食堂での一件の後、俺達は見事に復活を成し遂げたヒョロとジャガに連れられて王都のメインストリートにやって来た。
なんでもヒョロ曰く、最近話題のミツゴシ商会ってところが高級菓子のチョコレートを売っているらしい。ヒョロはこれを女子にプレゼントすることでモテモテだとか馬鹿なことをほざいていたが、俺達もこの世界のチョコレートには興味があるのでついて行くことにした。
夕方の通りは人が溢れていて、一等地にある店はどれも大繁盛だ。中でも群を抜いて人が多いのが、噂のミツゴシ商会だった。
そういやシャドウガーデンの収入源ってどこから来てるんだろうか? 昔、ガンマに聞いたときは何かしらの商売をしているとしか教えてもらえず、手伝うと言っても『これは私が直接成し遂げないと意味がないんです』と断られた。そのため、俺やシドの仕事は基本的に直接教団の連中を叩いたりしているだけで、シャドウガーデンの運営等は七陰のみんなに頼りっきりになってしまってるのが今の現状である。
もう少し頼ってくれてもいいのにな……俺いらない子ってわけじゃないよな? はぁ、この前から考えてることがネガティブ過ぎる。もっとポジテイブに考えよう。
例えば照れ隠しで頼りたいけど頼れないとか………そんなわけないだろいい加減にしろ! そもそも本当にそうだったらシャドウガーデンのメンバー全員ツンデレって理論になるじゃねえか。やめやめ、今はこの状況のことを考えよう。
「うわぁ、凄いですねぇ」
ジャガがそう呟く。
確かに凄いと思う。俺達の目の前には前世を思い出すようなどこかモダンな雰囲気を纏っている豪華建築物がそびえ立っていた。なんというか、前世で一流ブランドのショップに訪れた時に感じたような場違い感がある。
そして入口には長蛇の列。並んでいる客も全て貴族かその関係者。一目でわかる上客ばかりだ。最後尾には待ち時間が書かれたプラカードを持った制服姿の見覚えのあるお姉さんが立っていた。
違和感を感じる……まぁ、気のせいだろう。今はそんなことより……
「80分も待ってられるか、帰ろうぜ」
と俺が言った。
「80分待ちだってさ」
とシド。
ん? 聞こえてなかったのか?
「帰ろうぜ」
「寮の門限にはなんとか間に合いそうですが」
とジャガ。
「帰ろうぜ」
「ここまで来たんだし並ぼうぜ」
とヒョロ。
おい、お前ら。俺のことを意図的に無視してるだろ。
「でも最近は人斬りが出るって噂ですよ。あんまり遅くなるのは……」
「バーカ、こっちには魔剣士が四人もいるんだ。返り討ちにしてやるよ」
ヒョロはキザな顔をしながら腰の剣をポンポンと叩く。
「そ、そうですね」
「「人斬り?」」
話を遮って、俺とシドは口を揃えて聞いた。
「なんだ? お前ら知らないのかよ」
「最近王都の夜には人斬りが出るらしいんですよ。なんでもかなりの腕前で、ついに騎士団にも犠牲者が出たとか……」
ジャガは声を潜めて言った。
「人斬りねぇ……まあ、俺達には関係ない話か………な……」
「ん? どうしたんだよ、キラ。」
「……いや、なんでもない。ただ、この後面倒なことに巻き込まれそうだなぁと思って」
本当になんでもないんだよ。ただ、横を見たら店で欲しいものを見つけた子供のように目を輝かせるシドがいただけで……
あれ……無理言ってイータに開発させた胃薬が切れてる………俺の人生ここで終わるんだぁ………
そんな馬鹿なことを考えながらも俺達は長蛇の列に並ぶ。
「お客様、失礼ですが少しお時間をいただけますか?」
並んですぐに俺達は後ろから声をかけられ、声の方に体を向ける。そこで俺とシドは先程の違和感の正体を知った。
「よろしければ、アンケートにご協力を」
なにしてんの。ニュー……
* * *
アンケートに協力という名目で俺とシドはミツゴシ商会の店内に連れていかれるように入った。
ちなみにヒョロとジャガもアンケートに協力すると言って、ニューのことをナンパしようとしたが逆に鋭い眼光を返されて萎縮してしまい、長蛇の列に並び直すことなく道の隅で縮こまってしまったので置いてきた。
それはそうとして、俺やシドはさっきから冷や汗が止まらなかった。ニューに従業員用の扉に案内される途中に売り場を通ったのだが、その売り場にあった商品がやばかった。
人気のチョコは当然として、他にも珈琲やら化粧品やら石鹸やら、この世界では見たことがないはずのに見覚えしかないもので溢れている。さらには服やアクセサリーや靴や下着までデザインが全て洗練されていて目新しくも美しい、これは日本で見たことのあるものばかりだった。
「な、なあ、ニュー? ここはまさか……」
「それは直接ご本人にお聞きください」
そう言ってニューは優美な彫刻の彫られた光り輝く巨大な扉を開く。俺達はいつの間にか店の最奥まで来ていた。
