アイム・ユア・シンガー   作:ゆーすけ・ぼんど

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終わる夢、迫る台風

 

 

 パソコンの中は殆ど空っぽだった。彼女が使っていたDTMソフトとメール・アプリ。そして空のゴミ箱だけがデスク・トップに表示されていた。メールを覗こうと思ってみたが、思い返してやっぱりやめた。今までのベイビーちゃんの口ぶりからして、どんなメールのやり取りがあったのか大体想像できた。多分ここには一方通行のメールしか入っていない、ボクはそう思った。

 ボクはDTMソフトを立ち上げ、一番日付が新しいファイルを開いた。

 そこには音とデータ化された彼女の心があった。

 長さは標準的な曲のそれだった。後は歌詞を考え編曲するだけ。それでこの曲は完成する。

 ボクは自分のリュック・サックに入っていた作曲用のノートを引っ張りだし、パソコンの前にスマホと並べて置いた。そして彼女が創り上げた曲を再生した。

 最後まで聴き、もう一度頭から再生する。最後まで聴き、また同じことを繰り返す。

 違和感。

 ボクはその違和感が何なのかわかるまで繰り返し曲を聴いた。初めて聴くはずなのに、それは間違いなくどこかで聴いたことがある音だった。ボクが振り向くと扉がぱたんと閉まる。扉を閉めた人に見覚えがあるのに、扉には鍵が掛けられ確認する術がなくなってしまう。そんな感じだった。

 暫く繰り返して聴いてると、窓ガラスに雨が打ちつける音が部屋に響いた。ボクは溜息をついてインスタント・コーヒーを淹れた。それでもまだ足りない。雨の音。コーヒーの匂い。あともうひとつ。それで扉の鍵が空く。

 ボクはぐるりとベイビーちゃんの部屋を見渡した。そして目に付いた箪笥の引き出しを適当に開けた。ボクが散らかした葉書や封筒は綺麗に整理されていた。その隅に電子タバコが置いてあった。それを見て、ボクは飛びつくようにもう一度彼女の曲を頭から聴いた。

 同じだ、とボクは思った。正確に言えば酷似していた。二年前、MCに依頼されて作った曲と本当によく似ていた。

 ボクはゲーミング・チェアの背もたれを倒し、天井を眺めた。

 何という偶然なのだろうか。それとも彼女もまた、海によってボクと繋がれていたのだろうか。

 いや、彼女は繋がれている。十年前の記憶だって彼女と共に思い出したのは海だ。ボク達は虹ヶ咲の制服を着ていた。だったらあの記憶は恐らくお台場のものだ。

 そこまで考えるとスマホの着信音が鳴った。電話が掛かってくるなんていつぶりだろうか、とボクは思った。ボクは少し緊張しながらスマホを取った。電話の主は歩夢だった。

『もしもし?』と歩夢は言った。

「Hi、無事に戻れたんだね」

『何とかね。侑ちゃんに今日の動画見せたよ』

「本当? 何か言ってた?」

『ううん。何も。でも……』

「でも?」

『侑ちゃん、繰り返し見てるみたい。何回も何回も繰り返して、もう何時間も見てる』

 歩夢は疲れた声でそう言った。無理もない。横浜から茅ヶ崎の間を、シャトル・ランのように今日一日で何往復もしたのだ。それに加えボクとベイビーちゃんの世話だ。疲れない方がおかしい。

「そっとしておいてやってくれ」

『でも……』

「いいんだ。今ベイビーちゃんは考えるターンに入っている。もう子供じゃないんだ。そのうち結論は出す」

 歩夢はわかったと言い、少し間が空いた。欠伸でもしていたのだろうか。

「歩夢、今日はお疲れ様。ありがとう」

『うん。ミアちゃんもお疲れ様。頑張ってね。応援してる』

「ああ、おやすみ」

『うん。おやすみ』

 通話はそこで終了した。

 どうやら動画の効き目は十分にあったようだ。あとはベイビーちゃんがどんな答えを出すか待つ。それだけだった。

 ボクはコーヒーを一口飲んだ。それから一度立ち上がり、軽く体操をした。

 よし、とボクは気を引き締めた。

 作詞をしよう。

 

