在学している生徒達が会場を囲い、会場の中心に舞う土煙の中、必死に目を凝らして試合の行方を追う。やがて土煙が晴れていき、試合の結果が露わになった。
試合会場の中心には組み伏せられ首に刃を向けられた男とその上に立つ最愛の姉、クレア・カゲノーがいた。
「勝者! クレア・カゲノー!」
会場中で歓声が沸き起こる。
だが、試合に勝ったはずのクレアはそんな歓声などは無視で、会場中の生徒達の中から誰かを探すように顔をキョロキョロし始めた。
澄ました顔をして試合会場の出入り口に向かって歩き出した。
「姉さん! かっこよかったよー!」
俺はそんなクレアに会場中の誰にも負けない声量で声をかけた。
クレアは声の方に顔を向け、俺を見つける。すると先程の澄ました顔は消え、俺やシドにたまに見せる無邪気な笑顔を見せた。
「可愛い……」
今、会場中の誰もが思っただろう。
そうだろうそうだろう。俺の姉さんは可愛いんだ。それはそうとして隣に座ってるお前、クレアに告白しようなんて馬鹿な考えしてるんじゃない。殺すぞ。
そんなことを考えてるといつの間にかクレアは会場から出ており、次の試合が始まった。
シド・カゲノー対ローズ・オリアナ王女。
この試合を見たい気持ちはあるのだが、自分の出番がその次の試合のため、俺はこの試合を見届けることなく席を立つことにした。
* * *
生徒会長ローズ・オリアナ。
芸術の国オリアナ王国からの留学生であり、オリアナ王ラファエロ・オリアナの娘。つまり王女でネームドキャラクターである。
そんな彼女は剣を構え、剣先をこちらに向けた。
「はぁ、どうしてこうなった」
選抜大会一回戦の対戦相手がなんでこんなネームドキャラクターなのだろうか。相手がキラだったらよかったのに。
と思いつつ、仕方なくこちらも剣を構える。
「ローズ・オリアナ対シド・カゲノー」
どうしようかな。モブっぽくやられるのがベストだけど、やりすぎると前みたいにキラに怒られるし……適当に戦って負けることにしよう。
「試合開始!!」
審判が試合開始の合図を出す。と同時に両者二人ともその場から消え、一気に間合いを詰めた。お互い薙ぎ払うように剣を振り上げ、剣同士がぶつかる。
ぶつかりはしたものの重厚な金属音はほどほどにしか聞こえず、すぐに剣同士が離れお互いの間合いも離れる。
これは……僕の剣に似てる………
僕の剣はアレクシアと同じ凡人の剣だけど、それだけじゃない。陰の実力者の名に恥じぬように剣舞のような美しさも取り入れている。
彼女の剣はそんな僕の剣に何故か似ているのだ。僕の剣に一番近いのは誰だという話であれば、アレクシアには申し訳ないがローズ先輩の方だろう。
彼女の方も剣が似ていることに驚いているのか、目を見開いている。しばらくの沈黙の後、彼女はここで初めて僕に話しかけてきた。
「あの……あなた、もしかして………スタイリッシュ盗賊スレイヤーさんですか!?」
「ぶっ!?」
会場中の生徒達が頭の中にはてなマークを浮かべて困惑しているのが分かる。
それもそうだよね。僕も意味が分からないもん。その名前使ってたのシャドウガーデンが結成する相当前だよ? なんでローズ先輩のようなネームドキャラクターに昔の短い期間使用してた名前が知られてるの?
