すれ違いムーブ連発の陰の実力者達を止めたくて!   作:星電輝

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第十三話 けじめのプレリュード

 あれから俺達はスライムスーツに着替えて、今夜の作戦やこの5日間に何があったのかを話しながらシドの部屋を簡単に改装していた。すっかり調子を取り戻したシド曰く、陰の実力者にはふさわしい部屋を用意しないとねということ。

 まぁ、この後ベータもまた来るみたいだし、こいつがシャドウしてる時はお世辞抜きに陰の実力者みたいなものだからかっこつける分には問題ない。むしろいくらでもやってくれといった感じだ。

 そんなこんな考えてるうちに最初の質素な部屋が見違えるほどの豪華な部屋になっていた。

 

「そして最後に今日届いたばかりのこれを……セェット♪」

 

 シドは仕上げとばかりに手紙のような物を机の上にあるワインボトルの下に入れる。

 

「おい、シャドウ。それはなんだよ?」

「ああ、これ? これは招待状だよ」

 

 招待状?

 

「おい、見せてみろ」

「あぁっ!? ちょっと!!」

 

 俺は慌てるシドを横目にワインボトルの下に置かれた手紙を抜き取る。

 かっこつけてここに置いたんだろうけど、手紙はキンキンに冷えたワインボトルに付いた水滴によって少し湿っていた。

 締まらないなぁ。

 俺は少し湿った手紙を破らないように上手く封筒から出して読む。手紙の中身は明らかに罠ともとれるような内容だった。おそらく俺がシドを迎えに行ってる間に、騎士団に潜入している教団のメンバーがシドの部屋に仕込んでおいたのだろう。

 

「おい……」

「大丈夫。分かってるよ。これは僕なりのけじめなんだ」

「……分かったよ」

 

 シドは少し辛気臭い顔をした後、すぐにシャドウの顔つきに変わった。

 

「さぁ、今夜が我らシャドーガーデンの本当の始まりだ。ステラ、悪いがプレリュードは僕が奏でる」

「謝るならデルタに謝れ」

 

 やっぱりシドには辛気臭い顔なんて似合わねえな。陰の実力者プレイしてる時が一番活き活きしてるよ。

 

「そういえば、そろそろベータが来るんでしょ? 陰の実力者として申し分のない舞台にしないと! キラはここに立ってね。あっ、立つときは壁に寄りかかりながら足と腕は組んだ状態ね。あとは………」

 

やっぱなし。めんどくせえなこいつ。さっきみたいな辛気臭い顔でもしとけ。

 

* * *

 

 廊下の方でスタッと着地するような音が聞こえる。その音の主は静かに部屋の扉を開ける。扉が開くとベランダからドアの方に向かって少し肌寒い風が吹いた。

 

「あっ……」

 

 彼女、ベータは声を漏らした。おそらく、先程の俺の部屋のような質素な部屋を想像していたのだろうが、この部屋は陰の実力者コレクションによって固められた豪華な部屋になっている。

 ちなみに陰の実力者コレクションはシドが今までの盗賊狩りや教団狩り、そしてアレクシアの犬をやって稼いだお金を使って集めた努力の集大成である。シドも俺も価値がよく分かっていない物が混ざってたりするけど。

 まぁとにかく、ベータはこの豪華な部屋と先程のような質素な部屋との差に驚いたのだろう。

 

「時が満ちた……今宵は陰の世界……」

 

 部屋の中央にある見るからに高そうな椅子に座り、ワインボトルに入っていた葡萄ジュースをグラスに注いでそれっぽい動作をしている陰の実力者が言った。

 流石に未成年の段階でアルコールは飲ませるわけにはいかないので葡萄ジュースに妥協させた。この世界のお酒事情は日本と大して変わらないようだ。

 それにしても、陰の実力者でありシャドウガーデンという巨大組織の主であるような奴が、葡萄ジュースをワイングラスに入れてグラスを回してる姿には思わず吹き出してしまいそうになる。

 俺はそんな姿から目線を外してベータの方に向ける。ベータはこの状況でも目を輝かせていた。

 本当に君は昔からシャドウ一筋だね。それは純粋な愛でもあるんだろうけど、少しぐらいは俺にもその尊敬と純愛に満ちた目を向けてくれてもいいんじゃない?

