すれ違いムーブ連発の陰の実力者達を止めたくて!   作:星電輝

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第三十一話 過去も、今も……見て見ぬふりなんてできなかった

 夜の副学園長室は大講堂を包む火の光で多少照らされているものの薄暗かった。

 そんな目を凝らせばギリギリ見える程度の暗い部屋の中でカチャカチャと音を立てながら動く気配がする。

 おそらく人であろうそれは本棚から本を何冊か抜き取るとそれらを床に乱雑にばら撒き、火を放った。

 火はだんだんと激しく燃え上がり、薄暗かった部屋を明るく照らした。

 

火の光で見えたのは先程まで講堂でテロリスト達に命令をしていたやたら動きにくそうな鎧に身を包んだ男だった。

 

「こんにちは、ルスラン副学園長」

 

 部屋で火を放った気配の正体は先程まで講堂でテロリスト達に命令をしていた、やたら動きにくそうな鎧に身を包んだルスラン副学園長だった。

 キラが危惧していたもしもの場合がやってきてしまったのだ。

 

「よく気づいたね。君はシド・カゲノー君だったかな? やはり君達兄弟には驚かされてばかりだ」

「見れば分かりますよ」

「ほう……歩き方か、あるいは姿勢か………どちらにせよ、いい目をしているな。流石だ」

 

 ルスランは話をしながら鎧を脱いでいく。

 

「……参考までに一つ、聞いてもいいですか?」

「何かね?」

「なぜこんなことを?」

「ふむ。なぜ、か……かつて私は剣の道で頂点に立った。君が生まれる前の話だ」

「ブシン祭……いや、ディアボロス教団ラウンズの座。そんなところですか」

「っ!?」

 

 僕の口からディアボロス教団の名が出たことに驚きを隠せないルスランは鎧を脱ぐ手を止め、こっちの方を向いて固まった。

 

「どこでその名を……?」

「どこでしょうね。さぁ、話を続けてください」

「………私は頂点に立ってすぐ病にかかった。私の努力と栄光は一瞬にして終わり、惨めさだけが残った。そんな時、ルクレイアに出会ったのだ」

 

 ルクレイア……シェリー先輩の実の母親であり、アーティファクトの研究者だった人だ。

 

「君もその名を知っているようだね。彼女は賢すぎるあまり学界に嫌われた不幸な女だったが私には都合がよかった。彼女の研究を支援し、それを利用させてもらう。いい関係だったよ」

「そしてあなたは強欲の瞳に出会った」

「そうだ。やはりシェリーと一緒に動いていたのは君達だったか。だが、ルクレイアは強欲の瞳の危険性に気づき国に管理申請を出そうとした。だから死んだ」

「………まるで自分は手にかけてないというような言い方ですね」

「いや、殺したのは私だ。心臓を突き刺し捻るようにね」

 

 ルスランはこれから懺悔をする人のような顔をして言った。

 

「ただ……ね………」

 

 その言葉が続くことはなかった。

 

* * *

 

「お義父様………今の、嘘……ですよね?」

 

 副学園長室に入ってすぐシェリーがか細い声で言った。

 俺達は先程まで隠し通路の階段に腰を掛けながら、シドとルスランの話を盗み聞きしていた。ルスランがシェリーの母親であるルクレイアを殺したという真実を知ったシェリーは我慢できずに飛び出してしまったのだ。

 

「嘘ではないよ」

「そ、そんな………」

 

 ルスランのその言葉にシェリーは深く傷ついた。シェリーは顔を青ざめ、床に膝を下ろし絶望した。

 そんな彼女を見ているのに、なぜか俺は至極冷静だった。

 

「シド、シェリーを連れてここから離れてくれ」

「いいよ。ほら、シェリー先輩行くよ」

「え、待ってください。キラ君は、キラ君は!?」

「ごめん、俺はやることがあるから……」

 

 シェリーは俺の言葉に返事をする前にシドに連れられて窓から飛び降りた。

 泣かせたままの状態で行かせたのは少し気掛かりだけど、とりあえずはこれで安心だ。

 俺はシドが飛び降りた窓から目線を外し、再びルスランの方に向ける。お互い鋭い目つきで目が合った。

 

「最期は君が私の前に立ってくるとなんとなくだがそう感じていたよ」

「……決戦前の不躾な質問を一つしてもいいですか?」

「君達兄弟は本当に似ているね……何が知りたい?」

 

