いつかその呪いを絶てるように   作:ジュジュ

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中々書く暇を見つけるのが大変だァ…


第3話 理由

 2010年6月■日

 

 五条悟が家に来た。滅茶苦茶さらっと家の中にいたため、思わず二度見してしまった。原作通りなら2010年ごろ五条悟といえば、呪術高専を卒業しているはずだ。 夏油傑と敵対関係になり、教師を志している…という状況だと思う。

 

 話しかけられたときは流石に緊張した。原作の登場人物に会ったのも大きかったが、やはり生で見るとその強さが雰囲気から感じられる。

 

 現代最強を既に欲しいままにしている彼は、その雰囲気からして異質ではあった。とはいえ、夏油の呪詛堕ちのことなど高専時代の経験があったためか丸くなっているらしく、既に原作と同じ感じの性格だ。一人称も僕だったし。

 

 五条先生から、然るべき年齢になったら呪術高専に来ないかと言われた。これはスカウトでいいんだろうか。俺の一存では決められないため、その時ははぐらかしたが、原作に関わるとなった場合、京都よりも東京の方が関わりやすいだろう。

 

 だが、家の事情もそうだが俺は、まだどこかで覚悟を決め切れていない。本当に関わっていいのか、原作に下手に関わって状況が悪化しないかどうかが不安なのだ。そして何より、死の確率が格段に上がる。

 

 少なくとも、高専入学までには決断をしなければいけない。

 

 あと、なぜそんなに鍛錬を行うのかも聞かれた。…俺は死にたくないし、努力不足で後悔なんてしたくない。五条悟は確かに最強だ。俺なんかじゃ足元にも及ばない。

 

 でも、だからって、五条悟に全てを投げ出していいはずなんかない。例え現代最強がいようと、目の前に困難があった時どうするか、最後に選ぶのは自分だ。そして俺はその選択できるための力が欲しい。ただ奪われるだけじゃなく、抗えるように。

 

 

■─────■

 

「碌な御もてなしも出来ず、申し訳ありません。…当主は不在ですがよろしいですか」

「いや、いいよどっちも。僕そういう堅苦しいの嫌いだし、あの爺さんはこっちをはぐらかすし。」

「感謝します。」

 

 糸色家の応接室、そこで糸色家副当主であり1級呪術師 『糸色 桐谷(きりや)』と、最近五条家当主を正式に継承した『五条悟』が話し合っていた。急な訪問に家人たちは慌てていたが、桐谷は冷静だった。何せあの五条悟、呪術界の問題児だ。何をやらかしてもおかしくはない。

 

 

 糸色家と五条家には一応関りはある。とはいえ、懇意にしている、というわけではなく仕事仲間といった感じだ。閉鎖的な雰囲気が蔓延る呪術界において、お互いを多少は信用できる、かもしれない関係性である。

 

 ちなみに周囲からは意外と思われるが、悟と、桐谷には交流が少しあった。実は昔、ほんの少しの期間ではあるが体術の指南役として五条家にお邪魔させてもらったことがあったのだ。当時は五条が速攻で飽きたため、すぐに終わったが…。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか。」

 

 桐谷は表情を変えず用件を尋ねた。彼としては正直帰ってほしかったが、相手は御三家当主なのでそんなことは言えない。

 

「うん、実はね僕、東京高専で教師をやることにしたんだ。」

 

 五条はまるで今思い付いたかのように、あっけらかんと言い放った。彼が御三家当主の立場でなかったら、そうですかどうぞご勝手に、と言いたいがそうもいかない。

 

「教師ですか…。御三家当主が、教師をやると。周囲からは反対されるでしょうね。」

「家人や親父からは反対されたよ。まぁでも決めたことだしね。曲げる気はないよ。」

 

 御三家当主は基本的に現場に出ることは少ない。当主に実力は求められるし、いざとなれば現場に行くことはあるが、それは必要最低限だ。そんな頻繁に現場に出られると、『万が一』が起こる可能性がある。当主が急死するとその家は多少なりとも混乱するし、最悪空中分解すらもあり得るのだ。そういった理由もあり、基本、当主は現場に出ることはない。これは糸色家もそうで、父親であり現当主の『糸色 和久』は基本前線に出ることはない。

 

「決めたことなら、私は何も言えません。ですが、教師になることと、私たちの家に何か関係があるのでしょうか。」

 

「まぁスカウトってところかな。僕は来年ぐらいから教師になるんだけど、その際糸色家から一人東京高専に行かせる気はないかな?別に来年じゃなくてもいいし」

 

「…なるほど。ですが私たちの場合、基本京都高専への入学が多い。糸色家からとなると少々厳しいものがあります。傘下の家に掛け合うこと自体はできますが。」

 

 そも、ある程度の規模がある呪術師の家系は、嫡男や抱えている若い術師を高専に行かせることは少ない。家内部で教育をした方が、術式の扱いしかり呪術師としてのスタンスしかり、色々と都合がいいのだ。機会があれば送り出す我が家は呪術界では少々異端とされることもあるくらいだ。

 

 それでも呪術師の家系が呪術高専に行く場合、基本的に京都高専が多い。呪術師には内部に大きな派閥が二つある。それが『保守派』と『改革派』だ。代々呪術師を生業とする家系は、伝統を重視する傾向があり、『保守派』に属することが多い。そしてその『保守派』のお膝元である京都呪術高専に行かせることがほとんどである。派閥にこだわらない場合は自分たちの家に近い方を選ぶことはあるが。

 

 