 

「陰の世界。月の隠れた今宵は正に我等に相応しい世界ですね」

 

 ベータは言った。肝心のシドはベータを一瞥し、ただグラスに口を付けている。このかっこつけ放題の状況に酔っているのだろうか。

 アルコールはないはずなんだけどな。

 仕方なく俺はベータに今夜の作戦の確認を取る。

 

「ベータ、作戦の方はどうなっている」

「はい。アルファ様の命により、動員の可能な者は全て王都に集結させました。その数114名」

 

 意外と集まったな。アルファ達はそれだけ騎士団に潜むディアボロス教団のことを危険視してるわけね。

 

「良くやった」

「いえ、当然のことをしたまでですから……」

 

 ベータはシドの褒め言葉に対し、謙虚な言葉を返す。だが、シドに褒められたのがよほど嬉しかったのだろう。

 ベータさん? 今は真面目な作戦会議中だからその嬉しそうな顔を少しは隠そうね。

 ベータは俺からの視線に気がつくと、少し照れた表情をした後に真面目な顔に戻して作戦の概要を話し始めた。

 

「作戦は王都に点在するディアボロス教団フェンリル派アジトの同時襲撃です。襲撃と同時にアレクシア王女の魔力痕跡を調査、居場所を突き止め次第確保します。作戦の全体指揮はガンマが、現場指揮はアルファ様が取り、私がその補佐を。イプシロンは後方支援を担当、デルタが先陣を切り作戦開始の合図とします。部隊ごとの構成は……」

「あ、遮るようでごめんね。そのことなんだけど、いい?」

 

 先程までシャドウの声で陰の実力者プレイを楽しんでいたであろうシド。そんなシドが突然優しい声、それこそ家族に対して向けるような声で話し始める。

 ベータのことも家族だと思っているからこそなんだろう。少なくとも今まで、七陰やナンバーズ以外のシャドウガーデンのメンバーにシドの声で接してる姿は見たことがない。

 

「……はい」

 

 突然のことに驚くベータを横目にシドは先程の手紙を取り出し、ベータに見せた。

 ちなみに手紙は湿っていたのでベータが来る前に乾かして、シドがスライムスーツの中に入れていた。

 

「これは……」

「どう思う?」

「許せません。シャドウ様を……こんな………」

 

 手紙に書いてあった拙い誘いを見て、ベータは怒りを隠せずにいた。

 そんなベータにシドは先程までよりもさらに優しい声で話し始める。

 

「ベータごめんね。僕が留置所にいる間、我慢してずっと見守ってくれてたってキラから聞いたよ。辛い思いさせちゃったよね」

「いえ、自分一人じゃ我慢なんてできませんでした。ステラ様が止めてくれたからです」

「それでもだよ」

「シャ、シャドウ様……!?」

 

 シドは席を立ち、後ろに立っていたベータを抱き締めた。

 

「ありがとう、僕のために我慢してくれて。ありがとう、僕のために怒ってくれて」

「うぅぅ……辛かったんですからね……シャドウ様が傷つけられてるのを見ているだけなのはもう二度と嫌です……」

 

 ベータは自身が尊敬してやまない人が傷つけられている状況で見てることしかできなかった自分のことが許せない気持ちで一杯だったのだろう。

 ベータはダムが決壊したかのように青い瞳からたくさんの涙を流していた。

 

「ごめんね」

「謝らないでください……」

「うん。ありがとう、ベータ」

 

 そう言ってシドは抱き締めながらベータの頭を撫でる。

 

「えへへ、シャドウ様~///」

 

 ベータの頬は赤く染まり、まだ少し青い瞳は涙を浮かべていたが、先程まで悲しい表情で泣いていたとは思えないぐらい幸せそうな顔をしていた。

 それにしても、シドがいつの間にかこんなにも素直に気持ちを伝えれるようになっていたとは思わなかった。

 決してシドがツンデレだとかそういうことではない。だが、シドが自身の感情に気づかないなんてことは前世の時から多々あった。それが一番たちが悪い。まだ自分の感情に気づいている方が100倍マシなのだ。

 俺はそんなシドが成長した事実に最初こそは涙を流していたが、目の前でイチャコラされてる現実に気づいた後、頬を伝っていたはずの涙が目の前の熱によって蒸発していた。

 

「おいシド、いつまでそうしてるつもりだよ」

 

 最近、つくづく思う。シドは愛されているが、俺は愛されてないんじゃないかって。

 そんなシドみたいな勘違いをするつもりは毛頭ないが、これがもし勘違いじゃなかったら俺はこの世界を滅ぼす自信がある。

 シドはベータから名残惜しそうに離れ、再びシャドウのオーラを出した。

 

「この招待状は、悪いが僕がけじめとして片付けさせてもらう。デルタには悪いが……プレリュードは僕が奏でよう」

「はい、そのように手配を」

 

 こういうところは変わらないんだから。

 シドは何を思ったのか、先程までずっと開けていたベランダに移動する。

 その時、ベランダから強い魔力の風が吹き始め、シドは俺とベータの方を振り返り、こう告げた。

 

