いつかその呪いを絶てるように   作:ジュジュ

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第2話 糸色家

2010年5月○○日

 

術式を使った訓練が始まって約1か月。至って順調だ。どうやら俺には才能があるらしく、父親や周囲の人からは、優秀だ、天才だ、と褒められる。正直悪い気分ではない。成功体験を経験すると、それが糧になり、更に成長できるとは聞くがこれがそういうことなのだろう。褒められるというこそばゆさはあるが。

 

 

鍛錬の合間に実戦に出る機会も増えた。今は2級呪霊の討伐をメインに行っている。2級程度なら術式も使うことなく、余裕で祓えるくらいの実力を身に着けていた。流石に1級はもう少し術式の鍛錬を積んだあとにすると、父親から言われた。

 

 

 鍛錬をし、合間に任務で実戦経験を蓄える。ここ1ヶ月ほどこの繰り返しだ。ただ、母親や幾人かの家人からは鍛錬や任務に時間を割きすぎてる、と少々心配されていた。

 

 日に12時間以上鍛錬を、この年から積極的に行うのは少々異常らしく、父親にも、ペース配分のことを注意された、だが、俺は8年後に起きる本編の出来事を知っている。焦る気持ちが抑えられないのは良くないことだが、仕方がない事でもあった。

 

 

 渋谷事変。五条悟が封印された後、そこに待っているのは地獄だ。真人、漏瑚、花御、陀艮はどれも特級呪霊として上澄みの実力を持っている。

 特に漏瑚に関しては宿儺の指8~9本分の力を持つ実力者であり、消耗していたとはいえ、1級術師を瞬殺できるレベルだ。七海が言っていた通り、あそこでは1級が最低ラインであり、それでも死の危険性が高い。恐らく1級で満足する程度ではあの事変を生き残ることはできないだろう。五条悟の封印を阻止出来れば何とかなるかもしれないが、正直厳しすぎる気がする。

 

 

 鍛錬を積めば積むほど、1級と特級の差があまりにも隔絶していることが分かる。俺はせめて特級に片足突っ込む程度には強くならなければいけない。

 

 

 

 

 

 2010年5月■■日

 

 以前父親が話していたボディーガードの人が来た。樋口奏(ひぐち かなで)さんという15歳の女性の人だ。鎖骨ぐらいまで伸びた綺麗な黒髪が印象的な女性だ。

 正直驚いた。もっとゴリゴリのマッチョマンが来ると思っていたからだ。まさか俺と5歳くらいしか離れてない人が来るとは思っていなかった。

 

 話を聞いてみると、『樋口家』は代々『こういった』役回りをすることが多いらしく、祖父の秘書も樋口家の人らしい。ちなみにもう一つ『守野家』という家も同じ役割があるらしいが、その人は今京都高専に行っているという。

 

 樋口さんはうちには珍しく明るく、お喋りな人だ。お喋りはするが何を考えてるかよくわからない祖父や、最低限の会話で色々済ませてしまう父と比べると、猶更そう感じる。

 別に悪い感じはしない。というかむしろ、良い。最低限な会話で色々済ませてしまううちの家族が悪いわけではないのだが、こういった人と接する方が色々と気が楽だ。一緒にご飯を食べたり、他愛もない雑談をするのを最近やっていなかったせいで酷く新鮮に感じる。この人とはうまくやっていけそうな気がする。

 

 ほかの家が出てきたのでこの際に記載しようと思う。『糸色家』はそれなりに大きな家であるため、組織としては『糸色家』を中心としていくつかの家で構成されている。『樋口家』と『守野家』もその一つだ。最初は分家だと思っていたが、どうにも違うらしい。

 

 奏さん曰く、『糸色家』は没落寸前の家系や情勢が芳しくない家系に声をかけ、支援と引き換えに傘下にしてきたのだという。話を聞いた当初は、優しい家なんだなと思ったが、恐らくは違う。よく見てみると、『糸色家』とその他の家には若干キョリがある。端的に言えば、畏怖、だろうか。

 

 恐らく血を絶やしたくなければ、家を存続させたいなら我々に従え、という脅しのようなことをやってきたのだろう。呪術界には何となくだが弱肉強食の雰囲気があるので、そういった弱みに付け込み家や呪術師を取り込むことはさほど珍しくないらしい。実際フリーの術師の中にはそういった理由で専属にさせられている人間もいるという。

 

 しかし、そういうことを繰り返し続けると、家同士の関係が悪くなり、家の中で権力争いが勃発するのだが、幸いなことに『糸色家』はそういった事態は、少なくとも俺の知る限りでは、避けられている。家の取り入れを慎重に行ったのか、それとも家を取り入れた際に徹底的に上下関係を叩きこんだのか。それを知るすべはない。少なくとも、この家も呪術師らしいことをしてきた家系だということだ。

 

 

 

 

 

 2010年6月〇日

 

 あれからも順調に鍛錬は進んでいる。『糸色家』の相伝『断絶呪法』は攻撃にも防御にも応用ができるバランスのいい術式だ。欠点があるとすれば大規模な破壊ができないところだろうと父親は言っていた。

 

 基礎技術として『断ち(たち)』と『絶(ゼツ)』がある。

 『断ち』は術式を込めた呪力を放出し対象を断つ能力だ。呪力量が多ければ多いほど威力が上がる、単純だが使いやすい技だ。これを極めるだけでも攻撃能力は十分だと言われている。

 

 また体にまとうことで外部からの影響を断つ事ができる。この場合、どれだけ呪力を込められるかが肝となり、呪力による単純な攻撃には効果があるが、術式が絡む攻撃だとそれなり以上の呪力が必要になる。安定して運用するのはもう少し訓練が必要だ。他にもまだまだ応用があるらしい。

 

 『絶』に関しては…正直よくわかってない。というのも使えたのが初代しかいないからだ。文献を読んでもちょっと曖昧な事しか書いていない。基礎なのに初代しか使えないとかどうなっているんだよ…。

 

 『糸色家』初代当主『糸色 境』。平安時代、まだ呪霊と魔が同一のものと解釈されていた時代に家を立ち上げた男性だ。滅茶苦茶強かったらしく残っている文献を見る感じ、領域、反転は勿論使え、何か特別な体質の人間だったらしい。人には見えないものが見え、それに干渉できたらしい。

 この体質に関してはよく分かっておらず、『糸色家』の文献には初代以降発現した人間がいないとのこと。…呪術で特殊な体質といえば『天与呪縛』や『六眼』が思い浮かぶが、『天与呪縛』は何かしらのデメリットが存在するがそういう記載は無し。『六眼』は五条の家に連なるものにしか発現しないし、違うだろう。

 

 あと、前より鍛錬の配分ができるようになった。というかしっかりと休憩を入れるようになった。これも奏さんのおかげだ。彼女が暇を見つけては遊びに誘い出してくれる。外に一緒に食事に行ったり、ゲームしたりをすることでしっかりと適度に息抜きができるようになった。

 如何せんどういう風に息抜きすればいいのか分かっていない俺からすると、色々教えてくれる彼女は本当にありがたい。他にも訓練にも付き合ってくれる。彼女は実戦を経験している期間が俺よりも長く、身のこなしでいえばおそらく彼女の方がまだ上だ。才能だけがすべてではない。やはりどんどん経験を積んでいかなければいかない。

 

 

 

 

 

 2010年6月■日

 

 五条悟が家に来た。

 

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