「私たちも基本的には保守派ですからね。京都高専に入学させた方が色々と都合がいいんです。」

 

「そう?糸色家ってほぼ中立、っていうか改革派みたいな感じじゃん。ガチガチの保守派連中と比べれば話は通じるし、民間から出てきた呪術師を排斥することもないしさ。術師としての才能がない人も窓として社会に送り出してる。家に家電製品もしっかりあるし。」

 

「我々は時代に適応しているだけです。新しいものを取り入れることで運営が順調になるならばそうするべきです。家人の何人かをカタギとして送り出しているのも、彼らが警察や県議会などに所属すれば我々が活動しやすくなるからですよ。ただ守るべき伝統があることも十分に理解しています。ですが、この業界は万年人手不足。猫の手も借りたい状況であまり選り好みする余裕はありませんよ。」

 

 糸色家は呪術界では保守派に属しているが、その中では穏健派である。改革派とも協議は行うし、呪術師としての活動で協力することもよくある。保守派の過激派の場合、保守派に属していない連中と手を取り合うどころか、むしろ排斥するレベルのも存在する。万年、人手不足の業界で何をやっているんだ、と思わず言いたくなるが、口に出すと面倒なので心の中にとどめている。

 

 

「そっかー。弥生君とかどう?彼は優秀な術師になる。」

 

 五条がそう言うと、ただでさえ硬い桐谷の表情はさらに硬くなった。

 

「あなたにそう言ってもらえるとは、光栄です。…もしやスカウトですか?」

 

「呪力量も多いし、鍛錬の様子も見てたけど、彼本当に10歳?多分1級ぐらいの実力はあるよ。出来ればスカウトしたいなー。」

 

「ええ、弥生は優秀です。ですが…彼を東京高専に行かせるのは今の時点では判断は難しいかと。御三家の願いとはいえど、それは我々が決めることです。」

 

 少々語気が強くなってしまった。しかし、警戒するのも当然ではある。禪院との取引の一件は呪術界ではそれなりに有名な話だ。

 

「伏黒恵の件とは訳が違います。彼の場合、一族から出奔した人間の子供であること、あくまで一人の術師だったから。だから禪院は恐らく渋々とはいえ引き下がったのでしょうが、弥生は嫡男、かつ次期当主候補です。」

 

「ま、そうだよねー」

 

 実はというと、五条もすんなりと返事が貰えるとは思っていなかった。それもそうだ。伏黒の件は少々特殊であり、彼が分類上民間人だったからというのもある。今回の目的は、東京高専への入学も視野に入れてくれ、という、遠回しなお願いだ。

 

「…御三家当主の願いです。その件も視野に入れ、当主と協議させていただきます。また、傘下の家に掛け合いましょう。それが難しければ、民間の人間のスカウトを手伝わせます。」

 

 五条悟から見て、糸色弥生は才能の原石だった。『六眼』で少し見たが、呪力量、呪力出力、呪力効率も高いレベルで纏まっている。術式もあの『断絶呪法』。彼が順当に成長できれば良い術師になることができると確信したほどだ。あの才能の原石を可能ならば自分の元で磨き上げたいと考えたが、流石に糸色レベルの家の嫡男の進路を決められるほど五条もそこまで横暴は利かないし、利かせる気もない。こればっかりは家側が判断すべきことでもある。

 

 帰り際に、糸色弥生を再び見かけた。彼は再び鍛錬をしている。呪力操作も術式の扱いも1級と遜色がないレベルだ。彼が経験を積めば優秀な術師になると再び再確認した。だが──

 

「やぁ、弥生君。ちょっといいかな?」

「…五条さん、どうかされましたか。」

「ちょっと気になったんだよね、どうしてそんな鍛錬にするのか。まだ君ぐらいの年だったら、遊んだりしてることも多いからさ。」

 

 

 五条悟から見ても彼のストイックさは少々気にかかるところがあった。呪術師の家系では幼いころから鍛錬を積ませるが、それでも本格化するのは12歳以降、もう少し体が出来上がってからだ。それでも基本的には嫡男ならば丁重に扱われる。弥生のそれは戦闘員以上のものだ。

 

「…前よりは休憩や配分もしっかり考えるようにしています。」

「いやー、それでも凄いよ?何が君をそんなに突き動かしてるのか知りたくてさ。」

 

 弥生は少々考え込み──

 

「俺は貴方ほど強くありませんから。」 

 

「まぁ僕は最強だからね。」

 

「でも、だからって貴方に依存するわけにはいかない。貴方が最強だったとしても、貴方は一人しかいない。」

 

「…」

 

「見過ごせないものを、知ってしまったんです。それをどうにかする際に、もし五条さんがいなくても、どうにか出来るくらいには強くなりたい、と決めただけです。」

 

 傑との別れを思い出した。いまだに昨日のことのように思い出せる。五条はあの日から最強になった。だから、五条一人だけが強くても意味がないと、思い知らされた。

 

「じゃあさ、強くなってよ 僕においていかれないくらい」

 

 糸色弥生は静かに、そして強く頷いた。

 




 糸色家は呪術界の中では一応保守派を名乗っていますが、中身は改革派です。歴史も古いし、呪術師にとって伝統や因習が大切なものである、とは分かっています。自分たちもそういう部分はしっかりありますし。
 が、そんなんじゃ呪術師の労働環境がどんどん酷くなっていく一方なので、割り切って現代技術に頼るのも大切だよね!という考えです。
 なお立ち位置が中立に近いせいで厄介事が舞い込む模様。
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