すれ違いムーブ連発の陰の実力者達を止めたくて!   作:星電輝

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第三十話 師匠と弟子

 副学園長室の扉が開き、入ってきたのはテロリスト……ではなく制御装置の解読に必要な道具を取りに行ったキラだった。

 

「帰ってきたんだ。おかえり……なんか顔赤いけど、どうしたの?」

「……え? あ、いや、なんでもない………」

 

 ……何かあったね。何があったかも大体見当がつくけど。

 帰ってきたキラは力が抜けたような声で喋りながらシェリー先輩に持ってきた道具を渡した。シェリー先輩も少し困惑気味だ。

 

「……ニューとなんかあった?」

 

 キラが僕の隣に座ったタイミングでシェリー先輩に聞こえないように小声で聞いてみた。

 

「な、なんでそれを!?」

「あ、あったんだ」

 

 キラの腕の辺りにニューの魔力を強く感じたからそうなのかと思ったけど、まさかの図星。

 まぁ、ニューを治したのはキラだったし、ずっとキラが彼女の面倒を見てきたわけだからまぁそうなるよね。

 

「はぁ、俺……翻弄されてばっかだった………」

 

 ………キラは決して、僕と同じような鈍感なタイプなんかじゃない。キラは最初から彼女達の好意に気づいてたんだと思う。

 では、なぜ気づいてたのにも関わらず彼女達の好意をそのまま受け止めてやれなかったのか。

 それは前世で起きたある事件がきっかけだった。

 僕でさえ思い出したくもない悲惨な事件だ。その事件で家族を失い、親戚もいなかった流星は当時唯一無二の親友だった僕の家に引き取られた。

 それから流星の家族感や人間関係に大きな影響を受け、それと同時に僕を除いた家族や大切な人のそばにいることに恐怖を覚え極力近づかないようになっていった。

 それも無理はないと思う。だって、あの事件は流星が原因で起きた事件なんだから。

 それでも流星がキラとして生まれ変わってからは相当変わった方だと思う。シャドウガーデンを真っ先に家族と言ったのもキラだし、彼女達の好意を真っ先に受け止めようとしたのもキラだ。

 だからこの調子で行けば、キラはきっとあの事件を乗り越えて本当の意味で彼女達の好意を受け止めてくれることだろう。

 もちろんこの調子で行ければ……だけど。

 まぁ、そんな暗い話は今は置いておくことにしよう。未来のことでいちいち悩んでいてもしょうがないのだ。

 

「それで? 愛の告白はしたの?」

「え、いや、してないけど。むしろされた側だし」

「じゃあ罰ゲームは継続中だね」

「あ、最悪だ。今の今まで忘れてた……」

 

 罰ゲームを決めた人が忘れてどうするのさ……

 まぁ、その後の僕達はこんな感じで他愛もない雑談をしたり、本を読んだりして暇を潰し続けていた。

 しばらくして、先程まで部屋を染め上げていた茜色の光がだんだん影に呑まれはじめた頃。

 

「できました」

 

 制御装置のアーティファクトと睨めっこし続けていたシェリー先輩が解析完了の知らせを届けてくれた。

 

「お疲れ様です」

「はい! これでお義父様を助けることができます」

 

 そう言ってシェリー先輩は作業に使用していたランタンと制御装置を持ち、隠し通路に向かう。

 

「シドは?」

 

 シェリー先輩の小柄な後ろ姿を眺めていると小さな声でキラに話しかけられた。

 

「僕はいいかな。キラは?」

「俺はついていく。気になることもあるしな……大講堂に切り込む役は任せる。大将の首は……もしもの場合は俺がやる」

「そのもしもが来ないといいね」

「……俺も、そう願ってる………」

 

 それだけ言うとキラはシェリー先輩のそばまで駆け寄った。

 シェリー先輩はキラがついてきてくれることを知ると先程まで感じていた不安もどこかに吹っ飛んだのか、すごい嬉しそうな顔をしている。

 はぁ……キラのためにも、シェリー先輩にそんなもしもが来ないことを願っておくことにしよう。

 

「行ったか……」

 

