すれ違いムーブ連発の陰の実力者達を止めたくて!   作:星電輝

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第十六話 私は核です

「遅いわ。一体どこほっつき歩いてたんだよ」

「すまない。他にやることがあってな」

 

 シドもとい、シャドウは実際はこの地下通路の中で迷っていただけなのだろう。

 まぁ、道が分からなくて迷った陰の実力者とか、かっこつかないだろうし、そういうことにしといてやるよ。

 

「漆黒を纏いし者……君もそうなのか」

「そういえば、俺の方の自己紹介はまだだったな。俺の名はステラ。陰を隠し、陰に潜む闇を狩る者……まぁ、そこにいるシャドウの相棒ってところだ」

 

 先程まで、ゼノンのことをフル無視して昔話をしてたものだからする機会を見失っていた。

 俺はシャドウのような厨ニくさい自己紹介をする。これは昔、シドに言われて練習した名乗りだ。完全に羞恥心を消すのには苦労した……

 

「なるほど。小規模拠点を幾つか潰していい気になっているようだが、君達が潰した拠点に教団の主力は一人もいない。ただ雑魚を狙っているだけの卑怯者だ」

「ふん。何奴を狩ろうと何処で狩ろうと同じことだ」

「残念だが同じにはならない。教団の主力はここにいる。君は今日、私の手によって狩られる運命にある」

 

 ゼノンは先程まで俺に向けていた視線と剣をシャドウの方に向け直した。

 

「次期ラウンズ第12席ゼノン・グリフィ。君の命、ラウンズへの手柄とさせてもらおう」

 

 そして、ゼノンは剣に魔力を込め、疾風の突きをシャドウに向けて放った。だが、その刺突は虚空を切り、シャドウに当たることはなかった。

 

「それで……教団の主力とやらは何処だ」

 

 シャドウは物凄い速さでゼノンの背後に回り、背中合わせでただ腕を組んで立っていた。

 誰も動かない。否、動けない。

 ゼノンは時を忘れたかように、剣を止め、呼吸すら止めて背後に全神経を集中させていた。

 恐ろしく速い移動、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。それにしても……はぁ、ゼノンもこの程度か。散々な目にあったこともあってか、想像以上に期待外れだ……

 

「おい、シャドウ。今回は寄越せ……と、言いたいところだが成長祝いでその獲物くれてやるよ。その代わり、あれ……使えよ。俺はこいつのせいで精神がすり減るような思いしたんだ。跡形もなく消し去ってしまえ」

「いいだろう」

「……バカにしやがって!」

 

 ゼノンの顔は屈辱と言わんばかりに歪んだ。

 ゼノンは背後に立っていたシャドウに向けて振り向き様に剣を薙ぎ払ったが、それもまた同じように虚空を切り裂く。肝心のシャドウはゼノンが突きを放つ前の立ち位置に戻っていた。

 アレクシアとゼノンは驚きと動揺を隠せないでいた。ゼノンは動揺を抑えてゆっくりと振り返る。

 

「なるほど、少し見くびっていたようだ。小規模とはいえ幾つもの拠点を壊滅させただけはある。見せてあげよう! これが、次期ラウンズの力だ!!」

 

 ゼノンは再び剣に魔力を込めた。先程までとは比べ物にならないほどの魔力……

 

「なんて魔力……」

 

 アレクシアが呟いた。

 確かに魔力の量は多い。流石にこの国の剣術指南役にまで登りつめただけのことはある。けれど、それだけ……いくら魔力の量が増えようとも、その肝心の魔力を活かしきれていない事実は変わらないのだ。

 ゼノンは必死に何度も魔力を込め、シャドウに向かって剣を振るう。だが、その全てを容易く受け止められてしまった。

 しまいにはシャドウはゼノンの勢いを利用し、力を抜いてゼノンの剣を軽く受け流すと歩いてゼノンの背後に回り、首に肘打ちを入れた。ゼノンは自身の勢いを抑えることができずにそのまま、地下道の水の上に落ちた。

 そんなゼノンのことを蔑むように見つめていたシャドウは地下道の通路側から下ろす必要性のない足を水の上に下ろし、剣先をゼノンに向けてこう言う。

 

「来ないのか? 次期ラウンズ」

「ッ……!」

 

 ゼノンの顔が憤怒に染まった。

 ゼノンは咆哮と共に剣を薙ぐ。ゼノンは疾風の如く剣を突く。ゼノンは烈火の如く連撃を繰り出した。しかし、その全てが通じない。

 これじゃあ、大人と子供の稽古だな。ゼノンの吠えてる姿が泣きながら我儘ばっか言うガキにしか見えないぞ。

 

「凄い……」

 

 俺はゼノンが吠えてる姿を見てられなくなったので、横のアレクシアに目線を向ける。アレクシアはシャドウの剣から見惚れたのか、目を離せなくなっていた。アレクシアはシャドウの剣から視線を離すことなく、口だけを動かす。

 

「ねぇ」

「なんだ?」

「彼があなたの言っていた……」

「あぁ、凡人の剣を持つ男。あいつがそうだ」

「そうなのね……あれが凡人の剣。幼い頃に私が夢見た馬鹿げた理想の剣……」

 

