すれ違いムーブ連発の陰の実力者達を止めたくて!   作:星電輝

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第五話 あいつはかっこつけたがりなんだ

 薄暗い地下道を鍛えられた体躯に鋭い眼差しを持ち、灰色の髪をオールバックに纏めた男が歩いていた。

 男の足は地下道の突き当たりで止まった。

 

「カゲノー男爵家の娘はここか?」

「はい、この中です。オルバ様」

 

 問いかけられた兵士はオルバに敬礼し、扉の鍵を開けた。

 

「お気をつけください。拘束こそはしていますが、非常に反抗的です」

「ふん、私を誰だと思っている?」

「ッ! し、失礼しました!」

 

 オルバは扉を開け、石造りの地下牢の中に入った。そこには壁に固定された魔封の鎖に一人の少女が繋がれていた。

 

「クレア・カゲノーだな?」

 

 オルバの呼びかけにクレアは顔を上げた。

 寝ているところを連れ去ったためか、クレアの服装は薄いネグリジェ姿であった。クレアは気の強そうな目でオルバを睨みあげる。

 

「あなたの顔、王都で見たことがあるわ。確かオルバ子爵だったかしら?」

「ほう、昔近衛にいたが……いや武神祭の大会でか?」

「武神祭ね。アイリス王女に無様に斬られていたわ」

 

 クレアは不敵に微笑んだ。

 

「ふん、試合という枠内ならばあれは別格だ。もっとも実戦で負けるつもりはないがね」

「実戦でも変わらないわ。決勝大会一回戦負けのオルバ子爵」

「ほざけ。決勝の舞台に立つことがどれほどの偉業か分からぬ小娘がっ」

 

 オルバはクレアを睨みつけた。

 

「私ならあと1年で立てる」

「残念だが貴様にあと1年はない」

「1年後生きていないのは果たしてあなたか、それとも私か。試してみる?」

「試すまでもなく貴様だ、クレア・カゲノー」

 

 獰猛に笑うクレアに向かって、オルバは魔力を込めた蹴りを放つ。が、クレアはそれを容易く避けた。そして変わらぬ強い瞳でオルバを睨み続ける。

 

「魔封の鎖に繋がれ、これを避けるか。ふん、高い魔力に振り回されるだけではないらしいな」

「魔力は量ではなく使い方だと教わったわ」

「いい父を持ったな」

「あのハゲが……? 教わったのは弟達によ」

「弟達……?」

「可愛い弟達よ。私はいつも弟達の剣から学んでいる。なんで実力を隠しているのかよく分からない弟もいるけど、あの子達は私に全部をくれる。だから毎日構ってあげるの」

 

 クレアは尊い者を思い浮かべるかのような笑みでそう言った。

 

「そ、そうか。さて、無駄話はこのぐらいにして……」

 

 オルバは言葉を切ってクレアを見据えた。

 

「クレア・カゲノー。最近体の不調はないか? 魔力が扱い辛い、制御が不安定、魔力を扱うと痛みが走る、体が黒ずみ腐りはじめる、そういった症状は?」

「わざわざ私を連れ去って、やることは医者の真似事?」

 

 クレアは艶やかな唇の端で笑った。

 

「私もかつては娘がいた。これ以上手荒な真似はしたくない。素直に答えてくれることがお互いにとって最善だろう」

「それって脅し? 私は脅されると反抗したくなる性質なの。たとえそれが非合理的であったとしても」

「素直に答える気はないと?」

「さて、どうしようかしら」

 

 オルバとクレアはしばらく睨み合った。静寂を先に破ったのはクレアだった。

 

「まぁ、いいわ。大したことじゃないし答えましょう。体と魔力の不調だったかしら? 今はなんともないわ、鎖に繋がれてさえいなければ快適そのものよ」

「今はだと?」

「ええ、今は。1年ぐらい前かしらね、あなたの言った症状が出ていたのは」

「なに? 治ったというのか? 勝手に?」

「いえ、弟達に治してもらったのよ」

 

 そう言ってクレアは語り始めた。

 

* * *

 

 一年程前のある日、いつもと何も変わらない日。私は弟達との剣の稽古を終え自室に戻った。

 

「今日も勝てなかった……」

 

 弟達が大切なのは勿論のことだけれど、それ以上に、私は自分自身に対して不甲斐なさを感じていた。キラは自身の実力を隠さずに稽古でも私に向き合ってくれるがシドは違う。

 どんな意図があるのか分からないが私に、いやキラ以外には自分の実力を隠し続けている。その事実が私を焦らせる。

 

「どうして……」

 

 私には見せてくれないんだろう……もっと私が強くなれば……

 そう考えることが最近では毎日のようにあった。そのためか、最近では日々の稽古に加えて、弟達に教わった魔力を練る練習もしていた。

 今日も自室で魔力を練っていたのだがそんな時だった。

 

「痛っ……な、なにこれ。嘘……」

 