 

「今宵、世界は我等を知る……」

「陰に潜むんじゃなかったのかよ……」

 

 

 嫌な予感しかしない。

 

 

* * *

 

 招待状に書かれていた場所は林道の奥だった。アレクシア王女が誘拐された現場に近いその場所に、シドは学生服姿で現れた。

 俺とベータはシドから少し離れた林の中に気配を消し潜む。

 しばらくして、新たに二つの気配が近づいてきた。その二つの気配の方から何かがシドに向かって飛来する。それを片手で受け止めたシドは、それを一瞥し呟く。

 

「これは……アレクシアの靴か」

 

 と、その時。林道から二人の男が姿を現した。

 

「よう、色男。アレクシア王女の靴なんて持ってどうしたんだ?」

「あーあ、バッチリ魔力痕跡残ってるな」

 

 その二人の男は騎士団の装備に身を包んでいたが、おそらく……いや、確定で教団の連中だろう。そいつらはシドを尋問した二人の騎士だった。

 

「なるほど、そういうことか」

「ああ、そういうことだ」

 

 シドの言葉に、騎士団の男は言い訳すらせずニヤついた。

 

「さっさと口を割れば、こんな面倒なことする必要もなかったのによぉ」

「お前も痛い思いをせずに済んだだろうに」

「シド・カゲノー。王女誘拐の容疑で逮捕する」

「抵抗するなよ、抵抗しても無駄だけどな」

 

 二人は剣を抜き、無遠慮にシドの間合いに詰め寄る。

 ベータは俺の横で怒りを隠せずにいた。だが、先程までと明確に違うのは俺が止めなくても自分で我慢できるようになっていたことだ。

 俺はそんなベータにも感動しつつ、言葉を掛けて緊張をほぐしてやることにした。

 

「見て書け、ベータ。今から観れるのはシャドウ様戦記の第二章第十三話けじめのプレリュード編だ」

「はい!……えっ!? なんで私が書いてること知ってるんですか!? ステラ様!?」

「なんでって言われても、昔にリビングで小説書きながら寝ちゃったベータに毛布を掛けた時に見ちゃったんだよ。不可抗力ってやつだ。本人には言ってないから安心してくれ」

 

 横で悶えてるベータを無視し、シドの方に目をやる。

 既に戦闘は始まっており、茶髪の男は背中から血を流して倒れていた。金髪の男は左腕を斬られて大量の血を流している。

 

「騎士団にこんなことをしてただで済むと思うなよ……!」

「騎士団? 教団の間違いでしょ」

「……!? なぜそれを!?」

「君達は任務失敗しちゃったし、秘密もバレてしまった。教団に始末されちゃうのかな? でも、心配することはない。夜が明ければ総て……」

 

 シドの周りに黒いスライムが纏い始める。

 

「終わっているのだから」

 

 学生服姿のシドはおらず、代わりにいたのは全身に漆黒を纏い、手には漆黒の剣を携えて、漆黒のロングコートを風になびかせるシャドウだった。

 シャドウは倒れる男も含め、徹底的に漆黒の剣で切り刻む。

 

「その刹那、偉大なるシャドウ様は人智を超えた速さで卑劣な騎士の前に立ち、高貴なるお声で語るや否や鮮烈な一撃を………!」

 

 いつの間にか、隣のベータさんは胸の中にしまってあったシャドウ様戦記のメモ帳を取り出し物凄い速さでメモし始めていた。

 いいなぁ、俺のことも書いてもらえるように今度頼んでみようかな。

 そんな時、街の方で轟いた爆音が鳴った。

 

「「デルタか……」」

 

 いつの間にか戦闘を終わらせていたシャドウが俺達の横まで来ていた。

 

「あれ? シャドウ、もう終わったのか?」

「あぁ、終わったよ。さて、ここからがノクターンの始まりだ。ステラ、ベータ、往くぞ」

「はいよ」

「は、はい! 今行きますぅ!」

 

 ベータは胸の谷間にメモ帳を押し込んで、俺とシャドウの後ろをついてくる。

 

「ちなみにさっきベータは何を書いていたの? ステラ、分かる?」

「えっ///!?」

「あ、あぁ……」

「ス、ステラ様///!!」

 

 ベータの書くシャドウ様戦記がバレるのは時間の問題みたいだ。




久しぶりというほどではないと思いますが5日ぶりの投稿だと思います。正直こんなに沼るとは思いませんでした。もっと少し投稿ペースを上げれるように頑張りたいと思います。
てことで、今回はベータのお話でした。甘々のベータも泣き顔のベータも可愛くていいですね。
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