その名前を使ってた時にやってたことだって……あっ。
「もしかして、あの時の金髪の……」
「覚えてくださっていたんですね! あの時、私のことを助けてくださった時に見たあなたの剣が………」
まずい、このままだと実力がバレるだけではなくいろんなことに巻き込まれる気がする。
そう直感で感じた僕は剣を思いっきり地に叩きつけ、先程の姉さんの試合よりもでかい土煙を起こす。
そしてすぐにローズ先輩の元へと駆け寄った。
「すいません。ローズ先輩、そのことは僕も隠したいと思っている過去なので黙っていただけると助かるのですが………」
「そ、そんな……ですが………」
「それと、もう一つお願いが。土煙が晴れる前に僕のことを組み伏せておいてください。これ以上は僕も目立ちたくないので」
「……分かりました。その代わり、あとでしっかりお話聞かせてもらいますから」
「え、あ、はい」
交渉はとりあえずだが成立したようだ。これ以上観客に不信感を与えることなく、どうにか試合を終わらせそうなことに少し安堵した。
しばらくすると土煙は晴れていき、組み伏せられているこの状況を確認した審判はそばまで駆け寄ってきた。
「勝者! ローズ・オリアナ!」
僕は地面から体を起こし、ローズ先輩に掛けられる歓声を聞き流しながら服についた砂埃をはたき落とした。それから会場の出入り口に向かう。その時、出入り口付近の観戦席に見覚えのある顔が座っていて……
あのー、アレクシアさん? 別にやましいことは何もないからその蔑むような目はやめてもらえませんかね。
* * *
「それで、お聞きしたいことがたくさんあるのですが……」
「私も聞かせてもらうわよ、ポチ?」
あの後、会場から逃げようとした僕は最も簡単にアレクシアとローズ先輩に捕まってしまい、人気のない教室に連れ込まれて事情聴取を受けていた。
「じゃ、じゃあまずは、あなたはスタイリッシュ盗賊スレイヤーさんですか?」
「はい」
まぁ、もう誤魔化しようがないし。
「そのスタ?」
「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさんです」
「……そのスタイリッシュ盗賊スレイヤーってなによ?」
聞き馴染みのないその名前にアレクシアははてな文字を浮かべていた。
「スタイリッシュ盗賊スレイヤーって名前は僕が子供の頃、キラにも黙って盗賊狩りとかしてた時に名乗ってた名前だよ。ある日、いつものように盗賊狩りをしてたら盗賊に攫われたであろう金髪の少女、ローズ先輩がいたんだ。その時に名前を聞かれて咄嗟にそう名乗ったんだ」
「あなた、そんな昔からそんなことしてたのね……それにそのセンス………」
そんなジト目でこっちを見ないでよ。僕だってこんな黒歴史消せるなら消したいんだから。
「あの、いいでしょうか?」
「あ、すみません。どうぞローズ先輩」
「ありがとうございます。そしたら次に、シド君はなぜそれほどまでの実力を持っていながら隠そうとするんですか?」
どうしよう。僕の実力がある程度バレる分にはいいんだけど、正体がシャドウってバレたりでもしたら姉さんやアレクシアに迷惑がかかる。キラは別にいいや。
「私はシド君のあの時、私を助けてくれた時に見たあの剣にずっと憧れていました。オリアナは芸術の国です。そのため私が剣の道を歩み、この学園に入学することになった時も相当に批判がありました。それでも、民に批判されようとも私は、あなたの剣を目標にここまで頑張ってきたんです。それなのになぜ……」
「「………」」
僕とアレクシアはローズ先輩の独白に黙り込んでしまい、思わず息を呑んでしまう。アレクシアは語られてこなかったローズ先輩の壮絶な人生に驚いているのだと思う。もちろん僕もそうだが、僕にはそれと同じぐらいビビッと閃いてしまったことがあった。
ローズ先輩は主人公だ。いや、訂正しよう。ローズ先輩は主人公になり得る人物だ。
幼少期、未来の陰の実力者となる人物に助けられ、その剣に魅入られ剣の道に進み始める。自身の国の民に批判されながらもめげず、自身の剣術を磨くために学園に入学。そして、過去に出会った未来の陰の実力者との邂逅。
彼女の今後次第では昔の僕が望んだ主人公枠に入るかもしれない。だから、今僕がやるべきことは彼女の憧れを踏みにじらないようにしながら、ローズ先輩の今までの人生に敬意を払うことだ。
「……ローズ先輩には話しておくべきですね。昔から僕は自分の夢のために、家族にすら自分の実力を隠してきました。そんな日々をいつも通り過ごしてきたある時から、僕には仲間、友達、家族が増えたんです。詳しくは言えませんがその子達はある病気を患ってから親に捨てられたり、国に見捨てられたり、煩わしい物という扱いを受け暴力を振るわれてきました」
「そんな……」
「僕は病気を治す術を持っていたのでその子達の病気を治すことはできたのですが、その子達の負った心の傷は治せません。僕はその子達のことを最初は友達として関わってきましたが、その子達との日々を過ごすにつれて、家族のような関係って言えるぐらいには大切な存在になりました。だから僕はある時から自分の夢だけではなく、家族を見えない世界の闇から守るために、実力を隠し続けてきたんです。ローズ先輩は事情をよく知らないのであまりよく分からないとは思います。ただ、一つ分かってほしいのは、僕もローズ先輩と同じように信念を持ってこの道を進んできたってことです」
僕の独白後、しばらく沈黙が続いていた。やがてローズ先輩は納得してくれたのか、僕にここで話したことを誰にも言いふらさないことを約束してくれた。
アレクシアはなんか知らないけど、さっきからずっと啜り泣きながら僕のことを後ろから抱きついてきている。キラも言ってたけど、アレクシアなんかキャラ変わってない?
まぁ、それはいいとしてとりあえずめんどくさい話し合いは終わった。今日はいろいろあって疲れたし、学園をサボって昼寝でも……
「シド!? お姉ちゃんが助けに来たわよ!!」
「あぁぁぁああああぁぁ!!!! もう!!」
僕はいつになったら休めるんだ!?
今回はローズとシドの邂逅編でした。とは言っても、特に過去編は原作と変わりないので深掘りはありませんでしたが……
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