源氏物語に転生したので光源氏の男友達としてアイツに出来る限り責任を取らせる 作:あるふぁせんとーり
かなり時間は飛んで、桐壺更衣の子、つまり第二皇子が五歳になった頃。日に日に彼の評判は増していき、それと同時に見た目もますます輝かしくなっていく一方で、巷では「光の君」なんて呼ばれたりも。そして、桐壺が体調を崩して里下り、すなわち里帰りしている中で「
そして集まった公卿にお披露目された光源氏の姿。袴を穿いて現れた彼の一挙手一投足に感嘆の溜息が溢れていた。既にその立ち振舞は殿上人もかくやと言わんばかりに洗練され、それでいて容姿は少女のような可愛らしさと少年のカッコよさを併せ持つハイブリッドイケメン。新たに大人の階段の一歩を昇ったとも言えるその姿には本来彼を憎んでいるはずの右大臣の娘の女御さえ感動を覚えてしまう。そしてお披露目が終わった後の宴は大盛り上がりであった。
「いやはや、光の君は相変わらずのお美しさ!一度でいいからあのような子供を授かってみたいものですなぁ」
「高望みが過ぎますぞ、大夫殿」
「いやいや、それも当然でしょう。御年5つでありながら運動、勉学、器楽、いずれも素晴らしい才能をお持ちだという。天才とはあのような方を言うのでしょうな」
「なんと、大納言殿がそれを言いますか!光の君ほどではないにせよ、御子息も大変評判芳しい。光の君と年を同じくして白居易を嗜み、琵琶を掻き鳴らす秀才と伺っていますぞ」
「おお、私も聞いた。要領よく課題を片付けてはすぐに屋敷を飛び出して野山を兎のように駆けるとのこと!いやあ、大納言殿に似られましたな!」
「滅相もない」と彼は頭を掻くが、その顔は溢れる嬉しさを隠しきれていない。「まさに英才教育ですな!」なんて褒められた暁には頭を掻く手が止まらない。そしてそんな臣下達の姿を見ながら、桐壺帝は一人深い物思いに耽っていた。
「……源、か」
***
「……光の君を、皇族から下ろす?」
「ああ」
宴もお開きになったのち、一人帝に呼び止められた大納言。最後の招待客の牛車が走り出し、人払いを終えたところで帝は切り出した。
「何故です?今日の御袴着の儀も大成功でした、立太子するなどならともかく、皇族にしておく分には問題ないのでは?」
「……先日、高麗の卜者に二の宮を占わせた。そうしたら「帝王の器だが、傍らに置いておくことは災禍を招く」、と……」
「それは……」
物悲しそうに言う帝。大納言も最愛の女性の息子をそのように扱わなければならない彼の思いに軽々しく同情することなど出来なかったが、つぐんだ口が作り上げた沈黙がそれを示していた。
「……何方にご相談されましたか?」
「いや、そなたが初めてだ。桐壺にも帰り次第伝えようと思う」
「ぜひそのように。……ですが、何故私に?」
「何故、か。そうだな……。簡単に言えば、そなたは信用できるからだ。公務も手を抜かず、荘民を善く扱い、それでいて権力を笠に着ず、前任の娘である桐壺への支援も欠かしたことはない」
「な、何処でそれを……?」
「桐壺本人からだ。匿名で着物や丁度が差し入れられている、とな。お礼を言いたがっていたから、私が代わって伝えよう。ありがとう、大納言」
「いえ、滅相も」
「……面を上げよ。それに、私はそなたを尊敬しているのだ。同じ年の息子を持つ父としてな」
少し驚いたように目を見張る大納言と小さく微笑む帝。
「一の宮は任せきりだったから気が付かなかったが……まさか子育てがこれほど大変だとは。桐壺と共に痛感した。そんな中で、そなたは初仔でありながら立派に育てている。私の耳にも、大納言家の若君の評判は入って来ているとも」
「光の君に比べればうちの明など──」
「明……明か、良い名前だ。……それでだ、大納言。そなたに一つ頼みがある」
「頼み、ですか?」
「ああ。……二の宮を、源家の養子としてほしい」
思いもよらぬ帝の言葉に大納言は唾を飲んだ。皇族を養子とするなど、前例の全くない話だ。どう、答えれば良いのだろうか。その事情の重さを悟っているからこそ彼は口を開けなかった。そんな大納言の思いを知ってか知らずか、帝は問いかけた。
「私は良き帝であろうと努めたが、良き父親にはなれなかった。だが、最後に同い年の良い友人を作ってやりたい、というのは駄目だろうか?」
「……分かりました」
その答えに帝は満足気に微笑み、そして帝としてではなく、子を持つ親として深く頭を下げた。
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