第十八話 紅の騎士団
もうすぐ夏がやってくる。
アレクシアとシドが付き合い始めた日の翌日、俺とシドはアレクシアから聞き忘れてたゼノンが王都にもたらした影響の話を聞いた。ゼノンは剣術指南役という高い位につき、王都の人々から多大なる支持を受けていたこともあり、王都に多大な影響を与えた。その中でも、騎士団に与えた影響が一番大きいだろう。
騎士団のトップに君臨するアイリス王女が紅の騎士団という新たな騎士団を設立したのだ。裏切りやスパイ、あらゆる可能性を考えアイリス王女の信頼に値する人間のみで構成された小規模な部隊だ。
ちなみにアレクシアは一応ではあるが紅の騎士団の一員だ。とはいっても俺達にある程度情報も教えてくれるし、敵対もする気のないあくまで中立の立場をとっている。
考え事を終え、俺は目の前の料理に手をつけはじめる。
「んで、アレクシア王女とはどうなったよ?」
「だからなにもないって」
俺とシド、そしていつの間にか復活していたヒョロとジャガと一緒に食堂でいつも通り昼飯を食べていた。
先程まで俺がここ最近に聞いた情報をわざわざ思い返していたのは食事中にもかかわらずヒョロとジャガがうるさいから。もう少し休んでくれててもよかったのに……
「ちゅーぐらいはしたんでしょう?」
「してないしてない」
ヒョロとジャガがうるさい原因はシドとアレクシアの交際が姉さん公認のガチなものになったから。他の人からしてみれば何を今更って感じだろうが、この二人は罰ゲームで告白をしたことを知っているため、正式に交際したことをこの二人に知らせたときはこれよりもっとうるさかった。
そんな感じでしょうもない話を聞きながら、シドが頼んだものと同じきつねうどんを啜る。
「そういえば、そろそろ武神祭の季節ですねぇ。三人はもう選抜大会にエントリーしましたか?」
「当たり前だろ? 大会でアピールすれば女子の二人や三人、簡単に持ち帰れるんだぜ」
「俺もエントリーは済ませた。出ないと姉さんにいろいろ言われるんでな」
「シド、お前エントリーしてなかったよな?」
武神祭っていうのは2年に一度ある剣の大規模な大会。国内は当然として、国外からも名のある剣士が集まる。武神祭には学園枠があり、その枠を決めるのがこの選抜大会だ。
「僕は出な……」
「俺が代わりにエントリーしといてやったから感謝し、ブフゥッ!!」
「シド君も持て余すようなら自分達に回してくださ、ブフゥッ!!」
突然、二人は泡を吹いて股間を抑えながら椅子から転げ落ちた。
俺達は何も聞いてないし、何も見ていない。俺達は足しか出してない。
「駄目だ。完全に失神してる……置いていくか」
「賛成。はぁ、選抜大会のエントリーってキャンセルできたっけ?」
「無理、諦めろ」
俺達は泡を吹いて倒れている二人を無慈悲にも見捨て、空になった皿を乗せた配膳版を食堂に返してから教室のある棟に戻る。
その途中。
「なんだあれ」
俺達は校舎に入っていく物々しい集団に気づいた。
「あれは……紅の騎士団か?」
紅の騎士団ということは当然アレクシアもいるわけで、アレクシアは俺達に気づくとこちらに向かって笑顔で小さく手を振ってきた。
お前そんなキャラじゃないだろ。
* * *
シド達を横目に私達はミドガル魔剣士学園とは別のミドガル学術学園の校舎に入っていく。
ミドガル学術学園は学問や研究をメインでやっている学園だ。とはいっても校舎自体は同じ敷地内にある。なので、学ぶ内容が違うだけで学園としては大差ない。
今回私や姉様、紅の騎士団に属する騎士二人とこの校舎を訪れたのには理由がある。
「失礼します」
「どうぞ」
ノックを三回。その後、部屋の主の返事を聞いてから扉を開ける。
「あ、アレクシアさん!?」
「シェリーさん、こんにちは」
以前、街の方までシドとデートをしに行った時に出会ったあのピンク髪の少女、シェリー・バーネットが出迎えてくれた。私達紅の騎士団がこの校舎に訪れた理由は、王国一の頭脳と名高いシェリーさんに依頼をしにきたから。