 キラとシェリー先輩の姿が見えなくなったことを確認し、僕はスライムスーツを身に纏い闇に消えた。

 

* * *

 

 大講堂に連れてこられてからもう随分時間が経った。

 命を握られているというのに抵抗もできず動けない状況に痺れを切らした学生は何人かいたが、それらはすぐに射殺された。いくら魔剣士でも魔力が使えなければ剣はおろか銃弾も防げない。

 

「まだなの?」

 

 既に辺りが暗くなっており、シャドウガーデンが動く時間帯にはとっくになっているはずなのだが一切の動きを見せない。

 このことに私は不安を覚えていた。

 本当に死んだんじゃないんでしょうね?

 そう思うと流石にいてもたってもいられなくなってきた。

 

「私はあのシャドウに剣を教わってるのよ? こんな奴ら……!」

 

 とうとう我慢できなくなり、隣の学生にすら聞こえないほどの小さな声でそう呟きながら立とうとしたその瞬間、突如謎の光が大講堂を白く染めた。

 その大講堂中を照らし続ける眩い光に皆は気を取られているが、私とローズ先輩は魔力が使えることにいち早く気づき駆け出した。そして近くにいたテロリストから剣を奪う。

 

「魔力は解放された! 反撃の時だ!!」

「あなた達、覚悟しなさい? ぶっ殺してあげるわ!」

 

 隣のローズ先輩と違って、同じ王女なのにも関わらず言葉遣いが下品すぎたとも少し思ったがむしろそこがよかったのか、大講堂がよりいっそう沸いた。

 先程までただ縮こまっていただけの学生達が皆、奮起してテロリスト達に立ち向かっていった。

 私も負けじと先陣に出て剣を振るう。今までは魔力が使えなかったから正直この程度、敵にもならない。

 だけど……

 

「待ちなさい!」

 

 ローズ先輩は自身が尊敬し目標にもしていたはずのシドが先輩のことを庇って命を落としたところを目の前で見ていた。

 それが理由なのか、ローズ先輩はずっと焦っていた。その証拠に必要のない場面でも常に全力の魔力を込めてテロリスト達を斬っている。あれではすぐにキャパオーバーになってしまう。

 

「ローズせ、んぱいッ!!」

 

 動きが鈍くなったローズ先輩にテロリスト達が複数人で一気に斬りかかる。

 シドから教えてもらった全力ダッシュを使えばこの離れた距離でもすぐに到達してテロリスト達を斬り伏せることができると思う。でも、まだ少し練習したぐらいの私の未熟な全力ダッシュじゃ、込めた魔力が軽すぎて斬れてもテロリスト一人程度。

 これじゃあ、私も斬られて終わりだ。

 

『でも、やらないと絶対に後悔する』

 

 突然、私の頭の中で過去に聞いたシドの言葉が流れる。それをはっきりと頭で意識した頃には私は無意識に床を蹴っておりテロリストを一人、既に斬り伏せた後だった。

 

* * *

 

「あー、もう疲れた」

「私より先に根を上げてどうするの……」

 

 春がもうすぐ終わり、そろそろ夏かなってぐらいの暑さになりはじめた頃。

 いつものように私はシドと剣の稽古をしていた。

 

「しょうがないでしょ。僕は元々人に教えたりするのが上手くないんだよ。キラだって基本的に勝手に見て、勝手に成長してたタイプだったし……」

「キラも苦労してるのね」

 

 心の中でキラに多少の敬意を払う。

 いつぞやの地下通路で話してくれたキラの話的にも昔のシドは自分のことばっかりって感じだったみたいだから。まぁ、そんな人から何かを教わろうなんて無理な話よね。

 

「そういえば聞いてなかったんだけど、アレクシアが強さを求めるのはなんで?」

「前にも言ったでしょ? 私は姉様を追いつきたいって」

「いや、それは覚えてるよ。でも、そこがアレクシアのゴールじゃないでしょ? 」

 

 ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけシドの剣を目標にしてから悩み続けてきたことをそんな的確に言われてしまったら、私は少しの間押し黙るしかなかった。

 

「まぁ、今無理に決めなくてもいいけどね」

「え?」

 

