第三十三話 丸パクリ作家のサイン会
学園半焼の影響で前倒しになった夏休みに入ってすぐの頃。
『暇なら聖地に来て』
こんな内容に手紙がアルファから送られてきた。
え、これだけ?
淡白すぎる手紙の中身に少し動揺しつつも、面白そうなイベントが起きそうって直感的に感じた僕は手紙が届いた翌日には聖地へと発っていた。
ちなみにキラは既に聖地へと向かっているらしい。キラが書いたであろう僕宛の置き手紙が今朝僕の部屋の扉に挟んであった。
聖地リンドブルム。
この世界で最もポピュラーな宗教である聖教の聖地の一つであり、そして古の記憶と魔人の怨念が眠る墓でもある。
聖教はその昔、英雄達に力を授けたとされる女神ベアートリクスを唯一神と崇める宗教のことだ。
「聖地リンドブルム楽しみね」
「そ、そうですね」
「そうだねー」
今の僕は両手に彩り豊かな王女の花が咲いていた。
なんでこんなことになってしまったんだろうか。最初から大人しく本気ダッシュで聖地に向かっていればよかった。
僕は今王族特権でリンドブルム行きの一等車両、日本でいうグリーン車クラスの汽車に乗っていた。
そんなレベルの汽車なので一人一人の個室がもちろん用意されているのだが、なぜか僕の部屋にアレクシアとローズ先輩が入り浸っている。
「はぁ……」
「何よ?」
「いや〜、なにも〜? そういえばアレクシアとローズ先輩はどうしてリンドブルムに?」
「私は女神の試練の来賓です」
「私もよ。ただ、今年はいろいろと忙しいのよね。あそこの大司教様が少し黒い噂がある人でね、私はその監査もあるの」
「ふーん」
「……興味なさそうね。シドはどうしてリンドブルムに?」
「友達に呼ばれてね。キラも先に行ってる」
それからというもの馬車だと4日程かかる距離を8時間程度で着く汽車の中で各々好きな時間を過ごした。
とは言っても、素直に部屋に戻ったローズ王女とは違ってアレクシアは僕の部屋で一緒にゴロゴロしていた。
『この後、仕事なんでしょ? こんなだらけてていいの?』
『いいのよぉ〜。最近、シド成分が不足気味だったからいい機会だわ。大人しく私に抱きつかれなさい』
『……アレクシアなんか変わったね。姉さんみたい』
『それはきっとシドのせいね。恋は盲目ってやつかしら? あなたも出会った頃とは随分変わったと思うわよ』
なんて会話をしていた。
まぁ、自分で言うのもなんか違う気がするけど、確かに僕は結構変わった方だと思う。前までの僕だったら絶対に抱き締め返したりしないだろうしね。
そんな感じでリンドブルムに着くまではずっとイチャイチャしていた。
* * *
そうして汽車に揺られること数時間、聖地リンドブルムにやっと着いた。
中心に壮麗な聖教会が建っており、そこから白を基調とした街並みが広がっていく。聖教会へと続くメインストリートにはたくさんの観光客が賑わっており、その周りには多種多様の露店が並んでいた。
「なにこれ? どれも左腕しかないし」
そんな中、地域のお土産を売っているであろう露店のある商品が少し気になった。
日本の観光地にもよくある買ったやつは厨二病扱いされるあれ。禍々しい左腕を剣が突き刺すといった感じのデザインになっている。
「これは英雄オリヴィエの剣と魔人ディアボロスの左腕ですね。かつてこの地で英雄オリヴィエがディアボロスの左腕を切り落とし封印したと伝えられています」
「聖教会よりももっと奥にある切り立った山肌には聖域と呼ばれる遺跡があって、そこにディアボロスの左腕を封じたって聞いたことがあるわね」
「ふーん、なるほど。それで剣と左腕か」
「買わないの?」
「別にいいかな。興味ないし」
僕達は立ち上がって再び歩き出した。
メインストリートを進むにつれて観光客と露店の数は順当に減っていき、先程までの騒がしさが少し懐かしく思えるようになってきた。
それからもしばらく歩き続けていると目の前に何かの長蛇の列とそこにキラの姿が見えた。
「あ、キラ」
「ん? あぁ、シド。遅かったな」
「キラ、これは一体に何を待ってるの?」
「待ってるというか、ボディーガードというか………まぁ、待ってるで合ってるか。これはナツメ先生の……」
そこまでキラが言うと突然、ローズ先輩が大きな声を出した。