 

 ボクはデスクに向かい、久しぶりにペンを持った。そして思いついた言葉をノートに書き記していった。ボクがやっているのは古典的なやり方だ。今時紙とペンを用意しなくてもスマホで事足りる。『歌姫』の仕事で作詞をする時はいつもどこかへ移動中で、大体スマホに歌詞を書き記していた。でも古典的なやり方の方が良い時だってある。

 言葉が浮かばなくなると冷めたコーヒーを飲み干し、また淹れなおした。お湯が沸くまでの間、ベイビーちゃんが作った音源を繰り返し聴いた。座っているのが疲れると、体操をしながら窓の外を眺めた。強い雨は街灯の光でさえ隠し、風で飛ばされた空き缶の音がたまに鳴り響いていた。

 それを繰り返して三度目の時、ボクは一度外へ出た。風と雨の轟音の中、キタノは相変わらず立って海の方向を眺めていた。その姿は戦場へ向かった恋人へ思いを馳せる、健気な待ち人のようだった。

 その後何度か同じことを繰り返した。十分に言葉が浮かび、あとは繋ぎ合わせて詩を作る作業に入るころ、ボクは夜が空けていることに気がついた。相変わらずどす黒い雲のせいで気づかなかった。

 ボクは昨日のカレーの残りを食べ、食器を洗い、また作詞に取り掛かった。

 すっかり明るくなった頃、一度シャワーを浴びて出てくると丁度スマホが震えた。歩夢だった。

「Good morning. どうしたんだい歩夢──」

『どうしたもこうしたもないよ! SNSのトレンドにミアちゃんが上がってるの!』

 ボクは急いでパソコンに向かい、ブラウザから適当なSNSにアクセスした。

 手早くボクのことを調べるとやはり、昨日のライブの噂が溢れていた。

 [茅ヶ崎にミア・テイラーが現れたってホント?]

 [昨日それっぽい人が車に乗ってるの見たかも]

 [なんか何処かで歌ってたらしい]

 情報は精度が悪く、既にあることないことも書き込まれSNS上は混乱していた。

「どうするの」歩夢は不安そうに訊いた。

 ボクが答えを言いあぐねていると、インターフォンが鳴った。その音は通話越しに歩夢の耳にも届いていて、歩夢は小さく悲鳴を上げて慌て始めた。

 ちょっと待っててとボクは歩夢に伝え、恐る恐るテレビ・モニターを覗きに行った。

『ミアチャアン、起きてるゥ?』

 外に立っていたクワタはしぼんだ風船のような情けない声を出していた。

 

 人目が無いことを慎重に確認しクワタの店に移動したボクは、歩夢を交えて今後の作戦会議をした。と言っても、クワタと歩夢にはもう役割がなかった。あとは全て、ボクとベイビーちゃん次第だった。