 ルスランは剣を抜く。

 

「シドはともかく、なんでシェリーを見逃したんですか?」

 

 それに続いて俺も剣を抜いた。

 

「教団としては秘密を知っている教団関係者以外の人物は殺しておかないといけない。あなたにとっても、シェリーは途中で終わってしまった強欲の瞳の研究に利用しただけの存在だったはず」

「君は本当によく見ている。質問を質問で返すのはあまり良くないが、君は私のこの行動についてどう思っている?」

「………あなたはシェリーを本当の娘のように思っている。少なくとも、今は……違いますか?」

「……あの話には続きがある。ルクレイアを殺した後、最初はシェリーを研究に利用しようと考えていた。だが、年相応に育っていくシェリーを見てきて私の中には愛情のような何かが芽生えてしまっていた」

 

 ルスランは手慣れた動きで強欲の瞳とその制御装置を組み立ていく。それは赤い光を放ち、白い光の古代文字を中心に広がって薔薇の花のような形に変形していった。

 

「その時にはラウンズの頂点に返り咲くことよりシェリーのことの方が私にとって大事になっていたよ。そして後悔した。あの時、ルクレイアを殺さなければ一緒にあの子の成長を見れていたと思うとね……」

「それじゃあなぜ、今回のようなことを?」

「もう戻れなくなっていたのだ。ルクレイアを殺したあの時から私はこの道を進むしかなくなっていた」

「………そろそろ、やりましょうか」

「そうだね……終わりにしようか」

 

 カチッと完全にアーティファクトがはまった音がするとアーティファクトから暴走した赤黒い魔力が溢れ出し、それらの魔力がルスランの体を幾つも貫いた。

 それから溢れ出した魔力はルスランの胸にアーティファクトを縫い付けるように取り付けられた。

 暴走した魔力はルスランに力を与えると同時にルスランの体は醜い姿に変えていった。それはとても人と言えるような姿ではなく、人の形をしたモンスターの方が言い方としては正しいだろう。

 

「ぐうぉぉおおぉぉおおぉ!!!!!」

 

 ルスランは雄叫びを上げた。

 

「はぁ……すまない、待たせたね」

「いえ、そんな待ってないんで大丈夫です。それに……勝負は一瞬ですから」

 

 ルスランは鋭い目つきで俺を睨みつけた。その次の瞬間、同時に二人ともとてつもない速度で動き出した。

 剣同士が見えない速度で何連撃もぶつかり合い続け、やがて俺の剣に寿命が訪れた。手入れを欠かしてこなかったとはいえ、所詮は学園指定の剣。ルスランの剣に敗れ、俺の剣は粉々に砕け散った。

 

「もらったぁ!!」

 

 ルスランの剣が振り下ろされる。が、それが俺の体に届くことはなかった。

 

「な、なに!? それはシャドウガーデンの!?」

「俺の名はステラ……お前を殺す者の名だ」

「ぐぅっ!? ぬ、抜けない!」

 

 ルスランの剣は左手からスライムスーツのマントを被るような動きで取り出し、それで防ぐ。スライムをめり込むように斬った剣は俺の魔力でそのまま固められ抜けないようにした。

 ルスランの動揺を確認した後、右手からスライムソードを生成する。

 

「ルスラン・バーネット……これで終わりだ」

 

 俺はルスランの心臓を突き刺した。

 ルスランは胸から血を流し、口からも血を吐いた。

 

「……最期に、いいかね?」

「なんだ」

「シェ、ゴフォッ!? ゴフッ……シェ、シェリーを……娘をよ、よろしく頼む………」

「ッ……!? なんで、なんで今になってッ!!!!」

 

 その時、俺の頭の中で両親が死んだ時の出来事がフラッシュバックした。

 辛そうな表情、泣きそうな声、動かない身体、床に滴る血。今の状況とそっくりだった。

 

「っ!? はぁ………はぁ……はぁ、はぁはぁhぁ」

 

 発作が始まった。体がひたすらに熱く火照り、動悸は激しくなっていくのを感じる。胸が痛い。

 魔力が制御できなくなっていき、ルスランを貫いたスライムソードにどんどん魔力が集まっていく。

 昔からずっとこうだった。家族を失った……いや、俺が家族を手に掛けたあの事件からずっと………

 いや落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着いてくれ落ち着け落ち着け………

 