「お二人はお知り合いなのですか?」
「以前、街の方で知り合いまして」
「そうなんですよ!」
「シェリー。談笑もいいが、とりあえず座ってもらったらどうだろうか?」
「そうですね。どうぞ、こちらにお座りください」
「「ありがとうございます」」
言われるがまま私と姉様は初老の男性とシェリーさんの向かい側に座る。
この初老の男性はルスラン・バーネット。ミドガル学術学園の副学園長であり、詳しくは知らないがシェリーさんの義理の父にあたる。
「それで本日はどんな御用で?」
「シェリー・バーネット、あなたにこのアーティファクトの解読を頼みたい」
そう言って姉様は大きなペンダントのようなものを差し出した。
「アーティファクトですか。それも使用可能な状態の」
「先日の事件の折、ディアボロス教団と名乗る宗教団体の施設から押収した物です。しかし、我々には詳細が分からない。そこで王国一の頭脳と名高いあなたに依頼をしようと考えたのです」
「しかし、私はまだ学生の立場です」
「あなたの研究成果は国内外に広く知られている。この分野であなたに、シェリー・バーネットに勝る研究者などいないでしょう」
「ですが……」
「いい機会だ、受けてみなさい」
シェリーさんの言葉はルスラン副学園長に遮られた。
「お義父様」
「シェリー、君はいずれ世界に羽ばたく研究者になる。ミドガル学術学園の副学園長としても推薦するよ」
「でも……」
「自信を持ちなさい。君ならやれる、これは君にしかできない仕事なんだ」
ルスラン副学園長はシェリーさんの細い肩に手を置き、笑みを浮かべる。
「分かりました」
シェリーさんや姉様達には父親が娘に向けるような優しい顔に見えたのだろう。だけど私には、とても不気味で何かを企んでるような顔にしか見えなかった。
ルスラン副学園長の不気味な笑みは一体何を示唆するものなのか。私は確かめないといけないと直感的に感じた。
「万が一に備え、警備には紅の騎士団をあたらせます」
「アイリス様が新設なさられた騎士団ですな」
「まだ小規模ですが、信頼できる者達です」
後ろに控える赤いローブを纏った二人の騎士、獅子髭のグレンとマルコ・グレンジャーが挨拶をする。
アクションを起こすならここね。
「姉様、私も協力します」
「アレクシア、ですが……」
「警備に人数を割くのなら、漆黒の事件に対応する人が減るはず。紅の騎士団はまだまだ人手不足です。それに私は彼を知っている。私が適任のはずです。」
私の言ってることは正しい。事実しか述べていないのだから当たり前だ。だけど、紅の騎士団に協力する目的は他にもある。
姉様の力になりたいというのも間違いではないけれど、大元はルスラン副学園長の先程の笑み。あの笑みを見てから私の体は、かつてゼノンと対峙した時のように警戒をし、緊張とストレスで体がこわばっていた。
「分かりました。ただし、危険のない範囲ですよ」
「ありがとうございます! アイリス姉様」
今は何を企んでいるか分からないけれど、少なくとも警戒しておく必要はあるわね。
二週間とちょっとぶりですね。すいません。3月中は学校の課題やらなんやらで忙しいのでまだしばらくは不定期になりますという報告だけしておきます。
てことで、今回はついに新章に入りました。恋人兼弟子になったアレクシアは原作とは考え方は大分変わってくるので、これからはアレクシア視点も増えてくるかと思われますがあくまで主人公はシドと相棒のキラです。
と、ここで少し補足があります。このシリーズのタイトルである 【この勘違いムーブをする陰の実力者を止めたくて!】ですが、勘違いムーブをする陰の実力者が誰だとか、それを止めるのは誰だとかは明言していないとだけ言っておきます。勿論、人数もです。
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