、彼女の些細なお願いを聞いてあげることにした。
気づいた頃には辺りは既に暗闇に包まれていた。
* * *
しばらくして、辺りはすっかり暗くなり始めた頃。
俺はベータからの報告を聞き終え、頭の中で整理していたところだった。
ベータ曰く、今回のアレクシア誘拐事件はゼノンが関わっているらしい。シドから聞いた話でもアレクシアとゼノンにはただならぬ因縁みたいなものがあったみたいだし、ゼノンが教団のメンバーであることは確定でよさそうだ。
今夜の作戦、決行の合図はデルタの戦闘音だそうだ。
俺はシドに情報共有と説教をするためにシドの部屋の扉を開けた。
「おい、シドぉ……は?」
「え?」
「あ///」
俺としたことが不覚だった。俺の親友であり、兄弟であり、相棒と呼ばれる間柄の奴は金髪エルフの美少女と情事の真っ最中だった。
アルファはミドガル魔剣士学園の女性用制服を着ていて上はシャツのみ、胸元のボタンが少し開けていた。
「あ、お楽しみのところ申し訳ありません。出直しますね。どうぞ続けていただいて……」
俺はすぐさま扉を閉じ、自室に戻ろうとする。
「誤解だよ!?」
「誤解だから///!?」
二人して慌てたように言ってくる。
誤解だったようだ。誤解にしては二人とも惚けた顔してたけど。
そんなことを考えてるとアルファが何かを思い出したかのようにベットから体を起こす。
「私、そろそろ行かないと。久しぶりに会えたのにごめんなさい、キラ」
「ああ、久しぶりに顔が見れただけでもよかったよ。また後で……」
アルファは今夜の作戦の最終確認があるのだろう。
俺は別れを告げた。とはいってもこの後すぐにまた合流するんだろうけど。
「えぇ。シド、この事件が終わったらまぐろなるどでご馳走して。さっきのサンド私の分だから」
「いいよ。なんかごめんね、アルファの分まで食べちゃって」
「いいのよ、気にしないで」
アルファは制服からスライムスーツへと着替える。着替えたアルファは窓の方に歩き始め、ベランダの手すりに片足を掛け、そのまま去っていった。
俺は隣で暗い表情をしながらベットに腰を掛けているシドに声をかける。
「その様子だともう既にアルファに怒られた後のようだな」
「お察しの通りで……」
やっぱりな、珍しいとは思ったんだよ。こいつがこんな顔するの滅多に見ないし。
「まぁ、アルファが言いたいことを大体言ってくれたみたいだし、俺からの説教話はなしにしてやるよ」
「どうも」
同じことを何度も言われるのは酷だろうしな。だけど、これだけはこの勘違い野郎に伝えておきたい。
「でも、これだけは肝に銘じておけよ?」
「ん?」
「お前の周りにいるようなやつは全員お前のことを大切に思ってくれてるんだ。俺も含めてな。今回みたいな拷問を二度と嬉々として受けるなんて馬鹿なことするなよ? 今回のは流石に焦ったぞ」
「ごめん、分かったよ」
「分かればいいんだよ、分かれば……」
それにしても愛を知る陰の実力者……愛を分からされる陰の実力者ってところか? アルファさん?
俺は親切に教えてあげることにした。
「シド、その首元のキスマークは誰にも見られないように隠しとけよ」
「えっ!?」
「やっぱり気づいてなかったのかよ」
えー、はい。今週から一,二話投稿になっていくと思われます。変に毎日投稿して、ただでさえない文章の質をこれ以上下げるなんてことしたくもないので気長に待っていただければと思います。
てことで、今回は今まで愛されていることさえ気づかず勘違いしていたシドが愛をわからされるお話です。
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