 シドはずっと夢という大きなゴールを持って人の何倍も努力をしてきたのをキラから聞いた。

 そんなシドだから曖昧なものでもちゃんとゴールを持てみたいなことを言われると思ってた。ちょっと予想外、少し困惑してる。

 

「いつ決めても、もしくは決めないって選択肢を取ったとしても結局は変わらないんだよ。どうせその時その時でその人の考えるゴールなんてものは変わるんだから」

「でもそれじゃあ、肝心な時に動けないんじゃ……」

「まぁ、確かにゴールや目標っていうのは原動力だからね。その道のテーマが強さだっていうなら、生死を分ける肝心な場面で動けなくなるっていうのもなくはないかもしれない」

 

 

 

「でも、やらないと絶対に後悔する」

 

 

 

 その言葉は私の心に深く刺さった。

 悪意に塗れた言葉のナイフでも、善意に塗れたナイフでもなく、ただ的確ですっと腑に落ちるようなそんな言葉でシドは私の心の奥深くをえぐるかのように思いっきり刺してきた。

 

「やれば、そこから得られる結果が後からだんだん身についてくる。けど、やらなかった場合に後から来るのは後悔とやらなかった結果起きてしまったことの事実だけだよ」

 

 そう言うと少し困ったようにシドは言葉を続けた。

 

「やったのに後悔するなんてことも多々あったりするけど。少なくともアレクシアが僕の剣を目標にしてくれる間はそうなってほしくないかな」

「シド……」

 

 しばしの沈黙が訪れる。

 そんな中で私達は黙り込みながらもお互いの目を見つめて離さなかった。

 やがて限界が来たのか、シドは私からそっと目線を外し沈黙を破った。

 

「ま、まぁ、アレクシアが強さを求めるのにどうしても理由がいるって言うならちょうどいいのがあるけど………」

「ちょうどいいの?」

「……僕の隣に立ち続けるため………とか?」

 

 ……本当にこの天然タラシはぁぁあああぁ///!!!!

 

「………駄犬///」

「はぁ?」

「う、うるさいわね、ポチ。ほらさっさと稽古再開するわよ」

「え、えぇ〜」

「ポチィ? ほーれ、金貨よぉ〜」

「ワン!?………前から思ってたんだけど、彼氏を犬扱いするのはどうなの?」

「なにね、今更でしょう? それに反応する時点であなたも大概よ」

 

* * *

 

 テロリストの一人を斬り伏せた後、宙に浮く体を思いっきり振ってもう一人の方に剣を遠心力を使って投げた。

 それは見事に命中し、後ろに重なっていたもう一人のテロリストまで巻き込んで体を思いっきり貫いた。が、ローズ先輩の周りにいたテロリスト達はまだ数人残っており、私達に向かって剣を振りかぶっているのが見える。

 死を覚悟し、目を瞑る。

 斬撃の音が聞こえた。その斬撃は私には届かず、ローズ先輩が先に斬られてしまったのかと思ったがそんな考えはすぐに払拭された。

 

「おい、大丈夫か」

 

 私は少しのデジャブを感じながらゆっくりと目を開ける。

 そこには私の師であり恋人でもある黒いスライムスーツに身を包んだシドがいた。

 

「……今度はあなたなのね?」

「何を言っている?」

「いや、いいのよ。こっちの話だわ」

 

 私は体を起こし、テロリストの死体に近づいて先程投げた剣を抜き取った。

 

「ローズ先輩、すぐに学生達を連れて撤退してください。シャドウは見たところ組織の名前を勝手に使うテロリスト達と敵対しているみたいです。今撤退すれば犠牲を最小限にできます」

「え、わ、分かりました! アレクシアさんは?」

「私は残ります。シャドウには……聞きたいことがたくさんあるので」

「……分かりました。深くは聞かないでおきます……皆、撤退!」

 

 ローズ先輩が声高らかにそう宣言すると学生は皆、講堂の外に出て行く。

 テロリスト達は既に学生など眼中になく、未知の組織であるシャドウガーデンの方に意識を向けることにしたようだ。

 

「そうだ。待て、そこの黄金の髪を持つ王女よ」

 

 突然、シドは学生と一緒に外に駆け込むローズ先輩に近づき静止を促した。

 

「な、なんでしょうか?」

「先程は美しき剣は見事だった。言いたいことはそれだけだ、行け」

「え、え、え? あ、ありがとうございます」

 

 ローズ先輩は突然のことに困惑しながら講堂の外に出て行く。

 かくいう私も困惑しているのだけど……普通、恋人の前で他の女をナンパする?