 シドがゼノンに連れて行かれる前の日の夜に聞いたことがある。

 アレクシアは自身の剣に何かしらのコンプレックスがあること、それを払拭しようとシドが褒めまくる作戦を実行したこと。

 

「……あいつは適当な人間でな。世界の裏側で不幸な事件が起きて100万人死んでも割とどうでもいいとか思ってるような奴なんだ」

「え?」

「けど、あいつにとってどうでも良くないこともある。それは他の人にとってはくだらないものかもしれないけれど、あいつの人生においてはなによりも大切なものなんだ。あいつはそんな大切なもののために想像できないような努力を重ねて、ようやくあれほどまでに絶大な、究極の強さを得た。まぁ、最初は夢のために頑張ってきたあいつだけど、今では守りたいと思える大切なものがたくさんできたからここまでの強さになったわけだし、一概に夢のためだけに頑張ってきたというわけではないけどな」

 

 俺が思うにただ褒めるだけってのはアレクシアのコンプレックスを払拭するのには足りないと思う。いくら自分の剣に自信を持ったところで、目標と言えるような存在がいないことには始まらないと思うのだ。

 正直、こんなことを俺がわざわざやる必要など一切ないのだが、俺もあの剣を見てきて成長してきたわけだし、凡人の剣を馬鹿にされ続けるのは腹が立つ。結局のところ、俺もあの剣が好きなのだ。

 アレクシアは少し悩むような素振りを見せ、そして口を開いた……

 

「あなた達って……もしかして………」

「き、貴様ら、一体何者だ!! それだけの強さがありながらなぜ正体を隠す!!」

 

 アレクシアの言葉はゼノンの言葉によって遮られた。シャドウはそんなゼノンの台詞に小さく笑みを浮かべる。

 

「我らはシャドウガーデン。陰に潜み、陰を狩る者。我らはただ、それだけの為にある……」

 

 あいつ……久々の陰の実力者プレイにテンション上がってきてないか?

 

「正気か? 貴様……いいだろう。貴様が本気だと言うのなら、私もそれに応えようじゃないか」

 

 そう言うとゼノンは懐から赤い錠剤を取り出した。

 

「この錠剤によって、人は人を超えた覚醒者となる。常人ではその力を扱いきれず、やがて自滅し死に至るが……!」

 

 ゼノンは錠剤を一気に飲み込んだ。

 ゼノンの傷は一瞬にして治っていき、ゼノンの魔力が暴風となって吹き荒れた。

 筋肉は締まり、瞳は充血し、毛細血管が浮き出る。かつて、戦ったことのあるオルバがこれと同じ赤い錠剤を飲んだ時と同じ現象がゼノンに現れていた。

 

「覚醒者3rd……この圧倒的な力を制御できる者だけが、ラウンズになる権利を得るのだ」

 

 ゼノンはそう言って、剣を構える。最初と同じ疾風の突きと同じ構え……だが、最初のそれとは明確に違う点がある。魔力の量が最初の倍以上にまで膨れ上がっていた。

 周りにある地下通路の石レンガは魔力の重圧に耐えられなくなったからか亀裂が走り、濃密な魔力が鞭のようになって攻撃、破壊されていった。

 

「最強の力を見せてやろう」

 

 余裕の笑みを取り戻したゼノンが言う。

 

「醜い……」

「醜いな……」

「醜いわね……」

 

 俺とシャドウ、アレクシアの声が重なった。

 

「醜いだと……?」

 

 ゼノンの顔から笑みが消える。

 

「その程度で最強を騙るな。それは最強への冒涜だ」

「貴様ッ!!」

 

 ゼノンは疾風の突きをシャドウに向けて放つ。その疾風の突きは先程と違い、確かに実体を捉えた……が、ゼノンの剣が捉えたものはシャドウの剣だった。

 あれだけの魔力を込めたゼノンの渾身の突きをシャドウは軽く受け止めたのだ。

 

「借り物の力で最強に至る道はない」

 

* * *

 

 さぁ、反撃開始だ。

 僕はゼノンの剣をそのまま受け流し、剣で薙ぎ払い、顎を狙ってアッパー、その後も何発かゼノンの顔面を殴って、最後に蹴りを一発入れた。

 僕はゼノンを蹴り上げた際に天高く上げた足を地に下ろすと同時に青紫の魔力を込めた。その魔力はここら一帯をの街をも覆うほどの量。

 青紫の魔力から放たれる薄暗い光が鼓動のようにドク…ドク…と、この地下通路内部を怪しげに照らす。

 

「綺麗……」

「なんだ、これは……これが、魔力なのか……だが、こんな……個人の魔力でこんな……」

 

 アレクシアはこの魔力の光に見惚れ、ゼノンは絶望していた。

 ゼノン……君のことは正直嫌いだ。だけど、君は僕に大切なことを気づかせるきっかけをくれた。だから、冥土の土産にある話をしてあげる。

 

「かつて、核に挑んだ男がいた。男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた。だが、それでも届かぬ高みがあった。しかし、僕は諦めるわけには行かなかった。だから、修行を重ねた果て、一つ……答えに辿り着いた」