「ごめんねェ」とクワタは言った。

「昨日何とか誤魔化したつもりだったンだケド……やっぱり噂になっちゃったヨゥ」

「謝らないでくれ」ボクは首を振った。

「悪いのはボクだ。寧ろクワタには感謝してるんだ。あの場で歌えてなかったら、今頃ボクは何もできずにここから去っていた」

 そういえば昨日、あれからクワタと一言も話していないことを思い出し、ボクは改めて感謝を伝えた。「ミアチャンの役に立てて嬉しいヨ」クワタはそう言った。

「話しを戻すけど」と歩夢は言った。

「これからどうするの? もしかしたら誰かにミアちゃんの居場所が特定されちゃうかも……もしそうなったら、クワタさんや他の住人の人達も危ないんじゃ──」

「そうだ。ボクにはもう時間が無い」

 ボク溜息をついた。

「でも、幸い外はご覧の有様だ。それにイナムラと茅ヶ崎は少し距離がある。監視カメラを覗けるストーカーでもない限り、当分宝探しの連中はここまで来ないと思うよ」

「髪も切ったもんね」と歩夢は言った。

「歩夢チャン心配しないでヨ。ミアチャンが危なくなったらオレが護るから!」

 クワタはそう言った。歩夢は何も言わなかった。

「ボクはベイビーちゃんに届けなくちゃいけないものがあるんだ。だから少しの間ここを離れられない。ボクがそれを完成させてベイビーちゃんに届けるか、ベイビーちゃんが先に答えを出して、イナムラに戻ってくるか。多分、異変に気づけばボクのマネージャーも動いて時間稼ぎをしてくれると思う。大丈夫。信頼に足る人だ。いずれにせよ、台風が通り過ぎるまでが勝負だ。八月いっぱい。それが限界だと思う」

 クワタは唇をへの字に曲げた。歩夢の悲しげな動揺も電話越しに伝わってきた。

「大丈夫だよ歩夢。言ったよね」

 ボクが何とかする。

 

 

 歩夢は納得できていなかったが、それでもボクに託して通話を終えた。歩夢は信じてくれた。ボクはその期待に応えなければいけない。クワタもできることがあれば最大限サポートすると言ってくれた。出会った頃からずっと思っていたが、ボクらの事情を何も知らないクセにお人好しだ。お人好しもここまで来ると気持ちがいい。そうボクは思った。

 ボクは部屋に戻り作詞の続きをした。歩夢が買っていたパンと、クワタが買ってきてくれた弁当で間食を済ませ、またデスクに向かった。

 時間が経つにつれて雨の勢いはさらに増した。いつの間にか雷まで混ざっていた。イナムラに本当の嵐がやって来た。ボクは初めてイナムラに来た日のことを思い出した。

 ベイビーちゃんはあの日、嵐の海へ身を投げようとしていた。全てはそこから始まった。

 ボクは一度彼女を否定してしまったとはいえ、不治の病に犯されても夢を諦めていなかったベイビーちゃんが、自らその命を経とうとしていたんだ。全てを諦めようとしていた。ベイビーちゃんは津波に乗れなかった。

 彼女が早まってしまう、そう思うに至った重大な何かが──。

 ボクはペンを投げ捨て、行き場のない感情を溜息でなんとか逃がした。そして背もたれを倒し天井を見つめた。

 神経衰弱、とボクは思った。伏せられた彼女のカードを表に返す度、そのカードにはボクの顔が描かれている。何処を辿っても彼女の中にはボクがいる。

 ボクは頭をぐしゃぐしゃに掻いて立ち上がった。そして伸びをし、軽く首の体操をした。何度か首を振ると箪笥が目についた。パソコンが彼女の心の表側なら箪笥が裏側。ブラック・ボックス的箪笥。表面上の彼女は生き延びるように毎日情報を更新し、箪笥だけは変わらない。まるで変えられない運命のようにそこに鎮座していた。

 箪笥の上には集められた貝殻が収まっている瓶と、伏せられた写真立てがある。ボクが知る限り、ベイビーちゃんはその写真を一度も見ていない。歩夢でさえも。ボクは恐る恐る写真立てに手を伸ばした。写真立ては何も抵抗しなかった。

 その写真には、ボクとベイビーちゃんが写っていた。ボクはスクール・アイドルとして歌っていた頃の衣装を身に纏い、彼女は制服だった。写真の中で彼女は笑っていた。ボクは何が不満だったのか今となってはわからないが、とにかく不満そうな顔をしていた。

 その写真立てがあった場所に一枚の紙が置かれていた。丁度写真立ての下敷きになっていた。ボクはその紙を見たことがある。

 七月に開催された、ボクのライブのチケットだった。

 ボクは写真立てを元に戻し、顔に手を当ててじっと考えた。

 ベイビーちゃんは、全部わかっていた? 

 彼女が望み、追い求めたボクがはもういないことをあのライブで理解していた。それを分かった上でイナムラの生活へ引きずり込んだ? 