 

「さてと、仕切り直すとするか……」

 

 このことはあとで絶対に問い詰めてやるとして、今は目の前のことに集中しましょう。

 今、この場には死体になっている以外の学生は私しか立っていないかった。

 

「え、私もあれするの?」

「当たり前だろう。弟子なのだから師の言うことぐらい聞くべきだ」

 

 きっとキラもこんな感じで押し切られたんだろうなと思うと不憫だなって思う。

 はぁ、ため息が出る。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」

「えーっと、私の名前はアレクシア・ミドガル。邪魔する奴はとにかく斬り伏せるから、よろしく」

 

 これをキラに聞かれた時はバーサーカーみたいって笑われたわね。少なくともキラのよりは簡素でいい感じだと思うけどって言ったら泣いてたけど。

 シドは剣を前に突き立て敵を刺すように構えると私達の周りを囲っていたシャドウガーデンの構成員達が先陣を切り、テロリスト達を次々に無力化させていった。

 

「さて、我らもそろそろ行くとするか」

「えぇ、そうね。師匠?」

 

 そう言ってお互いはお互いの目をあの時のように見つめ合った。

 

* * *

 

 あいつらイチャついてんじゃねえよ。連携が完璧なのもくそ腹立つし。

 

「お義父様、お義父様がいない……」

 

 幸いなのはお義父様が探しでシェリーが夢中になっていることかな。

 それが無駄な努力なことに気づきたくはなかったけど。

 そんなことを考えていると、横にある複数のパイプから空気を噴き出しはじめた。それがただの空気じゃなくガスであることに気づくのにたいして時間はかからなかった。

 

「まずい、シェリー先輩!」

「え?」

 

 俺はシェリー先輩の方に体で覆って守るように倒れ込んだ。

 その後すぐにパイプから火が吹き出る。火が回るのはとても早く、講堂はすぐに火の海と化した。

 

「シェリー先輩、一回戻りましょう」

「で、でもまだお義父様が!?」

「諦めてください! 先輩の命の方が大事です!」

「でも、でもぉ〜!?!?」

「シェリー、君の求めるお義父さんはもういない! ただ今はっ!………あっ……」

 

 最悪だ。興奮しすぎて余計なことを言ってしまった。

 

「……キラ君。今の、どういうことですか?」

「いや、その………」

 

 誤魔化すとかは……考えない方がいいか。

 

「シェリー先輩、今は離れましょう。副学園長室……そこで言いたいことがあります」

「………分かりました」

 

 離れる前に改めて講堂の中の状況を見る。

 シャドウガーデンは既にテロリスト達を制圧したのか、そこにはシドの姿もアレクシアの姿もなかった。

 そして、テロリスト達の死体の中には強欲の瞳を持っていた鎧の男の姿もなかった。

 

「ッチ……」

 

 小さく舌打ちをする。

 この後、起きることにシェリーも……俺も……平静を保っていられるのだろうか………

 

 

 シェリー、君が俺に好意を持ってくれていることは知っている。

 

 

 そんな君の目の前で君の義父を斬った時、君は俺のことをどう思うんだろうか?

 

 

 いっそのこと清々しいぐらい嫌ってくれたら楽なのにな………




あの背中の空いてる服のイプシロンが欲しい。欲しい。欲しい。
流石にあれはやばすぎる。最近のピックアップキャラの別衣装もやばすぎるけど、あれは特にやばい。
欲しい。欲しい。欲しい。でも、石がない。
てことで……今回はアレクシアの修行回想パートも入ったテロリストへの反撃編でした。
次回は皆さん待望のシェリーの運命が変わる回です。
次回もお楽しみに!!
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