「ナ、ナツメ先生ですか!?」
「え、ああ、はい。今、サイン会をやっておりまして……」
「シドさん! アレクシアさん! 並んできてもいいでしょうか? 私、ナツメ先生の大ファンでして……」
「私は大丈夫ですよ」
「僕も大丈夫だよ」
許可をもらったローズ先輩は本屋の棚に平積みされた本を買ってサイン会の列へと並んだ。
「一応、アレクシアはともかくシドは並んでサイン貰っておいた方がいいぞ?」
「え、なんで?」
「なんで私はともかくなのよ」
「ナツメ先生の出版している本のラインナップを見てみろ」
と、キラは僕にナツメ先生とやらが出版している本が詳しく乗っているパンフレットを渡してきた。
そこに乗っている本のタイトルを一部抜粋して声に出す。
「『吾輩はドラゴンである』、『ロメオとジュリエッタ』、『シンデレーラ』、『紅ずきん』……………これ全部丸パクリじゃん!?」
他にもハリウッドやらの映画や漫画やアニメを文書化した書籍の数々。
どうやら僕達以外にも転生者がいるようだ。まぁ、僕達で転生者が二人もいるわけだから三人目がいてもおかしくないか。
「それで? 僕達以外のやつを一目見ておけって?」
「なんか勘違いしている気がするけど……とりあえず並んでいけ」
そうして僕達は言われるがまま、サイン会の列に並ぶことにした。アレクシアも並ぶことにしたらしい。
だんだんと列が進みその姿が見えるようになってきた。青色の猫みたいな瞳に泣きぼくろ。美しい銀色の髪を肩ぐらいの長さに切りそろえられており、胸元の開いたブラウスからは深い胸の谷間が覗いている。
「何やってんだ、こいつ」
キラの言ってたことが分かった。僕が転生者だと思っていた人物の正体は僕達が過去に話した前世の物語を丸パクリして荒稼ぎするベータだったのだ。
「本をこちらに。彼女さんもどうぞ」
「え、えぇ/// ありがとう」
「……ッチ」
えぇ……そういうのは僕達が離れた後にやってよ。ベータがこんな調子じゃ、本当にベータ達とアレクシアが仲良くやっていけるか少し不安になる。
「儲かってるの?」
ひとまずアレクシアにさっきの舌打ちの件について話を掘り返されないように別の話をする。
「まずまずですね。順調に名を広げております。全ては主様のおかげ」
語尾に音符がついてそうなテンションでベータは言った。
別に僕達の知識を有効活用する分にはいいんだよ、前世の知識引っ張ってきただけだし。でもさ、丸パクリじゃなくてもう少し自身の良さというものを出すことはできないのだろうか、ベータ君?
「私は来賓として招かれています」
そして、先程よりいっそう小さな声でベータはこう言った。
「計画の詳細はこちらに……今回はアレクシアさんにも参加してもらうので、しっかりと読んでおいてください………」
「うん、ありがとう。ナツメ先生も頑張って」
「っ!! はい! 今後とも応援をよろしくお願いしますね♪」
ベータはそう言ってサイン本を僕達の手にしっかりと渡した……やっぱり語尾に音符ついてるよね?
アレクシアは何がなんだかといった感じだったがアレクシアの手を引き、僕達は何も言わずにその場を去る。この時、また同じような舌打ちが聞こえた気がしたが気のせいだろう。
振り返ってベータの方を見た時には、彼女は笑顔で別のファンの本にサインを書き始めていた。
今、3年前とかに書いた小説の書き方がなんか嫌だということで少し書き直してます。
なまじいいねやブックマークしてもらってる作品達なので消すのもなんか違うなって思って作業してるのはいいんですけど、ちょっと量が……
一応、いまだに過去の作品でもいいねとかしてもらえてるので書く気にはなれてます。
推しの子の方も完全にリメイクし直して投稿しようかなって思ってたり……
てことで、今回でついに聖域編に突入です。
今回のことで分かったんですが、シドにデレデレなアレクシアを書くのが好きみたいです。
それと全然本筋に関係ないんですが、シドや七陰のメンバーみんなに無視され続けてだんだんと依存していくデルタ概念いいと思うんですよ! 皆さん、どう思います?
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