 

 僕なりに考え、キラにはとても馬鹿げているとお墨付きをもらった答え。それは……

 

「核で蒸発しないためには、自分が核になればいい」

「この狂人がぁぁ!!」

 

 ゼノンは懲りずに僕に向かって剣を振るう。だけど、その剣は僕に触れることなく粉々に砕け散った。

 今、僕の体には大量で濃密な青紫の魔力が圧縮されている。そんな魔力に守られている僕の体に生半可な攻撃で傷を付けることなど不可能に近い。今までで傷を付けたことのある人だってキラぐらいしかいないのだ。

 

「ステラ、その子を頼む」

「あぁ、任せろ。この上も避難が済んでるみたいだし、思いっきりやっていいぞ」

 

 僕はステラにアレクシアを頼むことにした。一応、アレクシア達に当たらないように範囲を調整してはいるけれど、用心するに越したことはない。

 無自覚なんだけどキラ曰く、僕はアレクシアのことを少しは気に入っているみたい。

 それとステラが言っていた上とは、この街に住む住人達のことだ。

 僕は以前、アレクシアに『世界の裏側で不幸な事件が起きて100万人死んでも割とどうでもいい』とか言ったけど、それはあくまで僕が関わっていないことが条件なだけで僕の預かるところではハッピーエンドにするのが僕の主義であり、僕が思い描く陰の実力者なんだ。

 

「真の最強をその身に刻め」

 

 僕は剣を天に向けるように高く上げ、魔力の出力をこれでもかと言うぐらい高めた。

 

 

「これぞ我が最強」

 

 

* * *

 

「アイ」

 

 それにしても、なんか忘れてるような……

 

「アム」

 

 ……あっ!? やっべ!? こんなド派手に暴れたら姉さんになんて言われるか分かったもんじゃないぞ!!

 

「お、おい!! シャドウ!! やっぱなっ!?」

「アトミック」

 

 俺が言いきる前にシドは究極奥義アイ・アム・アトミック、直訳すると私は核ですとかいうセンス力皆無の自己紹介技を放ってしまった。

 音が消え、目の前は光の奔流で埋め尽くされた。壁も、大地も、全てを貫き、飲み込み、遙か夜空の彼方へまで光の奔流は伸びていった。

 そして、最終的に……爆ぜた。

 ゼノンは最初の俺の望み通り、塵も残さず消滅。夜空に光の紋様が刻まれ、王都中が青紫に染まり、雨雲を吹き飛ばし、大地を揺らした。

 視界に埋め尽くされた光が消えた後、改めて目の前を見る。視界には隕石が落ちてきてクレーターができましたと言われても特に疑問に思わないぐらいの巨大な大穴ができており、そこから美しい星空と満月が映っていた。

 俺は漆黒のコートを翻し去ろうとするシャドウに話しかける。

 

「おい、人の話は最後まで聞け」

 

 シャドウは体勢を変えずに顔だけをこっちに向けて口を開いた。

 

「技の途中で言われても無理なものは無理だ」

「それはそうだが……」

「で? 一体何を言おうとしてたんだ?」

「お前……これだけ目立つ暴れ方しちゃったら、姉さんが騒ぎを聞きつけて質問攻めしてくるぞ」

 

 シャドウの顔は陰の実力者プレイをやりきった後の満足げな顔から青褪めた顔になる。

 

「そ、そうじゃん!? どうしよう……」

 

 口調も素に戻ってるし。

 

「どうしようって言われてもなぁ……」

 

 そんな時、先程まで俺がいた場所の方から女の人の声が聞こえる。俺達は忘れていた気の強い王女がずっとそばにいたことを……

 

「ポチ、何かお姉さんが喜ぶような物を買ってあげて誤魔化してみたら? 助けてもらったお礼に奢ってあげるわよ」

 

 アレクシアはポケットから金貨を一つ出して、シャドウに向かって投げる。

 

「ワン!? いやぁ〜ありがとう。やっぱり持つべきは……」

 

 ポチは投げられた金貨を犬がフリスビーを走って取りに行くのと同じように金貨を口に咥えて、条件反射で返事をしていた。

 はぁ……やっぱりお前はデルタ以下だよ……てか、その姿でやるなよ。

 

「持つべきは何かしら? やっぱりね……あなた達………シド・カゲノーとキラ・カゲノーでしょ………」

 

 はぁ……俺達は一体どうなってしまうのだろう……




余談なんですけど、今ってカゲマスにドレスクレアきてるじゃないですか。その前までガチャ全部爆死でSSRすら出てこなかったんで、10連で引けた時は普通に涙出ました。
前もお話ししたと思うんですけど、この作品を書き始めてからクレアのことが最推しレベルにまで跳ね上がってきてるんですよね。嬉しい限りです。そのせいで、小説のどっかに兄弟での結婚のくだりを入れようとしてることは内緒。
てことで、今回はついにゼノン消滅ということでね。めでたしめでたしとはいかないんですよねー。
次回も波乱の展開になりそうです。アレクシアとクレアは両方ともいい意味で厄介ですから。
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