すれ違いムーブ連発の陰の実力者達を止めたくて!   作:星電輝

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第二十話 怒りのままに

「は?」

 

 巨大なホールのような部屋は俺の青白い魔力によって染められていた。

 昔とはまったく系統の違う色をした魔力。というのも、俺の魔力はその時々の感情によって色を変えていた。冷めた感情の時は赤色、普段は黄色、助けたいだったり守りたいだったりという感情の時は白色、ありえないぐらいの怒りを感じている時は青白い色に変わる。昔の白黒の魔力だった時代はまだまだ修行不足だったらしい。

 シドはこの魔力を星色魔力と名付けた。いつもの厨二くさい名付けにも思えるがそんなことはない。

 元々、星が発している光の色というのは恒星の表面温度に関係している。温度が高いほど光は青く見え、温度が低いほど光は赤く見える。俺の魔力の色も感情の熱によって変わっていくので、名付けの由来もそこからきているのだろう。

 まぁ、何が言いたいのかっていうと、今の俺はどうしようもないぐらいに憤りを感じていた。

 

「も、申し訳ありません!?」

「もう、落ち着いて。キラらしくないよ。ガンマも怖がってるし」

 

 シドの言葉に俺はハッとして、俺の腕の中にいるガンマの方を見る。ガンマは俺の怒りに満ちた魔力を間近で受けたためか涙目になっており、腕の中で体を震わせて怯えていた。

 

「ご、ごめん。ガンマに怒ってるわけじゃないから」

 

 そう言ってガンマの頭を先程までと同じように撫でる。

 シドの愛の言葉で気絶してしまったガンマが目覚めてから、俺達は人斬りの事件の話を聞いた。漆黒の衣を纏い、シャドウガーデンの名を騙る愚者が王都で無差別に殺人を犯しているという内容。おおかたシャドウガーデンに罪を背負わせるといったようなクソみたいな考えをした教団の連中の仕業なんだろうけど……腹が立ってしまうのはしょうがないことだと思う。それでももう少し冷静になった方がいいとは俺も思うけど……

 

「ガンマ、心当たりはないけど。その案件、僕達が継ぐよ」

「分かりました。そのように手配を……来なさい、ニュー」

 

 ガンマがそう言うとニューが部屋の隅から俺達の近くまで寄る。

 

「ニューは13番目のナンバーズです。雑用や連絡員として自由にお使いください」

「え!? ニュー、ナンバーズ入りしたの!?」

「はい、おかげさまで。主様、ステラ様、改めてよろしくお願いします」

 

 本来、シャドウガーデンの構成員は七陰とナンバーズ以外基本的に番号で呼ばれている。だが、ニューは悪魔憑きの中でも珍しい人間の子だった。というのもあって俺はこの子にニューと名付け、昔からずっと気にし続けてきたのだ。こんな短い時間で昔から気にかけていた子の成長を二度も目にするとは、涙で前が見えない。実際は流してないけど……かっこ悪いし。

 

「用ができたら呼ぶよ」

「今日は会えてよかったよ。ガンマ、怪我に気をつけろよ。またな」

 

 そう言って俺達は部屋を後に……

 

「あっ」

「ん? どうした、シド」

「そういえばチョコを買うために来たのをすっかり忘れてた」

「それでしたら、最高級のチョコレートを用意させます」

「あの……それっていくらぐらい?」

「家族割引で10割引きでございます」

「え、いいの? ありがとう、そしたら四人分欲しいな」

「かしこまりました」

 

 え、俺の分もなの?

 

* * *

 

「やばいって、門限間に合わねーぞ!」

「シド君達が悪いんですよ! 綺麗なお姉さん達とイチャコラちゅっちゅして!」

「悪かったって、チョコあげたじゃん」

「てか、いちゃついてねえよ! アンケートだって言ってるだろ。キスもしてねえ」

 

 僕達四人はすっかり日の落ちた王都を走っていた。

 確かに僕達が遅かったのも理由の一つだが、ヒョロとジャガがニューやガンマのことをしつこく聞いてきたせいもある。

 というのも、チョコの用意を待ってる間にヒョロ達と合流。そのまま店前で待ってたんだけど、まさかのガンマが直々にチョコを届けに来た。ガンマは会釈しつつヒョロとジャガに一つずつチョコの入った紙袋を渡し、僕達の方に体を向ける。そのままガンマは僕達にも紙袋を渡してくると思いきや、僕達の顔の目の前まで顔を寄せてこしょこしょ話をするようにこう言った。

 

『急なことでしたので、簡単にはなってしまいましたが、お二人の紙袋には商品のチョコレートとは別に私の手作りチョコレートを入れさせてもらいました。お帰りになられましたらぜひ、お召し上がりください』と。