 だったらあの日、ボクが偶然イナムラに辿り着いて、彼女を助けていなかったら──。

『ミアちゃんは私が助ける』

 彼女の言葉がフラッシュ・バックする。

 ボクはデスクに戻り、腕の上に額をつけ突っ伏した。

 ボクは波に乗った。そして流されれば流される程、地殻変動のように音を立てて何かと何かが繋がってゆく。

 流れ着いた先に、キミはいるのか? 

 新たな土地に降り立った時、キミが望むボクはそこにいるのか? 

「答えてくれ、侑」

 もうじき夜が来る。嵐の音だけが孤独な思考の邪魔をした。

 

 

 

☂️

 

 

 

 ある夢を見る。

 その夢の中でボクは確かに存在していて、けれどもその夢はいつか消え去ってしまう儚き思いのように不確かなものである。音を聴き、匂いを嗅ぎ、確かな感触を感じて、目はあの日の記憶を鮮明に捉えている。希望に笑い、残酷な運命に泣き、ボクの為にずっと、音が奏でられている。

 ボクはその日、夢の実態を捉えた。

 その夢はボクを待っていた。どんな障害が襲い掛かろうとも、じっとボクの帰りを待ち続けていた。

 沈みかけた夕日がビル群を黒く浮かび上がらせ、レインボー・ブリッジさえ赤く染め上げていた。お台場に吹く冷たい春風は、種を運ぶ新たな命の風ように砂を運んでいた。

「海」とボクは言う。

 都会の喧騒などこの場に届かない。穏やかな漣と潮の香りだけがボクを優しく包み込む。

 春の海だ、とボクは思った。ボクはあの春、確かにこの景色を見た。

「そう」と誰かが言った。

 その音は波にかき消されそうな弱々しい音ではなかった。その音が持つ意思が、想いが、はっきりとボクの中に響き渡った。

「やあ、やっと戻ってきたね」

 盲目兎はそう言った。

「ああ、随分待たせてしまったね」

 とボクは言った。

 盲目兎が奏でていたのはもう安いトイピアノではなかった。夕日を讃えた黒い屋根は煌々と輝き、その音は何人たりとも侵せない自由な旋律を奏でている。

 グランドピアノ。盲目兎は迷いなくその鍵盤を叩く。ばらばらだった音がひとつになり、そのメロディーは曲として確かに感じ取れた。

 その曲を、ボクは覚えている。たとえどんなに汚れようとも、魂の奥深くに刻み込まれ、星のように輝いている。

「思い出したよ。全部」

 ボクがそう言うと、盲目兎は手を止めた。そしてボクを悲しそうな顔で見つめた。

「もう、いいんだね?」

 ボクは肯いた。

「もっと上手くやれたはずなんだよ」

『彼女』はそう言って俯いた。

「高校を卒業してしまえば、大人になれば、人は一人になる。ずっとそう思ってた。歩夢や同好会メンバーの愛を受け取らなかった私。そして『歌姫』ではなく『ミアちゃん』を見て、愛してくれたミアちゃんの仲間達からの愛。大人になっても夢を追いかけ続けるには、要らないと思ってた」