「……頼まれなくても、彼女は俺が責任を持って一生守り続ける。だから……」

「………」

「だから、あんたは安らかに死ね」

 

 ごめん、シェリー。

 

「アイ・アム………」

 

 剣を鍵をかけるみたいに横に捻って、溜まりに溜まった魔力を爆発させるようにすべて解放させた。

 

「スターイーター」

 

 シャドウの『アイ・アム・アトミック』と同じ究極奥義であるこの技は俺自身の青白い魔力をこの部屋を中心に天に向かって放出し、周囲一帯を吹き飛ばした。

 そして青白い魔力の炎がルスランの体を覆い、燃やし尽くした。

 ルスランは叫ばなかった。

 ルスランの体は燃え尽き、学園を包み込んでいた炎も消え、今立っているこの部屋に照らすのは月と夜空に散らばる星々の光のみとなった。

 肝心の俺は床をただ見つめ、無力感と罪悪感に打ち伏せられていた。

 

* * *

 

 まさかあんなことを言われると思ってなかった。

 私はシド君に連れられて窓を飛び降りた後、壁に張り付いたシド君に抱き抱えられながら部屋の様子をずっと盗み見していた。

 なんでってシド君に聞いたけど、シド君曰くいいものが聞けるからって……その時はよく分からなかったけど………

 実際、驚くようなことばかりを聞かされた。

 シド君や、キラ君がシャドウガーデンのシャドウとステラであることにも驚いたし、お義父様が私のことをちゃんと想っててくれていたことにも驚いた。それでもお母様を殺したことはとても許せたものじゃないけれど………

 一番驚いたのは、キラ君が私のことを……一生………/// ま、守り続けると言ってくれたことだった。シド君のいいものって言ってたのはこれなんだとすぐに分かった。

 

「うぅぅぅ、顔が熱いです」

 

 結局あの後はあの天にまで昇る青白い魔力の光が学園を照らし上げる瞬間、シド君が私を守るようにマントを被せてくれてそのまま離れたところに運んでくれて無事避難できた。

 ちなみにシド君はその後、正体がバレないように怪我してますアピールをするって言ってどこかに行ってしまった。

 私は顔の熱をどうにか冷まそうとしばらくいろいろ試行錯誤しているとキラ君がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。その動きはどこかおぼつかない足取りをしていた。

 

「あ、キラ君!」

「シェリー………」

「キラ君、大丈夫です………かぁ!?」

 

 突然キラ君が走りだし、私のことを抱きしめて押し倒してきた。そのことに私は思わず赤くなり気絶しそうになるけど、すぐにその行動の異常性に気づけた。

 キラ君は私のことを抱きしめながらずっと謝っていた。『ごめんなさい、ごめんなさい』って。

 泣いていた。

 

「キラ君……私は大丈夫ですよ。だから、落ち着いてください」

 

 私はそう言いながらキラ君の背中をさする。だけど、まだ落ち着かないっていった様子だった。

 

「私、キラ君にいっぱいお世話になったんです。私のクッキーを食べておいしいって言ってくれた時も、私と友達になってくれるって言ってくれた時も、テロリストに襲われて救ってもらった時も、さっきのことも………だから、ありがとうございます。嬉しかったですよ//」

 

 私がそう言うと落ち着き始めたのか、体の震えが止まってきた。

 なんでそんなに泣いているのか、今は分からないですけど。いつか私にも教えてくださいね?

 キラ君が一生私を守り続けてくれる限り、私もずっとそばにいますから………///

 

「キラ君、好きです」

 

 その言葉を最後にキラ君は泣き疲れてしまったのか、赤ちゃんみたいに私のことを抱きしめながら眠りについた………そう、私のことを押し倒して抱きしめたままの状態で。

 あれ、これ……ど、どうすればいいんでしょうか///?




今回は皆さん待望のシェリーの運命が決まった回でした!
このシリーズのルスランは本編ほどのド畜生なんかではなく、だいぶマイルドなキャラになっています。
理由は簡単でシェリーが闇落ちをしないしろ、するにしろ、シェリーがシャドウガーデンもしくはディアボロス教団等に復讐しようとするなんて姿を僕が見たくないからです。
あくまでシェリーには好きになった人への献身的な想いで協力してほしい。
そう思った時に、ルスランをこういうキャラにしようと思いました。
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