 

 そんな姿をヒョロとジャガはチョコレートを渡しに来た美女が冴えない魔剣士の男二人にいきなりキスをした、とこう解釈したのだろう。

 まぁ勘違いしてもしょうがない距離感だったし、この二人にいくら言ったところで聞かないのはこの短い付き合いでも分かるので僕は諦めている。キスの容疑をかけられている二人目の容疑者キラは頑張って誤解を解こうとしている。ガンマが頑張って作ったミツゴシ商会の評判とガンマ自身の評判を下げるようなことをしたくはないのだろう。

 まぁ、あのガンマがそんなことも考えずにしてくるとは思えないので、おおかた牽制とかアピールとかそういった意味も含んでいるのだろう。

 ガンマは昔からキラに好意を寄せていたことは知っている。僕にも好意を寄せていたことには最近知ったけど………まぁ、とりあえずそこは置いといて、肝心のキラがガンマのことをいつも妹扱いするから困っているとアルファを経由して聞いたことがあった。

 だからこそ今なのだろう。ミツゴシ商会を僕達に直接助けを求めず、ここまで成長させてみせ、少しお姉さん感を得た今なら露骨なアピールにもキラが反応してくれるとガンマは考えたのだと思う。

 そんな考察を頭の中で張り巡らせていたその時。

 

「なぁ、何か聞こえなかったか?」

「自分は何も」

 

 前を走るヒョロとジャガにはちゃんと聞き取れなかったようだが、僕は、僕達ははっきりとその音を聞き取っていた。

 それは剣と剣がぶつかる音。遠くで誰かが戦っているみたいだ。

 僕とキラは同時に足を止めた。考えてることは一緒みたいだ。

 

「おい、どうした」

「門限過ぎちゃいますよ!」

 

 少し遅れてヒョロとジャガは止まる。

 そして、僕は路地裏を指差してこう言う。

 

「ウン……」

「いやぁ〜、忘れ物しちゃってさ。俺達で取ってくるから先に帰っていいぞ」

 

 え、ちょっと。僕の渾身のセリフは?

 

「忘れ物なんて明日でいいだろ」

「そうですよ」

「俺もそうしたいところなんだが………」

 

 そう言うとキラは悲壮感溢れる表情で俯く。

 

「お、おい。急にどうしたんだよ。相談なら乗るぞ」

「そうですよ。どうしたんです?」

 

 僕には分かる。これは演技だ。だけどヒョロとジャガはそれに気づかないようで、普段見せないキラの表情にオロオロとしている。

 そして最後にキラから一つ、二人に向かって爆弾が落とされた。

 

「実は……あのお姉さんに呼ばれてるんだ♪」

「「この裏切りものおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」」

 

 二人は踵を返して叫びながら走り去っていった。

 僕はそんな二人が視界から消えるのを確認すると、横にいるキラの方に顔を向けた。キラの表情は先程までしていた悲壮感溢れる表情ではなく、顔は笑っているが目が笑っていなかった。

 

「お前……次、俺が恥をかくような真似しようとしたらただじゃおかないからな」

 

 そう言ったキラから有無を言わせない強い圧力を感じた。僕のやろうとしていたことが完全にバレてるうえにそんな圧力を目の当たりにしたら、僕はこう言うしかなかった。

 

「は、はい……すいませんでした……」

 

* * *

 

 暗い裏路地の奥、私は人斬り事件の犯人と思われる全身黒ずくめに仮面をつけた男と対峙していた。

 既に何度か剣を交えており、戦況はこちらが優勢。まだ少ししか指導してもらえてないとはいえ、あのシャドウに剣を教えてもらってるという事実は自身の剣に多少なりとも影響を与えていた。

 というのもあり、手負いの黒ずくめの男はとてもじゃないが勝ち目がないように思えた。

 

「もう諦めなさい。あなたでは私に勝てないわ」

「我らはシャドウガーデン」

「さっきからそればかり。シャドウガーデンはトップの二人以外みんな女性って何度も言っているでしょう」

 

 それはクレア義姉さんから聞いた話。悪魔憑きを拾い、助け、仲間にする。悪魔憑きは女性にしか発症しないらしいので、シャドウガーデンはあの二人の兄弟以外女性で構成されているらしい。

 まぁそんなわけで、シャドウガーデンを騙っていることが確定しているこの黒ずくめの男を捕らえるのが私の仕事。

 

「これで終わりよ」

 

 最後の一撃を放つべく、私は剣を構える。が、突如背後の方から殺気を放つ気配が二つ現れたことに気づいた。その二つの気配の方に私は体を向けた。

 

「あら、お仲間の登場ってわけ?」

 