「同じだよ。ボクも」

「私達はもっと、他人の愛を受け入れるべきだった」

 そう言って彼女は溜息をつき、上を向いた。柔らかな髪が春風にそっと揺れていた。

「ボク達の約束は、ボク達二人だけの世界だと思ってた」

「でも知らないうちに、沢山の人を巻き込んじゃった」

「ああ、そうさ。そして」

「助けられた」

「怖かった」彼女はそう言った。

「ボクも、怖かった」ボクはそう言った。

「世界の厳しさに一度壊されてしまった私達は、この世界の中に他人が入り込むのを怖がってしまった」

「また、誰かに夢を壊されてしまうんじゃないかって。そう思ったんだろう?」

 彼女は肯いた。

「ボクも、同じだ」

「そしていつの間にか、私達でさえお互いに世界に入り込むことを拒んだ」

「夢を守るのに必死になって、お互いの愛さえ受け入れられない程、盲目的になっていた」

 ボクは彼女に近づいて、頭を撫でた。

「もう終わりにしよう、侑」

 侑はそっと頷いた。

「ボク達が受けた痛みも、愛も、全部受け入れよう。全部受け入れて、先に進もう?」

 ボクがそう言うと、侑ははっとした顔でボクを見た。そしてその顔は少しずつ強張っていった。

「怖い。怖いよぉ」

 そう言って、侑は静かに涙を流し始めた。

「歳を重ねる度に人の裏側を知ってしまって⋯⋯どうしても考えちゃうんだよ。私に手を差し伸べてくれる人の裏側の顔を」

ボクは黙って聞いていた。

「怖いんだよ。あの頃みたいな純粋なトキメキを信じられなくなるのが。ミアちゃんどころか、歩夢の顔さえまともに見れない私が、怖い」

「大丈夫」とボクは言った。

「その恐怖に負けない為に、ボク達は二人で同じ方向を向いたじゃないか」

 ボクは彼女の隣に座った。そして鍵盤の上で手を構え、小さく息を吸い込んだ。

「キミその恐怖に耐えて、ボクを助けようとしてくれた。だから、今度はボクの番だ」

 ボクは鍵盤を叩き始めた。体に刻まれた旋律を再現する。ボクを見て涙を止めた侑は、その音に重ね新たな旋律を奏で始めた。

「侑、覚えているかい?」とボクは言った。

「勿論、覚えてる」侑は肯いた。

『NEO SKY, NEO MAP!』

 あの日。音楽室で補修を受けていたあの日。侑がボクの前で奏でた曲はそう名付けられた。

「あの時、キミの曲を聴いたときから、ボクの夢は始まっていたんだ。歌はずっと、ボクの中で鳴り響いていたんだ」

「嬉しい」彼女はそう言って笑った。

 静かな夢の中でその曲だけが響き渡っていた。その曲は世界に新たな色を与え続けた。

「新しい夢だ」とボクは言った。

「ミアちゃん」侑はボクの名を呼んだ。

「今度は信じて、いいんだよね?」

「当たり前だ。ボクはミア・テイラーだぞ」

「わかった。待ってる」

 ボクは肯いた。

 夢は光に包まれた。もう嫌な頭痛はしなかった。白い羽が舞う中で、彼女の声と旋律だけが鳴り響いていた。

「お願い。現実の私を助けに来て」

 

 

 

☂️

 

 

 

 目が覚めるとすっかり部屋は暗くなっていた。ボクは目元を擦った。それでも目が闇に慣れることはなかった。暗すぎる、とボクは思った。街灯の光は部屋に届いておらず、パソコンの電源さえ落ちていた。

 ボクは手探りでスマホを探しライトを点けた。照明のスイッチを探し、何度かオンとオフを繰り返したが、何の反応もなかった。

 仕方なくブレーカーを探しに行こうと思った瞬間、一瞬部屋が閃光に包まれた。それと同時に爆音が響き渡り、部屋を揺らした。巨人が閃光手榴弾を持って辺りに撒き散らしているような気がした。その後も雷は何度も連続で近くに落ちた。

 停電しているのだろうか、とボクは思った。どうしようか、そう考えた瞬間スマホが震え、場違いな着信音を鳴らした。電話は歩夢からだった。

『ミアちゃん!』歩夢は叫び声のようにボクの名を呼んだ。

「やあ、悪いがいまそれどころじゃ──」

『侑ちゃんがいないの!!』

 再度雷が落ちる。その振動で部屋の中の何かが落ち、ガラスの割れる音がした。

 ボクはスマホのライトで部屋の中を見渡した。

 箪笥の上からカップ瓶が落下し、床一面に貝殻が散らばっていた。

「侑!!」

 ボクはスマホを放り投げ、嵐のイナムラへ飛び出した。

 

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