扉の先は巨大なホールのような空間になっていて、ギリシャ神殿のような円柱が並び、大理石の床は輝いている。そして、奥へと続くレッドカーペットの左右に美しい女性達がずらりと並んでおり、俺とシドが一歩室内に入ると彼女達は一斉に跪いた。
そんな彼女達に挟まれるレッドカーペットの先に目をやると巨大な椅子があることに気づいた。繊細な芸術品のようなその椅子には天窓から茜色の夕日が降り注いでおり、そこにはまだ、誰も座っていない。
そして、椅子の隣には藍色の髪の美しいエルフがいた。モデルのようなスタイルに、妖艶な黒いドレス姿の洗練された女性。
「ご来店を長らくお待ちしておりました」
「「ガンマ……」」
まるで女優のように振る舞う彼女は、聡明な顔立ちと理知的な青い瞳を持つ彼女は、シャドウガーデンの頭脳ガンマだった。
このガンマ、頭はいい。頭はいいんだけど、致命的な欠点を抱えている。それは運動センス、戦闘センス、共に致命的なこと。
「お久しぶりです。主様、ステラ様」
ガンマは優雅なモデルウォークで歩いてくる。そんなガンマを見ながら俺はガンマのそばに急いで近づく。
「ぺぎゃッ!……あ、あれ?」
「大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です……///」
俺はガンマがコケそうになったところをすかさず抱き寄せた。
ガンマは昔から何もないところでコケたり、ポカしたりすることが日常茶飯事だった。いつもこんな調子なので彼女の二つ名は最弱のガンマなんて呼ばれてたりする。
ラッキースケベとかだったらまだしも、そういう次元じゃないことばっかやらかすから出来の悪い妹の世話をしてる感覚なんだよな。ガンマの方がお姉さんだけど……
「そうか、ならよかった。それと、ガンマ。ちゃんと成し遂げたんだな」
「はい。主様やステラ様の陰の叡智があってこそではありますが……」
「それでもだよ。よくやったな」
実は部屋に入って立派に会長をしているガンマの姿を見てから、俺は感動で涙が出そうになっていた。まぁ、俺がいらない子っていうわけじゃなさそうってことも分かって少し安堵しているのもあるけど。
俺は涙を堪えながら、ガンマの藍色の髪をボサボサにしない程度に優しく撫でる。
「ステラさまぁ〜///」
惚けた顔するのはいいんだけど、こういう時ぐらいステラじゃなくてキラって言ってくれないかな? 今でもステラって名前つけたのは黒歴史なんだけど。まぁ、もう諦めてるんだけどさ。
「は! すいません、忘れておりました。主様どうぞこちらへ」
そう言われてシドは案内されるがまま、部屋の最奥に鎮座する椅子に腰を掛ける。
ちなみに俺はいまだにガンマの頭を撫でていた。俺もシャドウガーデンの主に位置するシャドウの相棒という立ち位置にいるため、シドの隣にいた方がいいだろうとは思ったのだが『ス……キ、キラ様はここです///!』と頬を赤らめながら頭をこっちに差し出してきた。
まぁ、そんなことされたらやめるわけにもいかないわけで……てか、ちゃっかりキラって呼び直してくれてるし。出来の良い妹だなぁ〜……え、なんで気づいたの?
「ふん……」
椅子に腰を掛けたシドはそこから見える景色に感極まっているようで体をわなわなと震わせていた。
「褒美だ、受け取れ……」
シャドウの声でそう言ったシドは掲げた右掌から青紫の魔力を天に向けて放ち、天井付近まで打ち上がるとそこから無数に分裂して室内に降り注ぐ。
魔力の雨は先程からずっと跪く彼女達と俺に頭を撫でられ続けているガンマに当たり、その身体を一時的に青紫に染めた。
俺は褒美の対象に入らない。なので、自身の魔力でコーティングされたスライムで小さい傘を作って雨を凌いでいた。
「なんで傘なんて差してるの?」
「俺は褒美の対象じゃないからな」
「せいぜい疲労回復とか、魔力の巡りが良くなったりとか、軽い傷を治したりとか、その程度の効果しかないんだから別に気にしてないのに」
「俺が気にするんだよ」
それにしても……
俺の腕の中にいるガンマは少量の涙を浮かべ少し震えている。後ろの彼女達の方に目線を向けると漏れなく身体を震わせ、中には涙を零す者もいた。ニューに関してはグスグスと音を立てて泣いているし。
「身に余る光栄です。今日という日を、生涯の宝に致します」
「ふむ……それでこの店、結構稼いでる感じ?」
お前………最低だよ……
* * *
あの後、ガンマからミツゴシ商会のことを詳しく教えてもらった。
「主様が本日来訪された理由は察しております」
で、この状況。どこかで話さないといけないなとは思ってたんだけど、まさかこんなに早くになるとは思わなかった。
「そ、その……ガンマ?」
「はい、なんでしょう?」
心なしか冷たい気がするのは気のせいだろうか……うん、気のせいだ。
「そのぉ……ご、ごめん!!」
「え!? どうしたんですか!?」
あれ、なんか僕間違えた?