 私に悪魔憑きの兆候が現れたのだ。

 悪魔憑きは教会に異端審問に掛けられ、浄化と称されて処刑されてしまうと聞いたことがあった。

 私も処刑されてしまうのかと思うと恐ろしくて堪らなかった。

 

「な、なんで!? どうしてなの!?」

 

 私は必死にこの症状を抑えようとしたが、体は言うことを聞かずどんどん黒ずみ腐り始める。

 私は急いで弟達の部屋に向かった。弟達の部屋に向かった理由は簡単で、きっとあの子達ならどうにかしてくれるって不思議と思ったからだった。

 私の部屋は弟達の部屋の二個先ですぐの所にあった。

 

「シド! キラ! 助けて!!」

 

 部屋に入るとシドは昼寝をしていたようでキラだけが起きていた。

 

「姉さん? どうしたの?ってそれは……」

「そ、そう。ごめんね、私悪魔憑きになっちゃった。私ね? 早くシドとキラに追いつきたかったのよ。でも、キラは実力を隠さずに私に向き合ってくれるけど、シドは違うじゃない?……不安なのよ。シドは私のことを認めてくれないんじゃないかって……だからね? 最近は教えてもらった魔力を練る練習なんかもやってるのよ。もっと強くなろうって。でも、全然駄目で……」

 

 涙が溢れ落ちてしまった。本当は涙が溢れ落ちる前に拭いたかったが、腕はもう既に腐っており動きそうになかった。

 

「大丈夫だよ。今すぐ治してあげるから。それにシドはそんな理由で実力を隠してるわけじゃないんだよ? あいつはかっこつけたがりなんだ」

 

 そう言うとキラは私の目から流れる涙を自身のシャツの袖を使って拭ってくれた。

 暖かい……

 

「おい、シド! 聞いてたんだろ? さっさと起きろ」

 

 キラはベットに寝っ転がるシドに向かって言った。

 

「分かったよ」

 

 そう言うとシドはばつが悪そうにベットから体を起こす。体を起こしたシドにキラは小さい声で会話を始めた。

 

「ほら、お前が治せよ」

「そのことなんだけどね。今回は譲ってあげる」

「ん? 珍しいな、お前がそんなこと言うなんて。七陰の時は絶対にお前が治すって言って聞かなかったじゃねぇか」

「そりゃあ、僕がシャドウガーデンのボスだからね」

「じゃあ、俺は一体何になるんだよ」

「う〜ん。相棒……かな?」

「はいはい、それは光栄なこった。で、今回はどうして?」

「それはね……僕がかっこつけたがりだからかな」

「……はぁ、あっそ」

 

 全部聞こえているわよ。

 七陰とか、シャドウガーデンとか、よく分からない単語がちらほらあったが隠しているつもりみたいだし、治してもらえるのだから気にしないでおくことにした。

 

「じゃあ、姉さん? 今から魔力を流すよ。最初は変な感じするかもだけど、いつも通りにしてていいからね」

 

 そう言ってキラは……

 

* * *

 

「私に向かって魔力を流し込んできてね。最初はむず痒かったけれど、終わった後はすっかり治っていたわ」

 

 オルバは驚愕し、開いた口を下ろせなくなっていた。オルバの知識の中に悪魔憑きが治せる方法はない。

 

「馬鹿な、悪魔憑きを治す方法など存在しないはず」

「でも治ったのよ」

「そうか。なぜ治ったのかを調べるには念のため、貴様の弟達も調べる必要があるか」

 

 オルバがそこまで言うとクレアがいた壁の方からバキンと鎖の壊れる音が鳴った。オルバが音の鳴った方に顔を向けると魔封の鎖を使って攻撃を仕掛けるクレアの姿があった。

 オルバは紙一重で攻撃を躱し、改めてクレアの方に顔を向ける。彼女の右腕に繋がれていたはずの魔封の鎖は途中で切断されており、左手からはそもそも鎖が繋がれていない。代わりに彼女の左腕には肉を削いだような形跡があり、そこからは血が流れていた。

 

「貴様!? 手の肉を削いで……!」

「あの子達に何かあったら、絶対に許さない! お前も、お前の愛する人も、家族も、友人も、すべて残らず殺してッ………!?」

 

 オルバの全力の拳がクレアの腹を殴りつけた。

 

「小娘がッ……!」

 

 オルバは吐き捨て、クレアは崩れ落ちる。まだ意識はあるようだった。

 

「まあいい。貴様が適合者かどうかはその血を調べれば分かる」

「オルバ様!」

「何事だ!」

「侵入者です!!」

「侵入者だと!?」

 

 オルバは舌打ちをして侵入者の元に向かった。




新年早々の投稿になりますね。あけましておめでとうございます!!
てことで、今回はクレアの過去のお話しです! 「あいつはかっこつけたがりなんだ」ってセリフ、個人的にめちゃくちゃ気に入ってるんですよね。
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