 先程の男と同じように黒のローブに身を包んだ二人の男は何を言うわけでもなく、剣を構え突撃するように攻撃を始めた。私はそれを受け流しつつ攻撃に転じようとするが、数が増えたうえにこの狭い空間でこの人数では殺さないように剣を振るのが難しく、防戦一方になってしまっていた。そのため、私の意識は必然的に正面の黒ずくめの男二人に向いていた。

 だからこそ、背後にいる手負いの黒ずくめの男が剣を構えていることに気づくのが遅れてしまった。

 

「うっ!? か弱い……乙女相手に………酷いわね!!」

 

 背後の男の剣は私の腹部を裂いた。寸前で体を横に動かさなければ、もっと重症になっていたであろう。

 痛みに耐えながらも、私は背後の男の顔面に向かって左拳で思いっきり殴り飛ばした。だが大したダメージにもならず、私はよろけながら建物の壁に体を預ける。黒ずくめの男達はそんな私を全員で取り囲んだ。

 

「我らはシャドウガーデン」

 

 最後までそればっかり。腹立つわね、恋人の大切なものをこんな奴らに騙られるなんて。

 手負いの方の男が私に向かって剣を振り上げる。殺されると私は思った。前までの私なら死を覚悟してこの状況を受け入れていたかもしれない。だけど、今の私には死にたくない理由が、未練がありすぎた。

 

 助けて! シド!!

 

 その時。

 空から漆黒が降ってきた。まるで夜を翔る梟のように、音もなく降り立った。漆黒の刃はそのまま一人を両断し、また私を救ってみせた。

 

「僕だって怒ってるんだ。でも、相棒があそこまで怒ってるのを見たら、僕だけでも怒りを抑えて冷静にならないといけないと思った。だけど、もういいや。お前達はシャドウガーデンの名を騙るだけでなく、僕の大切な者まで傷つけた」

 

 僕と言っているあたりシドの口調のはず。それなのに低く、底冷えするような冷酷な声だった。

 

「ディアボロス教団の愚者よ。その罪、その命で償うがいい」

 

 シドがシャドウの口調に切り替えて言葉を発すると同時に、黒ずくめの男達が動いた。彼らは石畳を蹴り、壁を蹴り、屋根へと登り、逃げ去る。

 

「愚かな……ステラ……」

 

 シドがその名を呼ぶと先程まで誰もいなかったはずのところからキラが現れる。

 

「はいはい、お前はアレクシアの怪我を治してもう帰れ。あのゴミ共は俺がもらうぞ」

「ああ、メインディッシュは我のものだ」

 

 その短いやり取りには底が見えない怒りのようなものを感じられて、少し鳥肌が立った。

 キラは短いやりとりを終えた後、何も言わずこの場を去った。あの黒ずくめの男達のあとを追ったのだろう。

 

「まったく無茶をして……大丈夫か?」

「えぇ……と言いたいところだけど立っているのもやっとなのよ。治してもらえるかしら?」

 

 シドは私の血塗れの腹部を見て一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をするがすぐいつもの優しい顔に戻り、私の腹部に魔力を流し始めた。

 シドの魔力コントロールはそれはもう凄まじいもので、あれだけの血を流していた腹部の傷は見る見る癒えていった。

 

「流石ね。今度、この治療技術を私にも教えなさいよ」

「今度ね」

 

 そう言って、仕事を終えたと言わんばかりに漆黒のロングコートは掌サイズの黒いスライム状の塊に変わり、シドの姿はいつもの制服姿へと戻っていた。

 

「じゃあ帰ろうか、送っていくよ」

 

 シドは私に向かって手を差し出す。その掌には四箇所ほど爪が食い込んだような傷があった。怒りに任せて思いっきり拳に力を入れたような、そんな傷。

 あれだけ血を流していたような傷をすぐに治せるシドがこの程度の傷を治せないなんてことはないはず。おそらくシドはこの傷に気づいていない。

 そこから推測するに、きっと私を助けてくれたあの時。シャドウガーデンを騙っていたことと私を傷つけたことに対して、掌に爪が食い込むぐらい怒ってくれたのだ。

 そんな彼を見ると愛おしくて、私のことを本当に大切に思ってくれてるという実感を得れて、幸せでしょうがなかった。

 

「ねえ、シド?」

「ん? なに?」

「そ、その/// 今日帰りたくないって言ったら、どうする///?」

 

 

 

「え」

 

 

 




やっぱりオリジナル回は執筆スピードが若干落ちますね。次回はキラとガンマ、次次回はシドとアレクシアのオリジナル回になっております。
てことで、今回はブチギレ陰の実力者回となりました。最後のアレクシアの感情は今話屈指のお気に入りです。
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