「ガンマ、今日俺達はどんな理由でやって来たって思ってるんだ?」
「私はてっきり人斬りの件で来訪されたのかと……」
僕達が考えていた話とガンマの考えていた来訪の理由は同じではなく、まったく別の話だったらしい。
つまり、僕は自爆したのだ。だが、僕は話の内容を話したわけではなくただ謝っただけ。まだ軌道修正ができるはず!
「あー、なんか聞いたな、それ。悪いが俺達が来たのはそれが理由じゃないんだ。事件の話も詳しくは知らないしな」
「そうなんだよね。僕達がやって来たのはチョコレぇ……」
「俺達がやって来たのはアレクシアの件でシドから話があるからだ」
え、ちょっと? キラぁ? いや、まぁ、確かに話をしようとは思ってたんだけどそんな真面目な感じで言われちゃうと上手い具合に誤魔化せなくなちゃったじゃん。ガンマもさっきから跪いていた彼女達を部屋から追い出しちゃったし。
「それで主様、お話とは?」
少し不安げに僕を見つめるガンマ。ちゃんと話してやれっていう意味を込めた視線を向けてくるキラ。
はぁ、分かったよ。
「ガンマ、改めてもう一度言うよ。ごめんね、こんな無責任な主で。もちろんシャドウガーデンのみんなのことも大切だし、ガンマ達に対しては親愛……それ以上の感情を僕は持ち合わせている。けど、僕にとってアレクシアはガンマ達と同じぐらい大切に思っているみたいなんだ。実は僕自身もまだよく分かってないんだけどね。ただ、僕が抱えるべき大切な人達の中の一人ってことだけは分かってほしいんだ」
僕がアレクシアに対して抱いている感情。それは彼女の持つ凡人の剣の行く末を見てみたいってのもあるし、少なからず恋愛感情を抱いているのもあると思う。だけど、それと同時にこんなたくさんの女性を侍らせている最低な僕でいいのだろうかとアレクシアの顔を見るたびに考えてしまう。
以前の告白、アルファが登場して僕にあすなろ抱きをしたあの時、悲しそうな顔をしていたのはアルファだけじゃなかった。アレクシアも悲しそうな顔をしていたのだ。きっと、告白が失敗するってそう思ったのだろう。そんな顔を見た時、アルファやベータが悲しそうな顔をした時と同じぐらい守ってあげたいという感情と愛情のようなものを抱いた。元々凡人の剣を持つアレクシアを気に入ってただけだったのがそういう好意に変わっていたと確信したのはそれがきっかけ。だから、告白を受けたのだ。
それなのにこんな醜い考えのせいで、本当に僕はアレクシアのことを好きなのかが分からなくなっていた。
キラは前世でこういうことを避け続けて経験してなかった分のツケが今きているのだろうと言っていた。そしてこうとも言っていた。
『そんなに悩むぐらいならアレクシアと別れればいいじゃねえか。でも、お前にはそんなことできない。だろ? 例えばアレクシアをアルファ達に置き換えて考えてみろよ。つまり、そう言うことだろ?』って。
「そのことでしたか。でしたら、大丈夫ですよ」
「「え?」」
「もとより主様が選ぶ道が我々の道。七陰並びシャドウガーデンの構成員、皆納得しております。なので、主様がおっしゃるのであればその王女様とも仲の良い関係を築いていけるよう努めていく所存です」
みんな……ありがとう………僕の心のわだかまりを消してくれて……あんな醜い考えはもう捨てた。これで僕は心置きなく陰の実力者プレイに打ち込める。
心の中でも照れ隠しでそう思うことにした。陰の実力者がいちいち照れてたりしたらかっこつかないからね。
だけど、これだけは伝えておかないといけない。
「ガンマ……愛してる………」
「……え? あ、あ、主様///!? ど、ど、どうしたのですか/// い、いきなりそんな/// あ、あ、愛してるだなんて……/// きゅぅぅ………///」
「ガ、ガンマぁ〜!?」
あ、ごめん。
最近、つくづく思うんですけどタイトル付けるのってむずいですね。過去のお話も納得のいってないタイトルもあったりするのでいつの間にか変わってるかもです。
てことで、今回はついにガンマ登場回です! 陰実は妹属性のあるキャラってマジで少ないと思うんですよね。なので、個人的に妹属性があるともっと可愛いだろうなぁ〜と思うガンマに担ってもらうことにしました。ちなみにシェリーとイータは後が怖くなるのでなしの方向性です。
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